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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十二章 トルメリア王国の北部討伐
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ep145 湖沼地帯の攻防

ep145 湖沼地帯の攻防





 トルメリア王国の北辺の町ムスカは開拓村から発展した港町で、漁業と農業を主な産業とする田舎町だ。その町を数万の王国諸侯軍が通過してゆく。王国はトルメリア王を最高権力者として地方の有力者と豪族を集めた連合国家の様相に各々を貴族として優遇していた。そのため、王国軍の大部分は地方の諸侯が率いる手勢と傭兵からなる混成部隊である。


それでも王国軍の総指揮官たるウルバルト・モービデル・デハント侯爵は苦悩していた。トルメリア王の真意としては、この北部討伐の遠征には反対であったが諸侯貴族の強硬論と北の大国アアルルノルドへの不満を押さえる事が出来ずに出兵となった。そんな司令部の苦悩とは別に諸侯軍は血気盛んな者が多かった。末端の兵士にとって(いくさ)は手柄を立てて立身出世の機会だ。


そんな血気盛んな若者にリナリア・フジストルがいた。末端の貴族フジストル騎士家の三女で可憐な花に似た名前とは似つかわしくない苛烈な性格をしていた。馬上から白銀の鎧を着けたリナリアが号令する。


「魔物を殲滅せよッ!」

「「 おおぅ 」」


王国諸侯軍の先遣隊は港町ムスカを出発して海岸沿いに進み荒野を侵攻していた。荒野で遭遇した魔物を討伐しているらしく、槍兵たちが魔物を仕留めた。


白銀の騎士リナリアの苛烈な性格は魔物の討伐に発揮されて兵の指揮には容赦がない。先遣隊の役割は未開地の斥候調査と本隊が進軍する妨げとなる障害の排除だから、その成果に不足は無かった。


しかし、騎馬を進めるリナリアの斥候部隊が湖沼地帯に入った端で様相が変わった。


「ぐあっ!」

「襲撃だッ……」


斥候の数人が沼地から現れた水棲の獣人の襲撃を受けた。リナリアの叱咤が飛ぶ。


「ひるむなッ、弓兵、援護せよ!」

「ッ!」


獣人に向けて矢を放つが、泥水に潜られて姿を見失う。初戦の奇襲に白銀の騎士リナリアは歯噛みしたが、すぐに対応策を命じた。


「ぐぬぬっ……獣人兵を押し出せッ!」

「はっ」


トルメリア王国では獣人の地位が低く獣人兵の多くは奴隷として扱われる。そのため粗末な槍を持たせた獣人兵を先頭に並べて沼地の探索を命じた。彼ら獣人の鋭敏な感覚を駆使して怪しげな泥沼を槍で突き、水棲の魔物を炙り出す対応策らしい。


「GWA!」


それでも地の利か何人もの獣人兵が奇襲を受けた。


「構え、撃てッ!」

「ッ!」


予めに用意していた弓矢が放たれて水棲の獣人へ手傷を負わせる。


「槍兵突撃ッ!」

「「 おおぅ 」」


直営に控えていた槍兵たちが槍を並べて突撃すると、動きの鈍った水棲の獣人を打倒した。遺体を検分すると河川に生息する河トロルと見える。


………


沼地では何度が泥に塗れた河トロルの奇襲を受けたが、獣人兵の損失のみで先遣隊の被害は少ない。予定通りの戦果と言える。


沼地の間にわずかな草地があった。何度目かの奇襲に失敗した河トロルが徒歩で弓矢から逃げている。


「賊を討伐しろッ、我に続けぇ~」

「「 おおぅ! 」」


白銀の騎士リナリアは騎馬を駆って河トロルの背後へ突撃した。草地を駆けて数人の河トロルを馬蹄に蹂躙する。遅れて槍兵の突撃と疲れた獣人兵の突撃が見えた。


「殲滅せよッ!」

「ッ!」


最早、弓兵に出番は無くて徒歩の槍兵と傭兵の狩場だ。リナリアは騎馬を駆って再度の突撃を慣行した。


「なっ!」


突然に愛馬が足を取られて転倒した。突撃の勢いのまま投げ出されたリナリアは沼地に落ちた。


一斉に襲い掛かる河トロルの戦士たちは白銀の騎士リナリアを泥沼へ沈めた。


それでも王国軍の優勢に揺るぎは無かった。




◆◇◇◆◇




 僕は河トロルの避難所に駆け付けた。避難所では傷ついた河トロルの戦士たちが手当てを受けている。


「ビビ、傷の手当てを頼む」

「はい。マキトさん!」


ビビは魔女っ娘の姿で薬草を配り、傷の深い河トロルの治療を手伝った。


「リドナス。戦闘の様子はどうだ?」

「はい。(ぬし)様……湖氏族の戦士たちは 大湖(おおみず)に 押し込まれた様子デス♪」


湖沼地帯には河トロルの氏族が住んでおり、いくつかの集落に分かれて暮らしている。その一派に大湖(おおみず)と呼ばれる水面を中心とした集落があった。僕は湖沼地帯の大まかな地図を描いて状況を確認した。リドナスに聞いて周辺の氏族と集落を地図に書き込む。


挿絵(By みてみん)


魔境の南部はトルメリア王国の開拓地に接しており河トロルの居留地に近いが人族との交流は無い。今までは沼地に侵入する開拓民を河トロルの戦士たちが襲い撃退していた。その状況はトルメリア王国の諸侯軍によって覆された。


既に諸侯軍の斥候と先遣隊が湖氏族の領域に踏み込み、沼地で戦闘があったとの事だ。湖氏族の戦士たちが大湖(おおみず)に撤退した事を見ると軍勢の侵攻は本格的と思える。トルメリア王国の北辺の町ムスカから北北西へ進むと開拓村があり魔境の大河を渡るとタルタドフへ至る。しかし、諸侯軍は海岸沿いに北東の進路を進んでいた。…おそらく本体は海岸付近か。


湖氏族の斥候が目撃したという外洋船の動きも気になる。


(ぬし)様、我レラガ 女子供の 守りを頼む♪」

「ふむ……」


青い紋様のある湖氏族の使者が貢物として白銀の鎧を捧げた。人族の貴族が付ける装飾のある品物だ。避難所で彼らの女子供を保護するのは(やぶさ)かではない。


「良かろう。その鎧は、どこで手に入れたか?」

「我レラガ、戦士の…」


使者の話では人族の先遣隊から鹵獲した品物と言う事で、ちなみに鎧の主は戦士たちが食ったらしい。僕は湖氏族の女子供の保護を約束して今後の展開を予想した。


大湖(おおみず)に潜伏した湖氏族の戦士たちは簡単に負けないだろうが、トルメリア王国の軍勢は大湖(おおみず)を迂回して進むだろう。北上すればリドナスが所属する河トロルの集落があり、東に進めば沼諸族の居留地である。


どちらにしろ迎撃する兵力は少ない。




◆◇◇◆◇




 トルメリア王国の軍船は補給物資を満載した商船を護衛して海岸沿いを進み、湖沼地帯に比較的マシな草地を発見した。草地とは言えども湿地に伸びた葦よしの群生地なのだが泥沼よりは良いと思える。


「よーし。防衛陣地の構築が完了したら、物資を陸揚げしろッ」

「はっ!」


既に諸侯軍とは作戦概要に合意しており、当初の計画通りに海岸線に沿って補給所の建設が行われていた。軍船から上陸した工兵たちが防衛陣地を建設している。周辺の魔物を掃討した軍勢が次々に集結するだろう。


「王国のドラ息子にも、飯の準備をさせろッ」

「ははっ」


初戦はトルメリア王国の多勢になす術も無くて荒野は蹂躙された。




◆◇◇◆◇




 僕はタルタドフの南にある開拓村へ帰還した。村長として領主としても領地防衛の準備をするか、住民避難の手配をするか悩ましい所だ。


開拓村で試験栽培している稲穂は品種別に分けて栽培しているが、受粉して雑種化する物もあだろう。河トロルたちが西側の沼地に撒いた赤い米は赤い稲穂を付け始めている。今年の収穫が楽しみだ。


村の西側へ掘った用水路には河トロルの草庵が立ち並び、湯屋も貸家も繁盛している。人族の他にも利用者が絶えない様子だ。緊急事態となれば避難民の収容所に使えるだろう。


南北を貫く中央通りには商店も充実して武器や防具も自給できるが、(いくさ)の規模では対応が出来ない。町の自警団を兵士とするのも心許ないものだ。…武装の強化も検討しよう。


僕らが暮らす屋敷は増築されて二階は物見櫓の機能もある。普段は役職者とメイドが管理して整えられている。既に従業員を束ねる氷の魔女メルティナが現われて報告する。


「イルムドフの王都とユミルフの町には通知を出したわ」

「ご苦労様っ」


イルムドフの議会代表とユミルフの領主代行には書簡でトルメリア王国の侵攻について知らせた。今頃は大騒ぎして対策を検討しているだろう。


「ソルノドフの軍監様には、知らせなくても良いのかしら……」

「仮にも帝国軍なら、すでに察知しているさ」


イルムドフの南部の町ソルノドフには帝国軍の駐屯地があり軍勢が置かれている。その責任者は軍監と呼ばれるトゥーリマン少佐だ。


「そうね。村人の避難勧告は、どうするの?」

「それが悩みの種だねぇ……」


まだ、慌てる時期ではないが、早めに事態を見極めて対策したい。


「あら、オーロラの姿が見えないけれど」

「避難所の手伝いに置いて来た」


白い服の少女オーロラは虚弱と見えたが、避難所では良く働いている。


「へぇ、あの娘……役に立つのかしら?」

「頑張っていると思うよ」


僕はタルタドフの領主としても仕事は多い。





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