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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十三章 薄暮のイグスノルド
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ep168 迷宮探索の終わりに

ep168 迷宮探索の終わりに





 領主軍の迷宮(ダンジョン)討伐隊は二十九階層へ到達した。この階層を超えれば三十階層へ補給基地を建設し、この遠征もひと区切りとなる。


これまでも、落石の罠や落とし穴も巨石の玉も回避して来たが、その通路は異様な静けさに包まれていた。何やら油の匂いがして火炎系の罠を最大限に警戒している。


「隊長ッ。やはり、油です」

「うむ。命綱を装備して、慎重に前進せよ!」


その通路は妙に幅広く横に隊列を組んでも進めそうな広さだ。しかし、通路の両側は切り落とされて奈落へと消えている。この地下に出現した橋を渡るより他に道は無さそうだ。


「斥候小隊は前へッ」

「はっ!」


斥候兵には命綱を付けて後方から支援の兵士が続く。これは落とし穴への対処だ。油の匂いがする床面は滑りやすくて両側を避けた中央が先行するため、五人の斥候兵が突撃陣形のようだ。


今の所は火の気も無いが、橋の探索は緊張の連続だろう。


-GROGROGRO-


重い地響きを伴い前方から巨石の玉が突進して来た。


「わっ! 滑るぞッ」

「退避ィ~」


幸い通路の幅は広い。斥候兵は右へ寄って巨石の玉を回避した……と見えたが、急激に巨石の玉は回転し進路を転じた。


「ぎゃ!」

「押すなッ、押すな!」


支援の兵士も巻き込んで六人の兵士たちが奈落へ転落した。残った兵士にも新たな巨石が襲い掛かる。これは火炎の罠では無い!…足元を滑らせる悪辣な油の罠だ。


全ての兵士が撤退すると巨石の襲撃は止んだ。


………



領主軍から支援を要請された。


「幼女ゴーレム使い殿。出番ですかな?」

「僕らが先行しますので、皆さんは待機してて下さい」


僕はゴーレム姿のガイアっ()に乗り橋の中央へ突進した。床面の油を気にしつつも、ばびゅーん。と加速する。


-GROGROGRO-


重い地響きを伴い前方から巨石の玉が突進して来た。直進の回転と見える。


ガイアっ()は両腕を馬上槍から大型の籠手に変形して巨石を受けたが、やはり足元が定まらずに後退する。


「今だッ!」

「いくですぅ~」


僕の背後から飛び出した鬼人の少女ギンナは、岩砕きのハンマーを巨石へ振り下ろした。


がつんっ。と岩石の破片が砕けるも、巨石の玉は突進を止めない。


「あっ!」


ギンナが巨石の回転に弾かれた。どういう原理か巨石の玉は回転を変えて僕らへ迫る。


「ギンナ!」

「コヤツめッ まずい、抑えきれぬっ……」


-GROGROGRO-


そこへ追加の巨石のが襲い掛かった。おいおぃ、それはルール違反だ!


-GAKUN!-


流石のガイアっ()も巨石の衝撃に耐えられず、僕らは橋の外へ投げ出され……奈落へ転落した。ぽちゃん。


幸いにも奈落の底には地下水が溜まり致命傷とは成らなかったが、ギンナもガイアっ()も重くて水には浮かないのだ。僕は呼吸の魔道具で難を逃れてギンナとガイアっ()を捕まえた。万一の命綱が役に立ったらしい。


「…このまま、ワレに続け…」


…何をする気だ?…ガイアっ()は水中でも平気な様子に僕らを手招いて迷宮(ダンジョン)の壁面を押した。すると飴細工の様に壁面が溶けて通路を形作ってゆく。しばらく登ると迷宮(ダンジョン)の小部屋に出た。


「ぶはっ、ゲホゲホッ、ゲホ……」

「うえぇぷす。みずばぎらいでずぅ……」


咳き込みながらも、不平を言う元気があれば大丈夫だろう。


「コヤツめ この辺りが 潮時であろう」

「…」


僕らは迷宮(ダンジョン)からの逃亡を決めた。




◆◇◇◆◇




元冒険者の獣人の戦士バオウと風の魔法使いシシリアは手筈の通りに迷宮(ダンジョン)を脱出して我が子を救出した。探掘者ギルドの施設に軟禁されていたのだが、内部からの協力もあり逃亡に成功したのだ。


「こんな所で新年を迎えるなんて……」

「GUU 仕方あるまいッ」

「Man Maa …」


コボンの町は新年を迎えるに当たり町の人通りも少なく、小雨に雪が混じる寒さだ。迷宮(ダンジョン)の熱気も北区には届かないらしい。そのまま北区の郊外へ出て農地の積雪を踏むと狩猟小屋があった。今夜はここで潜伏しよう。


「マキト君は無事かしら?」

「GFU 上手くやるだろ」

「KFnn!」


赤ん坊がクシャミをする。二人は狩猟小屋で暖を取るべく駆け込んだ。


………



夜更けに狩猟小屋の地下が陥没した。雪を退かして僕たちが顔を出すと、外は大粒の雪が降り始めている。


「GUU マキトか?」

「すまない。待たせた様だけど、皆は……」


僕はバオウの犬顔を発見して尋ねた。


「GHA 出発の 準備は整えた」

「ならば、すぐに出立しよう。アッコ頼むよ……埋めてくれッ」


岩塊の幼女ガイアっ()は土の精霊核を持つゴーレムだ。土地の開墾も土木工事も得意な様子に僕の命令も容易にこなす。


「まったく、忙しい事だのぉ。超過労働は、ケイヤク違反じゃ…」


ぶつぶつと文句を言いながらも、ガイアっ()は地下道を粉砕して埋めた。迷宮(ダンジョン)の地下から北区の郊外まで掘り進んだ地下道は迷宮(ダンジョン)の外で埋め戻してある。簡単には発見されないだろう。


念のために小屋の地下も混ぜ返して畑の様に偽装した。麦でも撒けば春には痕跡も残らないと思う。


「マキト様。ご無事でよかった……」

「村長のご帰還をお慶び申し上げます」

「新年のあいさつには早いわよッ」


探掘者ギルドの拠点に軟禁されていた女たちが、僕の帰還を聞き付けて小屋の前に出迎えた。


「それじゃ、出発しようか」

「「「 はい 」」」


狩猟小屋は本性を発揮して移動を開始した。隣の炭焼き小屋も移動する!…それは新たな寝室と居住区を連結した構造の移動小屋だった。


僕らは大晦日の深夜に降り続く大雪の中を北の雪原へ逃走したのだ。


未だ夜明けは遠い。




◆◇◇◆◇




そこは探索者ギルドの長が使う執務室と見えた。老練のギルド長は鉢植えの花に語りかける。


「討伐隊の進度はどうか?」

『…サンジュう…カイソウに…ホキュウキチを…セツエイシマシた』


真冬にも珍しい花はブルブルと震えて人語を発した。


「金級の二人は死んだのか?」

『…フタリとも…ダンジョンの…ワナへ…オチマて…ミキカンデす』


今年も最後の定期連絡だろう。


「存外に役に立たぬ者よのぉ。して、ゴーレム使いも生死不明と申すか?」

『…ハイ。オソラクは…』


独りで語る老人の姿は孤独を思わせるが、


「最優先は、最深部への道行きの確保だッ」

『…ハッ。ココロエマシて…ゴザイマす』


鉢植えの花は力強く請け負った。




◆◇◇◆◇




僕は深夜も降り続く大雪の中に移動小屋を走らせた。雪を踏むキャタピラーにはトルガーの軟骨を焼き固めたブロックを追加して騒音を抑えた。それでも移動小屋の重量に新雪を圧搾する音は止まない。


ゴーレム駆動の良い所はエンジン音がしない事だろう。騒音も廃ガスも出ないのだからエコなドライブと言える。しかし、相変わらずに移動小屋は操縦者の魔力消費が激しくて、僕は早々にダウンして白銀のオーロラに操縦を交代した。


僕は厨房で、深夜ドライブの夜食に餅でも焼くかな。ぷくーぅ。


「おぉ、良い焼き上がり」


開拓村で試験栽培した米は何種類かあるが、この米が一番もち米に近い出来となった。…お気に入りの品質だ。


「これに砂糖と醤油を付けて、海苔を巻く」


ふふふ、完成だ。


「オーロラ。休息にしよう」

「いいえ。まだ、行けますッ」


醤油が焼ける香りに負けじと、毅然な顔でオーロラが言う。


「そんなに、頑張らなくても追手は見えないよ」

「私は役に立っていませんし……」


彼女が異なことを言うので、僕は本心を告げた。


「大いに役立っているさッ。迷宮(ダンジョン)にも連れて行きたかったケド……今回は最深部まで行く積りは無かったのさ」

「えっ!?」


「オーロラの特技があれば、竪穴を垂直降下しても良と思う。でも……」

「…」


僕は探掘者ギルドの強引なやり方が気に入らないのだ。


「やつらにお宝を独占されるのは業腹だし、オーロラは僕の特別だからねッ!」

「特別って……」


「ほーら。あぁーんして」

「!…」


僕は砂糖醤油の焼き餅をオーロラに喰わせた。ふふふ、砂糖醤油の甘味に落ちるが良いわッ。


もぐもぐ。海苔の風味も砂糖醤油の甘さも絶品だ。





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