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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十一章 北の三国に伝説あり
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ep137 バクタノルドの風景

ep137 バクタノルドの風景





 僕は戦場を通過してバクタノルド西方の森林地帯へ降下した。森は寒帯の針葉樹林らしく鋭い先端を天へ向けて高さを競い、短い夏の光を追っている。森の下生えを通しても魔物の気配があった。


「GUUQ 隠れておるカ 腹がへったノ」

「…」


茨の藪を割って森の人と見える女が現われた。両脇に毛並みの美しい狼を従えている。


「グリフォンの女よ。森で暴れては困る……」

「きみは、誰だッ」


既に金赤毛の獣人に変化したファガンヌを見て言うのは、正体を知っているのだろう。…森の人は妖精なのか人なのか。


「私はこの茨森を守護する者、ソアラ。……グリフォンを連れた人族よ。立ち去りなさい」

「待てッ、僕たちは敵対する者ではない」


-GUUU-


狼たちが威圧する気配が高まるが、


「GUUQ 狼の肉モ たまには良かろウ」

「!…」


そう言うと金赤毛の獣人ファガンヌは、森へ飛び込んだ。狼たちが後を追う。ファガンヌが、この場で決着を付けないのは遊ぶつもりだろう。


「すみません。お騒がせして……」

「いいえ。狼たちが、落ち着かない様子に……私も困惑いたします」


二人の間にしばしの共感が生まれたが、この森に滞在を許すのかは別問題と思える。


僕はファガンヌが戻るまで、この場に留まった。



◆◇◇◆◇



 救助されたオー教授は冒険者の二人へ預けてミナンの町へ帰還した。ちみっ子教授も同行して帰途に着いた。オー教授の話では飛竜の谷の遺跡でバクタノルドの軍隊に遭遇して捕縛されたと言う。このまま調査隊はバクタノルドの王都へ連行されて、軍事利用する魔方陣の改良を手伝ったらしい。その成果のひとつに人為的な竜巻を発生させる魔方陣があった。戦場に投入された竜巻の魔方陣は絶大な破壊力を誇ったが、破壊力が増すごとに自身の魔方陣を破壊して制御が困難な欠陥を抱えている。そんな不安定な兵器でも利用せざるを得ない事情がバクタノルド軍にはあると思える。


猫顔の獣人ミーナはマキトと合流するべくバクタノルドの王都へ潜入した。王都には往来する獣人の姿も多くて猫顔の獣人ミーナは潜入と情報収集に適任だった。フードで顔を隠して行動しているが、北国でも真夏にフードは暑いだろう、日差しを避けてベールでも被るか。


「おい、そこの獣人。顔を見せろッ」

「旅の芸人にございますニャ。どうかお許しを……」


王都の衛兵と見える男に呼び止められた。ミーナが許しを請うが衛兵の男はミーナのフードを剥ぎ取った。


「むっ、猫人かッ」

「う、歌を披露いたします!ニャ」


ミーナが背中から楽器を取り出し絃の和音を奏でる。


「…ニャニャニャ♪、英雄は氷を砕き♪ 雪の魔獣を討伐する。ニャニャニャ♪、歌姫は春を呼び♪ 精霊の心を潤す…」

「…ほおぉ…」


歌声が通行人の足を止めて聴衆を集めると、観衆の声援が飛んだ。…劇団の真似事が役に立った。


「いいぞッ」

「…夏の歌を歌っておくれよ~」

「…ざわざわ…」


王都の衛兵も様子を見ていた観衆に呑まれた。


歌のリクエストには応えたい。



◆◇◇◆◇



そこは草原に設置した本陣の天幕の様子だ。本来はバクタノルドの軍勢に本陣は無くて馬上の王を中心に軍勢を集めるのだが、敵国のゲフルノルドからの使者に対面するため形式上の本陣が設置された。


「当方から拉致した学者を返還してもらおうかッ」

「我々の領地に侵入した、軍勢を引いて貰いたい……」


双方の要求は対立していた。


「この草原は、元来から我々の領土である。夏草を刈り取るまでは動かぬ」

「ぐぬぬ、そなたの学者殿は行方を追っている。しばし待たれよ!」


どうあっても撤退には応じない様子だ。


「ゲフルノルドの企みではないか?」

「我々の部隊ではないッ」


未だに後手を踏むゲフルノルドの軍部では、事態の収束は難しいだろう。


「さもありなん。戦の備えも疎かにして、軍の規律も無いと見える」

「ぐぬぬ……」


バクタノルドの馬上王の指摘に、ゲフルノルドの使者は黙るしか交渉の余地は無かった。


今年は早くもバクタノルドの騎馬兵の侵攻があった。春に若草を求めて北方へ家畜を追い。夏には草原へ戻るのは通常だが、一部に北方へ帰還しない伏兵がいたらしい。さらに、バクタノルドの新しい大規模な軍事用の魔法が目撃されたとの報告もある。


例年には無い事態に南軍ゲフルノルドは翻弄されていた。


これでは停戦交渉もままならない。



◆◇◇◆◇



僕は頭陀(ずだ)袋からメエェの肉と竈の魔道具を取り出して調理を始めた。甘い醤油ダレと香辛料の香りが食欲をそそる。金赤毛の獣人ファガンヌは腹を空かせて帰って来るだろう。気付くと茨森の人ソアラは姿を消していた。


「ご馳走しようと思ったのだけど……」

「ピヨョョー(おいしいー)♪」


ピヨ子に話し掛けても、いつもの様子だ。


………


茨森に人族の軍勢と見える侵入者があった。昼なお暗い森の下生えを掻き分けて兵士が進む。


「こ、この森には魔狼が出るだよ…」

魔狼(ウルベン)(ワルド)とは良く言った物だなッ」


その時、兵士の悲鳴が上がった。


「ぎゃぁ!」

「…魔狼だッ!」


魔狼の襲撃を予想していた指揮官の反応は早かった。


「全隊っ。集結ぅ~」

「「 はっ! 」」


槍と大盾を構えた防御陣も訓練通りと見える。


「防御陣っ。……徐々に後退せよぉ」

「!…」


撤収の手順も素早い動きで、人族の軍勢は怪我人を抱え撤収した。


「GUU ソアラ様 追いますか?」

「ガウル……。人族の肉は、美味しくないでしょう」


茨森の平穏は守られた。


………


金赤毛の獣人ファガンヌは上を向きメエェの串焼きを丸飲みしている。戦闘意欲と食欲を満たして満足そうだ。ファガンヌは焼き串を引き抜いて肉汁を味わい言う。


「そなたら、中々の者 褒美を取らすゾ」

「!…」


ファガンヌがメエェの串焼きを放ると、魔狼が空中へ跳び受け取った。手荒な格闘戦と予想されて、全身に傷はあるが死傷は無い様子だ。


僕は追加の串肉を焼いて空腹を満たした。



◆◇◇◆◇



バクタノルドの王都は獣人の姿も多いのだが、多くは裕福な商家の下働きや貴族の邸宅に仕える下男の様な身形をしている。常に人族の動向を伺い気にしつつ怯える者の目だ。


猫顔の獣人ミーナには覚えのある感覚と言える。そうこれは、ユミルフの領主の館に奴隷として仕えていた頃と同じ空気だ。町全体が奴隷の空気に満ちている。


とりあえずの宿舎は金銭を積んで押し通ったが、猫顔の獣人ミーナは独り宿を抜け出して情報を収集する。


「この町に、黒猫の気配は無いニャ……」


今まで監視に付いていた黒猫の気配は無くて猫人(ねこひと)の領域からは外れたらしい。鬱陶しい監視であったが、親類の様な親近感も覚えていたので寂しさも感じる。


そんな猫顔の獣人ミーナは王都の路地に情報屋と見える暗号符の付いた看板を見つけた。


「これが、情報屋か?ニャ」


看板には野菜が彫刻されて食品店と見える。





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