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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十二章 トルメリア王国の北部討伐
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ep144 山オーガ族の特産品

ep144 山オーガ族の特産品





 結局に白い服の少女オーロラの素性を知る者は無かった。街道に現われる盗賊の噂は無数にあり参考とならない。貴族のお嬢様と思えるオーロラには既に両親も無く身を預ける先も無くて、彼女が所有する移動式の小屋と家財の全てを賭して僕に保護を求めた。他に妙案も無く、僕はオーロラを背負子に乗せて山オーガ賊の谷を訪れた。


背負子に乗せてたオーロラは驚くほどに軽くて幽霊を乗せた気分だが、彼女は手足も実体もある身体だ。その身の上には貴族の事情もありそうだが、移動式の小屋に乗り季節に応じて居留地を変えるのは遊牧民の生活様式と思える。今年は北軍バクタノルドと南軍ゲフルノルドとの紛争が早くに勃発して避難生活も夏より以前から開始されていると言う。両国の紛争の原因は知った事ではないが、オーロラが賊に襲われたのは夏前だろう。


背負子の上でうつらうつらする白い服の少女オーロラを乗せて山道を登ると、山オーガ賊の谷に着いた。僕は案内人に銀貨を手渡す。


「ありがとう」

「ききき、気を付けなされ」


谷の入口には深い霧が立ち込めて旅人を惑わせるのだが、案内人の先導で難なく来れた。最近は山オーガ賊の集落を訪れる行商人が増えて案内人の仕事が忙しいらしい。


案内人の仕事は危険人物を谷に入れない為の衛兵と、関税の役割を兼ねていた。


「英雄様、よくぞお越し下さいました」

「どーも。お世話になります」


山オーガ族の長老が出迎えた。この谷の山オーガ族とはアアルルノルド帝国との交渉の仲介をして以来の交流がある。


「村の特産品でございます」

「おおっ」


この集落では玉石の生産が盛んで、帝国領へ玉石を輸出して稼ぎを得ている。昔から山オーガ族の玉石として有名なのだが、それを宝飾品に加工して輸出する事も始めている。こうして加工された玉石を見ると鬼人の職人は手先が器用と見える。


宝飾品にする為の金属素材は南西の山を越えて、失われた山の民から購入している。これも僕の知己を通しての口利きだ。加工品は帝国領だけでなく他国へも輸出して外貨を稼ぐ事ができた。山オーガ族の税収入も上向き集落は明るさを取り戻した様子だ。


「ファガンヌの姿を見ていないか?」

「はて……」


山オーガ族の長老に尋ねたが、ここひと月は姿を見せないと言う。僕がいくつかの帰還ルートから山オーガ族の谷を選んだのは、ファガンヌの帰還ルートと重なる為だ。タルタドフの開拓村でも氷雪山岳を越えて山オーガ族の谷へ飛行するグリフォン姿のファガンヌが目撃されていた。なにしろ、山オーガ族の谷の水源にはファガンヌが好む名水が湧いているのだから、給水所か酒精の補給として立ち寄るだろう。


残念ながらファガンヌの帰還は無かったが、ひと足先に懐かしい顔と対面した。


「英雄さまぁ~」

「ギンナ。……元気そうだねッ」


鬼人の少女ギンナは魔獣ガルムの仔に乗って駆け付けた。すっかりギンナの騎獣とされたコロは魔獣とは思えない従順ぶりだろう。ひとしきりギンナの銀髪を撫でて堪能していると冷気を纏った女が現われた。


氷の魔女メルティナはギンナと伴にコロに騎乗していたが、黒いドレスを着て……顔を合わせ辛い。冷気を発したメルティナお嬢様が言う。


「マキト様。この女は何ですか!?」

「事情があって、保護した……」


「保護ですって! ミーナは何をしていたのかしらッ」

「…」


びしっと乗馬鞭を鳴らすのは怖いから止めて下さいお嬢様。かつてのメルティナは氷の芸術家を名乗った事もあり、氷の彫刻には造詣がある。その知識と腕前を生かして鬼人の職人へ宝飾品の加工と芸術性を指導していた。


今の問題にしているのは、白い服の少女オーロラの素性だろう。僕は丁寧に経緯を説明するのだが、既に白と黒の戦いは始まっていた。


「群れのボスが多くの(メス)を連れているのは、当然なのですぅ~」

「なっ!」


野生児らしい見解で鬼人の少女ギンナは納得している。…すると僕は群れのボスの位置付けか。


黒いドレスのメルティナと白い服の少女オーロラは一触即発と思えたが、お互いに見栄でも余裕を見せてふっと笑った。お嬢様の戦いが今ここに始まるのかッ!


「それよりも、重要なお知らせがあります。トルメリア王国がイルムドフへ侵攻を開始しました」

「!…」


メルティナお嬢様は自身の有能さをアピールする作戦に出たらしい。驚くべき情報に隠されてもメルティナがオーロラを見る目は冷たい。


「うっ……」


オーロラはその場に(くずお)れた。何かの衝撃を受けたらしい。僕はトルメリア王国の侵攻に苦悩した。近隣のタルタドフの領地が戦乱に巻き込まれるのは明らかだ。


「なぜ、この時期に侵攻なんだッ! 稲刈りも終えていないと言うのにぃ!?」


その回答を持つ者は、この場には居ない。



◆◇◇◆◇



 鬼人の戦士ザクロペディマは嫌な顔をしたが、怪力で水瓶を背負いて山岳を登った。僕は白い服の少女オーロラを背負子に乗せて軽々と登山した。鬼人の少女ギンナと氷の魔女メルティナは本領を発揮した魔獣ガルムの仔コロに乗り飛ぶように岩場を進む。この人員で登山を苦にする者は居ないと見える。


ただ、夏場でも残雪が残る山頂付近は雪豹の縄張りで襲撃の危険がある。僕らはおっかなビックリ進むのだけど、ギンナは平気な顔で速度を上げた。


「コロちー。進むのですぅ~」


-HAF HAF-


荒い息を吐いて魔獣ガルムの仔コロが跳ぶ。真夏の高地に肌寒さが増した頃、僕らに戦慄が走った。雪豹の威圧だ!


山頂には遠いと見て油断していたが、雪豹が現われた。夏毛でも真っ白な体表は死神とも見えて恐ろしい威圧の気を放っている。


-KFN!KHN!-


既に魔獣ガルムの仔コロは腹を見せて降参していた。その様子に氷の魔女メルティナは呆れていたが、鬼人の少女ギンナが雪豹へ跳びかかった。


「お母様ぁ~」


-KiSyaAAA-


威嚇かと思える奇声を発して雪豹がギンナを優しく受け止めた。鬼人の少女ギンナには山オーガ族の谷へ安全に至る山岳ルートの開拓を頼んでいたが、まさか雪豹と親子の契りを結ぶとは予想外の事態だ。


鬼人の戦士ザクロペディマが水瓶を置くと、待ちきれない様子の雪豹が蓋を破いて名水を飲んだ。僕らも水筒から名水を飲んで休憩だ。


こうして僕らは氷雪山岳の難所を越えた。




◆◇◇◆◇




 トルメリア王国の軍勢は北辺の町ムスカに集結してから海岸沿いに北上していた。これより北には荒野が広がり湿原地帯に入っては魔境と呼ばれる。魔境にはおおよそ人族と友好的な交流を持たない獣人と魔物の類が巣食い人の手には負えないとされている。


しかし、トルメリア王国は諸侯の軍勢は民兵から傭兵団を従えて行軍を開始した。軍勢の隊列は延々として続き大動員が想像される。その遠大な魔境の征伐から霧の国イルムドフへの侵攻を支援する為に海上には補給物資を満載にした商船と護衛を務める軍船が随行していた。


今回の遠征では海軍は王国諸侯軍の支援を役目として主力とは成らないが、海上の輸送ルートにも危険は予想されている。それはイルムドフの近海に巣食う海賊の存在だ。勿論に海賊の掃討も今回の遠征の目的に含まれているのだから、海軍にも大いに活躍する機会はあるだろう。


「提督、会議の方は、よろしいのですか?」

「ふん。諸侯軍のお守りなど御免(ごめん)(こうむ)るぜッ」


髭面の海軍提督はくち髭をつねりながら愚痴をこぼした。


「災難ですなぁ」

「全くだ。連中の顔などマオヌウの腹に叩き込んでやる」


そんなに王国諸侯軍の面子が嫌いか。代理を任された副長の心痛が察せられる。


海の男に会議は似合わないと思う。





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