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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十三章 薄暮のイグスノルド
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ep164 大迷宮に独りは無理じゃね

ep164 大迷宮に独りは無理じゃね





 僕は水場から上がり体温を上げて装備を乾かした。


「体内の魔力回路を開け…【熱気】【速乾】」


コボンの地の地下は大迷宮と探掘場が混在しており、どこまでが迷宮(ダンジョン)なのかは判然としない。しかし、岩壁と見える壁面に手甲の鉤爪と具足のスパイクを突き刺して見ると、柔軟に抵抗されて壁面の傷は忽ちに修復された。


「まさか、迷宮(ダンジョン)の中へ転落とはねぇ……」


ここで救助を待つとしても、出口を探すとしても腹ごしらえは必要だろう。僕は流れの中で捕まえた岩魚(いわな)に似た魚を見た。何の変哲も無い川魚だ。見た所は川の流れの迷宮(ダンジョン)なのか、迷宮(ダンジョン)に水が流れ込んで地底の川となったのか。…壁面を見ると後者の説が有力だろう。


「まぁ、こいつを食うのは最後の手段としても、腹は減ったなぁ」


迷宮(ダンジョン)で独り言が増えるのは止むを得ない。時間も空間も不明瞭な地下で正気を保つには不可欠なのだ。…特に今は孤独である。


背嚢から昼飯の弁当を取り出して休息した。


………



僕が落ちて来た穴は水場の上に三階層ほどの高さと見えて、足場も無い壁面を登るのは無理かと思える。壁面は迷宮(ダンジョン)特有の抵抗力があり、僕が得意の土木技術も彫刻さえも通用しない難敵だ。


あの水場の上に見える穴は通風孔の様に乾燥していたが、ここには水の淀みに流れ込む場所と流れ出る先がある。


僕は先程の魔獣の襲撃を警戒して行き先を決めた。


水の流れに逆らい上流へ進むと通路は円形で無限に続くトンネルを思わせる。この先に地上へ抜ける換気口でもあれば、迷宮(ダンジョン)を脱出できるだろう。それで無くとも、迷宮(ダンジョン)の支配地域を離れれば岩盤を掘り進んで脱出する方法もある。


そんな期待は即座に否定された。何やら石を擦る石臼の様な音が……


-GORGORGOR-


「この音は!?」


急に足元の水量が増した。


「やぺぇ、雨かッ」


僕が転落した時の状況を思い出すと、探掘場の苔の生態を観察している時に落とし穴に落ちたのだ。それは、水の淀みが苔の群生を促したと予想されて雨水の流れ込む先は迷宮(ダンジョン)だろう。


「……嫌な予感がするぜッ」


事態は最悪の予想の上をいく。上流から不自然に丸く削られた大岩が転がって来た!…迷宮(ダンジョン)の罠か。


僕は増水と大岩から逃れて駆け出した。水量も増々にして大岩が転がる!


息咳を切らして水の淀みまで戻って見ると、通気口?から雨水が流れ込み増水していた。これは覚悟を決める他にない。


「なむさん…」


僕は流れに飛び込んだ!


幸いにも呼吸の魔道具は健在だ。




◆◇◇◆◇




探掘場に雨が降る。それは珍しくも無い風景だが探掘者たちは一目散と昇降機へ逃げ込むと、定員に達した籠から順に引き上げられた。探掘場は雨が降ると地形が大きく変わり危険な場所となるのだ。銀級の探掘者であるバオウたちもマキトの捜索を中断せざるを得ない。


「マキト様。ご無事で……」

「GUU そう簡単に 死にはしない」


白銀の少女オーロラはマキトの身を案じて祈るばかりだが、付き合いも長い獣人の戦士バオウは楽観している。


「マキトさんが迷宮(ダンジョン)で遭難するのも三度目ですわ」

「大丈夫ですぅ~」


水の神官アマリエは心配しながらもマキトの実力を信じていた。鬼人の少女ギンナは絶対の信頼を寄せる。


「しかし、マキト様。お一人で大丈夫でしょうか?」

「…」


その懸念に明確な答えを持つ者は居ない。




◆◇◇◆◇




僕は増水した川の奔流を下り、いくつかの支流を合わせた本流へ出た。岸辺に這い上がり体力の回復を待つが、水に濡れた装備は僕の体力を奪うと見える。


「は、はぁはぁ……」


迷宮(ダンジョン)の主から見れば、雨水の流れも侵入者や異物の様な物だろう。あの大岩の罠は迷宮(ダンジョン)の防御反応と思える。そんな考察も早々に片付けて、僕は不快な水気を拭う。


「体内の魔力回路を開け…【熱気】【速乾】」


実験工房での砂糖精製と乾燥作業で鍛えた技術とは思えない便利な魔法だ。


しかし、川の流れは雨水の他にも魔物を集めていた。


-CHuKSUUu!-


「魔獣。お前もかッ!」


それは灰毛の体毛をした巨大な鼠と見えて、俊敏に襲い掛かった。


「くっ…【気合】【強化】」


通常では魔物の方が筋力も速度も上だ。僕は手甲の鉤爪と山刀を手にして攻撃を受ける。…採掘道具を地上に置いてきた事が悔やまれた。


「…【筋力】【体力】…はっ!」


巨大鼠の武器は長く伸びた前歯と手足の爪と見切った。上段からの降りおろし攻撃を半歩で回避する。


「当らなければ…【俊足】【柔軟】【加速】」


僕は身体強化の体術を駆使して反撃した。せめて反応速度を上げて対抗したい。しかし、牽制に振るう鉤爪は空を切り、山刀は魔獣の前歯に阻止される。


-GIN!-


意外な金属音を響かせて、白刃を合わせて両者は間を開けた。


実際は僕の方が魔物の膂力に負けて後退したのだが、弱みは見せられない。続けて身体強化の重ね掛けだ!


「どうと言う事も無いっ…【反応】【回避】【跳躍】」


それでも、巨大鼠の猛攻に押されて僕は回避を重ねるしか無かった。…戦闘職ではない僕の実力ではこんなものかッ。


いつの間にか装甲の薄い二の腕に傷を受けた。


魔物との実力差を埋める為の身体強化だが、元の基本性能が違いすぎる。


「そこだっ…【瞬発】【必中】ぅ!」


-CHuKSUAa!-


遂に、十数回の猛攻を経て僕の攻撃が巨大鼠へ届いた。


巨大鼠は思わぬ反撃に怒りを見せたが、そこからは一方的な戦いとなった。


僕は山刀で巨大鼠を撲殺して勝利した。


………



勝利の余韻は急激な肉体疲労に襲われた。…身体強化まじ半パネェ。


「は、はぁ、はぁはぁ……」


身体強化の重ね掛けは僕の肉体にも魔力にも負荷をかけて限界を超えていた。


「どこかで、休息しなくては身が持たないぞ」


次の生存目標を設定しつつも、


「応急手当の…【殺菌】【消毒】…痛ぅ」


僕は背嚢からアルコール浸けにした包帯を取り出して腕に巻いた。


巨大鼠の死骸が食用に適するとは思えないのは残念だ。


独り迷宮(ダンジョン)の出口を探して歩き始めた。




◆◇◇◆◇




探掘場でのマキトの捜索は困難を極めた。局地的な豪雨に探掘場の地形が変わり竪穴も見付からない。迷宮(ダンジョン)の防御反応ばかりでは無いだろう。


「GUU この下は 迷宮(ダンジョン)が広がる場所だ」

「他の出口を探しましょう」


緊急事態に風の魔法使いシシリアが駆け付けた。


「しかし、迷宮(ダンジョン)とは……」

「あたし達に、任せて」


迷宮(ダンジョン)の探索には、銀級の探掘者にして獣人の戦士バオウと風の魔法使いシシリアに加えて、水の神官アマリエと白銀の鎧を装備したオーロラが志願した。鎧は前衛職と見えるが武術は心許なく思える。


鬼人の少女ギンナは移動小屋の留守番に残した。魔獣ガルムの仔コロを放し飼いにするのは危険と思う。羊角の獣人ムトンは外部に応援を求める方法を探したが、積雪と吹雪に囲まれたコボンの地を出るのも難しい。


この四人の捜索に頼る他には方法は無さそうだ。




◆◇◇◆◇




僕は疲労して発熱に悩まされた。


「はっ、はぁ、はぁ……」


迷宮(ダンジョン)は岩場の通路に見えて凹凸に巧妙な湾曲を加えて探索者を幻惑する。すでに登っているのか、下っているのか不明な通路だ。水の流れから離れたのは失策だったかも知れない。


初めに確認した携帯用の羅針盤(コンパス)は指針が上下を指したまま固まっている。完全に迷宮(ダンジョン)の異常な磁気にやられたらしい。…自動マップ機能とかチート技が欲しいと思う。


それでも歩みを止めないのは、魔物の襲撃を警戒しての事だ。水場の方が魔物の生息も多いと思う。


朦朧とし始めた視界に岩壁を背にして休息した。僕は水筒から水を飲む。


「ぐっく…ぐっく…ぷはぁ」


人は何日ぐらい不眠不休に働けるものか……僕は後方へ昏倒した。


-GAKON!-


やべぇ…何かの仕掛けが…動作しただろう。


僕はそのまま意識を無くした。


………



胸元に隠した護符が震える。


「…主か起きよッ!こんな場所で倒れるものでは無いっ!…」


瀕死の呼びかけに僕は目覚めた。


「うっく、傷が悪化している」


高熱の原因は巨大鼠から受けた傷の影響らしい。僕は腕の痛みと西風の精霊の呼びかけに気付いた。


「…気が付いたか、ヤツは近いぞ…」

「どこだ?」


-FOGYAAAAASHuuu-


とんでもない、化け物の咆哮が聞こえた。





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