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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二章 魔物と戦って見たこと
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018 キドの防衛隊

018 キドの防衛隊





 僕は城郭都市キドの露店で薬草と薬類を販売している。


キドの北方の山岳には迷宮口があり、そこから湧き出す魔物は人口密集地のキドの町に引き寄せられる様に山を下る。そのため、キドの町の北側城壁は厳重に警備されていた。


また、北側城壁からの僅かばかりの平原と北方の山岳は狩猟者たちの狩場となっていた。狩場に入るためには、狩猟者ギルドへの加入と城壁防衛隊の審査が必要だ。


「傷薬を三個もらおうか」

「毎度、ありがとうございます」


ここ最近に顔馴染みとなった狩猟者の男が傷薬を買って行く。


「今日も狩場ですか?」

「そうさ、子供が生まれるので、稼がにゃならん」


男の話では同じ狩猟者だった女と結婚してキドの町に住んでいるそうだ。

キドの町ではありふれた話だった。


「ここの薬は効き目が良いね」

「ありがとう、ございます」


兵士らしき男が話しかける。


「ここの店主に話があるのだが、君は……」

「僕がお伝えしますよ」


僕の身形(みなり)では店番の小僧にしか見えないのだろうが……話だけでも聞かせてもらう。


「近々防衛隊で薬類の買い付けを行うのだが、まとまった数を用意できるかねぇ」

「はい。相談してから……三日後ぐらいで、よろしいですか?」


兵士は僕の対応に満足して言った。


「うむ、よかろう。三日後に防衛隊の駐屯地に来てくれ」

「承りました」


その後も販売を続けるが、夕刻には商品が無くなった。

売れ行きは好調なので、商品の数を多めに用意する方法を検討しよう。


例によってニビと屋台の買い食いをして森に帰った。



◆◇◇◆◇



 呪い師の婆さんに助けられた少女はビビと名乗った。


ビビは魔物の森にほど近い開拓村の出身だが、村には身寄りが無いそうだ。

生活の手段が無いので、呪い師の婆さんの所で薬作りを手伝う様だ。さいわいビビには薬草採取の知識があった。


三人で手分けして薬を適量に小分けして包む。作業をしながら僕はビビに尋ねた。


「ビビは村に帰らないのかい?」

「おとうも、おかあも死んだから…」


ビビは言葉少なに答えた。僕はそれ以上きかなかった。


「薬作りが上手になれば、村に帰れるかもね」

「…」


僕は完成した薬の数を数えてカバンにしまう。


「明日の朝、キドの町へ行きます」

「ゴホン、町で甘い菓子を買ってきておくれ」


めずらしく婆さんから頼みがあった。


「はい、必ず。ビビは何か欲しい物はあるかい?」

「紙とペンを」


どうやら本気で薬作りを学ぶらしい、その前に読み書きと計算からかな。

僕はふたりの頼みを聞いて、薬の納品に向かった。



◆◇◇◆◇



防衛隊の駐屯地は城郭都市キドの北側城壁のそばあった。魔物の襲撃に備えた配置だろう。注文された薬を納品して代金を受け取る。他にも数人の商人が武器や装備品を納品している様子だ。


駐屯地の灌木の脇から練兵場を覗くと、兵士たちが案山子に向かって剣を切りつけていた。


「ダメだ! 駄目だッ。気合をいれてかかれ」

「はい!」


教官らしき男の叱咤が飛ぶ。兵士たちの腕前は未熟の様子だ。


「手本を見せる……ハッ!」

「おぉぉ」


裂帛の気合を発して教官の男が切りつけると、哀れな案山子は真っ二つにされた。この世界の剣技は魔法ではないが、体内の魔力を筋力や持久力に変換している様だ。魔力の残滓のように剣の軌跡が見えた。


「この様に並の鉄剣でも、刃こぼれしない」

「ほぉ~」

「…ざわざわ…」


商人の話しでは、防衛隊は定期的に薬類を購入しているそうで、訓練や魔物の討伐の際に消費するらしい。また、大規模な討伐作戦の前にも薬類の購入が増えるとの話だった。


しばらく防衛隊の訓練風景を見学していたら、ローブを纏った男に出会った。魔術師か?


「そこの君は……出入りの商人かい?」

「はい。傷薬の納品に来ました」


ローブ姿の男は僕の素性を読むように見つめた。


「うーむ」

「何か?」


今日はキツネの面は付けていない。どこかで会っただろうか。その時、ピヨ子が飛んできて僕の頭に止まった。カワセミに似た軽快な飛翔だ。

◇ (この男は危険だわ!…あたしの勘がそう告げる…今はご主人様の頭の上で小鳥の真似事をして擬態する)


「いや、…見覚えのある魔力の波動を感じたものでね」

「………」

「ピヨロロロ」

◇ (この男は…あぁ!思い出したわ…田舎村の水争いを陰で探っていた密偵ね)


空気を読まないピヨ子が鳴いた。


「めずらしい、鳥をつれているね」

「ええ」

◇ (ぎくっ!)


ローブ姿の男は何か思いに耽りながら踵を返した。


「失礼するよ」

「…」

◇ (まさか…気付かれてはいないと思うけど…転生者じゃないわよねぇ)


いくぶん仕立ての良いローブだった気がする。魔術師は腕の良い魔法使いだ。もっと上は魔導師と呼ばれるそうだ。


オル婆は自称「生活魔法の使い手」だったが近隣のマルヒダ村では「呪い師の婆さん」と呼ばれていた。魔物の森の婆さんも似たような者だろうか。


………


そんな事を考えながら、キドの町でふたりへの土産を買う。婆さんには甘い菓子で、ビビは紙とペンだな。


ふと狩猟者ギルドの前に掲示された張り紙が目に付いた。


「キドの北方 魔物の討伐作戦に参加者を募集します。狩猟者は団体参加も許可 キド防衛隊」との事だった。


いちどは魔物の討伐作戦も見たい所だが、僕の戦闘力では難しいだろう。何か良い仕事はあるだろうか。薬の製造はひと段落して休業だ。呪い師の婆さんがしばらく留守にするらしい。


自分ひとりでも薬草の採取は出来るが、ニビも婆さんと同行するそうで魔物の森とここまでの往来が難しい。しばらくは魔物の森で生活するか、キドの町に留まるしかあるまい。


狐顔の幼女ニビは婆さんの小屋に向かうのだが、僕は折角なのでキドの町に滞在する事にした。町の屋台広場でニビと落ち合うが、ふたりへの土産といくつかの食材を持ってニビは魔物の森へ帰って行った。


「よお、薬屋の…」

「毎度ありが…、こんにちはっ!」


屋台で夕食を求めていると探索者の男に出会った。探索者の男は魔物の討伐作戦に参加者する為のメンバーを集めているそうだ。


「今度の討伐作戦に参加しない手はない。参加するだけで報酬が貰えるしぃ、魔物を倒せば追加の報酬もある!」

「へぇ」


興奮した様子で探索者の男が続ける。


「治療魔法を使える者か、腕の良い治療師か薬師を探している」

「なるほど」


すこし困った様子で言うので、


「誰か知り合いを紹介してくれないか?」

「……僕じゃダメですか?」


思い切って、僕は提案してみた。


「えっ、君が……」

「うちの店で売っている商品の半分は僕が作った物です。腕前をお見せしましょうか?」


自信を持って言うと探索者の男は本気にした様だ。


「それが本当なら、良いだろう」

「ありがとうございます」


商談成立だ。僕は細かい条件を相談して約束を取り付けた。





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