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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十三章 薄暮のイグスノルド
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ep171 防人と越冬の日々に暖をとる

ep171 防人と越冬の日々に暖をとる





 雪の女王の勝利宣言の後に大寒波と雪の軍勢の猛攻は小康状態となったが、散発的な侵攻は続いていた。雪の女王の指令も徹底された様子は無く、自然の摂理に支配された行動だろうか。それでも僕らは茨森の保全のために防壁を築き戦線を維持している。


岩塊の幼女ゴーレムのガイアっ()が雪と凍りついた泥を掘り起こす。


土塊(つちくれ)ども、ワレに従えッ!」


長方形に切り取られた地盤を裏返して防壁にした土塁へ積み上げる。雪と氷の地層に縞模様の土壁が築かれた。


「アッコ。次に行こう」

「全くゴーレム使いの…労働に見合う対価を…割に合わぬ…」


ぶつぶつと文句を言いながらも防壁の建設を続ける。建設機械も真っ青なチート能力である。その防壁は春になれば、氷も融けて崩れてしまうだろうが、この冬の一時しのぎだ。


この辺りは森の北端の荒野で、地面は凍り掘り起こした地層の中に泥炭を発見した。泥炭は可燃性で煉瓦状に切り出して焚火の周りに並べると水気が飛んで燃え始めた。…これは危険だ。


「アッコ。埋め戻してくれ」

「なぬっ。今度は埋めろとなッ…これは労働者の…権利を勝ち取る…までは…」


相変わらずの文句を聞き流しても、作業を続ける。防壁が完成するとガイアっ()が僕に魔力を強請る。


(ぬし)よ。これに魔力を注いでおくれッ」

「ん?…」


見ると拳大の土塊が並んでいる。掘り出した凍土の中に何を発見したのか、僕が魔力を注いでやると嬉しそうにする。


「ワレに従う土の精霊じゃて、おぉ、こやつの魔力に喜んでわるわい」

「…」


ガイアっ()にではなく、土木作業に働いた土の精霊へのご褒美らしい。


作業の終わりに、焚火とした石造りの竈へ石を積んで石焼にする。その周囲を戸板で囲みテントを張れば防寒設備の完成だ。燃え残った炭火を摘出して冷水をかけると焼石から水蒸気が上がる。


「ふう。労働の後には、ひと風呂浴びよう」

「おおっ、風呂となッ」


すっかり、ガイアっ()は風呂好きとなり帝国風の蒸気風呂へ突入した。ゴーレムが汗をかくとは思えないのだが、…


「マキトさん。お邪魔いたします」

「わ、私も……」


薄布を纏いて水の神官アマリエと白い少女オーロラが蒸気風呂へ入った。


アマリエは神官服を脱ぎ去ると痩身と見える。お勤めの際の巨乳姿は世を欺く虚乳なのだ。こうして見るとオーロラの方が胸は大きいらしい。…薄布の上からとしても、あまり直視は出来ない。


「GOOQ …」

「わっ!」


金赤毛の獣人ファガンヌが裸体を晒して蒸気風呂へ侵入した。焼石に冷水をかけると湯気が立ち込めて姿を隠した。…ふう、危ない。僕の本能が危険を察知する。


泥炭を燃やした影響か蒸気には草木の残り香があった。


………



防壁は長大な建築物となったが要所を残して建設しており、壁の切れ目からは肥え太った雪兎が侵入した。僕は蒸気銃で雪兎を狙撃する。


-PhuRrrr-


急所である魔石を打ち抜くと雪兎はバッタリと倒れた。他の要所でも茨森の狼たちが雪の女王の軍勢を迎撃しているだろう。軍勢の侵攻も悪い事ばかりでは無く、冬場に貴重な食糧を届けてくれるのだ。


「取ったどぉーお!」

「お肉ですぅ~」


鬼人の少女ギンナも雪兎の急所に重石のハンマーをぶち当てて即死させる技術を身に付けたらしく、魔獣ガルムの仔コロに乗って雪原を駆けまわっている。


「ロック。待ちなさいッ」

「Baow!」


風の魔法使いシシリアの手から逃げ出したロックは獣人の四足で雪原を走る。…とても赤子とは見えない野生児だろう。


「GUU 森の生活も 良いものだッ」

「!…」


獣人の戦士バオウは呟くと、我が子を捕えに飛び出した。片手で引き攫いロックを肩に乗せて帰還した。


「うんもぅ~。世話をかけさせるわねッ」

「シシリアさんも大変ですねぇ」


獣人の子供の成長は早くても、シシリアは子育てに苦労している様子だ。


………



僕は寒冷地の暖房として泥炭を燃やすストーブを製作した。移動小屋の暖房として設置するが泥炭を燃やすと煙が出るので煙突も設計する。煙突の途中には煙と泥炭から発生したガスを再燃焼する加熱の魔道具を追加した。幾分か煙の匂いも軽減できる仕組みだ。


「ようし、焼けたかな?」

「ぐうぅ…」


ストーブの天板で焼いた餅も、付け合せに魚の干物も美味そうだ。


「GUUQ これは酒の肴に ヨカロウ」

「旨うまですぅ~」


金赤毛の獣人ファガンヌは魚の干物がお気に入りらしい。僕が試作した樽酒を飲んでご満悦な様子だ。ギンナは焼き餅に酒と醤油と砂糖をブレンドしたタレを付けて頬張る。…味醂の風味に近付いただろうか。


「GUF こいつは、森で採れた 蜂蜜だッ」

「ほおぉ…」


バオウが皿ごとストーブに乗せた飴色の塊は、熱気に溶けて崩れた。居間に蜂蜜の香りが広がる。


新しく冬の甘味が加わった。




◆◇◇◆◇




その知らせは、帝国領の積雪が春の日差しに溶け始めた頃に届けられた。


「グリフォンの英雄クロホメロス卿と見られる人物が、その一行と伴にコボンの大迷宮にて消息を絶ったとの知らせです」

「間違いは、無いのだな?」


アアルルノルド帝国の皇帝アレクサンドル三世は軍務卿と外務卿から同様の報告を受けた。


「はっ、現地の諜報員が探掘者ギルドへ潜入して確認いたしました」

「うーむ。英雄とやらも、存外に思慮の無き者よのぉ」


皇帝が思慮する様子に声を発する者は居ない。


「…」

「イグスノルドの窮状には、予も心を痛めておる。食糧援助の手筈を整えよ」


この冬は大寒波の影響で餓死者も多数との情報があり、外交特使も同様な情報を掴んでいた。イグスノルドは伝統的に帝国の友好国である。


「はっ、仰せのままに」


命令が下された。




◆◇◇◆◇




茨森にも春の兆しがあり、僕らは荒野の雪解けを避けて移動小屋に乗り森林地帯を走破した。茨森の東側にはバクタノルドの草原地帯が広がるのだが、未だに雪に覆われた雪原だ。そこから僕はグリフォン姿のファガンヌに騎獣して北方の空を飛んだ。しかし、雪の女王の勝利宣言の通りにこの冬の被害は甚大で、いくつもの開拓村が壊滅していた。僕は開拓村へ降り立ち生存者を捜索するが、虚しい疲労が残るばかりだ。


開拓村の惨状を目にした僕らがバクタノルドの王都へ到着すると、水の聖女のご一行として迎えられた。水の神官アマリエは神殿の知名度と政治力を活用してバクタノルドの馬上王トルキスタと会談し、国内の通行と難民救助の詔勅を受けた。それに加えて近隣の工房都市ミナンの教会へ連絡をして領主の支援を取り付けたのだ。…驚くべき政治力と言える。


その間、僕は王都の観光に出掛けたが、護衛に付いた衛視の監視が鬱陶しいばかりだ。ギンナが見つめる屋台から、油で揚げたパンか饅頭と見える香りがする。


「英雄さまっ。美味しい匂いですぅ~」

「二つ。くれッ」


「おぅ。まいどぅ」


店の親爺に注文すると、早速に試食をする。揚げパンの中身は挽肉と穀物を混ぜ込んだ物で肉饅頭と思える。…羊か山羊の肉だろう。


「マキト様。これはお茶でしょうか?」

「三つ。頼む」


「はい。どうぞッ」


大鍋で温められた白いスープをカップに注ぐとミルクの香りがした。付け合せの白い棒状の物は、固いチーズだろうか。白いミルク茶に浸けて食べるらしい。


「GUUQ これは 中々の物であろ」

「四本。貰おう」


「へい。だんな様」


珍しく黄色いタレを付けた串焼きはカレーの風味から辛さを抜いたもので、僕には物足りない味だ。…どうせならカレー味にしたい所だが、香りを楽しむ物だろうか。


そんな買い食いツアーも王宮前の広場に入ると一変した。


広場には無残な姿で鎖に繋がれて、バラバラに晒されたゴーレムの姿があった。鹵獲した飛行型のゴーレムを分解調査した残骸と思われる。


「…無残な物よのぉ…」

「まったく、人族の愚かな事…まことに度し難く…地の果てまでも…」


珍しく西風の精霊核が感慨を漏らした。ひとり買い食いから取り残されていたガイアっ()が西風に応じて文句を述べる。…これは蛮族的なアレか。


確かに、岩塊の幼女型ゴーレムを護衛に連れた不審人物など、敵国ゲフルノルドの密偵(スパイ)にしか見えぬだろうと思う。


僕らはそれなりにバクタノルドの王都の観光を楽しんだ。




◆◇◇◆◇




そこはバクタノルドの王都にある仮の王座だ。遊牧民を発祥とする馬上王トルキスタは定住民の様に大地に根を張り居城を定める事を嫌った。そのためバクタノルドの王宮は冬の間に仮の宿とする場所にすぎない。真の王座はその名の通り馬上の鞍にあった。


「我らが王よ。水の神官の勝手をお許しになるとは、…宜しいのですか?」

「構わぬッ」


真意を尋ねる腹心の問いも馬上王はひと言で片付ける。…定住民の面倒など些事にすぎぬという事か。


「それよりも、今年の軍議を始めるのだッ!」

「はっ、御意にッ」


昨年の南進作戦はバクタノルドの勝利となり、南部へ支配地域を押し広げた。


今年の軍議にも熱が入ると言うものだ。





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