表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十二章 トルメリア王国の北部討伐
169/365

ep151 南部荒野の戦い3

ep151 南部荒野の戦い3





 霧の国イルムドフの軍勢は撤退を開始した。戦線を左翼から支えた精強な帝国軍がトルメリア王国の海軍艦艇からの砲撃を受けて徐々に後退した結果に、中央の革命軍が戦線の圧力に耐え切れずに防衛線が崩壊した。イルムドフの軍勢は後方へ退却して軍の再編は出来るのだろうか。


イルムドフ南部の町ソルノドフには帝国軍の駐屯地があった。トルメリア王国の諸侯軍がソルノドフの町へ迫ると、東の海域に接する土地に不安を覚えた帝国軍は駐屯地を放棄して王都の方面へ撤退した。そのおかげに無血で諸侯軍の第二陣がソルノドフの町を占拠する事となった。町の住人からすれば帝国軍も諸侯軍も大差ないと思える。


戦線崩壊となった中央の革命軍は一目散に北へ逃走して王都の手前にある古い城塞へ立て籠もった。万が一の敗走時の訓示が役に立ってしまった。トルメリア王国の諸侯軍の本隊は革命軍を追撃して南部地域の農村へ侵入した。僕らはイルムドフ南部の山地へ撤退したが、損害を受けて機動に遅れた諸侯軍の第一陣は荒野に取り残されている。僕は監視の獣人兵に尋ねた。


「トルメリア軍の様子は?」

「GFU ヤツら一群を荒野に残して、本隊は王都の方へ 追撃に向かう様子です」


山地の南端に防衛拠点を築き、監視所を高台に設けた。


「引き続き監視を頼むよ」

「ハッ」


獣人兵の男は監視のため高台へ駆けて行く。


「サリア様、作戦の準備は整いました」

「うむ、私の予想通りの展開です。作戦指示書はここに」


随分と手回しの良い様子だが、河トロルには人族の文字は読めないだろう。


「リドナス!」

「はい。(ぬし)様♪」


伝令の役目をリドナスに与えると嬉々として拠点から出掛けた。



◆◇◇◆◇



 ソルノドフの漁港を占拠したトルメリア王国の諸侯軍の第二陣は休息のあと進軍を開始した。港にはトルメリア王国の軍船が入港する手筈となっており、久しぶりの上陸に海軍提督も喜ぶだろう。諸侯軍の第二陣は意気揚々と進軍する。


「イルムドフの王都は目の前だッ、帝国のヤツらを叩き出せ!」

「「「 おおぅ! 」」」


帝国軍と対峙していた諸侯軍の第二陣の士気は高い。


「この調子なら、王都の制圧も容易だろう。本隊へ伝令を出せッ」

「はっ」


王都への総攻撃は目前の様子だ。



◆◇◇◆◇



遥かに前線から離れた湿原を東西に流れる大河の河口付近には、トルメリア王国の諸侯軍の補給所が置かれていた。既に補給物資も残りは少なく前線への輸送も滞りは無い。そんな弛緩した空気の中で守備隊は警備を続けていた。


「ふわあぁ~、前線に出て手柄を立てたいよ」

「俺ら損な役回りだよなッ」


同僚の男が血を吹いた!


「ぐあっ!」

「て、敵襲ッ……」


ナイフが見張りの男の喉を切り裂き、警告の叫びは中断された。


川口族の戦士たちは大河を泳ぎ河口付近から上陸して補給所を襲撃した。それは補給所の物資が目当てと言うよりも、河口の淡水と海水が交わる汽水域に集まる魚介類を求めての行動だった。


補給所も防衛陣地も川口族に襲撃されて伝令の兵士も殲滅されたが、空舟となった商船がトルメリア王国の本国へ戻り、再び補給任務に出港した事は川口族の知る由も無かった。



◆◇◇◆◇



 王都イルムドフの目前にある古城は年代物のくせに頑強で厄介な代物だった。南の平野部から王都に入るには、東から湾曲した入り江と西に張り出した山岳部との間にある街道を北上するより他に道は無い。その街道を睨む高台に古城があり革命軍が立て籠もり、城外へ布陣した帝国軍がトルメリア王国の諸侯軍の動きを牽制していた。


兵数を押して古城を攻めれば帝国軍に側面を突かれる。帝国軍に向き合えば革命軍が古城を出陣して追い縋るだろう。どちらかの軍勢を壊滅できれば王都への侵攻も果たせる。


「しかし、遅いッ。伝令はまだか?」

「ソルノドフの港へ軍船が入港した、との報告はありません」


下士官の報告に司令部は焦れていた。諸侯軍の将校と見える男が怒声を発する。


「むっ、カイゼル提督はどこで冬眠しておるかッ!」

「補給の商船の護衛へ向かったのかも……知れません」


参謀士官の美丈夫ストックス大佐の応えにも、将校の怒りは収まらない。


「そんな報告も、命令も出していないッ!」

「…」


諸侯軍の総指揮官である老将モービデルが決断した。


「まぁ、待つより他に手は無かろうて」

「ハッ」


両軍は膠着状態にあった。



◆◇◇◆◇



 補給所を出立した荷駄と輜重隊は報復とばかりに鼠族の襲撃を受けた。護衛の兵士も良く役目を果たしたが鼠族の襲撃が執拗にあり、荒野に唯一留まったトルメリア王国の諸侯軍の第一陣へ救援を求めた。そのため、諸侯軍の第一陣の騎兵隊は鼠狩りに駆り出されている。


僕らは密かに河トロルの戦士と子供も動員して湿原の稲刈りを進めた。湿原に原生する稲穂は多彩にあり、来年の試験栽培が期待されている。収穫は防衛拠点と後方の山岳砦へ運ばれる。山岳部の砦は元々は山賊が巣食う難所であったが、山賊退治に制圧してからは前線への補給ルートとして役立っている。


神鳥(かんとり)のピヨ子が飛来して告げる。


「ピヨッ、ピヨー」


僕は稲穂の収穫を見て決断した。


「次の作戦を決行するッ」

「「 おう! 」」


反撃作戦が始まった。


………


軽装の盾と剣を装備した歩兵が湿原の陣地へ突撃する。トルメリア王国の諸侯軍の第一陣は湿原に簡易な陣地を設置していた。発見された歩兵に弓矢が放たれるが、手にした盾は軽く矢を弾く。


タルタドフから南下した義勇兵が戦場へ到着したのだ。義勇兵は人数こそ少ないが、タルタドフの守備兵とユミルフの町の守備兵を纏めて訓練度は高い。


「ヤツら、いつの間に!?」


遅れて岩オーガ族の投石が陣地へ降り注いで被害を発生する。岩オーガ族の突撃速度は遅くても、頑強で岩石状の体表を持ち軟弱な矢刃は通らない。


-UBOOOF!-


岩オーガ族が突進して陣地の柵を粉砕する。白兵戦に大ショベルを振り回すのは岩オーガのハボハボの姿だろう。大ショベルを鈍器として敵兵の頭を砕き血飛沫を上げている。


「今こそ、ご主人様に我らの力を示す時よッ」

「にゃーん」


武装した獣人と戦闘メイドのスーンシアを含めて結成されたメイド隊が参戦した。


「騎兵隊ぃ、突撃せよ!」

「「 ハイっ、おぉ 」」


ユミルフの町で鍛えられた騎兵隊が湿原を駆け抜けて陣地の右手から突入した。騎兵隊長も元はイルムドフの騎兵を指揮していた男だ。横からの攻撃を受けて防衛陣地は混乱した。既に戦闘意欲に乏しい獣人兵は逃亡を始めた。


乱戦を突破したユミルフの騎兵隊はトルメリア王国の諸侯軍の第一陣を追い散らして追撃戦に移行した。


ここに諸侯軍の第一陣は崩壊した。



◆◇◇◆◇



 凶報はトルメリア王国の諸侯軍の総司令部にも齎された。


「第一陣が壊滅……いや、逃走だと!?」

「間違いありません」


参謀士官のストックス大佐は苦渋を舐めていた。諸侯軍の第一陣は王国のドラ息子にして血気に逸る若手が多い。劣勢の挽回は困難だろう。


「艦隊との連絡は?」

「未だ、通信は途絶して伝令も戻りません」


海上からの砲撃による援護も期待できない。それは最悪の事態を予感させる。


「これは、補給の商船も危うい……」

「ッ!」


本隊は早急に援軍を送り補給線を立て直す必要に迫られた。




--


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ