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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十一章 北の三国に伝説あり
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ep136 英雄的な行為

ep136 英雄的な行為





◇ (あたしは飛竜の追撃を警戒して低空を飛行していた。すると上空から聞き覚えのある魔獣の鳴き声がする!)


「GUUQ!…」


◇ (あれは、魔獣グリフォン姿のファガンヌだ。こんな所で何をしているのか……飛竜と戦っている!?)


飛竜の全長はグリフォンの姿のファガンヌよりも何倍も大きい。両翼の鉤爪も足の爪も尻尾の毒針も危険度は飛竜の方が上と思える。


しかし、ファガンヌは飛竜よりも軽快に風を切り飛行技術で翻弄していた。


◇ (なるほど、あの魔獣グリフォンでさえも、飛竜を相手には速さを生かした戦いをするのね)


弄ばれた若い飛竜は怒りも露わにしてファガンヌを追うが、きりきり舞いに付いて行けない。まるで淑女のダンスに付いて行けない未熟者の失態と見えた。


魔獣グリフォン姿のファガンヌはダンスの相手に飽きて飛び去った。




◆◇◇◆◇




 工房都市ミナンに帰還した僕らは問題に直面した。飛竜の谷で拿捕した貴族のバカ様は本物の帝国貴族であり、アアルルノルド帝国から派遣された代官の子弟だった。僕らは帝国への対面のためか牢に投獄された。


「親方が余計な事をするからぁ~、どうするのですかぁ?」

「あん、問題ない。なんとかならーぁ」


森の小人チッピィがズーラン親方に絡んでいる。


「我らは早くバクタノルドに行きたいのじゃ」

「…」

「困ったわね……」

「脱獄するかぁ」


ちみっ子教授は焦れていたが、冒険者の夫婦漫才も不調の様子だ。


ズーラン親方もチッピィも長年に渡り工房都市ミナンの防衛に努めてきた工房組合の重要人物だ。飛竜の生態について詳しく知る者ならば無謀に挑発などしない事は周知の事実である。血気に逸った貴族のバカ様を制註するのは、町の安全を考えると英雄的な行為と言える。領主もその辺りの事情を汲んで穏便に帝国貴族へ対応して欲しいと願う。


僕らが無為な時間を過ごしていると、思わぬ知らせがあった。バクタノルドで騒乱が発生したらしい。


「今年は早いなッ」

「何を呑気な……」


ズーラン親方は牢獄でも寛いてゴロゴロしていたが、知らせを聞いて起き上がった。何やら出番の様子で関節の骨を鳴らして準備運動を始めた。


「直ぐに呼び出しがあるハズだぜ」

「?…」


預言の通りに僕らに呼び出しが掛かった。牢から出られるらしい。


………



例年であれば、秋頃からバクタノルドと隣国のゲフルノルドが小競り合いを起こすと言うが、今年は夏も盛りのこの時期に騒乱となった。最悪の事態に備えて工房都市ミナンも防備の兵士を配置するのだ。


工房組合の有志と飛竜防衛の兵士たちは例年になく早い時期の動員となり、不満を零している。


「…バクタノルドのやつら血迷ったか?…」

「…ほんと、いい迷惑だぜ…」

「…世界の破滅じゃ…」


そんな中でも悠然と都市の防壁を眺めるズーラン親方の姿があった。


「ふん。やることは同じだ。飛竜が現われたら、ぶん殴る。それだけだ……」

「弓砲の準備をするよッ」


チッピィは忙しく防壁の設備を点検していた。僕らは防衛戦に関わる積りも無くて、早くバクタノルドへ向かいオー教授の行方を捜したい。


………



そんな暇に任せて僕は工房の裏で粘土細工をしていた。


「水の女神の清らかさ、清流を従え顕現せよ…【形成】」


それは水の女神が水神と思しき龍を調伏して従えた等身大の立体像だ。粘土には金属成分を混ぜて白磁の気品があった。


「即席の…【減圧】【乾燥】!」


時間をかけて粘土を乾燥させる余裕も無いので、魔法に頼る他は無い。


「鍛冶の神ヘパィフォロスの加護を持て焼き固めよ…【焼成】」


表面をじっくりと焼き乾燥してから中までこんがりと焼く。それは燻製肉かパンケーキか。僕は自然と笑みがこぼれる。


工房都市ミナンでは水の神殿の教えが根付き、以前に僕が製作と販売をしていたモデルA型(アマリエ)の女神像が高値で取引されていた。模造品を含めると販売量も多いと見える。以前は偶像崇拝が違法で取り締まりもあったが、今は公然と取引が可能となったのは水の神殿の影響力か領主の気まぐれだろうか。


再び、モデルA型(アマリエ)の女神像の新作でしかも等身大の大作だ。いくらの値段が付くか今から楽しみである。そうして、僕はある知らせを待っていた。


「村長。準備ができたニャ」

「ご苦労さま」


僕が猫顔の獣人ミーナの顎を撫でると喜んだ。ミーナにはバクタノルドへ潜入する準備を任せていたのだ。…猫の扱いも慣れて来たかな。


………



工房都市ミナンを出発して西のゲフルノルドへ向かうと、街道では騒乱から逃れた商隊とすれ違った。他にも避難民と見える行列も見かけた。


「どうも、きな臭い様子じゃ」

「騒乱といえども、危険かしら……」

「早く爺さんを見付けて、ずらかろうぜッ」


大体そんな方針でバクタノルド領へ潜入したのだが、こちら側の国境門には兵士の姿も少なくて、既に手遅れな様子だった。望遠レンズを覗くと、遠方には竜巻に巻き上げられる兵士の姿が見える。


戦乱が開始された。




◆◇◇◆◇




北軍バクタノルドと南軍ゲフルノルドの構図は常に変わらない毎年の風物詩だ。その風景にアアルルノルド帝国の本国から派遣された軍の駐屯地があった。


「隊長! 我々の出動はいつですか?」

「リヨン。貴様の隊に出動命令はない」


「はぁ…」


血気盛んと見える若手の兵士リヨンはハウベルト隊長に詰め寄ったが、返答はにべもない。


「今年は早くも夏草を取りに来た遊牧民がいるのだろう、我々の出る幕は無いよ」

「放置しても、よろしいのですか?」


北部のバクタノルドと南部のゲフルノルドは共に帝国の属領となって帝国の代官を置いている。それに加えて地元の有力者を領主として任命しており二重統治の様な形式となっていた。その帝国の代官を護衛して属領の治安を維持するために帝国軍が駐屯しているのだが、バクタノルドとゲフルノルドの争いに帝国軍は不干渉の様子だ。


「バクタノルドの流民とゲフルノルドの地主が争うのは、帝国の利益となる」

「敵が疲弊するのを待つと言う事ですか……」


両国が争い無駄に兵力を消耗して国力を低下するのも、長期的に見れば帝国の支配力が増して利益となるだろう。


「そういう意味もある」

「しかし!…」


若手の兵士リヨンは出動の機会を欲している様子だ。その時、伝令が駆け込んで来た。


「緊急報告! バクタノルドで大規模な魔法の発動を観測しました」

「なにッ」


例年には無い事態が進行しているらしい。帝国軍の駐屯地も慌ただしく、出動の準備を始めた。


………



西へ向かう道中に僕は首の毛が逆立つ感覚を覚えた。…ファガンヌだ! 僕はグリフォン姿のファガンヌを呼びつけて乗り込んだ。冒険者のマーロイたちは泡を食って驚いていたが、タルタドフの開拓村でグリフォン姿を目撃している者たちは平気な様子だった。


上空から戦場を眺めると竜巻の暴れた痕に兵士の野営地が踏み荒らされていた。このまま戦場へ割って入っても戦闘を止める事は出来ない。グリフォンの英雄の名声を持ってしても無理な事だ。僕は竜巻の痕跡を逆に辿り発生源と思える魔方陣の残骸を発見した。それはバラバラにされた石版の様で破棄された破片だろう。ここで大規模な魔法を行使したのは間違いない。


「ファガンヌ。北へ飛んでくれッ……ピヨ子は風の魔法使いを探してくれ!」

「GUUQ …」

「ピヨーヨー(任せて)」


索敵を続けると進軍するバクタノルドの軍勢があった。騎馬兵と歩兵が入り混じった混成軍の様子だ。


「鳥だッ」

「魔獣だ…」

「グリフォンだぁ!」


バクタノルドの軍勢に騒ぎが起こるが、僕はグリフォン姿のファガンヌを駆って混成軍の中を捜索する。


「見つけた! オー教授だッ」

「GUUQ …」


僕が身振りで指示するとファガンヌは上空で反転し再度の降下に移った。それは獲物を狩る姿勢だ!


狙い通りにオー教授の老体を引き攫ってグリフォン姿のファガンヌは離脱した。


救出作戦は成功だ。


………



「オー教授。無事ですか!?」

「…」


手枷を付けられたオー教授に返事は無いが、怪我も無く息はあると見える。このまま大きく迂回して合流地点まで飛ぼう。少しでもバクタノルドの軍勢を攪乱しておきたい。


東の山の端に飛竜山地に近い森へ降下した。


「おっ、オーちゃん!」


ちみっ子教授が駆け寄り。ばちん!と、ビンタを張るとオー教授が目覚めた。…これも森の妖精の流儀か。


「オーちゃん、オーちゃん、オーちゃん!」

「…うっく、やめい。チリコ……」


再会の感動に老教授を揉みくちゃにして着衣を脱がす幼女チリコは、孫娘に見えて同期の幼馴染の仲だ。…もしかしたら恋仲かも知れない。


手枷を外しても丸裸にされたオー教授は囚人かと見えた。


「それじゃ少し飛んで来ます」


「マキト君、お気を付けて……」

「爺さんの事は、俺たちに任せろッ」


僕はグリフォン姿のファガンヌに荷物を持たせて舞い上がる。今度はバクタノルドとゲフルノルドとの国境の付近を西へ飛行した。夕日に向かって飛ぶとオー教授の姿に似せた頭蛇(ずだ)袋が揺れる。…夕日のシルエットに上手く偽装が出来たろうか。





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