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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十一章 北の三国に伝説あり
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ep133 アルノルドの収穫祭

ep133 アルノルドの収穫祭





 古都アルノルドの城下町へ到着した。赤の月は日差しも暑く夏を感じさせる。町は夕闇に負けじと篝火を焚き熱気を増している。さらに街路には出店が覇権を競い祭の観光客が人波をなしてた。


町の飲食店も酒場も食品店も蔵を開き、麦から作られた酒が普段の半値で販売されている。その影響で街は大量の酔っ払いと帰宅難民を量産している。屋台の店員も麦酒を飲みながら接客の様子だ。…金の勘定は大丈夫か。


農地で遭遇したお嬢様の正体はすぐに判明した。お嬢様はサリアニア・シュペルタンと言う侯爵家の姫君だ。


「あっ、あのお嬢様は、シュペルタン侯爵家の……」

「まじかッ!」


剣士のマーロイが麦酒の泡を飛ばして驚く。集めた情報を纏めると、サリアニア姫は帝都の幼年学校を繰り上げ卒業して実家に帰省したと言う。しかし、幼年学校の噂では乱暴者との評判で暴力事件を起こしたらしい。…侯爵家の体面の都合で退学させられたとの疑惑もある。


しかも領地に帰国してからは冒険者の真似事をして、魔物の討伐に精力を傾けている様子だ。…ただの戦闘好きかと見える。冒険者たちの呼び名は「暴れ姫」という…どこかの将軍様が聞いたら落馬して笑いそうだ。


「しかし、今は麦酒を楽しむのじゃ」

「教授うぅ……」


ちみっ子教授が酒杯を呷る。僕は屋台で購入した薄焼きのパンをテーブルに置いた。チーズとハムと野菜を乗せたピザ生地に近いと見える。僕は特製の魔道具を取り出して麦酒を冷やした。魔道具の上部では冷めた腸詰を焼き火力に無駄もない。


奥さんのナデアは情報屋と接触している。猫顔の獣人ミーナは独自に町の探索だ。男二人とちみっ子で酒を飲むのも寂しいと思う。ティレル女史は未だに帝都か。


そこへ侵入する影があった。


「マキト・クロホメロス卿とお見受け致します」

「はっ!」


そこには戦闘メイドが微笑を得て立っていた。


………



 古都アルノルドの城下町を探索していた猫顔の獣人ミーナは人ではない影に遭遇した。


「やはり、付けていた様だにゃあ~」

「どうしても、君を招待しなくては、ならない用だニャ」


帝都から馬車を追跡していたと言う、しゃべる黒猫のモーリシャスが現われた。


「村長には話せない用件かにゃあ?」

「今回は余計なお供が、邪魔なのニャ」


古い城下の探索に観光気分で浮かれていた自分を反省する。


「うぅ…仕方ないあたいが話を聞くわ…」

「付いて来なッ、人に呑まれし者よ」


ミーナは密偵の役目を優先するしか無かった。



………


メイド姿でスーと名乗る少女は暴れ姫サリアニアの使者としてマキト・クロホメロス卿に面会した。スーの話ではサリアニアお嬢様に別段の用件があるそうだ。


「それで、お嬢様が自ら何のご用件ですかね?」

「無礼者っ!」


お付きの女騎士が怒鳴るのをサリアニア姫が制して言う。…意外と自制心はあると見える。


「クロホメロス卿の手腕は存じでおります」

「それは、冒険者としての腕か、地方の弱小領主としての働きですか?」


「いづれも、存じでおります」

「…」


先日の遭遇戦では面識も忘れていた様子に、急いで僕の身辺調査をしたらしい。…こちらも初見では分からない。


「それで、ご助力を頂きたいとお願い申し上げます」

「ぐぬぬぬ…」


サリアニア姫ご本人よりも、お付きの護衛騎士が苛立っているのは何故か。とりあえず頼みごとの要旨を尋ねた。サリアニアの話では冒険者を集めて大規模な腐肉喰(グール)狩りを行うそうだ。帝都から西の平原に潜伏した腐肉喰(グール)の残党を一掃したいと言う話だ。


「平原は広うございます。冒険者を動員しても、人手が足りぬでしょう」

「侯爵領の兵士には頼めぬ……」


僕が言外に提案するのに、明確な拒否があった。…何か事情がありそうだ。


「数日ならば、協力を致します」

「うむ。結構である」


穏便に会談を終えた。


………



 古都アルノルドの郊外から森に入ると、清流と見える小川があった。しゃべる黒猫のモーリシャスが言う。


「人に呑まれし者よ。ここで身を清めるニャ」

「ぐっ……」


猫顔の獣人ミーナは水浴びが苦手だった。


「これから、女王陛下と謁見するのに、その衣装は頂けないニャ」

「やっ、やるわよ!」


人族の宮中であれば、正式なドレスか騎士の装束も必要だろうが、ここは猫人(ねこひと)の王国である。当地のしきたりに従うしかあるまい。


相手を睨み殺せる顔をしてミーナは小川へ飛び込んだ。


………



収穫を終えた麦畑で長大な横列陣を組み、一列毎に進軍を始めた。兵士として訓練されていない冒険者たちに隊列行動は退屈だろうに、バラバラと隊列が出て行く。


麦畑は見晴らしが良くて危険は無い。農作物が植えられた畑は荒らさぬ様に通り過ぎて、夏草が茂る牧草地には長柄の武器を突き入れて魔物を狩りだして行くのだ。…農民に配慮するのも領主の務めだ。


「そっち! 行ったぞッ」

「おおぅ」


駆り出された腐肉喰(グール)が仕留められた。


「この護符は腐肉喰(グール)が近付くと反応するのさ…」

「へぇ~」


剣士マーロイが俄かに腐肉喰(グール)対策の知識を披露するが、若手の冒険者は関心しきりの様子だ。…マーロイの得意顔がうざい。他にも護符を所持した冒険者が混じっているバズだが、彼らの目的は黒い魔石を売却してひと儲けを狙うだろう。


「…俺は暴れ姫に乗りたいぜッ…」

「…おらは咥えさせてぇ……」


この掃討戦で活躍すれば暴れ姫サリアニアからご褒美がもらえると言う噂があった。暴れ姫は少女にして冒険者の人気があるらしい。…おい鬼畜ども、お前ら落馬した上に噛みちぎられるぞ。


サリアニア姫は貴族の令嬢として育てられ、専属メイドの食事管理に栄養状態も良く数年後の美貌は約束されて、お付きの騎士が鍛え上げ引き締めずとも魅力的な胸部装甲を所持している。…まさか玉の輿を考える冒険者は…沢山いる様子だ。


貴族と縁を結ぶにもサリアニア姫が他家に嫁に行けば侯爵領との結びつきとなる。貴族の結婚は家と家の利害に関わるのだ。…冒険者の出る幕は無い。


古都アルノルドから帝都の方角、つまり東へ向けて掃討戦を続けた。


………



樹上から何十何百という光る眼が獣人のミーナを見下ろした。…分かっている侮蔑されているのだ。武装も衣服も剥ぎ取られて抵抗も出来ない。


「にゃおにゃお…」

「にぎゃおにぎょお…」


周りの獣の気配が濃くなった!


-NIGYAO!-


ひときわに威厳と威迫のある鳴き声が響いた、途端に森が沈黙する。


「参内を許そう。人に呑まれし者よ」

「ッ!」


いち段と高い樹上から威厳のある声がして見上げると。白く毛長で美しい猫がいた。どういう原理か白い毛が黄金色に光る。


「なぜ、あたいをここに呼んだニャ?」

「妖精の友として、話がある…」


猫人の王シドニシャスは樹上から語りかけたが、逡巡を見せた。…ここへ来て勿体ぶらないで欲しい。


「本来であれば、人族に味方する(いわれ)れは無いが、古き約定は果たされた…」


何の事だかミーナには理解の外だが、


「クロホメロス卿には恩義もある。この話は内密であるが、屍鬼どもが人族の姫を襲う計画がある…」


はっ、村長(マキト)に内密の情報(リーク)となっ!


「心して申し伝えよ。そして、()くと()ね」


そういうと風景が変容し、ミーナは森の外へ(ほう)り出された。


猫人の王は勝手なものか。


………



 掃討戦も三日となり、流石の冒険者たちも疲れが見える。折角の収穫祭を放棄してこの作戦あるいは儲け話に参加したのだ、冒険者たちも大きな戦果か手柄が欲しいと思う。


腐肉喰(グール)の巣を、発見しました!」

「取り囲めぇ~」


それは荒廃した畑に放置された小屋と見えるが、床下から多数の腐肉喰(グール)が湧き出していた。直ちに包囲体勢となり狩りが始まると、冒険者たちは獲物を取り合い乱戦となった。統率された兵士の働きは期待できない。


それでも欲に駆られた冒険者の戦闘意欲は高くて、多数の腐肉喰(グール)も圧倒していた。


「姫様、これは楽勝です」

「まぁ、ジルったら。姫様ではなくてよ」


暴れ姫サリアニアは上機嫌で応えた。姫様ではなくお嬢様と言うのは…設定か公然の秘密か。


「はっ、サリアお嬢様……本陣を進めますか?」

「うふふ、部下の手柄を横取りはできないわ」


意外と戦況を冷静に見つめるサリアニア姫は、討伐隊の穴を埋めるべく本陣を進めた。…部下の尻拭いも大将の務めだ。


その時、手薄となった本陣の右手に騒動があった。取り逃がした腐肉喰(グール)が暴れているらしい。


「スー様子見て報告なさい」

「はっ!」


サリアニア姫は腹心の戦闘メイドのスーを現場へ派遣した。信頼できる部下は少ないらしい。続いて本陣の左手にも騒ぎがあった。いちど包囲陣を見直した方が良いかも。


また、逸れ腐肉喰(グール)だろうと思うが、左手の冒険者から悲鳴が上がった。


「ぎゃぁぁああ」

「つッ、強えぇ…」


腐肉喰(グール)の身体能力を凌駕して冒険者を蹴散らす魔物がいた。…あれは屍鬼だ!


「屍鬼だ! 油断するなッ」

「しき!?…」


屍鬼は不死の魔物と言われて身体能力も高く、腐肉喰(グール)よりも凶悪な毒爪と牙を持っている。並の冒険者では手強いだろう。腐肉喰(グール)と侮って近付いた冒険者が倒されている。


「まずいわ、感染しちゃう!」

「バカ野郎ッ、距離を取れぇ~」


治療師のナデアが叫ぶが、負傷者よりも屍鬼の討伐が先だ。本陣の左を突破された。


「ひ、お嬢様!」

「きゃっ」


己も武人として鍛えていたハズのサリアニア姫が落馬した。咄嗟に護衛騎士のジルが庇うが馬が屍鬼の餌食となった。


「おのれ、屍鬼めッ!」

「ッ!」


護衛騎士ジルの斬撃が屍鬼に振るわれるが、屍鬼は強靭な爪で受け止めた。じりじりと(ちから)が入る。


しかし、屍鬼は一体では無かった。


別の屍鬼がサリアニア姫を襲う。


「このッ下衆(ゲス)が!」


お嬢様にあるまじき罵声を飛ばして暴れ姫サリアニアが大剣を振るった。


風の刃を纏い大剣が屍鬼を真っ二つにするが、屍鬼の毒爪がサリアニアに届いた。


「くっ…」


急ぎ駆け戻った戦闘メイドのスーが残りの屍鬼を鎖で拘束した。サリアニア姫の顔色が悪い。


「衛生兵! 治療師っ早く! 姫様が……」


本陣は混乱の中で屍鬼を討伐した。





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