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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十三章 薄暮のイグスノルド
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ep160 イグスノルドで歓待される

ep160 イグスノルドで歓待される





 僕らは野営地を後にしてイグスノルドの王都へ向かった。移動小屋の停泊を考慮して宿場町を通過してきたが盗賊の襲撃目標にされたのは誤算だった。放浪民の移動小屋でも通常は数軒の小集団で移動するらしい。盗賊対策を考慮すれば当然の策だろう。今回は事なきを得たが移動小屋の防衛機構は改善したい。


移動小屋にグリフォンの紋章旗を掲げて進むと王都からの出迎えがあった。


「特使殿。お迎えに上がりました」

「うむ。城下まで案内せよッ」


「はっ!」


出迎えの騎士団は二十騎ばかりの騎兵で足は早そうだ。移動ゴーレムの歩みに合わせて馬脚を進める。そのため、移動小屋の速度は商人の荷車と似た様な物だ。


騎士団に先導されて大通りを進むと、物珍しい行列に町の住民は人垣をなした。イグスノルドの城下は繁栄を見せている。移動小屋の全長は馬車を縦に四台も並べた大きさで横幅も馬車の二倍はある。そんな構造物がアアルルノルド帝国の紋章旗を掲げて市内に入場すれば人目を引くと言うものだ。市内の城門を抜けて大通りを曲がるとイグスノルドの王城が見えた。平坦な構造物に物見の尖塔が見える。


「特使様のご到着です」

「急げッ」


「はっ!」


既に先行した伝令から準備していた様子に歓迎のためか儀仗兵が整列している。僕らが移動小屋から降り立つと歓迎の使者が口上を述べた。適当に貴族的な挨拶を返す。


公式に帝国からの特使としてイグスノルドを訪問した僕は、国王への謁見のため王城へ登る。城内の通路は無駄に長く各所に美術品や装飾品が飾られているのを通り過ぎて、漸く謁見の間らしき扉へたどり着いた。


「マキト・クロホメルス卿のご入来ぃ~」

「!…」


楽団が用意されて音楽が奏でられるが、…帝国の国家だろうか。毛足の長い絨毯を踏んで進むとイグスノルドの貴族や近衛兵などが並んでいるのが見えた。


「そちが特使殿か。直答を許す」

「はっ、マキト・クロホメルスにございます」


イグスノルドの国王は老齢に見えても為政者の風格である。貴族的な挨拶を交わし話を進める。


「本日は友好の印に、これらをお持ちしました」


僕はアアルルノルド帝国から贈られた品物の一部を公開した。盗賊が狙う金品はあったのだ。


「こちらは、帝国で開発された新しい砂糖菓子です」

「ほほう…」


白い砂糖はタルタドフの特産にしたいが、密かにガラス容器も貴族階級へ売り込みたい物だ。


「クロホメルス卿。遠路大義であった。滞在を許す」

「はっ、有難き幸せに御座いますッ」


こうして僕らは王城へ拘留された。




◆◇◇◆◇




僕らは王城の離れにあるサロンで寛いでいた。寒風が吹く庭園からもガラス窓を通して陽光が入る贅沢な物だ。


「ムトン。首尾は?」

「はい。城内の警備は厳重にして、神官さまの沐浴にも警備の兵士が配置される程の警戒ぶりです」


「うーむ」


羊の角がある獣人のムトンが答えた。メルティナお嬢様の配下でありタルタドフの領地から付き従って来たのだが、今は専属として女中(メイド)の姿だ。


白いドレスを着たオーロラは貴族のお嬢様の所作でバクタノルド産の甘茶を飲んでいる。水の神官アマリエはそのお茶に付き合い呑気な物だ。…そうか、これが愛人と見えるのかぁ。


僕は慣れない貴族のお仕着せで窮屈を覚えたが、王城に滞在するに過分は無い。


「ギンナの様子は?」

「兵舎にも慣れたご様子に……ほら!」


王城の中庭を魔獣ガルムに乗り走るギンナの姿が見えた。鬼人の少女ギンナは護衛の扱いで離れの外にある兵舎を間借りしていた。この様子なら問題は無いと思えるが、


「しかし、コロの方が問題ですわね」

「…」


魔獣ガルムの仔コロは闘争本能を持て余して中庭を走っているらしい。


拘留もそろそろ限界だろう。




◆◇◇◆◇




数日して城下町への外出が許可された。それまでは晩餐会やら御前試合だとかの催しに招待されて忙しい日々であった。歓待されて文句は言えない。久しぶりに庶民の平服に着替えて城下町へ繰り出すと、冬空も晴れて気分は高揚した。


「マキト様、見てくださいッ」

「ほほう、美味そうな……」


市場で腸詰肉が数珠繋ぎに干してあるのを見つけた。オーロラお嬢様は物珍しく燥いでいる。市場の食糧は早くも値上がりしていたが、冬場にはありがちな事。


「おやじ、ひと揃い貰おうか」

「へぃ、毎度ありッ!」


僕は長ーい腸詰肉を買って護衛を見た。城から付けられた二人の兵士は地味な革鎧を着けているが手練れと思える。魔獣ガルムに乗った鬼人の少女ギンナも控えているので、緊張し警戒している様子だ。


「コロ。喰って良いぞッ」


-BAU!-


僕が腸詰肉を千切って投げると、魔獣ガルムの仔コロが飛び付いた。子供たちの歓声がする。


「うわぁぁああー」

「…食べた!…」

「…でけぇ…」


町の子供たちには大型犬と見えるだろう。


犬の躾は徹底されている。




◆◇◇◆◇




 僕は本格的な冬の到来を前にして移動小屋の改造を始めた。移動小屋は前半部と後半部にそれぞれ八基の移動ゴーレムを合計で十六基も備えている。移動ゴーレムは下半身の部品と制御装置の精霊核から構成されて御神輿の様に移動小屋を支えて進む。そのため積雪に出合うと移動が困難となるので、移動小屋の修理を名目にして城の鍛冶場を間借りした。


「まずは足回りの改造か…【形成】と【書込】」


積雪対策に馬へ装備する蹄鉄を作成した。旅の途中にベイマルクの宿場で仕入れた蹄鉄は雪道を走るための魔道具で、馬へ装備すれば積雪に対処できる。魔力回路も単純な仕掛けだ。移動ゴーレムが使うには、その形を板状に変えて複製する。


「回路も上等…【複製】【複製】【複製】【複製】♪【複製】【複製】【複製】【複製】♪」


僕は大量に金属素材を消費して積雪用の蹄鉄板?を作成する。これを鎖で繋いで巨大なベルトを作成した。


「何ですか、これは?」

「キャタピラーだよ」


「はぁ!?」


鍛冶場の様子を見に来たアマリエは訳も分からず困惑している。城に仕える鍛冶職人も興味深々に様子を見ていた。


僕はゴーレムの足を交換して車輪を作成した。キャタピラーの動力として車輪を回すと回転軸(トルク)にも問題は無かった。…流石にゴーレム技術はチートである。


移動小屋の左右に二基づつの動力ゴーレムを配置してキャタピラーを固定し間は回転するだけの車軸を通す。制御線を操作盤へ繋いで魔力を流した。


「良しッ廻すぞ!」

「ッ!」


僕が操作盤に触ると整備台の上でガラガラとキャタピラーが廻る。あとは移動小屋の重量を引き回せるか試験が必要だろう。


「…土の精霊どもが騒いでおるッのは、何事じゃ…」


西風の護符が震えて精霊が目覚めた。…動力ゴーレムを改造してみたけど、気に入って貰えるかな?


こうして積雪対策を進めた。




◆◇◇◆◇




城内の鍛冶工房へ耳目を集めている間に、羊角の獣人ムトンと気配を消したオーロラが城内を探索した。女中(メイド)姿のムトンが城の厨房へ近づくと女中たちが噂話をしていた。


「盗賊の男が牢屋で殺されたらしいわ…」

「…そんなッ、城中ですわよ!」

「…シッ!…」


仮にも王城に付属する重要な施設に暗殺者の侵入を許したとなれば、警備の者への責任追及は免れない。ましてや、アアルルノルド帝国の特使を襲ったという盗賊団へ繋がる重要な犯人だ。


イグスノルドの王都で何かが起きている。


………


オーロラは夜陰を押して特技の魔法を使い城内の執務室を探索した。王城には感知用の魔道具も備えられて、室内に人の気配があり接近には緊張を強いられる。


「始末は付けたか?」

「はっ。恙なく」


執務室の主は大貴族の重臣か大臣か、…それにしても警備の兵も無くて怠慢である。せめて中を覗ければ貴族の階位か役職が分かるのだが…イグスノルドの役人は階位を表す特徴的な帽子を身に付けているのだ。


「あとは、特使殿の件……却下は出来ぬか」

「はい。帝国との関係を考慮いたしますと、得策ではありませぬ」


対外的な懸案もあると言う。


「ふむ。道中には注意せねばッのぉ」

「ははっ、滞りなく進めます」


それは陰謀か、マキトの先行きに暗雲が立ち込める。





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