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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二章 魔物と戦って見たこと
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016 魔物の森の住人

016 魔物の森の住人





◇ (あたしは、神鳥(かんとり)魔法の【神鳥(ゴッド)雄姿(フォーム)】で変身して…ご主人様を追った。屋敷を破壊した濁流は高台から谷川へ流れ下る。あたしは、濁流に飲まれる(マキト)ちゃんを見付けて飛び込む!…今は翡翠(カワセミ)の飛行形態だッ。さすがに…小鳥の(ちから)ではご主人様を引き上げる事も出来ず。たまたま、川で水浴びをしていた狐顔の獣人がいた。)


◇ (ちょっと! そこの狐さん! 助けて下さるかしら?……あたしは必死さを隠して優雅に助けを求めた。)


「わらわに頼み事かえ。何か美味い物はあるか?」

◇ (ご主人様なら、美味しい料理が出来るわ!)


「ほほう、それはどんな物かや?」

◇ (なら、助けなさい! あんたが見た事も無い美食を用意してあげる!)


「良かろう。約束じゃ…ふんっ!」

◇ (ぴゃあ!…狐顔の獣人は二本の尻尾でご主人様を(つか)み川岸に引き上げた。)


………


 僕は意識を失い自由を失った。濁流に呑まれて高台の斜面を下ったところまでは記憶がある。その後どういう経緯か、僕の目前には狐顔の幼女がいて僕を睨みつけていた。


「おいニンゲン、わらわに美味いものを献上せよ」

「ど、どういう訳で…」


辺りを見渡すと谷川の畔のようだ。頭上の樹々からピヨ子の鳴き声が聞こえた。


「ピヨョョヨー」

◇ (は、はぁ、はぁ…働いてお腹が空いたわ…)

「お前が美味い物を寄こすと、そのカン鳥が言うからじゃのぉ」


カン鳥…ピヨ子を見ると頭部に耳状羽毛にも見えるアホ毛があった。どちらかと言えば、ピヨ子の姿はカワセミに近いと思う。僕が水に濡れたカバンから魚の干物を取り出して渡すと、


「ピヨョー、ピヨョー」

◇ (いっただきまーす)

「わらわへの献上品なるぞ!」


ピヨ子と狐顔の幼女は餌を取り合う様に魚の干物へ喰い付いた。


「ピヨッ、ピヨー」

◇ (ご主人様。満足ぅ~)

「うむ、美味なるかな」


自身の状態と装備を確認して無事をたしかめる。僕はハッとしてアマリエの所在を尋ねた。


「もうひとり、女がいなかったか?」

「知らん…わらわは見ておらんのぉ」

◇ (そうねぇ…あの女は屋敷の中かしら…)


周りの森は深くかなり流された様子だ。


「すぐに戻らないと…」

「待て、そうはいかんの」


僕は立ち上がろうと腰を浮かせたが、何か柔らかい物に足を取られた。


「あわわ」

「お前は、わらわの飯炊きにするのじゃ!」


そのまま、狐顔の幼女は大きな二本の尻尾で僕を引き攫って行く…ヤバイ抜け出せない。フカフカの尻尾の拘束は僕の抵抗力を奪って、疲労もあってか次第に…意識が落ちた。


-Zzz-



◆◇◇◆◇



◇ (あぁー、獣人どもが(ウルサ)い…あたしは森の木立から騒ぎを見下ろしていた)


「OUR! BOF! UGAA」

「BAW! GEAU~ OAWRAA!」

「KONF」


 僕は喧騒で目覚めた。まわりを見ると豚顔のオーク男と、狼顔の男、頤鬚の老人がいた。

何やら騒がしく吠えている様だ。つと、思い付いてカバンからツバ広の帽子を取り出して被った。オル婆の形見分けに貰った古ぼけた帽子だ。


「オレ、獲物喰う、ヨコセ」

「うるさい! 豚頭がぁ 喰うたろかワレ!」

「まぁ待て…」


そこに狐顔の幼女が割って入る。


「このニンゲンは、わらわが捕らえた獲物じゃ。わらわの好きにしてもよかろ」

「オレにも、喰う、順番ヨコセ」


豚顔のオーク男が食い下がった。


「このニンゲンは、わらわの飯炊きにするのじゃ!」

「オレ、喰う!」

「ニンゲンを 森に入れるとは 穢れる!」


狼顔の男が話に噛みついた所を頤鬚の老人が宥めた。


「まぁ、待てと言うに…獲物のひとくちめはニビの物じゃが…」

「BUF!」

「がうるるる」


狼顔の男が威嚇するのを構わず、続ける。


「ニビよ、手足の一本づつも、くれてやるが良い」

「おぉ!喰う、喰う」

「うむ…」


豚顔のオーク男は涎をたらして僕をみつめる。や、止めてくれ!……僕は慌ててカバンから魚の干物を三枚づつ取り出して眼前に並べた。


「それは困る。勘弁して下さい!」

「!…」

「ッ…」


土下座して頼み込むと狐顔の幼女ニビの加勢があった。


「このニンゲンの出す食い物は、美味いぞよぉ」

「うむ、ウマイ! GUF」

「良かろう…ニンゲンの 一匹ごとき どうとでも 出来る」


危機は脱した様子だが、頤鬚の老人はニビに命じた。


「ニビよ、下僕を村に置くなら名前を付けよ!」


こうして僕は狐顔の幼女ニビの飯炊き下僕となった。



◆◇◇◆◇



 僕は魔物の森の深部にある川で魚を焼いていた。

狐顔の幼女ニビは朝の寒いうちから素っ裸で川に潜り川魚を追い回していた。自前の毛皮があるから平気か。


ニビが大漁の魚を抱えて川からあがって来た。大きな二本の尻尾が良い働きをしている。

僕は焚き火に魔力を注ぎ火力を安定させる。その一方で川魚の串焼きに魔力を通し火の通りを良くする。


「飯はまだか!」

「はい、ちょうど焼けましたよ」


獲物を山積みにしたニビは濡れた体を振るって水滴を飛ばしている。


「おぉ、美味しい!ひとくちめは狩猟者の当然の権利じからのぉ」

「…」


川魚の串焼きを両手にして可愛く頬張るニビの様子はひとくちどころの喰い付きではない。


「もぐもぐ…」

「先に、服を着てから食べて下さい」


まったく野生児の食欲には恐れ入る。


「これを食べたら森のオババの所に行くぞよ」

「はぁ?」


僕は大量の川魚を燻製にする為に、香木の薪を焚き火に追加した。

ニビの話では魔物の森の外れに(まじな)い師の婆さんが住んでいるので、そこへ行って名付けを行うそうだ。


「クロアタマとクロメどちらが良いかのぉ」

「どちらでも…」


僕は日が高くなるまで、燻製作りをして大量の川魚を捌いた。ニビは腹がくちくなりて川原の陽だまりにまどろんでいる。ピヨ子はカワセミの様に川で小魚を取っていた。


◇ (あたしが新たに開眼した神鳥(かんとり)魔法【神鳥(ゴッド)雄姿(フォーム)】は鳥の姿を変える事が出来るが、巨大化や人化は出来ないらしい…所詮は低レベルの生活魔法だ。しかし、この翡翠(カワセミ)の姿は魚取りに適しているので…猟が捗るわーぉ!)


じつに長閑な風景だ…トルメリアの町の喧騒から離れて心が安らぐ。



◆◇◇◆◇



日が西に傾く頃に魔物の森の外れにある、(まじな)い師の小屋に着いた。ニビの大きな二本の尻尾に引っ掴まれて、森を疾走するのは心臓に良くない体験だった。


「おババ様いるかい、ニビが来たぞよ!」

「ゴホッ、ニンゲンを連れてとは…非常食かのぉ?」

「ッ!」


シワだらけの老婆が咳いた。これが(まじな)い師だろうか。小屋の中は甘い花の香りがする…場違いだ。


「このニンゲンに名前を付けたいのよ」

「対価をいただこうか」

「これを…」


僕は川魚の干物を束で差し出した。老婆は咳いてから呪文を唱えた。


「ゴホッ…良かろう。名は何とするか【命名】」

「クロメよ!」


名付けが終わった後で老婆が愚痴をこぼした。


「…川魚は小骨が多くて嫌いじゃ…」

「おババ様、大丈夫よ。このニンゲンの出す飯はウマイからのぉ」

「はい、小骨は丁寧に取り除きました」


老婆は咳いてから、問い質した。


「ゴホッ…本当かね」

「じゃ、また来るわ~」

「………」


(まじな)い師の婆さんは信じていない様子だが、特製の骨抜き燻製だ。喰えば分かる。

日が暮れた魔物の森で野営する。森には集落らしきものはある様だが、寝床にはあまり拘らないらしい。

ニビは僕の手から川魚の燻製をかじる。


「ひとくちめは狩猟者の権利じからのぉ」


またそれか、話題を変える。


「婆さんの小屋に泊まっていかないのか?」

「帰れなくなるぞよ」


僕は自分の燻製を取りこぼしそうになった。


「なんだって…」

「おババ様の秘薬でトリコにされてしまうのじゃ」


鼻が曲がったような気がする。


「…」

「それよりも、この燻製はいまいちじゃの」

◇ (川魚は水気が多いから燻製にしても味はイマイチねぇ。やはり、海水に浸した方が味わいも深いわよ)


気付くとニビは川魚の燻製を悲しそうに見つめていた。


「す、すいません」

「まぁ、気にするな。わらわに良い考えがある」


ニビは悪戯を思い付いた様な顔をして微笑んだ。

◇ (狐っ子に期待しましょう~)



◆◇◇◆◇



 次の日、僕とニビは港町トルメリアにいた。僕はキツネの面を付けている。面には【誤解】の呪印が刻まれているそうだ。

僕は顔を隠す事に必要とは思えなかったが、ニビの言い付けには逆らえなかった。知人に会わずとも用件を急ぐ。


「なぁに、分かりはせんよ」

「…」


ニビはどや顔でトルメリアの町を歩く。獣の耳も尻尾も見えない。


「わらわの幻術は完璧じゃて」

「……」

◇ (この狐っ子。意外と魔法も使うのね…)


港の市場を目指して朝の大通りを行くと倉庫街に着いた。倉庫を改装したアルトレイ商会の店舗は閉鎖されていた。


「むーん。これは」

「ふん?」


ニビが鼻を効かせて、店舗の裏手にある作業場にまわると若い男が魚を干物にしていた。


「何をやっているのかね?」

「ハッ!」


僕はいつもと口調を変えて尋ねた。キツネの面のせいか声音も違って聞こえる。驚いた様子の若い男は何を誤解して思ったのか話をはじめた。


「商会長とベテランの職人が憲兵に逮捕されてから、帰って来ません…」

「それは、おかしいのじゃないか?」


僕は商会長キアヌの話し方を真似てみた。


「店で販売していた水の魔道具に問題があったとかで、取り調べを受けています」

「いつから?」


男は暗い顔で答えた。


「もう三日前になりますが…商売もままなりません」

「それは災難ですな」


作業場に吊るされた魚の干物をみる。


「それで、干物の製造と販売で食い繋ごうかと思いまして…」

「うむ、良い出来じゃないか」


仕事の出来を褒める。


「ありがとう、ございます」

「ひと通り、売って貰おうか」


男は驚いた様子だったが商人気質を発揮していた。


「はい!よろこんで」

「うむ」


思わず商談になったが、トルメリアの町に来た目的はおおかた済んだ。代金を支払い干物の束を受け取ってカバンにしまう。奥の作業場では8連結に魔改造した乾燥室が唸りをあげていた。



◆◇◇◆◇



帰る道すがらニビは上機嫌の様子で言った。


「クロメよ、ニンゲンの金を持っているとは上出来じゃのぉ」

「…」


ニビは何かを謀る様子で尋ねた。


「もっと金を手に入れて干物を買うには、どうすればよかろうか?」

「町で人間に売る物があれば、金が手に入ります」


僕はニンゲンと交易する方法を提案した。


「人族が欲しがる物よのぉ」

「ええ」


ニビは珍しく考えに沈む様子だった。その時、路地からふたりに声をかける者がいた。


「そこのふたり、止まりなさい!」

「あっ…」

「なんじゃワレ、わらわの邪魔をするのかぇ」


言いかけた僕を遮りニビが小さい体で立ちふさがった。そこには憔悴した顔のアマリエがいた。


「不穏な空気を感じるわ」

「…」

「ふん、わらわは干物を買うて帰るところぞよ」


ニビに尻尾!で口を塞がれたまま、僕はカバンから出来たての干物を取り出した。辺りに磯の香が立ち込める。

敵を前にした険しい眼差しでニビを睨んでいたアマリエの表情が、魚の干物を見て驚きに変わる。


「何ですって!」

「…」

「干物ならば、倉庫街で若い男が売っていたのじゃ」


アマリエは何かに取り憑かれた様子で倉庫街へ向かった。


「若い男……倉庫街の店……」

「ッ!…」

「待ち人に出会うが良かろうて」


あまりにも、アマリエの形相が尋常ではないので声を掛けられなかった。自身の無事を知らせたいが…彼女の身に何があったのか懸念された。


「ニビが何かやったのか?」

「なぁに、焦燥に取憑かれていたので、思考を誘導したまでよ」


ニビの能力なのか魔法なのか分からないが…僕は悪そうに微笑むニビを眺めた。


「はぁ…」

「むふふふふ」

◇ (なるほど、低レベルの暗黒魔法か…あるいは精神魔法かしら)



◆◇◇◆◇



トルメリアの町から帰る際に商人ギルドに立ち寄り三通の手紙を書き送った。


一通は水の神殿のアマリエに宛て、自身の無事を知らせる為だ。念のため、差出人は「アルトレイ商会のクロメより」とした。


二通目はマルヒダ村にいるギスタフ親方に宛て、アルトレイ商会とキアヌ商会長の状況を知らせる。


三通目はブラル山にいるチルダに宛て、商会のゴタゴタと予定通りには帰れない事を告げる。


商人ギルドでは相次いで三軒の商会が憲兵隊の強制捜査を受けて、商会長などの主だった幹部が逮捕された事で騒然としていた。ギルドの待合室でもその噂や推測などの話題で騒がしい。


マキトもギルドの受付で職員から質問をされたが、自分は商会の仕入れで町を離れていた為に事情はよく分からないと申告した。


手紙の配送は商人ギルドの通常業務のようで、村を周る行商人が小遣い稼ぎに引き受けるそうだ。





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