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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十一章 北の三国に伝説あり
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ep135 飛竜の谷と遺跡

ep135 飛竜の谷と遺跡





 ミナンの町は鉱山都市として発展し山の麓には多くの工房を配している。鉱山を背にした町は城壁で囲まれた砦とみえる。そこから南へ広がる森林地帯を挟んで遠くには特徴的な三連山が見えた。…飛竜山地だ。


飛竜山地にはその名の通り飛竜が生息しており、工房都市ミナンも度々の飛竜の襲来に備えて城壁を築いていた。また、その土地柄か帝国領でも独立心の高い地域であり、領主は地元の有力者が任命されている。


僕らはオー教授と調査隊を遺跡へ案内したという案内人を探したが、あっさりと発見出来た。


「ズーラン親方。お久しぶりです」

「おう、小僧か……」


ズーラン親方は巻物工房の主で、相変わらずの緑色の顔をして面倒くさそうな目で僕を睨む。顔色と目付きの悪さも相変わらずな男だが、久しぶりの再会にも感動は無い様子だ。


「オー教授の行方を教えて下さい」

「うーむ。それがなぁ…」


僕は挨拶もそこそこに用件を尋ねた。ズーラン親方の話では調査隊を南の森の谷底にある遺跡へと案内したが、ひと月経ても調査隊は町へ帰還しなかったと言う。


「あん、谷は飛竜の縄張りだッ、既に飛竜の腹の中じゃねーか?」

「そんな……」


「俺も谷間の手前までは様子を見ぃに出たが、何頭も飛竜が現われては太刀打ちできねーよ」

「そんな場所で、ひと月も……いや、既に三月も」


「…」


絶望的な予想に沈黙がその場を支配した。しかし、ちみっ子教授が宣言する。


「分かった、遺跡の調査をするのじゃ!」


そう言うと思った。


………



僕らはミナンの町で人足を募集し南の森へ向かった。ミナンでは水の神官アマリエの心強い援軍を得た。そのアマリエが言う。


「マキトさんご無事で」

「大丈夫、すぐに戻りますよ」


アマリエは水の神殿を建設するために工房都市ミナンに滞在していた。マキトと再会するのは半年ぶりだろう。その水の分神殿の運営も順調な様子で冬の間に信徒の数を確実に増やしていた。


森の中で荷車を曳き資材を運ぶのは人足の男たちだ。男たちは水の神殿の紋章を(かたど)った護符を身に付けていた。


「その護符は、何のご利益(りやく)がありますか?」

「俺たちがアマリエ様を信じる心は本物だッ」


「いえ、疑う訳ではありませんが……」

「今なら、護符に加えて女神像をお付けします。ゾッ」


余計な事を聞いた所為で水の神殿への入信を勧められるが、僕は無信心だ。


そんな人足たちを加えて僕ら、救援隊は森を進んだ。


「あん、谷が見えるぞ」

「…」


案内人のズーラン親方はこの森で狩りや素材の収集も行うというベテランだ。その親方も恐れる谷間は飛竜が餌場として狩りを行う場所だった。少し開けた場所から谷間を覗き込むと飛竜の姿が見えた。


谷間は意外と広くて広大な範囲が沈下して断層が出来た様に見える。崖地はかなりの急斜面で落ち込み谷底は広く灌木が茂っている。積雪の時期とは風景が異なり気が付かなかったが、ここは僕が以前に遭難した場所だ。遺跡の場所も大方の記憶にある。


「ここから、谷底まで下るのは難儀ですねぇ」

「迂回するしか、道は無い」


僕らは崖地を迂回してさらに西へ回り込むと谷間の出口があった。


救援隊は僕ら六人に荷車と人足を加え十名を超える多人数だ。そのため遺跡までの侵入に選抜隊を結成した。


まず、遺跡の場所を知るズーラン親方と森の小人と見えるチッピイ。次に冒険者の剣士マーロイと治療師のナデア。そして、僕とミーナだ。


「お主らに頼むじょ~」

「僕に任せておくれよ~」


ちみっ子教授とチッピイは森の妖精の流儀で乱暴な抱擁を交わし、傍で見ると仲良しの子供が取っ組み合いの喧嘩をしている様子だけど、妙に親近感を覚えて共感していた。…森の妖精の儀式だろうか。


僕らは二人一組でマオヌウの革を被り静かに前進した。マオヌウの革は大きく傘状にして表面を岩に偽装している。谷の上空を飛ぶ飛竜に餌とは見えないハズだ。…名付けて亀作戦。


静かに亀の歩みで谷底を進むと枯れた小川があった。すでに雪解け水も枯れて夏の暑さが沁みる。


「ふう、上手く誤魔化せたかな」

「!…」


猫顔の獣人ミーナが無言で警告を発すると、若い飛竜が近づいて来た!


皆も動きを止めて身を竦める亀の防御態勢だ。


若い飛竜は急降下から反転してその長い尾を地面に叩き付けた。獲物を炙りだす攻撃と見える。


「ぐっ…」


マオヌウの傘に衝撃と石の破片が当たるが、身を低くして衝撃に耐えた。驚いて灌木の茂みから小動物が飛び出して行く。


僕らは飛竜が遠ざかるのを待った。


………



無事に遺跡の入口らしい洞窟へ辿り着いた。


「ふぅ~、飛竜は懲りごりだぜぇぇ」

「あんたもうひと頑張りだよ!」


剣士マーロイは腕を振るう活躍も無くてぶう垂れるが、奥さんのナデアに尻を蹴られていた。…いつもの夫婦漫才か。


「俺もここへ入るのは初めてだが、こりゃすげーな」

「魔方陣が……動いてます!」


ズーラン親方と森の小人チッピイは遺跡の様子に驚いている。僕も以前と変わり活気付いた遺跡の様子に興味を隠せない。遺跡の魔方陣には魔力が流れて淡く輝き、魔方陣を守る様にして半円球の岩がゴロゴロと床面を這い廻っている。その岩の様子は生物と言うより機械の類に見える。


「オー教授たちが、稼働させたのでしょうか?」

「さぁ……分からん」


あまり遺跡に興味を示さない治療師のナデアが男どもを指揮する。


「手がかりを探しましょう」

「「 応う! 」」


その日は、オー教授の痕跡を探した。


遺跡で野営をしたにも関わらず、遺跡の調査隊は忽然と姿を消した様子だ。飛竜に襲われたなら遺品が散乱しているだろう。


この洞窟から続く遺跡の天井は破れ目から太陽の光が差し込み照明となっている。魔方陣を調べると大地から魔力素を集めて遺跡の装置を稼働していると推測された。


「こっ、これはっ!?」


チッピイが魔方陣に新しい書き込みを発見した。流石に巻物店の小僧は良く働く。


「…バクタノルドに、向かう…」


古文書に似せた書き込みはオー教授の筆跡と見える。僕は闇雲にオー教授の研究室を整理した訳ではない。その自筆の著書と資料を読み分類して保管棚を整備したのだ。オー教授が目的も無しに遺跡に傷を付けるとは考えられない。…これは緊急のメッセージだ。


僕らは有力な手がかりを得た。


………



遺跡からの帰路に迷惑な御仁が居た。


「ふはははっ、焼き尽くせ…【火球】!、切り裂け…【突風】!」


-GYABOOF-


飛竜が火球を避けて反撃するのを大盾を構えた男が防御した。その背後からしょぼい魔法を連射するのは貴族のバカ様と見える。お付きの魔法使いが援護に火球を投じる。


-GYABUUUF!-


増々と飛竜の怒りを誘い攻撃が激しさを増した。


「お前たち、逃げろッ!」

「はっ!?」


ズーラン親方は貴族のバカ様を援護すると見せかけて近づき、突然に貴族のバカ様を殴り倒した。


ばきっ、どさっ、しゅたっ!


咄嗟の出来事で主人を攫われたお付きの護衛は、貴族のバカ様を抱えて走るズーラン親方を追いかけた。


「まっ、待てぇ~」

「曲者ッ!…」


全力で逃げるズーラン親方は森の中でも早い。森の小人チッピィは得意の地形で飛竜の追跡を妨害した。弩弓に匂い玉を付けて虚空へ発射すると、煙の航跡を残して空に障害物(アーチ)を描いた。飛竜にも煙の臭いは有効の様子だ。


僕らも野営地を放棄して逃走した。





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