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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十二章 トルメリア王国の北部討伐
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ep147 湖沼地帯の攻防3

ep147 湖沼地帯の攻防3





 タルタドフの開拓村に新しく建設した屋敷を訪問したのは、サリアニア・シュペルタン侯爵姫であった。お忍び故か二人の伴を連れ冒険者の風体だが、貴族のドレス姿よりもこちらの方が馴染み易い。


「クロホメロス卿よ、世話になる。楽にせよ」

「はっ……って!?」


生まれの高貴さ故か、突然の訪問のくせに偉そうな態度で逗留を申し渡した。


「お嬢様がご滞在なさいます。粗相の無き様に取り計らって下さい」

「うーむ」


お付きのメイドは冷徹な態度で協力を申し出る。


「私どもに出来る事があれば、ご協力したします」

「それは、領地の問題でも?……」


僕の疑問にお付きの女騎士が応えた。


「ええ、姫様が差配したします」

「!…」


それは帝国の侯爵家から助力が得られると言う事だろうか。僕は現在のタルタドフの領地を悩ませる問題を打ち明けた。南に広がる湿原の地図を広げる。


<308114|24918>


これまでのトルメリア王国の軍勢の動きを僕はサリアニア侯爵姫へ説明した。初戦に敗北した湖氏族は大湖(おおみず)に籠城しているが、守備兵に拠点を押さえられている。河トロルの集落は不利を悟って早々に大河を渡り避難した。いずれは王国軍もこの東西に蛇行して流れる大河を渡るだろう。


「現在は沼諸族が王国軍と接触して、敗走中との情報です」

「ふむ。すると王国軍は、この辺りか……」


僕は藁をも掴む思いで尋ねた。


「何か、良い手はありますか?」

「ここに、軍勢を配置するのが良かろう」


サリアニア侯爵姫が指したのは地図の外側だった。




◆◇◇◆◇




 トルメリア王国の諸侯軍は沼地に潜む魔物も河トロルも駆逐して湿原を侵攻していた。大盾を構えた兵士に守られた魔法使いが呪文を唱える。


「我が手に集え…【水球】」


-ZMOMOMO-


沼地の泥水を根こそぎにして泥混じりに巨大な水球を形成した。


「…【分別】【清浄】!」


泥水から不純物として沼の生物と堆積物が吐き出された。巨大な(なまず)か蛙と見える魔物を槍兵が突いて仕留める。たとえ敵が沼地に潜んでいても丸裸にされるだろう。


「アドナリス。お前のバカな魔力が役に立つとはッ驚きだ!」

「うるせぇ!」


馬上から声をかけたのは貴族の士官か。この水の魔法使いが王立魔法学院の学生と知る者は少ない。


諸侯軍の第二陣は槍兵と盾兵を組み合わせて守りながら、確実に湿原の制圧範囲を広げていた。水の魔法使いも動員した探索は沼諸族の生息範囲を侵して行った。




◆◇◇◆◇




 王国軍の野営地に白銀の鎧を付けた女騎士が現われた。…これは、ヤバイやつだ!


「そこの者、私を司令部へ案内なさいッ」

「はっ!」


若い歩哨が敬礼して、その貴族の士官と見える白銀の女騎士を案内した。


「あなた、背中に迷いが付いていますわ」

「そ、それは……」


自分の迷いを見透かされて返答に困る。


「後に残した家族への思いか、……約束を交わした恋人かしら?」

「自分は、(いくさ)が終わったら、結婚するつもりですッ」


その貴族のご令嬢と見える白銀の騎士は甘い花の香りがして、故郷に残した恋人の姿が思い出された。


「そう、活躍して、手柄を立てて、無事に帰れると良いですね」

「はい!」


世間話をしていたら司令部の天幕へ着いた。


「リナリア・フジストル様をご案内いたしました」

「何っ…」


この白銀の騎士は諸侯軍でも噂となっているフジストル家のご令嬢だ。特徴的な人相と風体に間違は無い。しかし、ご令嬢の姿は忽然と消えたか見当たらない。


「お前は、寝ぼけておるのかッ!」

「ひっ」


当直の士官に怒鳴られて若い歩哨は身を竦ませた。…おかしい何処に消えたのか。


またひとつ怪談の種が増えた。




◆◇◇◆◇




 トルメリア王国の軍船は補給所を離れて沖合に停泊していた。付近の海岸線は岩礁が多くて航海に危険な難所としても知られている。


「提督、間に合いますかね?」

「風向きに問題はなかろう、余裕で到着するさ」


岩礁を避けて沖合を廻り北へ向かう航路に風向きも良い。


「早く着いても、恩賞はありませんし…」

「まったく、貴族のカメ息子の世話も楽じゃねーよ」


波の高さにも今回の任務が容易な事は揺らがない。


「わっははは」

「がっははは」


強面のカイゼル提督は口髭を揺らして豪快に笑った。


珍しく機嫌が良いらしい。




◆◇◇◆◇




 湿原の沼諸族は自慢の罠も放棄して北へ敗走した。追手は諸侯軍の第二陣との情報だが既に軍勢の役には立たない。


大河の畔に集落を構えていた川中族と川口族は抵抗の無駄を悟って村を放棄し、大河を渡りて対岸に潜伏した。諸侯軍が大河を渡河すれば中程で襲撃できる構えだ。そうなれば、地理の有利もあって戦線を逆転できるだろう。


河トロル族は川中族と川口族とも連絡を取り合って反撃に備えた。


………


トルメリア王国の諸侯軍の総司令部ではウルバルト・モービデル・デハント侯爵が浮かぬ顔をしていた。参謀と見える美丈夫が指令を発する。


「作戦通りだ。第二陣を押し上げて河川の岸辺に守備陣地を張れッ」

「はっ!」


今回の作戦参謀は伯爵家の二男坊だと言うが、顔だけでなく頭も良いらしい。これまでの作戦立案と指揮の手並みは上出来と見えた。


「本陣はこのまま東へ進む。補給所へ伝令を」

「はい」


補給所の設置と物資の輸送を海軍へ依頼したのは画期的な作戦と言える。兵站の輸送は遠征軍の重要な課題だ。


「第一陣は守備陣地を出て、魔物の巣を焼き払え!」

「ハッ」


次々と指令書を持って伝令が駆け出てゆく。


「モービデル将軍閣下。次の作戦への裁可をお願い致します」

「ふむっ」


裁可も何もこれまで順調な作戦経過にケチを付ける理由は無い。それにしても古傷の左膝が痛む。


「ありがとうございます」

「ストックス伯爵子よ。嵐が来るぞッ」


老将軍が若輩者の油断を窘めると見たか、若き作戦参謀は端正な顔を引き締めて敬礼を返した。…宮廷の女官が騒ぐのも頷ける。


「それは、留意いたします!」

「うむ」


重々しく言うが老将軍に出る幕は無いだろう。




◆◇◇◆◇




 遠方からの投射と見えて、夕闇に火球が長々と放たれた。


「駆け上がれ…【火球】」

「吹きすさぶ…【突風】」


次々と放たれた火球は葦よしを編んだと見える草庵に着弾して燃やした。突風が火勢を増して燃え広がる。


「ちっ、こんな役目は、クソったれだぜッ」

「まぁ、これも報酬の内さねぇ」


湖氏族の集落へ火を放ったのは炎の傭兵団の男たちだ。以前に帝国からの侵攻では役目を放棄して戦線を離脱したため、炎の傭兵団は後方の守備を命じられていた。傭兵の契約が継続しているだけでも奇跡と思える。どんな政治取引があったのか一介の傭兵団には知る由も無い。


「…」

「さぁ、カエルの丸焼きを見る前に撤収するさねッ」


炎の傭兵団は作戦を終えて帰還した。





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