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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十三章 薄暮のイグスノルド
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ep166 後始末の方が大変なのよ

ep166 後始末の方が大変なのよ





 コボンの町に迷宮(ダンジョン)(ぬし)が討伐されたという噂が広まると、この町では銀級の探掘者であったバオウとシシリアは功績が認められて金級へ昇格した。昇格に伴いコボンの町の定住資格も与えられたが、いまさらとの感想はぬぐえない。それでも有名人となった二人は町を歩くのも苦労しているらしい。


僕らはその名声のおこぼれに与り町人に顔が知られてしまった。そんな時でも、僕はガイアっ()に乗り崩壊したコボンの町を視察した。ガイアっ()は外出の都度に自分に乗って行けとせがむので、町乗りに利用しているのだ。


「よぉ、ゴーレム使いの兄ちゃん。うちの飯はどうだい?」


食堂では揚げパンに似た料理を出していた。僕はガイアっ()から飛び降りる。


「腹減ったぁ~。僕にもひとつ下さい……おぉ、これは旨い!」

「トルガー肉の包み焼きだぜッ」


そのトルガーの肉を雑穀のパンに包んで焼いた料理は肉汁が沁み出て旨い。トルガーは鹿かトナカイに似た獣で農地の作物を食い荒らすと言う。


迷宮(ダンジョン)の底から噴き出した熱気はコボンの町を越えて郊外まで広がり農地の積雪を溶かした。その影響で草木が芽吹くと野生のトルガーが集まり、俄かに狩猟者が活躍する事になった。


町に降り注いだ金塊は鑑定しても本物であった。そのため混乱と略奪を避ける目的で、土地や家屋の所有者には拾得の優先権を与えたが、郊外の農地では広大な積雪に覆われて、分捕り放題の無法地帯となった。


金の価値が暴落した今ではトルガーの肉の方が価値は高いのだが、春までの混乱だろう。


「コヤツめ、行くぞッ」

「おぅ」


食事を終えてガイアっ()は僕を乗せて発進した。幼女ゴーレムに乗る僕の絵面はとても鬼畜な所業だが、町の人も慣れた物で手を振って見送る。僕はガイアっ()の角をハンドルにして掴まり、二足歩行ながらも龍の尻尾のおかげで安定した走行を見せた。


ばびゅーん。と加速すると市場に付いた。


市場では貨幣の代わりに物々交換がされて、どの店先も雑貨屋の様に多彩な商品が並ぶ。それでも、南区の探掘者ギルドの周辺では魔石が貨幣の代わりに使用され始めた。北区の職人通りでは武器や防具が貨幣の代わりに流通しているらしい。


東区の貴族街と西区の商人など富裕層の間では、金貨の使用を中止して銀貨の価値と権威を保つために躍起となったが、混乱に上手く対処できたとは見えない。


そんな混乱も春の時期には治まると思う。




◆◇◇◆◇




 探掘者ギルドでは領主の要請で、迷宮(ダンジョン)の最下層部への探索隊が結成されていた。


「何としても、我らの手でッ、迷宮(ダンジョン)の最深部を抑えるのだ!」

「「「 おおぉー! 」」」


最深部に眠ると予想される金塊への利権争いだろうか。


「上手くいくと、宜しいのですが……」

「愚かな事だのぉ」


ギルドの幹部と見える男は嘆くが、人々の欲望は止まらないと思えた。


探索隊は悦び勇んで出発した。




◆◇◇◆◇




 僕らはコボンの町の郊外に新たな拠点を建設した。地上部の修復は最低限にして地下壕を掘り工房を設置する。移動小屋は北の雪原へ移動して別荘か狩猟小屋として利用する予定だ。


さらに、僕は噴出物として拾得した金塊を利用して金製品を作成した。金のメダル、小判、食器、燭台、刀剣、棍棒、弾丸と加工技術を応用して作成するが、最も凶悪な物は金の弾丸だろう。


-ZKYUN!-


地下に掘った射撃場で蒸気圧銃を発射すると、金の弾丸は模造品の鎧を打ち抜いた。物理の貫通性能だけ見れば強力だ。思わぬ破壊力に僕は動揺する。


「次は、遅れを取らないぜッ」


携帯用に蒸気圧銃を小型化する事も検討しよう。


この場所には、迷宮(ダンジョン)からの噴出物と避難場所を考慮して地下道を掘った。町の再建と共に災害対策も進めているのだ。


次に有用な物は金の鍋か薬剤瓶かも、熱伝導率は銅に劣るが腐食には耐える。他にも金のゴーレムを試作するが、ガイアっ()の実力では制御も無理な様子である。


「土の精霊核でもダメか?」

「ぐぬぬっ、金気はワレの体に 合わぬぅ……」


ぐんにょり。と金のゴーレムは形を無くした。


あとは魔力特性を生かして魔道具の配線には適している。金線の他にも金属線を作成してみたが、細く伸ばすには鍛冶の設備も必要だった。




◆◇◇◆◇




コボンの町は大穴の探掘場と迷宮(ダンジョン)を中心部として東西南北の四地区に分かれて統治されていたが、各地区の対立が激化した。


迷宮(ダンジョン)の最深部に眠ると予想される金塊への採掘権の争いに端を発した騒動だが、各陣営の事情は異なる様子だ。


まず、動いたのは領主軍で、当然の様に東区の貴族たちをまとめている。それに対抗して南区の探掘ギルドは長年に渡り探掘場と迷宮(ダンジョン)を管理して来た事の当事者としての意識が強い。


北区は職人街を中心として金属加工を請け負い両陣営に働きかけていると言う。西区の商人と富裕層は密かに領主軍を支援しているらしい。


迷宮(ダンジョン)の完全制覇は、我がギルドへ任せて頂きたい」

「それでは、手緩いと申すのだッ!」


ギルド長が発言するのに、貴族の男が反論した。


「討伐軍を全滅させておいて、よく言えますなぁ」

「無礼者め! 斥候ごときが全滅しようとも、問題は無いッ」


先の迷宮(ダンジョン)討伐軍は失敗して全滅したらしい。


迷宮(ダンジョン)(ぬし)が不在とはいえ、変革期の迷宮(ダンジョン)は大変危険にございます」

「承知しておる。次の作戦に期待するが良いわッ」


ギルド長の嫌味な心遣いを無にして、貴族の男が宣言する。


「…第二次、討伐軍を編成せよッ!」


またも領主軍の精鋭が迷宮(ダンジョン)へ投入されるらしい。




◆◇◇◆◇




僕はゴーレムのガイアっ()に乗り、ばびゅーん。と加速すると目的のパン職人の店に着いた。北国には珍しい甘味があると言うのだ。


「ゴーレム使い様。こちらでございます」

「おおーっ。これは木の実ですか?」


それはパンケーキにベリーを主体としたソースをかけた素朴な味わいだ。


「夏場に採取した物を酒に漬け込みます」

「なるほど」


パン生地に練り込まれた木の実は天然の酵母となるらしい。ベリーの酸味とよく合う。期待した程の甘味ではないが、白砂糖を加えると格段に良くなりそうだ。


その時、白銀の鎧を装備したオーロラが店を訪れた。


「マキト様。まずい事になりました」

「っ…」


いつも悪い知らせは突然だ。僕はベリーを取りこぼした。




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