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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十二章 トルメリア王国の北部討伐
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ep149 南部荒野の戦い

ep149 南部荒野の戦い





 嵐が通過して晴れ間が戻った荒野と湿原は、所々に増水して水場を残したが、河トロルの奇襲を警戒したトルメリア王国の諸侯軍には油断が無かった。


河口部を占拠して補給所を設置した軍勢は後続の渡河を待ってから進軍を開始した。大河の南に潜伏した沼諸族からの連絡では空城となった陣地を占拠したそうで、対峙していたハズの諸侯軍は川沿いに下って転進したらしい。


渡河作戦はこの地では無くて河口付近を攻略したとの事だ。河トロルたちは決戦の意欲を削がれて消沈していた。


挿絵(By みてみん)


河トロルの部族のうち戦闘意欲の高い川口族は河口部にある諸侯軍の陣地を偵察して、あまりにも人族の軍勢の多さに驚き襲撃を躊躇した。嵐が過ぎて早々に日和見を決めた川中族は大河の畔で待機している。


荒野と湿原の境目にある微高地にはイルムドフの斥候部隊が派遣されて来たらしい。河口付近から敗走した鼠族の動向も気ががりに思う。


「して、帝国軍の動きは?」

「ソルノドフの駐屯地を出て、荒野を進軍中との報告です」


サリアニア侯爵姫の問いには、副官よろしく女騎士のジュリアが応えた。


「であれば、戦場はこの辺りか……」

「ふむ」


地図上の一点見詰めるサリアニアが宣言した。


「まだ、間に合う。兵力を集中させよッ」

「はい!」


僕らは荒野を決戦場とするべく動き出した。




◆◇◇◆◇




 霧の国イルムドフの軍勢は貴族議会が発足したものの、未だに革命軍と呼ばれていた。内情は元革命軍の戦士と周辺の町から集めた防衛隊と傭兵団の混成部隊であり、それでもトルメリア王国の諸侯軍に対抗するべく軍勢を集めていた。


さらにイルムドフの南部の町ソルノドフに駐屯する帝国軍へ救援を依頼しても、トルメリア王国の諸侯軍の全軍には及ばず不利な戦いが予想されていた。先に荒野へ派遣した斥候部隊からも諸侯軍の規模が知らされている。


イルムドフの総司令部では軍務卿のため息がこぼれた。


「ふう。なんとか軍勢を間に合わせましたが、現場の状況は?」

「我が軍は未だ敵軍に遭遇せず、ただ南進するのみ。と」


貴族議会は革命軍の報告を待つしか無かった。


「あとは、現場の指揮官の采配ですかな」

「我が軍の人材不足は、危機的な状況にある」


軍の人材も不足ながら、トルメリア王国との外交と交渉をするにも人材に欠けている。ここ数年の帝国の支配は我が祖国に重大な危機を招いたらしい。


「いまさら嘆いても仕方の無い事です。後身の教育も現場の務めですよ」

「うむぅ……」


貴族議会は今後の人材育成にも話が及んだが、真剣に検討する者は無かった。


明日にも決戦が始まるのだから……




◆◇◇◆◇




 昼夜を駆けて両軍はイルムドフ南部の荒野に布陣した。本陣となる革命軍の正面にはトルメリア王国の諸侯軍の本隊が布陣して対峙し、その東の海岸には帝国軍と諸侯軍の第二陣が睨み合う。


夜明けと伴に戦端を開いた両軍は正面から激突した。ここまで遠征して疲れもあるだろう諸侯軍と、急な招集に強行軍を重ねて到着した革命軍は士気にも疲労にも大差は無かった。比較的この土地に近い帝国軍の将兵のみが数の劣勢にも劣らず戦闘を継続している。…こんな所で帝国の強兵を見るとは。


単独で斥候任務に従事していたミラは枯れ木の擬態を解除して移動する。


「すぐに知らせなくちゃ!」


荒野を疾走するギルド職員ミラの姿があった。


………


 ここを決戦場と決めた両軍は優劣も無く一進一退の攻防を見せた。ここまで魔境と呼ばれる湖沼地帯から湿原も大河も渡り、無駄に兵力を損失する事無く慎重に討伐軍を運んで来た。その手腕は高く評価されるが、それも勝利があればこそだ。


魔境に住まう河トロルと湖氏族も沼諸族も易々と人族の軍勢に魔境の侵攻を許して既に名折れであるが、河トロルたちにも名誉や汚名の概念があるのか分からない。あるとすれぱ、狩場を侵されてムザムザと収穫の機会を奪われた不満があるだろう。増水した大河と海面が交わる汽水域は大漁の魚介類と共に失われた。いまこそ一族の存亡の危機となったのである。


初戦で傷ついた諸侯軍の第一陣は再編されて、足の遅い守備兵を補給所に残し身軽となりて両軍の西側を迂回した。革命軍の側面を攻撃して戦の趨勢を決める。


「右側面、西側から敵襲です!」

「なにっ、斥候部隊はどうした?」


革命軍の本陣へ悪い知らせがあった。


「報告はありません」

「予備隊を、右側面へ展開せよッ」


初戦から予備兵力を使うとは、この先も苦戦が思いやられる。


「はっ!」


伝令が後方へ駆け出してゆく。


………


 戦場の西側に爆発と煙が見えた。西側から革命軍の側面へと迫ったトルメリア王国の諸侯軍の第一陣がさらに外側から奇襲を受けた。爆発と煙に紛れて小柄な鼠族が切り込む。


「ぐあっ!」

「魔獣だッ……」


前後から挟撃の形とされた諸侯軍の第一陣は混乱にありつつも反抗の姿勢を見せた。高が鼠族の襲撃だし数も少ない。少数の鼠族は奇襲してひと当てすると西へ逃走を始めた。


「くそっ、鼠どもめッ駆逐してくれるわ!」


諸侯軍の第一陣の指揮官は足の速い部隊を選別して後方の鼠狩りを命じた。既に前方はイルムドフの軍の側面を攻撃している。


「怯むなッ、追えー」

「おぉぉ」


鼠族は湿原の蘆よしの草場の陰を利用して逃走した。人族の騎兵が追い駆けてくる。


「そこだッ」


-HIHYNN!-


罠があった!


軍馬が嘶いて急停止するも湿地に足を滑らせて転倒した。


「ずべらっ……」


河トロルの戦士たちが泥沼より立ち上がり、軍馬の脚足を切り付ける。落馬した騎兵は即座に止めを刺された。


「コロちぃ!」


-WAOOON-


魔獣ガルムに騎獣した鬼人の少女ギンナが現われた。鼠族の集団を引き連れている。


落馬を免れて生き残った騎兵たちには、撤退するしか生きる方法が無かった。


………


 その頃、諸侯軍の第一陣の側面から砲弾が降り注いだ。イルムドフ軍の援軍が現われたらしく、既に西側は戦線の維持も難しい。


「ちっ、撤退だッ」

「はっ!」


撤退の笛が鳴らされてトルメリア王国の諸侯軍は次第に軍勢を引いた。革命軍は追撃をする余力も無くて立ち止まり。帝国軍は追撃の危険を避けて撤収した。


僕らは岩オーガ族の援軍を引き連れて、イルムドフの革命軍へ合流した。疲れた様子の指揮官が出迎える。


「クロホメロス卿。ご助力に感謝いたします」

「いえ、お構いなく」


異様な風体の岩オーガの姿におっかなビックリな様子だが、


「この者たちは……」

「タルタドフの開拓事業に協力している者たちです」


革命軍の指揮官が尋ねるのに、僕は快活に応えた。


「ほほう。異民族も使いこなすとは、流石の英雄殿ですなッ」

「…それよりも、戦況は?」


僕は岩オーガ族の評価を置いて尋ねるが、戦況は不利と見えた。




◆◇◇◆◇




 トルメリア王国の諸侯軍では奇妙な怪談が囁かれていた。


「白い騎士の幽霊(ゴースト)を見ぃた者は、次の戦いで戦死するべぇ~」

「馬っ鹿なぁ」


全体は諸侯軍が優勢ながらも、諸侯軍の第一陣は手痛い損害を受けていた。


「ほんに、騎兵隊長は戦死したんべぇ」

幽霊(ゴースト)なら、退治出来らぁ」


そんな魔物がいるならば、軍勢で取り囲めば良いだろう。


「それが、無理でよぉ」

「…」


退治しようにも幽霊(ゴースト)は沼地を飛んで消えると言う。


………


また別の目撃者が現われた。白い騎士の幽霊(ゴースト)が夜中に稲刈りをすると言う。


「沼地に生えた野生の稲を刈っている、幽霊(ゴースト)を見ぃただよ」

「はっ、馬鹿バカしい」


幽霊(ゴースト)が米を食うとは思えない。


「本当だって、おらの田舎でも野生の稲は珍しいだよ」

「それが、なぜ、稲刈りを?」


何の因果か未練ある魂なのか。


「死んだ騎士様も、故郷の稲刈りが気になるだよッ」

「確かに、そろそろ稲刈りの時期だなぁ」


動員された兵士たちは故郷の田畑に思いを馳せる。


「ほんだょ…」


不安の種が蔓延している様子だ。





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