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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十一章 北の三国に伝説あり
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ep140 英雄の帰還

ep140 英雄の帰還





 僕はグリフォン姿のファガンヌに攫われた。


「GUUQ !」


グリフォン姿のファガンヌは北軍バクタノルドの陣地を横断して混乱を呼び、空中で僕の姿を捕えた。僕は上空から投げ落とされて再びファガンヌの背中に収まるという一連の空中機動の後に戦場を見た。


戦場では南軍のゲフルノルドが前進してゴーレムの墜落地点を迫撃していた。どうやら飛行型ゴーレムの奪還が目的と見える。僕は留置所の一部を指し示めした。


「ファガンヌ。あそこの柵を壊してくれ!」

「GUUQ …」


上空から飛来したファガンヌが擦れ違いに柵を蹴ると粉々に砕けた。捕えた捕虜たちが一斉に逃げ出す。…これで義理は果たしたと思う。


混乱する留置所を後にして僕らは飛び去った。


ひとまず身を隠す事にしよう。



◆◇◇◆◇



 そこはゲフルノルドにある帝国軍の駐屯地だ。帝国軍は両国の紛争に中立の立場で不可侵の態度をとっている。しかし、ゲフルノルドと帝国との相互条約により、駐屯地には帝国から派遣された駐留軍が置かれている。


「グリフォンの英雄が紛争へ介入したとの報告だ」

(まこと)ですか?」


帝国の士官と見える男が報告書を見て驚いている。


「ゲフルノルドの防衛軍の崩壊の危機を救い。敵陣へ切り込んで戦功を上げたらしい」

「それは、帝国が介入するとの意図ですか?」


この紛争へ帝国が介入を決めたのならば一大事である。


「いや、軍務卿からの指示ではない。ましてや皇帝陛下のご意志ではあるまい……」

「では、英雄殿の独断専行だと?」


既にグリフォンの英雄マキトは帝国では有名であり、他国の諜報機関にも知れているだろう。


「まずいな、早急にバクタノルドの馬上王へ使者を出せッ」

「ハッ!」


帝国軍にも変化があった。



◆◇◇◆◇



 猫顔の獣人ミーナがバクタノルドの郊外にある農園を訪れたのは偶然ではない。農園では獣人の奴隷が農奴として強制労働にされており、農作物は領主に搾取されているとの情報があった。


他国であるバクタノルドの政策でありミーナには関わりの無い事に思われたが、農園の様子を見て旧知のキャロル姉に出会ったのは不幸の始まりだろうか。


農園の暮らしは決して楽とは見えず、集落も農地も出入りは自由と見えても農奴を監視する目があった。二人が集落へ入ると虎毛の獣人の男が現われた。


「キャロル。遅かったじゃねーか」

「ええ。昔の知り合いだったの……」


虎毛の獣人の男はミーナの実力を値踏みして見た。


「ふむ。お知り合いねぇ」

「ミーナです。ニャ」


精々と愛想よく応えるミーナだが、虎毛の獣人の男がキャロル姉の腰付きを触る手に戦慄した。


「何も無い村だが、泊まってゆけッ」

「はい。ありがとう、ございます!」


奴隷の首輪を付けても気位の高いキャロル姉が、この男に反抗しないのは考えられない。以前はユミルフの領主にも反抗していたのだから、何か強力な奴隷の呪いがあると思える。


ミーナはキャロル姉の小屋を訪問した。



◆◇◇◆◇



 僕らは南に飛行してゲフルノルドの領地と見える町の郊外へ着地した。久しぶりに人族の町と清潔な寝台が恋しくて、町を訪れたのは失敗かも知れない。


町には監視の目があったらしく大勢の衛兵に取り囲まれた。金赤毛の獣人ファガンヌが実力を行使して突破するのは容易いが、今はひと晩の休息を優先したい。捕虜としての囚人生活は体に堪えた。


「グリフォンの英雄クロホメロス卿とお見受けしますッ」

「君は?」


どうやら正体を知られている様子の衛兵に僕は尋ねる。


「はっ、申し遅れました。自分は守備隊を纏めますガレオンと申します」

「GUUQ 小僧が 何の用か?」


ファガンヌの威圧にも負けず、武骨な男が白い歯を見せて笑うので敵意は無い様子だ。


「領主様が、英雄殿をご招待したいと申しておりますッ」

「……世話になる」


「はっ、ご案内を致します」


僕は大船に乗ってしまった。


………


招かれた領主の屋敷は町の高台にあり、城壁を巡らせた砦の様な造りと見える。急遽に用意された宴席と見えて招待客は少なく護衛の兵士の姿が目立つ。


金赤毛の獣人ファガンヌは貫頭衣を着ているが、ボロ布に隠せる面積は少ない。新しい衣装が必要だろうと気を揉んでいると領主と見える男が宴席に現われた。既にファガンヌは料理と酒を堪能している。


「英雄クロホメロス殿。よくぞ来て下さった」

「ご招待に預かり、光栄にございます」


「我軍の窮地を救って頂いたとか、英雄殿のご活躍は、この町にも聞こえています」

「いえ、たまたまですよ」


「ご謙遜を、このような田舎町を守護して頂き、住民一同から感謝を捧げます」

「…」


領主の話を聞くとゲフルノルドの防衛軍が敗れると町は騎馬兵に蹂躙されて略奪の憂き目にあうと言う。その窮地にあった防衛軍は魔獣グリフォンの襲来で体勢を立て直したらしい。田舎町はゲフルノルドの防衛軍の補給基地として機能している様子だ。…それで、守備兵の対応も早かったのか。


ひとしきり田舎の酒と肴を堪能し宿舎に休息を得た。



◆◇◇◆◇



 バクタノルドの王都は祭の様な活況を呈していた。王都と言っても王座は無く数少ない定住民と他国からの行商人が暮らす町は普段に倍する群衆で溢れている。彼らが王として頂くトルキスタは遊牧民の馬上王と呼ばれ王都バクタノルドの英雄でもある。


その英雄王トルキスタが新たな伝説を連れて凱旋帰国した。街道はバクタノルドの勝利と馬上王の武勇を称える人々に迎えられた騎馬兵が隊列を成して行進している。先頭を行く精鋭に続き馬上王が姿を現した。群衆の歓声が高まる。


「英雄王、ばんざい!」

「…馬上王の治世に祝福あれ…」

「きゃー!…英雄様…」

「…ざわざわざわ…」


英雄王トルキスタの横顔が遠くに見えるのも一瞬で、周りを固める親衛隊の騎兵の群れに呑みこまれた。


続いて、現われた十頭立ての荷車は巨大なゴーレムを乗せて曳かれたいた。今回の戦利品だろうゴーレムは白銀の金属に手足と翼を持つ怪物と見えた。流石の英雄王が怪物を討伐したらしい。沿道に詰めかけた群衆の熱気はさらに上がる。


王都の興奮は祭となって夜通し続いた。


………



王都にある仮の玉座から遠い離れで馬上王トルキスタは帝国の使者と対面した。


「ほほう、帝国が当方に協力すると申すか?」

「左様にございます」


帝国の使者となった貴族の男が条件を提示した。馬上王トルキスタは自ら密約の文面を確認する。


「ふむ。帝国の技術者とな……」

「貴国のゴーレムの研究に役立つ者と信じております」


使者が紹介したのは、シュピーゲル技術大尉である。ゲフルノルドのゴーレム技術を横流しする陰謀か、飛行型のゴーレムの技術を盗む算段か。


「まぁ良い。帝国の友好の証しを受け入れよう」

「はっ、喜ばしき事にございます」


この密約は纏まったらしい。こうして帝国軍のシュピーゲル技術大尉はバクタノルドの王都へ派遣された。


飛行型のゴーレムの技術調査を担当するのだろう。




◆◇◇◆◇




 数日して一人のゴーレム技師がゲフルノルドの国境の町へ帰還した。


「アイゼン。よく生きて戻った!」

「応うょ!」


武骨な男とゴーレム技師が握手を交わす。この町の守備隊長フランク・ガレオンは旧友アイゼン・ガングの無事を喜んだ。支援部隊のゴーレム整備兵として前線へ出たアイゼンは敵の騎馬兵の襲撃を受けて行方不明となっていた。


「無事を祝って乾杯!」

「友との再開に乾杯!」


すぐに酒場で祝杯を挙げる二人。


そのゴーレム技師アイゼンは北軍バクタノルドの留置所でマキトに出会い助言をした人物であるが、守備隊長フランクはその関わりを戦場の苦労話に聞いた。


「ほう、英雄殿と知り合いか!?」

「その英雄殿は新型に乗っておられたぞ」


「本当か……」

「見た事も無い、飛行型のゴーレムだッ」


「なにぃ!?」


またひとつ厄介事が増えた。





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