表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十三章 薄暮のイグスノルド
188/365

ep169 太陽が生まれ変わる季節に

ep169 太陽が生まれ変わる季節に





 僕は食堂および居間で年頭の挨拶をした。今頃はタルタドフの開拓村でもメルティナが年頭の挨拶をしているだろう。


「謹賀新年ッ!あけまして、おめでとう、ございますッ」


ぱちぱちぱち。疎らな拍手である。風の魔法使いシシリアが尋ねる。


「しかし、なぜ?…白の月なのよッ」

「黒の月から白の月に替わる時期に、太陽が生まれ変わると言われているからねッ」


僕は手作りのカレンダーを架け替えた。オーロラお嬢様が不思議そうに言う。


「マキト様のご実家のしきたりですか?」

「えっ、オーロラも知らないのかい……」


貴族の子弟と見えるオーロラが暦を知らない筈は無いのだが、水の神官アマリエはトルメリア王国の事情を話した。


「農村部では冬籠りの時期ですし、新年を祝う祭りはありません」

「GUU 寒ぶいっ」


バオウは関心が無いと見える。岩塊の幼女ゴーレムが不穏な事を言う。


「ふむ。前に勇者が、そのようなコトを…言っておったか…」

「わーい。熱あつですぅ~」


鬼人の少女ギンナは朝食の麺に釘付けの様子だ。本当は年越し蕎麦にしたかったが、そば粉が無くて年明けうどんとなった。トルガーの肉でも焼き餅でも好きに乗せて食べる。


移動小屋は夜明けを待って東へ転進した。コボンの地では羅針盤が役に立たないので太陽観測が頼りなのだ。


少しは太陽への感謝を捧げよう。


………



東へ転進すると森が見えた。雪原を走る道中には野生のトルガーの群れも観察されて、移動小屋の騒音対策が効果を発揮していると思う。


森の木々は積雪と吹雪の影響で、荒地が目立ち倒木も多い。おかげで薪の補給と移動小屋の改造が進む。僕らが移動小屋に乗り森を進むと不穏な影を発見した。見張りに立っていた羊角のムトンが報告する。


「左舷に戦闘の跡が見えますッ」

「どこ、何処?…」


僕が望遠鏡を覗くと荒地には、いくつかの爆発の跡があった。自然現象とは見えない人為的な破壊と見える。雪が抉れて凍った地表にも爆破の跡が刻まれている。…誰が森を破壊しているのか。


「GUU 爆発音か?」

「っ!?…」


遠方から腹に響く振動があった。まだ、破壊は続いているらしい。


ガイアっ()はトルガーの半身を真似た馬人の姿で雪道を駆けた。僕も便乗して爆発の現場に到着すると見知った魔獣が見えた。


「ファガンヌ!」

「GUUQ …」


魔獣グリフォン姿のファガンヌが森の上空から飛来して、雪の魔獣を打倒した。途端に爆発が起きる。


-BOMB!-


くぐもった爆発音に積雪が抉れて周囲に飛び散る。


「コヤツらは、雪の先兵じゃのぉ…」

「なにっ?」


-BOMB!-


ガイアっ()が呟くのを僕は聞き逃さなかった。


「極北に住む…雪の女王が、この地に送り込む…雪の先兵じゃよ…」

「…」


-BOMB!-


ファガンヌの戦闘も終了した様子で、荒地に着地した魔獣グリフォンは金赤毛の獣人へ変化した。


「GUUQ (ぬし)よ。待たせたの」

「ファガンヌ。…元気そうで、何よりだが…」


金赤毛の獣人ファガンヌは貫頭衣もボロボロで戦闘の激しさを思わせる。腰巻に毛皮を巻いているが、冬空にも露出が多くて見るからに寒そうだ。


「大お姉さまっ!」


鬼人の少女ギンナが犬橇(いぬぞり)で到着した。


「…獣人っ!?」

「GUU 寒ぶっ!」


水の神官アマリエと獣人の戦士バオウも便乗して来たらしい。金赤毛の獣人ファガンヌが用件を述べる。


「GUUQ 治療を 頼みたい」

「?…」


僕が周囲を見渡すと、森の茂みから狼の群れが姿を現した。戦闘で傷ついた者も多い。


「マキトさん。私もお手伝い致しますッ」

「もちろん」


水の神官アマリエは水治療の名手だ。僕の手持ちの薬草だけでは心許ないのだが、安心して治療を任せられる。


「GUU 人族の英雄よ。感謝スル」


群れの頭目と見える黒毛の狼が人語を話した。


「GUU 森に根付いた者かッ」

「GHA 牙を抜かれた者には、関わり…無い」


-GAWU!-


獣人の戦士バオウと魔獣ガルムの仔コロは大いに警戒している。


僕らは犬と狼の対立を放置して、傷付いた狼たちを治療する。


風も無いのに森の木々がざわめいた。


「人族の英雄マキト様。グリフォン殿のご助力を頂き、感謝いたします」

「ソアラ様……」


森の人と見える茨森の妖精ソアラが現われた。護衛には灰毛の狼を連れている。


「ここは、雪の女王の最前線にして茨森の守りの要衝なのです…」

「…」


ソアラの話を聞くと雪の女王の侵攻は毎年の事であるが、今年の冬は侵攻が早く大規模な攻勢に押されているという。…真冬の大寒波の襲来か。


既に人族の領域は大寒波に負けた開拓村が、いくつも吹雪に沈んだらしい。その中でもコボンの地は異常な抵抗を見せている。…迷宮(ダンジョン)が噴出した影響だろう。


…すると同じく北方を氷雪地帯と接するバクタノルドは被害も甚大だろうと思う。


僕らは茨森に逗留を決めた。




◆◇◇◆◇




 コボンの地は大寒波の影響も少なくて冬の晴れ間を見せていた。探掘者ギルドでは担当職員が脂汗を流して恐縮していた。


「なにっ、逃亡したと」

「まことに申し訳なく、警備の者の不手際ですが…」


人質に軟禁していた者が姿を消したとの報告だが、既に用済みである。


「良い。捨て置け」

「はっ」


言い訳を連ねる職員をひと睨みして老獪なギルド長は命じた。


「それよりも、迷宮(ダンジョン)の討伐を進めるのじゃ」

「…」


領主軍は三十階層に補給拠点を建設した事を良しとして、一時徹底をしている。


「領主軍の先陣が停滞しておる。今が好機であるぞッ」

「はっ、直ちに!」


町には迷宮(ダンジョン)へ向かう命知らずも多い。


ギルドの職員が探索者の選抜へ向かった。




◆◇◇◆◇




 茨森の最前線は予想より苦戦していた。大寒波の影響で増長した雪の女王の軍勢は、肥え太った雪兎を先兵として森へ突撃し撃破されると同時に自爆して詐害を広げた。そのため、接近しての爪と牙を攻撃手段とする狼たちは分が悪い戦いを強いられる。


-PshRrr-


僕が蒸気圧銃三型の引き金を引くと、長射程の銃身から黄金の弾丸が放たれた。標的の雪兎を貫通して蒸気圧銃は湯気を上げた。寒冷地では蒸気の排出にも気を遣う。


「水気を飛ばして…【速乾】」


次の目標へ狙いを定める。


-PshRrr-


爆散を避けるには、雪兎の魔石を打ち抜くのがコツらしい。


「GUUQッ!」


グリフォン姿のファガンヌが高速で飛来して、その鉤爪で雪兎を引き裂くが爆散を予測して退避する。


-BOMB!-


爆風をも利用してファガンヌは上空へ舞い上がった。安定した戦い方に見える。


上空には白熊の毛皮を着てオーロラが待機していた。北風も弱まる晴れ間であれば問題は無いが、突風も警戒すると心配だ。上空からは有効な攻撃手段も無いので、オーロラは敵軍の動きを見る偵察任務である。


オーロラが敵軍を発見したらしく合図をしている。


僕らは戦場を移動した。




--


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ