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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十一章 北の三国に伝説あり
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ep141 ゴーレム工学

ep141 ゴーレム工学





 ゲフルノルドに現存するゴーレムは古代からの遺産であり、国民の誇りでもあった。農作業に従事する労働用のゴーレムは粘土や石で形作り焼き固められている。それでも関節部などの負荷がかかる部分は金属素材で補強される。構成素材を見ても重量物となるゴーレムの本体は下半身を起点として、上半身は木製や軽量素材が多用される。


そんな多種の構成要素を持つゴーレムを土塊のみで形成したという古代のゴーレム魔法使いは頭がおかしい。そんな単一素材のゴーレムは自重に潰れて動作出来るハズが無い。しかし、ゴーレムの心臓部とも言える精霊核に上位の精霊力を宿せば魔力のゴリ押しで重量の問題は解決可能だろうか。精霊核は魔力を消費してゴーレムの体躯を稼働し命令を実行する頭脳でもある。


現在では新たに精霊核を製造する技術も魔法も失われて久しいが、古代から受け継がれた精霊核はゴーレムの機体を修復する事で稼働を続けていた。そんな精霊核のひとつが僕の手元に残った。あの飛行型ゴーレムから共に脱出した精霊核だ。


「…どうじゃ、ゴーレムについての基礎知識を学んだかぇ…」


精霊核の声は僕の頭に響くが、外部の者に聞かれる事は無い様子だ。


「流石に現役のゴーレム技師のお話は為になります」

「いえ、マキト殿に喜んで頂けて幸いです」


ゴーレム技師アイゼン・ガングは前線から王都へ帰還するそうで、僕らの馬車に同行している。


「アイゼンさん。現存する精霊核はどのくらいありますか?」

「さぁ、農業用から兵器用も含めると数千は下らないでしょう」


「うへぇ、維持と管理も大変ですね」

「その為に、我々ゴーレム技師がいるのです」


アイゼンは自分の仕事に誇らしげな様子でゴーレム整備について話して聞かせた。


「…精霊核については、ワシが話してしんぜよう…」

(西風の、あまり魔力を吸うなよッ。僕が倒れたらお前も見付かって、別のゴーレムに組み込まれた上に強制労働だぞ!)


僕の懐で宝飾品か護符に偽装した西風の精霊核が熱くなる。…西風とは精霊核の識別名称らしい。


「…留意しよう…そもそも精霊核とは…」

(ふむふむ…)


随分と話し方も流暢となった精霊核はゴーレムの制御装置の(くびき)を脱したらしく饒舌だ。僕とも念話の様な方法で意志の疎通が出来る。


精霊核とは特別に生成された魔石へ古代の精霊術師が自然界の精霊を降ろし封じる召喚術らしい。その精霊の意志と魔力制御の能力を利用してゴーレムの動作を行う。しかし、召喚者とは別の者へ精霊を従わせる為に隷属の術式が施された制御装置がゴーレムには内臓されている。要するに制御装置とは精霊核を奴隷にする首輪かと、僕は自分の首に取り憑いた首輪をなぞる。


「…げに、度し難きは精霊術師どもよ。一度きりの契約で長きに渡りワシを拘束するとは!…」

(まあまあ、興奮するなよ。アイゼンさんに気取られる)


奴隷の首輪を安全に外すには奴隷商人の技術が必要だ。ゲフルノルドの奴隷商人は国選の爵位を持っている権力者だという。金赤毛の獣人ファガンヌは精霊核を嫌って触れるのも拒否した。魔力を吸われるのが嫌な様子に、馬車の屋根上で風に当っている。


「…とまあ、ゴーレム技師にも色々と専門がある訳ですが…」

「はぁ…」


まだまだ、アイゼンのゴーレム自慢話は長そうだ。


僕らはゲフルノルドの王都へ向かった。




◆◇◇◆◇




対してバクタノルドの王都では秘密裏に工廠へ運ばれた飛行型ゴーレムが分解調査されていた。


「この形状と、この素材にして……持ち出された精霊核の品質によっては……飛行したと言う報告も頷ける物だ」

「なるほど、大尉殿のお見立てでは?」


分解された翼に大型で円筒状の魔道具があり、機体は未知の金属で軽量化が図られている。


「おそらく風系統に特化した精霊核が使われたと見えるが、そんな高品質の精霊核が実在するだろうか……」

「本当だとすると、危険ですね」


帝国のシュピーゲル技術大尉は伝説のゴーレムへ一歩近づいた。


「ふむ」…この件は本国へも早急に報告が必要か。

「…」


思索に耽る技術大尉の姿があった。




◆◇◇◆◇




バクタノルドの郊外にある農園は既に夏野菜の収穫と出荷の最盛期であったが、農奴の食事は質素な物だった。


「ミーナ。こんな物しか無くて……ごめんなさいね」

「うん。気にしないで、キャロル姉さん」


薄味の野菜スープに切り分けた黒パンを浸けて食べる。キャロルの猫顔とミーナの猫顔は似ていないが、ユミルフの領主の館に仕えていても姉として慕っていた。


「収穫に忙しくても、パンが付くだけマシなのよ」

「…あの男は?」


その言葉に農奴の暮らしの厳しさが思われて、キャロルの首に嵌められた奴隷の首輪を見る。農園から逃げ出しても奴隷の身元を示す首輪は外れない。無理に外せば首輪が締まり首が落ちる。


「この集落の頭目よ。農奴の監視と仕事の監督が役目なの」

「じゃ、あいつを倒せばッ」


「無駄だわ。すぐに領主の手勢が来て捕縛されると思う」

「そんな、このまま……」


何とかキャロル姉の助けになりたいが、


「借金を返済するまでの辛抱ね」

「ニャーゴ」


猫顔の獣人ミーナには奴隷をひとり救出する力も無かった。


「何よミーナ、不満そうな顔をしているわね。それよりも思い出話をしましょう」

「…」


農奴の朝は早いと見えて、昔語りも思い出話もそこそこに眠ってしまった。




◆◇◇◆◇




精霊核にも種類はあるが、西風の精霊核は風の制御に特化した物で、飛行型ゴーレムの中核に相応しい性能と言える。ゲフルノルドの既存のゴーレムは農業用の為か土系統の精霊核が多く使われていると言う。


その現状を見る為にゴーレム技師アイゼンが懇意とする工廠を見学に訪れた。よそ者が見学を希望しても許可さえ得られないその工廠には、分解整備されるゴーレムと新品同様に組み上げられたゴーレムが並んでいた。


「お気に召しましたか?」

「素晴らしい! 工廠ですねッ」


案内役を買って出たアイゼンが得意顔で解説する。


「こちらでは、ゴーレムの交換部品を作成しています」

「ほほう…」


ゴーレムの基本部品は粘土と金属鉱石を混ぜて焼き固めていると見える。型から粘土を取り出して高炉の窯へ運んでいる。


「完成した部品を本体へ取り付けています」

「なるほど」


精霊核と制御装置をブラックボックスにして本体が形成されているらしい。中身は確認できない。


「…精霊たちの嘆きが聞こえるわい…」

(西風の、気を付けろ。監視の目があるぞ!)


組み立て完成したゴーレムが自走して歩いているが、ヨチヨチ歩きに覚束ない様子だ。これだけ見ても、あの飛行型ゴーレムは規格外の高性能と思える。…戦場に不時着したのは失敗か。


「マキト・クロホメロス卿とお見受けする。ご同道を願おうかッ」

「…」

「憲兵とはッ、聞いて無いぞ!」


憲兵と見える兵士に囲まれた。アイゼンが抗議の声を上げるが、威圧的に遮られる。


僕らに拒否する選択肢は与えられなかった。


………



田舎町の守備隊長フランク・ガレオンはゴーレム技師アイゼン・ガングへ開口一番に謝った。


「すまぬ……」

「…」


守備隊長のガレオンが王都までの道中の警護に付くという特別待遇には何かあると思ったが、


「友を騙す様な仕打ち、申し訳ない」

「マキト殿にも……悪い」


とんだ裏切り行為に合うとは、宮仕えも楽では無いらしい。


「アイゼンのおかげで、英雄殿を王都へ移送できた。感謝している」

「ふん。嫌な役目は懲りゴリだッ」


「まぁ、そう言わずに飲め。王都の酒は格別だぞ!」

「ぐぬぬ…」


確かに、ガレオンの奢りで飲む酒は高級品で口当たりも良かったが、悪酔いも早かった気がする。





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