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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十三章 薄暮のイグスノルド
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ep162 方向転換するも咆哮するもの

ep162 方向転換するも咆哮するもの





 僕らはイグスノルドの西部の平原で現在位置を見失い遭難したらしい。


見渡す限りの雪原で晴れ間を待ち、上空からの観測手としてオーロラお嬢様に飛んでもらう。オーロラの得意魔法は自身と装備も極限に軽量化して空中へ浮かぶものだ。


「オーロラ、頼むよ。気を付けて」

「はい。お任せ下さい!…水鳥の羽 虚空の色 そよ風の軽さ…【軽薄】」


晴れ間でも、時折に北風が吹き地吹雪を巻き起こす。オーロラには白熊の毛皮の防寒着を装備して細く編んだ革紐を持たせて空へ上がる。空中での姿勢制御に風の魔道具を持たせているが、突風に煽られると危険な役目だ。


アマリエたちは色付きの旗を持たせて移動小屋の周囲に待機している。上空からの方位を見失なわない為の処置だが、凧揚げの様に風に流されるオーロラから見れば気休め程度かも知れない。


「あっ!」


突風に煽られたオーロラは革紐が千切れて、白熊の形をした風船の様に飛ばされる。急ぎ、魔獣ガルムの仔コロに騎乗した鬼人の少女ギンナが追いかけた。…あちゃー白熊じゃなくて赤か黄色に着色すべきか。オーロラの飛行先を見送って、僕は観測機器を設置した。特に扱いが冷酷な訳でもなく今から僕が追いかけてもギンナとコロの方が早い。ここは彼らに任せよう。


太陽高度を観測すると南天の方角は羅針盤の南北方向とズレが生じている様子だ。なにぃ!…ここに来て羅針盤にも裏切られるとは…地球上でも北極と地磁気の差す北にはズレがあるが、殆んど一致していたと思う。羅針盤の磁石が寒さにイカれたか。


それでも、昼過ぎにはオーロラお嬢様を保護してギンナとコロが帰還した。


「は、はぁはぁ…」

「ご苦労様。少し休んでくれ」


昼飯は腸詰肉と葉野菜を挟んだ白パンにカルオ出汁の利いた熱々スープを付ける。


「はふっ、ここから南に森が見えますっ」

「正確な方角は?」


その森はイグスノルドの南部に広がる森林地帯だろう。


「たぶん、この位……」

「ふむ」


オーロラが地図でおおまかな位置を示すと、やはりプタラハの町の南西へ進路を間違えたらしい。北へ行き過ぎたならば魔狼の森が北部に見える事になる。


「…ワシの魔力で西へ送り届ける事もできるが、良いのか?…」


西風の護符が震えて語りかけて来るが、他人に精霊の声は聞こえない。…折角に目的地へ近づいたのだから、西風の精霊に頼るのは最後の手段にしたい。ここから西へぶっ飛んでも魔狼の森に突っ込むか、山岳地帯に引っかかるか、王都の付近へ不時着するか博打の要素が高い。


「ようし、ここから北へ向かうぞ!」

「はい」


僕らは方向転換を決めた。




◆◇◇◆◇




そこは悪の巣窟かと思えるイグスノルドの王城にある執務室だ。悪党顔の大臣と小役人の男が密談している。


「密偵からの報告が入りました」

「して、奴らの行方は?」


帝国の特使であるマキトらの行方を尋ねた。


「近隣の開拓村に立ち寄った後に、西方へ向かったまま戻らず。行方不明と……」

「ふむ。賊も無駄足かッ」


山岳地帯には山賊に偽装した私兵を潜伏させていたが、無駄な出費となった。


「帝国へは何と報告しますか?」

「そのまま、事実を伝えれば良かろう」


それは皮肉か、


「それでは……」

「護衛も無しに、この時期に視察など。正気の沙汰ではないがッ」


大臣の主張する所は曲げない様子だ。


「…」

「行方不明だとて、我々の責任ではない!」


こうして帝国の特使は行方不明となった。




◆◇◇◆◇




ういぃす。かれこれ何日か、北上する事を続けても、僕らは未だにプタラハの町へ到着しない。既に通り過ぎたか、プタラハの町も雪に呑まれたか。


そんな不安な妄想に取り憑かれても、真っ白な雪に覆われた平原は続いていた。知らぬ間に同じ場所をぐるぐると回っていても気付かないだろう。いや、太陽の観測結果に間違いは無い……と思う。


段々と弱気になる不安を押さえて、僕は移動小屋の操縦を交代した。


「アマリエさん。お願いします」

「任せて下さい」


今の所では新雪を溶かして飲料水には不自由をしないが、燃料となる薪と食材の入手に苦労している。そのため、室内でも毛皮を着て炬燵に潜り暖を取る日々だ。冷気が室内に吹き込む。


「マキト様。薪割りを終えました」

「ご苦労さま、…寒っ」


僕はムトンの頬に手を伸ばした。防寒着で肉体労働をしていたムトンは暖かそうに見える。羊の角がホカホカの羊毛を連想させるのだ。もぐもぐと木の芽を噛んでいたムトンが枝を取り落とした。


「くっ、マキト様。おやめ下さいッ……メルティナ様へ報告いたしますよ」

「むーん。暖かい~」


寒風にさらされたムトンの顔は冷えていたが、すぐに室内で温まると上気して顔を赤くした。


戯れに、居間でご主人様プレイをしているとガゴンと移動小屋が停止した。


「もう、そんな時間かぁ」

「…」


外へ出ると雪の小山があり、雪に凍った灌木の茂みを掘り出して刈るのだ。暖を取るにも炊事をするにも薪の確保が優先される。


久しくマキトの名前の由来に立ち返って、樵と薪割りに体力を使った。


そいう意味でも、薪を大量に使う風呂は贅沢だ。


………



あい変わらず、移動小屋はキャリキャリと鎖を軋ませる騒音を立てるので、停泊した朝方は狩りに出掛けた。


灌木で作った即席の犬橇(いぬぞり)を魔獣ガルムの仔コロに引かせて雪原を走ると、雪原に雪兎を発見した! 僕は魔道具の蒸気圧銃三型を発射する。


-Pshyrr-


麻痺の薬効を詰めた弾丸が命中した。ヨタヨタと雪兎が走り出す。麻痺毒の効果は十分ではない様子だ。


「コロちー。行くですぅ~」


-BAU!-


手綱を外した魔獣ガルムの仔コロが雪兎を襲う。それならギンナが騎乗して狩りをすれば早いだろうと思うが、犬橇(いぬぞり)を引くのも楽しみの内か。


雪兎から採取した氷の魔石を換金するにも町へ辿り着かねば話にならない。僕らは獲物の雪兎を犬橇(いぬぞり)に乗せて帰還した。


………



食糧に黒パンも尽きて、僕は小麦粉を練り手打ちうどんに似た麺を打った。少しでも醗酵できればふっくらパンも焼けるのだが、寒い室内では難しい。手打ちうどんを湯通しすると食感もそこそこの出来で悪くない。


雪に埋もれて山菜も採れないので、そんな時は保存した芋と漬物にした白菜だ。食生活に野菜不足が深刻かも知れない。雪兎の肉は細切りにして天ぷらにする。ムトンの要望で樹の芽を天ぷらにしてみたが苦くて頂けない味だ。


もぐもぐと樹の芽の天ぷらうどんを食べるムトンは幸せそうだ。


「もう、町へ着いても良さそうですけど…」

「そうだねぇ…」


僕の太陽観測では、プタラハの町は越えたと思う。それで無くとも街道沿いの宿場町か開拓村でも人里があれば道を辿れる。


「ずずずーっ」

「ふう」


言葉少なにうどんの出汁をすする。


そろそろ、緊急脱出を決断するべき時期が近づいていた。




◆◇◇◆◇




木漏れ日は暖かく温室に花が咲いている。そこはアアルルノルド帝国の王宮にある温室庭園だった。皇帝陛下が声を荒げて問う。


「グリフォンの英雄が消息不明だとッ」

「はっ、間違いはありません」


帝国の独自の諜報網でも、かの地は遠く及ばないらしい。


「かの者が切り札とする、魔獣グリフォンはどうした?」

「それが、魔狼の森で目撃されたとか」


イグスノルドとバクタノルドを隔てる森は深く人の手が入らない魔境だ。


「ええい。魔獣の力であれば、山も森もひと息の距離であろうがッ」

「申し訳ありません。追手をかけますか?」


その魔狼の森が気懸りか皇帝は思案に沈む様子だった。


「まさか、森で遊んでおる訳ではあるまい……」

「…」


皇帝陛下の思案の前では、沈黙が貴ばれる。




◆◇◇◆◇




ついに、僕らは北限の町を発見した。


「ひやっほう~」

「遂に、見つけたぞぉぉぉおお!」


ギンナは陽気に。僕は達成感を込めて叫んだ。


「ぐっすん…」

「生きてて、良かったわぁ」

「…これで。メルティナ様へご報告が出来ますッ」


お供の者たちも万感に涙した。その時、北限の町から、!!!


-FOGYAAAAASHuuu-


とんでもない、化け物の咆哮が聞こえる。


それは地底怪獣の咆哮に思えた。





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