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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十二章 トルメリア王国の北部討伐
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ep154 王立魔法学院の留学生

ep154 王立魔法学院の留学生





 僕は三期目の学業生活を始めた。外交政策概論の講師がのたまう。


「外交政策とは、国家間の交渉を戦略的に行うために立案される総合的な政策である。…」


私立工芸学舎の学生でも王立魔法学院の講義科目を受講できる交換学生の制度は実に便利だ。本来の身分を詐称するとの意味でも隠れ蓑となる。


「国家の体勢により外務大臣や外務卿が所管することも多いが、国王の専権事項となる事もある。…」


タルタドフから通学するにはイルムドフの王都には伝手がなく、帝国領は遠すぎる。それに比較してもトルメリアの王都は通学にも都合が良かった。


「我が国の外交政策は、主に国家の安全と経済的利益を目的として立案され、国王の裁可の元で実行される。…」


僕の隣ではサリアニア侯爵姫が身分を隠して熱心に講義に耳を傾けている。見た目は小柄で幼女と見紛うが歴とした淑女であると本人は言う。…淑女の意味を問い糺したい。


講義を終えて僕はサリアニア姫に問いかけた。


「サリア様、講義の内容は如何ですか?」

「実に興味深い。我が国との違いも面白いものよ」


「身バレしないか、冷や冷や物ですが……」

「なあに、帝国からの留学生も見えぬ。私の姿を見知った者などおるまい」


その時、僕に声をかける者があった。


「マキトさん。ご機嫌よろしく」

「えっ、オレイニア。その恰好はっ!?」


見ると貴族の令嬢かと思える衣装で、彩色のオレイニアが微笑んでいた。…実家は下級貴族の末裔だったと思うが。


「オレイニア嬢。私も紹介して頂けないかッ」

「!…」


南国のプラティバ皇国で出会った貴族の少年スタルンが名乗りを上げた。南国の貴族スタルン少年は屈強な護衛を連れて、いかにも大貴族の様子に褐色肌で白い歯を見せて微笑んでいる。


「私はスタルンと申す。そちらのご婦人はどなた様ですか?」

「私はサリアと申します。以後お見知りおきをッ」


サリアニア侯爵姫は淑女の礼をとって身を屈した。こちらもメイドと女騎士を連れている。どちらも近寄り難く高貴な身分と思われるのだが、先に屈するのは侯爵姫の身分を隠した演技の為か。


「はっはっは、堅苦しい挨拶は抜きでお願いしたい。お互いに学生の身である」

「恐れ入ります」


南国の貴族スタルン少年は大貴族の子弟らしく鷹揚に頷いた。僕は暴れ姫の異名を持つサリアニア侯爵姫の態度に驚くのだが、逆にスタルン少年の正体の方が気になる。


「マキト殿も学友として接して欲しい。折角の留学なのだから見聞を広げたいのだッ」

「はっ、承知したしました。…で、スタルン様はいつまでご滞在ですか?」


スタルン少年の率直な物言いには好感が持てる。


「今期は十分に勉学せよと、父上からのお達しだ」

「なるほど…」


その後、スタルン少年は近況を話すとオレイニアを伴って次の受講へと向かった。


「ふう。プラティバ皇国の王族とはっ…肝を冷したぞ」

「へっ?」


まさか王族とは思わず、僕は腰が抜ける驚きだ。


「未だ通過儀礼は済ませていない様子だが、いずれは王族となるお方よ」

「ふむ」


通過儀礼とは南国のプラティバ皇国の成人式だろうか。


………


王立魔法学院の学生食堂には上階に上級貴族の為のサロンがあった。サロンはテーブルと椅子が間仕切りで区画されて個室の雰囲気であるが会話は筒抜けに解放された空間だ。


サリアニア侯爵姫はサロンの一角を占拠して食事を始めた。なぜか僕も案内役として同席して戦闘メイドのスーンシアが給仕する。女騎士ジュリアは周囲の警戒に目を光らせている。


「…あれは、四天王チームのマキト様よ!」

「…魔術師勲章を受けられたとか…」

「…あの幼女は誰だ?…」


噂話も筒抜けである。


「マキト様。とても人気がおありのご様子に、私も嫉妬してしまいますわ」

「なっ!」


誤解される物言いに僕は動揺を隠せない。…サリアニア姫の意地悪だろう。


「それにしても、このトルメリアのお茶は中々の物である」

「僕はバクタノルドの甘いお茶が好みです」


「ほほう、よく御存じであるかッ」

「バクタノルドの戦乱が無ければ、ぜひ取り寄せたい物ですよ」


お茶の談義に近隣の国際情勢を織り交ぜた貴族に特有の会話だ。サリアニア姫がトルメリアのお茶を褒めるのは、本人が他国の貴族である事を仄めかし印象付ける。王立魔法学院に留学して来る外国の貴族は大抵がヤバい代物だ。…これが予防線となる事を祈る。


僕は食後のお茶と貴族の会話を楽しんだ。全てサリアニア侯爵姫の手の内だろう。




◆◇◇◆◇




 帝国の特使ルプス・ド・ミナリアは霧の国イルムドフの西部の町ユミルフに滞在して近隣のタルタドフの領主の噂を集めていた。


ユミルフは田舎町ではあるが、城壁に囲まれて開拓村よりは治安にも安心感がある。そのため近隣の開拓村の中核となりて行商人の出入りも多い。そんな市井の噂にタルタドフの領主であるマキト・クロホメロス卿の裏情報を求めてみたが、有益な情報は少ない。


「ド・ミナリア様。報告書にございます」

「うむ。ご苦労」


特に前領主カペルスキーの悪行に関する話が多くて、それを討伐した帝国の徴税官エルスべリア・ティレル女史の人気が高い。このままイルムドフの王都から代官が派遣されて貴族議会の支配下に入るなら、帝国の任命領主なりタルタドフの領主なりの配下の方が良いだろう、と言うのが大勢の意見である。


「…調査を続けますか?」

「クロホメロス卿の悪い噂を探せッ」


クロホメロス卿の醜聞なり不正なりを予想したのが期待に外れた。帝国への反逆の証拠でもあれば、領地の取り潰しも画策できるのだが、残念な事だ。


「はっ」

「…まったく、忌々しい英雄とやら…」


帝国の特使ルプス・ド・ミナリアはひとり語ちて思案した。




◆◇◇◆◇




僕は砲術部の練習場を訪れた。広場の向こうには、的として帆布が張られている。


「砲術の初歩として、火と水の出会い…【発砲】」


-PANF-


訓練用の砲身が湯気を吹いた。弾丸の威力は低く的には届かない。


「次に普通の砲撃ではッ、火と水と大気をもって…【砲撃】」


-BOMF-


美しい放物線を描いて、粘土の砲弾が的へ着弾し、砕けた。


「最後は、新型の砲撃呪文です。火と水と大気の捻り…【砲撃】」

「ッ!」


-BOKYUN!-


回転を掛けた砲弾と見えて、弾道は初速を増して直線に飛び、見事!……的にした帆布を打ち抜いた。


「「「 おぉぉお! 」」」

「…ざわざわ…」


観衆のどよめきが聞こえる。彩色のオレイニアの新技らしい。これだけ多彩な砲術を見せるのは彩色の異名に相応しい技量だろう。


………


模範演技を終えてオレイニアは部室で休憩した。


既にプリンは定番商品なのだが、女子には甘い物の差し入れが良かろうと、僕は特製のプリンを用意した。


「マキト先輩! あたしにもッ」

「…きゃっ、リドナス様のお姿は…」

「…マキト様。これを見てくださいぃ…」

「…私が先よぉ…」


お土産のせいか僕は女子部員たちにモテモテの中で、彩色のオレイニアが言う。


「今年の入学生は女子が多くて、砲術部もこの有様なのよ」

「ふーむ。部員が増えるのは良い事では?」


「そうでも無いのよねぇ…」

「…」


オレイニアの話を聞くと先の北部討伐で戦死した貴族の男子が多くて急遽に入学を決めた女子も多いらしい。なぜ、そうなる?


「家の存続には、相手に家柄のある男子が必要なのよッ」

「むむっ」


僕は貴族社会の一端を垣間見た気分だ。僕のモテ期は戦争の影響かっ!


「それで、下級貴族は子女に教養を付ける為にも、出会いの為にも学園は有用な訳ねッ」

「ははっ…そう言う事か…」


事情を知ると虚しく思える。それでもロマンスを求める女子は多いだろう。





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