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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十三章 薄暮のイグスノルド
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ep163 コボンの地に潜む

ep163 コボンの地に潜む





 僕らは北辺の町に到着した。


遠目に見た北辺の町は平らな台地の上にあり雪原に出現した楽園を思わせる。標高はそれほども無いが緩やかな傾斜地を登ると市街地が見えた。僕らは市街地の郊外に移動小屋を泊めて付近の住人に尋ねると、そこはプタラハの町ではなくコボンの地であると聞かされた。


「コボンの町とは、随分と外れたものねぇ」

「面目ない……」


水の神官アマリエは務めて明るく言うのだが、僕はこの事実に消沈する。羅針盤に裏切られて、当初の目論見を外れた航路となったのだ。


「別に責めている訳ではないわ、雪原の旅も楽しめたし」

「…」


コボンの市街は外壁も城門も無くて無秩序に広がると見えたが、市内に残雪も無くて整備は行き届いていると思える。明らかに市街地の方が暖かいのだ。無秩序に入り組んだ街路を徒歩で進むと城壁が見えてきた。


「あの、城壁は?」

「あんたら、よそ者かね。壁の向こうは探掘場さね」


「探掘場?」

「見たとこ、冒険者だろ。ギルドへ行きなッ」


「はっ、ありがとう!」


城壁外の労働者に道行を訪ねて冒険者ギルドに立ち寄った。ここはコボンの町の南地区に相当するらしい。ギルドには魔物の討伐をする冒険者と、迷宮の探索を行う探索者と、鉱山を掘る探掘者が所属しているそうだ。


「神官様と治療師の登録は歓迎するぜッ」

「お願いします」


僕は帝国で発行された冒険者証(ミスリルカード)を提示した。同行した水の神官アマリエも教会の身分証を提示する。登録料は必要経費だ。


「ほほう、水の神官さまと、護衛の冒険者どのか……」

「うむっ」


曖昧に頷いておく。


「登録は済んだぜ。問題は起こすなよッ」

「…」


僕は懸案する魔獣の咆哮について尋ねた。


「そらぁ、探掘場に迷宮(ダンジョン)(ぬし)が現われたのさッ」

「ヌシですか…」


詳しい話を聞くと、ひと月ほど前に探掘場の最深部から迷宮(ダンジョン)(ぬし)の咆哮が聞こえたと言う。今も時折に咆哮をあげており相当に危険な者らしい。噂では巨大な魔人だとか、羊の顔をした悪魔だとか、岩の怪獣だとか言うが未だに最深部から無事に帰還した探掘者も無くて正体を知る者も無い。


「GUU マキトか!」

「はっ、バオウ?……」


僕は犬顔の獣人バオウと再会した。すっかり探掘者スタイルの装備で見違えたが、手甲の武装と毛並みは変わっていない。アマリエとも面識はある。


「GFU その様子では 今着いたところかッ」

「はい。シシリアさんはどこに?」


僕はもう一人の旧知の顔を探すが、バオウの答えは素っ気ない。


「GHA シシリアは 家だッ」

「うふふ、珍しくご一緒ではないのですねぇ」


水の神官アマリエは意味ありげに笑うが、バオウは鼻を鳴らすのみ。


「FUN …」

「?」


詳しく話を聞くと、バオウとシシリアは僕らと別れた後にコボンの迷宮へ向かいお宝の探索をしたと言う。探索の途中でシシリアが働けなくなった為に今はバオウが面倒を見ているそうだ。二人にも苦労があったと思える。


再会を祝して飲もうという話になったが、移動小屋で待機している者との合流もしたい。


「あんたッ、こんな所で無駄話を!?」

「GUW …シシリア…」


ギルドに現われたのは赤ん坊を抱えたシシリアだった。


「PaPa!」

「ッ!」


シシリアの腕から子犬が抜け出てバオウに飛び付いた。尻尾を振りふりバオウに噛り付く。…なるほど、バオウの子供か。


「えー、まさか母親はシシリアさん!?」

「知らなかったの?」


「…」


さも当然そうにアマリエが言うので、知らなかったのは僕だけか。


人族と獣人の間でも子供は出来るらしい。しかも、その子は獣人の形質を色濃く受け継いで犬顔の獣人バオウとよく似ている。モフモフの毛並みはバオウと同じ色だ。


衝撃の再会を経て僕らは合流した。




◆◇◇◆◇




市街地の北側を分断する城壁は岩を削って並べた様式で、北風の侵入を堅固に防衛すると見えた。ギルドで手に入れた概略図を見ると城壁は湾曲した円弧の一部に見える。


「この城壁の先は?」

「GUU 探掘場に 地図は無い」


この城壁の北側は垂直に落ち込んだ巨大な穴があり、特別製の昇降機で下るらしい。道理で城壁の向こう側には建物が見えないのだ。その巨大な穴は水蒸気と共に熱気を吐きだして上昇気流と雨雲を形成していた。北からの寒風に流されて雪を降らすと忽ちに雨に変わるのだ。


雨水が豊富な南側は狭い土地に農地と居住区があり緑も見えるが、その外側は雪原に隔てらて孤立している。西側と東側は適度な雨量と寒気で高級住宅街となり、北側は寒気に乾燥気候の土地をして職人の工房地区となる。市街地の気温はコボンの地の探掘場となる巨大な穴の影響が大きい様子だ。


その巨大な穴は迷宮(ダンジョン)と考えられる魔物が徘徊し資源の採掘が行なわれている。主に資源の採掘を行う者は探掘者と呼ばれるのだ。


「GFU いつもの 探掘場だッ」

「…」


犬顔の獣人バオウが通行証を見せると昇降機が稼働した。行き先は決まっているらしい。


僕らはバオウの先導でコボンの迷宮(ダンジョン)へ降りた。


………



昇降機を降りると緑の苔が生えた平地があった。おそらく十二階層も上には雨雲も見えるが陽光は届かない。それでも生い茂る苔の生命力には驚く。


「GHA このあたりには 大した物は無いが 好きに鉱石を集めてくれ」

「はい!ですぅ~」


鬼人の少女ギンナは自身のお弁当(鉱石)を探して岩盤を掘った。緑の苔に覆われた地面は固い岩盤だ。ギンナは怪力を発揮してツルハシで突貫するが、体重が軽いのでバオウの方が深く掘れるらしい。


「ようし。手伝おう…【削岩】【掘削】」

「!…」


僕も土木工事は手慣れたもので、ギンナはお目当ての鉱石を掘り当てた。相変わらず鉱石には鼻が利くらしい。


「GUU 休憩にするッ」

「ですぅ~」


バオウは噴き出る汗もそのままに水筒の水を飲んで一息ついた。探掘者は昇降機の利用回数で税金を取られるらしく価値のある物を探している。また、昇降機を上げるにも重量に制限があるので大量の荷物は運べない。


ここで掘り出す鉱石には大した価値も無いのだが、ギンナのお弁当(鉱石)には十分な品質で毎日の食事には欠かせない。そうした鉱物採集の副産物としてお宝を発見する事もあるらしい。お宝は迷宮(ダンジョン)が生み出す金銀などの財宝だ。その財宝には黄金の剣や黄金のメダルなど珍しい物もある。


バオウたちは別の迷宮で黄金の剣を発見した事があり、その時の状況を語ってくれた。おそらくお宝は迷宮(ダンジョン)の魔物に守られていると言う。コボンの迷宮(ダンジョン)にもお宝はあると思う。


「GHA マキト。あまり遠くへ 行くなよ」

「分かっているさ」


僕はバオウの注意を聞いて、この階層の植生を調査した。バオウは探掘者となって一年で銀級と認められた。僕らは初心者にして見習いである。緑の苔は迷宮(ダンジョン)に生える光り苔と似ているが、自然界に生える苔に似て光合成をしていると見える。迷宮(ダンジョン)では光よりも豊富にある魔力素を得て有機合成をしているのだろうか。


「あっ!」


お約束か。僕は迷宮(ダンジョン)の落とし穴へ落ちた。




◆◇◇◆◇




マキトが姿を消してから、犬顔の獣人バオウは迷宮(ダンジョン)の落とし穴を嗅ぎつけた。


「英雄さまっ!」

「GUU 待てッ」


直ぐにでも落とし穴へ飛び込もうとする鬼人の少女ギンナを押さえて、バオウは冷静に言う。


「…この落とし穴の先が、どこへ通じるか分からぬ 危険だ!」


彼らは装備を整えて救助隊を結成した。


………


落とし穴は入口が狭く滑り台の様な傾斜があり湾曲して先を見通せない。そのため小柄なギンナに革紐を結んで落とし穴へ降ろした。随分と長い距離の革紐が消費されて止まった。


ギンナは落とし穴の底で明りの魔道具を灯したが、マキトの姿は見えない。穴の底は洞窟の様に見えて狭い通路が左右に続いている。良く見ると迷宮(ダンジョン)にありがちな光り苔が生えており踏み荒らされている。マキトがここを通ったのは間違い無いだろう。


そうして、マキトの行方を探していると革紐が引かれた。…時間だ。


「う、ぐっすん…」


ギンナは見たままの状況を持ち帰り伝えた。




◆◇◇◆◇




僕は何者かの追跡者から逃走していた。


落とし穴へ落ちたのは僕の油断だ。そこから傾斜した竪穴の湾曲したスロープに沿って手足を伸ばして減速が出来たのは良い対処だろう。落下した底に苔が生えて衝撃を抑えたのは不幸中の幸いだ。


光の魔道具も携帯していて視界を確保できたが、洞窟の奥から猛獣かと思える魔物に追われた。そりゃぁ、逃げるしか方法は無い。僕は魔物と反対方向へ逃走した。


明りに照らされた洞窟はいくつかの分かれ道もあり迷宮(ダンジョン)の特徴とも思えるが、この明りが追跡の目印として追われている様子だ。


「危ねっ!」


断崖が口を開けていた。


僕は疾走から軽く飛んで洞窟の天井へ鉤爪を引っ掻け、間口の上に身を隠した。新装備の手甲に仕込んだ鉤爪が役に立つ。


-BAFOW!-


魔獣が光の魔道具を追いかけて暗闇へ落ちてゆくと、しばらくして水音がした。…下階は水場らしい。


「ふう、危機一髪という所か……」


ひとり語ちて下階を覗くと、紐に吊るした明りの魔道具が見えた。そう簡単に魔道具を損失(ロスト)には出来ない。


「あっ!」


鉤爪に掴んだ岩が欠けて再び落下した。


今回の便利道具たちは悉くに期待を裏切る性能だ! 暗闇の水面へ全身を打ちつけて僕は水没する。頭部を守る兜は機能したので、僕は素早く呼吸の魔道具を咥えて浮上した。行崖の駄賃に魚を一匹と捕まえる。


どうやら滝壺の様な場所だ。先に落ちた魔物の気配を探るが危険は無かった。


岸辺に上がって一休みしたい。





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