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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十一章 北の三国に伝説あり
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ep139 交渉は決裂した

ep139 交渉は決裂した





 バクタノルド軍の天幕では何度目かの停戦交渉が行われていた。バクタノルドの馬上王がゲフルノルドの使者に問う。


「当方から失踪した学者の行方は掴めたか?」

「鋭意、捜索中にございます」


魔狼(ウルベン)(ワルド)の捜索は難航しているので、南軍ゲフルノルドの使者は、このまま交渉を続けて猶予を得たい様子だった。


「このままでは、埒が明かぬ。軍勢を差し向ける故に、その方ら軍を引けッ」

「ま、待って下され。これ以上の侵攻をされては、交渉もできません!」


馬上王の強行姿勢が継続しているのは、今年の侵攻が北軍バクタノルド側の有利に進展している影響だろう。


「よろしい。ならば、戦争だ!」

「なっ、……」


交戦意欲の高いバクタノルドに戦争の口実を与えた結果となり、ゲフルノルドの使者は頭をかかえた。


………



 北軍バクタノルドの騎馬兵が侵攻を開始した。これに対して南軍ゲフルノルドの守備兵は槍と盾を密集させて、騎兵の突撃に備え防御陣を構えた。


例年であれば、このまま膠着状態の睨み合いとなる。その後に、遅れて到着した南軍ゲフルノルドのゴーレム部隊が壁を形成して戦列を支える背後から高櫓を持ち出し、バクタノルドの騎兵隊に矢の雨を降らせて蹴散らすのだ。


ところが、今年は北軍バクタノルドの伏兵に足の遅いゴーレム部隊の対応が遅れた。この時期は南軍ゲフルノルドの戦闘用ゴーレムも整備の時期であった。しかし、戦闘用ゴーレムと言う物の農業用のゴーレムの足腰に防壁を取り付けただけの壁と、高櫓を乗せた神輿の様な代物でゴーレム自体の戦闘力は低い。


そのため、防壁と高櫓を中心とした弓兵を槍と盾を装備した歩兵に防衛させる必要がある。その陣形も定まらぬ所へ突然に季節外れの竜巻が襲来しては、南軍ゲフルノルドの混乱も目に余る有様だ。


「突撃! 南侮(なんぶ)のブタどもを蹴散らせッ」

「「 おおぅ! 」」


北軍バクタノルドの騎馬兵が防御陣地へ突撃した。既に南軍ゲフルノルドの守備兵は竜巻の被害で戦列を崩していた。戦列の隙間へバクタノルドの騎馬兵が殺到し防御陣地の内部を掻き回す。


「弓兵。援護ッ」


竜巻の被害を逃れた高櫓から援護の矢が放たれるが、例年に比べれば蚊ほども痛くない。


「突破しろッ」

「「 おおぅ! 」」


再度の騎兵が突撃して南軍ゲフルノルドの守備兵は総崩れとなった。


-KYYNN-


そこへ轟音と共に飛来したのは見慣れぬ巨体のゴーレムだ!


「…なんと! 味方かッ」

「…ざわざわ…」


北軍バクタノルドにはゴーレム部隊は無い。ましてや飛行するゴーレムなどは伝説のおとぎ話にしか聞かない存在だろう。


-KYYNN GOF!GOF-


金属音に似た耳に突く高音を連れて風を切る姿には大きな翼があり、その翼に備えられた円筒が高音を発しているらしい。濃密な風の噴射が鼓膜を振るわせる。


飛行するゴーレムは混乱する防御陣地を切り裂いて、竜巻の発生源と見える北軍バクタノルドの陣地に直撃した。


-DOGOM-


大地を揺るがし岩をも砕く轟音。……飛行型のゴーレムは墜落したらしい。


「守備兵。各隊! 立て直せッ」

「「 応ぅ… 」」


南軍ゲフルノルドの守備兵が、僅かに残った秩序を取り戻したのは奇跡だった。


北夷(ほくい)の犬どもを追い返せッ!」

「「 応ぅすッ! 」」


じりじりと防壁ゴーレムが騎兵を押し返した。恐怖しない兵器の動作は確実だ。


こうして、両軍は再びの膠着状態となった。



◆◇◇◆◇



 僕は飛行型ゴーレムの操縦桿と格闘したが、翼に備えられたエンジンらしき円筒の魔道具は凶悪で制御も出来ない。先程から警告音と頭に響くゴーレムの声が聞こえるが、暴虐な風切音とエンジン音に圧倒されないのは不思議だ。


「なんとかしろッ」

「…操縦者の役割は…目的地を指示するのみです…」


恐ろしい勢いで飛ぶ飛行型ゴーレムの操縦席で僕は叫ぶ。


「じゃあ、目的地はどこなんだ!」

「…意図が不明瞭…再度の行動指示を…お願いします…」


まずは、危険を回避しよう。


「暴走を止めろッ」

「…緊急停止…適合者の安全を確保します…」


ガクンと傾き、前方と側面の壁から突風が噴き出した。


「うっぷ!」


僕は飛行型ゴーレムを地面に不時着させた。


………



意識が戻ると手枷と足枷に首輪を付けられて僕は拘束されていた。軍の士官と見える男が尋問する。


「ゲフルノルドのゴーレム乗りだなッ。名前と階級を言え!」

「マキト。騎士爵……」


僕は一応に答えるが嘘ではない。…とうせ嘘を見抜く魔道具を使っているだろう。それよりも、僕は北軍バクタノルドの軍に鹵獲されたらしい。


「軍の階級はッ!?」

「ない。テスト飛行だ」


「テスト飛行……ゲフルノルドの新兵器ではないのか!?」

「茨森で発見した。遺品だろうと思う……」


「ふむ。嘘は無いと見える。……こやつを拘禁しておけッ」

「ハッ!」


衛兵の兵士が二人で僕を留置所へ連行した。留置所と言っても柵に捕虜と見える兵士が縄紐で繋がれている場所だった。衛兵が去ったのを見て隣の捕虜が話しかけてきた。


「あんた、あの飛行型ゴーレムの乗り手か?」

「そうだが、……シッ」


巡回の衛兵だろうか、遠ざかるまで沈黙に耐える。


「新型だろっ、機密保持の仕掛けは、大丈夫か?」

「さあ……」


「さあって、下手に触ると大爆発するぜッ」

「なにっ!」


話を聞くと捕虜の男はゲフルノルドの技師でゴーレムの整備を専門にしていると言う。そんな技師が前線で捕虜になるとはゲフルノルドの負け戦だろう。


それよりも、あの飛行型ゴーレムが大爆発する未来に僕は戦慄した。



◆◇◇◆◇



両国の紛争は膠着状態にあり、北軍バクタノルドの手により鹵獲された飛行型ゴーレムは王都へ輸送するため、墜落現場では機体の回収作業が進められていた。


土砂から掘り起こして見たものの飛行型ゴーレムの操作方法は両国のゴーレム技師たちにも不明な未知の操縦系統であり、移送作業は難航している。マキトは手枷と足枷に首輪を付けたまま、墜落現場で要求をされた。


「こいつを動かして荷台へ乗せろッ」

「…」


飛行型ゴーレムは墜落の衝撃にも耐えて五体満足に見える。現場監督の男が十頭立ての荷車へゴーレムを乗せろと言う。


「機体は動作可能か?」

「…魔力の充填不足につき…起動には時間が掛かります…」

「それは、こちらが聞きたいッ」


おや、ゴーレムの声は自分以外には聞こえない様子だ。


「機体の損傷と、爆破の危険は無いか?」

「…損傷はありません…自爆シーケンスを作動しますか?…」

「我々が爆破する訳はなかろッ」


呆れか不審か現場監督の男はマキトを睨み付けた。


「いや待て、これは何だ?…ぐっ!」

「…精霊核はトリニティの中核を成す物で…」

「おい、勝手に触るなッ」


僕の首輪に取り付けられた革紐を衛兵に強く引かれた。奴隷用の首輪が締まり息が詰まる。…その後の説明を聞きたい。


「かっ、はっ、はぁはぁ、トリニティ?……ゴーレムは魔力を充填しないと、動作しないが……」

「…この機体は西風の精霊を取り込んだ…精霊核により構成されています…なお、トリニティは…」

「ふむ。魔力の充填は可能かッ?」


現場監督の男がマキトに尋ねる。


「可能だが、機体に触れる許可をくれ」

「…適合者に許可は必要ありません…」

「よかろう。見張っておけッ」

「はっ!」


見張りの衛兵を残して僕は魔力の充填作業を強要された。奴隷用の首輪が厄介だ。


「座席の下にある魔晶石に触れたい」

「…魔力の充填を…お願いします…」

「良しッ」


僕は手枷と足枷のまま操縦席へ乗り込み魔力の充填を行う。おそらく操縦者から魔力を吸収するのだろう。しばらくして、じりじりと首の毛が逆立つ感覚がする。


その時、留置所に騒ぎがあった。僕は小声で囁く。


「緊急脱出装置はあるか?」

「…操縦席に掴まり…脱出の指示をして下さい…」

「何を言っているッ?」


衛兵が革紐を引く手に魔力が入る。


「では、精霊核と操縦席を射出せよッ」

「…緊急脱出シーケンスを開始します…」

「余計な事をするなッ!」


奴隷用の首輪が締まり息も詰まるが、僕は既に命令を下した。


「ぐっ、機体が、…爆発…する……」

「…上部解放…精霊核分離…操縦席射出…」

「なにぃッ!」


-BPSHU-


蒸気の噴出音を残して僕は上空へ打ち上げられた。





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