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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十二章 トルメリア王国の北部討伐
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ep156 新規事業と三国の共同作戦

ep156 新規事業と三国の共同作戦





 僕は魔法工芸学舎の名物講義である魔物生態学を受講した。講義は人気講師のちみっ子…チリコ教授の担当だが、講堂は開始前からいつもと雰囲気が異なる。


「これは……」

「さあ、ご興味がありましたら、お買い上げ下さいませ」


学生の手作りらしい教材と見える冊子を販売している。隣には絵草子があり……チリコ教授のラブロマンスが描かれている。この渋い叔父様は誰だッ。


「退いて下さるかしら?……私にも一冊」

「お買い上げ、ありがとうございますッ」


どこかの令嬢と見える女性が僕を押しのけて冊子と絵草子をお買い上げの様子だ。手作りの出版物とはいえ、安い物ではない。魔物生態学の副教材も良く売れている。


そんな販売風景を見ていると講義が始まる様子だ。


「きゃー、チリコ教授ぅ~」

「…ううっ、お幸せになって下さい…」

「…私たちも応援しておりますわ…」

「…ざわざわ…」


僕は慌てて席へ飛び込んだ。


「あわわっ、助かった」

「遅刻するとは、関心せぬ」


なぜか、サリアニア侯爵姫は特別待遇の席を確保しており、僕もお供として席を確保された。チリコ教授は演壇に踏み台を重ねて登壇した。長期にわたり休講していた影響か、客層が変わった様子だ。


「学生諸君、お久しぶりであるか。私は愛を知った……本日は魔物の求愛活動についての講義を始める…」


愛の暴露か告白かと学生たちは興味を抱いて聞き耳を立てる。


「岩オーガ族の男性は適齢期となると、自身が生成した玉石を気に入った女性に贈るのじゃ…」


講堂には女性のため息かと思える囁きが漏れる。


「その玉石は本人の体格や筋力、持久力などの強さと魔力や血筋の良さに影響されて品質が変わる…」


開拓村でチリコ教授が観察し研究した岩オーガ族の生態は講義に生かされている様子だ。


しかし、商人の子弟は岩オーガ族の玉石の品質に感心を示し、女子たちはラブロマンスに興味を惹かれるらしい。


学生の興味は尽きない。


………



 講義の後で僕はちみっ子…チリコ教授の研究室を訪れた。ちみっ子教授の研究室は以前とは様子が変わり印刷工房の様だ。助手と見える学生が転写や複写の魔法を使い、魔物生態学の副教材と絵草子を作成している。さすが、魔法万能な世界である。


午後のお茶を飲んで、ちみっ子教授が言う。


「しばらく講義を休んだせいで、研究資金を稼がねばならぬのじゃ」

「この渋い、叔父様は……誰ですか?」


僕は絵草子の表紙に描かれた人物について尋ねた。


「ほっほっほ、本人が学内におるとは気付くまいッ」

「ぐっ…」


やはり、オー教授なのか。その美化1500%の渋メンが老教授だとは想像に出来ない。それにしても自身のスキャンダルも研究資金へと変える手腕には恐れ入る。並の商人よりも手強いと思う。


商人らしい笑みを浮かべたちみっ子教授に僕は気迫負けしたのだろう。




◆◇◇◆◇




 新型の砲身を砲術部へ寄贈すると数日後にプラティバ皇国のスタルン王子から大口の注文があった。スタルン様が自ら工房を訪れて商談に臨む。


「オレイニア嬢に砲術を教えたのは、貴殿だと聞いたが本当か?」

「いいえ、僕は砲身を造るだけの職人ですよ」


相変わらずにスタルン王子の率直な物言いには好感が持てるのだが、今日は核心を尋ねた。


「魔法競技会でも活躍したと聞いているが……恋仲ではないのか?」

「うーむ。恋人未満の友人だと思います」


僕が率直に話すと、スタルン王子の表情は目に見えて明るくなった。


「そうか、すまぬが我々の頼みを聞いてくれ」

「…」


その後の商談では、自衛用にプラティバ皇国の商船に乗せる砲身を新しくしたいと言う。海賊が横行する海域では必須の武装だろう。当然に軍船にも転用が可能な砲身だが技術の進歩は止められない。いずれは新型の砲身も模倣されるだろう。


僕は注文を引き受けた。


………



トルメリアの港を王国の軍船とプラティバ皇国の武装商船が出航してゆく。ここから北廻り航路に多い海賊を殲滅するため北上するのだ。途中に霧の国イルムドフの軍船とも合流して海賊団を包囲殲滅すると言う作戦らしい。


「おーい。頼んだぞ!」

「我々に任せておけッ」


出港する軍船に声援を贈り、見送りる者たちがいる。


「いざ行かん~海賊の巣窟へ~我らが海軍の栄光の先へ♪」

「おぉおぉおぉ…」


即興の歌が披露されて、即興の楽団がメロディを贈る。


港のどよめきが徐々に遠ざかり波の音が増した。


三国の共同作戦がここに始まる。




◆◇◇◆◇




 タルタドフの開拓村では三国の対立が激化していた。


領主代行であり実質的な最高権力者である氷の魔女メルティナは屋敷のメイドと獣人を主体とする従業員らに絶対的な支配をしている。最近に開拓村で布教活動を始めた水の神官アマリエは熱狂的に村の自警団と河トロルの支持を得て勢力を伸ばした。先日の対トルメリア王国の侵略に対して裏の活動をしていた白銀の少女オーロラは河トロルの戦士と鼠族の密かな支持を受けている。


鬼人の少女ギンナは静観を決めたが、白銀の少女オーロラの心情に近いらしく各勢力は微妙な均衡を保っていた。いずれかの勢力へ加勢があれば、その均衡は脆くも崩れるだろう。


そこへ猫顔の獣人ミーナが、キャロル姉を伴って開拓村へ帰還した。


「ミーナ。今までどこへ!彷徨していたのかしらッ」

「ひっ…ただ今、帰還を致しました」


びしりっとメルティナお嬢様が乗馬鞭を鳴らすのは奴隷の躾か。お嬢様は領地の経営も乗馬もこなす才媛である。


「マキト様の監視の任を果たせなかった事は許します。元の職務へ復帰なさい」

「へっ…本当ですか?」


お叱りに合う覚悟をしていたが、懲罰も無くて気が抜けた。


「私が許すと言うのです。ご苦労様」

「くうぅ…ありがとう、ございますっ…」


奴隷の身分のまま逃亡せずに帰還して良かった。ミーナの話を聞くとキャロル姉の農園の奉公が明けて借金を返済したらしい。


開拓村の勢力図が傾しぐと思われたが、そこにマキト村長が現われた。


「さあ、今夜はミーナの帰還祝いだッ。食ってくれ!」

「「「 おほおぉ 」」」


それは珍しい宮廷料理か。芋は細切りにして、こんがりと焼き上がり脂の芳香を放っている。降られた荒塩の加減が絶妙だ。


「何よッこれは、ただのイモではなくてよッ…もぐもぐ…」


野菜の彩には白い衣が付いて、だし汁のスープに浸けると絶品の美味さだ。


「あらっ、私とした事がはしたない…サクサク…」


鶏肉は野性味の溢れるぶつ切りで、南方産の黒湖沼とスパイスを利かせた味わいだ。


「きゃふん、旨うまですぅ~」


食後の穴あき菓子は未だに試作ではあるが、女子たちにも人気の様子だ。


「どうしても、この穴が気になるのに、とっ止まらない美味しさですわ」


ふふふ、揚げ物の魅力に落ちるが良い!…僕はひとりほそく笑む。


揚げ物に使う油の入手には苦労した。大量に取れるマオヌウの獣脂や明り取りの油では独特の匂いに食材が負ける。農場で試験栽培した菜種油を絞るには【圧搾】の魔法を新たに開発する程だ。また、絞った油にも不純物が多くて【回転】【分離】と行程魔法をも応用して簡易な遠心分離器を作成する手間の掛かり様である。


そんな手間暇を掛けた宮廷料理は、皆の舌を満足させた様子に僕は満足感を得た。


食後には油を拭う烏龍茶が合うだろう。


開拓地の危機は未然に防がれた。





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