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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十二章 トルメリア王国の北部討伐
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ep158 魔法博覧会(二期目)

ep158 魔法博覧会(二期目)





 トルメリア王国の魔法博覧会は王立魔法学院と私立工芸学舎の共同組織に運営されている。会期中は両学園に所属する学生と教員の研究成果の発表と新製品の紹介があり多くの人出で賑わう様子だ。


研究者は最新の研究成果を披露して研究の支援者と出資者を集める。職人志望の学生は魔道具の試作品やアイデアを発表して弟子入り先の工房を探すか、独立して商売を始める事だろう。また商人の子弟は独自に出店し商売の腕を競う。その中で僕らはある飲食店を企画した。


軽装の鎧を着た女騎士フレイジアがパンケーキを手に給仕を行う。


「お姫様、ご注文の品物です」

「きゃっ」


女学生が顔を赤くする。騎士の礼を取って控える女騎士フレイジアは好評の様子だ。


「ひっ姫様、おかわりニャン」

「うふふ、頂くわ」


もう一人の女騎士ジュリアは獣耳に似せたカチューシャを付けてお茶を注いでいる。慣れない所作に見ている方が恥ずかしい。


「ご注文の、白雪セットでございます」

「おぉお~」


小柄なメイド服を着たサリアニアが新作の菓子を乗せたトレイを運ぶ。…侯爵姫とは思えない姿だ。白雪セットはパンケーキに白い粉砂糖(グラニュー)を振りかけて雪景色の文様を描いた軽食で紅茶と良く合う。


「きゃっ、可愛い」

「おい、こっちらの注文が先だ!」


「はい只今。伺いますチャ」


森の妖精ポポロはメイド服を着てお客の注文を取りに走った。店頭の接客は本職メイドのスーンシアが監督しているので万全だろう。


「マキト様、また翼の動作に不具合が……」

「どれ、見せてくれ」


白銀の装飾鎧を着たオーロラが背負った羽を降ろした。ランドセル状に背負い折り畳みした翼を広げる機構が動作不良らしい。


「修理するから、先に給仕を頼むよ」

「はい。直ちに」


オーロラは天使の衣装のままドーナツを乗せたトレイを持って接客と給仕に向かった。店頭は騎士装束とメイド姿が入り乱れて異空間を形成している。


「ぷはっ、パンケーキ六個、あがり!」

「急げッ、優先任務だ」


厨房ではエルハルド偽子爵がサリアニア侯爵姫に使われてた。僕も厨房の応援に駆け付ける。


「小麦粉を混ぜて…【攪拌】。火力の調整に…【熱気】」


焼き上げたパンケーキに型紙を乗せて粉砂糖(グラニュー)を振りかける。


「白雪のごとく…【粉霧】と【蒸着】」


型抜きされて、絵柄付きのパンケーキの完成だ。


「次ッ!」

「はい」


パンケーキを乗せたトレイは接客部隊により次々と運ばれる。


「わっぷ!」

「エルハルド。気を付けろッ」


大量の油を満たした大鍋にドーナツ生地を投入したエルハルドは油の跳ねに驚いて引け腰の様子だ。ジュウジュウと揚げ物に特有の匂いがする。


「大気を回して…【排気】」

「っ…」


仮設の厨房にも換気装置が欲しい所だ。こうして僕らの飲食店は繁盛を見せた。


………



昼過ぎに客足がひと段落して厨房は落ち着きを取り戻した。僕は遅い休憩を取りながら店頭に仮設した小舞台を眺める。台本通りの台詞で女騎士フレイジアが舞台を絞めた。


「我が全力を持って、姫様をお守り致します」

「きゃー!」


歓声と共に女騎士フレイジアが決めポーズを取ると、ジャキンと両腕の小手から防御盾を展開した。腕の装甲を広げて手持ちの小型盾と見える。


「私に手を出すとはッ、痛い目を見るニャン」

「うふふ、可愛く見せなさい……」


もう一人の女騎士ジュリアは獣耳のカチューシャに具足を付けて格闘姿勢を取ると、鉤爪を伸ばした。これも小手と具足に仕込まれて展開される。


「私の真の姿をお見せしましょう…【軽薄】」

「「 おぉおー! 」」


白銀の装飾鎧を着たオーロラがランドセル状に背負い折り畳みした翼を広げると空中に飛んだ。天使の演出としては効果も抜群と見える。


各種の変形機構が付いた鎧のお披露目は、それなりに集客効果があった。


………



砲術部の女子部員たちが、僕らの出店「騎士メイド喫茶」を訪れた。店内の女子比率が高まる。


「マキト先輩。とても繁盛なご様子ですねーぇ」

「やぁ、コリンダ。砲術部の出番は終わったのかい?」


代表のオレイニアの他にも砲術部の先輩が海軍の海賊退治に出掛けたらしく、今年の新人も砲術部の発表に駆り出されていた。部員にとっては砲術の腕前を披露して仕事に繋げたい所なのだ。


「無事。任務完了ですッ」

「ふむ……新作のケーキを召し上がれッ」


僕は労いに白雪セットのパンケーキを焼きあげた。ソースは蜂蜜とカカオ風味の試作だ。


「この黒いソースは渋ッ苦ッですねーぇ」

「試食だから……まだ、練り込み不足かも…」


カカオに似た果実は希少で珍しい薬剤として売られている。これも気付け薬の様な苦味走った風味だろう。コリンダの他の女子部員たちの反応も不評な様子だ。どうすればカカオの風味が良くなるのか謎は深まる。


そこへちみっ子教授と助手たちが合流すると、さらに店内の女子比率が上がる。


「ほほう、これは南方産のカカワ茶の香りかッ」

「カカワ茶?」


流石の年の功か、ちみっ子教授は店内に立つ香りに反応した。


「ほれ、熱い湯に注いで混ぜると良いぞ」

「なるほど!」


僕は早速に熱湯を沸かしてカカワの粉末を投じた。カカワが熱に溶けて香りが増す。…なるほど、加熱の処理が必要なのか。あとは渋皮を剥がして焦げ目を減らせば良いだろうと思う。


お礼に新作のパンケーキとカカワ茶を付けて提供した。


「マキト。お主の実験道具が評判になっておるぞぉ…」

「えっ」


ちみっ子教授の話では、温度計と保温用の魔法の瓶が研究者の間で評判らしい。


「温度計のおかげで、実験成果の比較が可能になった事は大きいのじゃ」

「へぇ、そうなのですか?」


実際に僕が製作した温度計は研究室の試験栽培での温度管理に活躍している。また模倣品も有効に使われていると言う。


知らぬ所に、思わぬ成果があったらしい。


その時、獣人姿の伝令が店内へ駆け込んで来た。


「村長ッ、大変です!」

「!…」


学園内で僕を村長と呼ぶ者は珍しい。…僕の嫌な予感は最大級だぜッ。





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