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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二章 魔物と戦って見たこと
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014 アルトレイ商会

014 アルトレイ商会






 僕は港にほど近い倉庫街にある魔道具の店を訪ねた。そこは倉庫を改装したらしくアルトレイ商会の看板が掲げられている。

ギスタフ親方の伝手を告げると既に話が通っていたのか、すぐに小奇麗な店舗の奥へ…事務所に案内された。


「私が商会長のキアヌです。きみがギスタフ君の弟子の?…」

「はい。マキトと申します」


改まって自己紹介をする。商会長キアヌは優男風の美中年だ。この年で商会長とはやり手かも。


「ギスタフ君とは弟子仲間でね。私の方が兄弟子にあたる」

「よろしくお願いします」


商会長キアヌが優しげに微笑む。


「早速だが、きみに見せたい物がある。ついて来たまえ」

「…」


そう言って事務所の裏手に案内された。


「裏は作業場でね。魔道具の組立てを行っている」

「へぇ」


見ると数人の職人が忙しく組立て作業をしていた。


「これを見てくれ、何をやっているか分かるかね?」

「魔力路の修理ですか…」


ひとりの職人が両手に魔石を持ち魔力を通している。


「いいや、魔力回路の複製をやっている」

「複製!?」


両手とも魔力の使い方が異なる様だ。


「左手に見本の魔力回路を持ち魔力走査して、その魔力回路を右手の魔石に書き込む」

「そんな事が出来るのですか?」


出来るとも、商会長キアヌは力強く頷いた。


「まず、左手で魔力走査して感覚をつかむ事」

「…」


見本の魔力回路として魔石を受け取った僕は、魔力走査を試した。


「どんな感じだね?」

「迷路の中に水を流す様な…分岐して曲がって流れて合流…」


商会長キアヌの指導で要領を得た。なかなか優秀な様子だ。


「そう、良い調子じゃないか!」

「はい」


しばらくして、魔力走査の感覚を掴んだので次の手順に進む。


「次に新しい魔石を右手に持ち、今の感覚に沿って魔力を通すことで魔力回路を形成する」

「なるほど」


商会長キアヌの手本を見て僕は魔力を通す。

何やら魔石の抵抗はあるが、複雑な経路で魔力が通っていく。気持ちイイ!


「いいねぇ。上出来じゃないか!」

「ふう…」


僕は心地よい疲労と魔力回路を形成する新感覚にハイな気分のまま呆けていただろう。


「じゃ、この調子でガンバロウじゃないか!」

「ハイ?」


その日、商会長キアヌの手解きでスキルを得た僕は魔力回路の複製作業に使われて、ぶっ倒れた。



◆◇◇◆◇



 僕はアルトレイ商会の店の裏手にある作業場で目覚めた。

ぐぬぬ。魔力不足で倒れるまで働かせるとは、とんだブラック商会かも。


「昨日は災難でしたね」

「はははぁ」


職人の男に声をかけられたが、疲れた笑いしか出ない。


「商会長は仕事熱心で限度を知りませんから…悪気はないのですよ」

「いちおう世話になっている身としては…」


彼の話では作業場に寝泊りしても良いとの事で、商会長キアヌの許可があるそうだ。折角なので、炊事場を借りてオーク肉を生姜焼きにしてみた。ジューシーな肉が焼ける。香ばしい匂い。


「どうぞ」

「いいのかい?」


港町トルメリアでの食事は魚介類が主で肉は珍しいそうだ。喜んでくれて良かった。その晩は旅の疲れもあり、魔力不足の疲れもあり、ぐっすり眠った。



◆◇◇◆◇



 次の日はトルメリアの町に出かけた。魚介類を買い込む予定だ。


朝の市場に向かう噴水広場でアマリエを見かけた。いつもの神官服ではない、春めいた色のスカート姿だった。アマリエは噴水の水を両手でひとすくいしてバラ撒いた。途端に虹が現れる。


「ん…」

「アマリエさん。虹の魔法ですか?」


見るとアマリエは濡れた手をひと振りして乾かし振り向いた。


「ええ、今日はお勤めが休みなのよ」

「スカート姿も良いですね」


微笑んだアマリエの、長いスカート下に見える小股に萌えた。


「うふふ、年下のくせに、お上手ね」

「はは…」


アマリエは何かを考える様に、


「水の魔法でも…何も無い所から水を生み出すのは、結構大変なの…」

「そうは見えませんが」


物憂げに言った。


「こうして水と触れ合っている方が、水の魔法は使い易いのよ」

「へぇ」


アマリエはその場でターンを決めてみせた。


「私のお買い物に付き合っていだだけるかしら?」

「良いですよ」


話を聞いてみたところ、アマリエは水の魔道具を見たいと言うので、この先にある魔道具店のシンデイ商会へ向かった。


「!…」

「いらっしゃいませ。お客様!当店のおすすめ。水の魔道具でございます」


女性の店員が積極的に接客してきた。


「…」

「一杯どうぞ。疲れが吹き飛びますよ」


見ると台座に力強い彫刻のある金属製の杯に真水を満たして捧げている。


「本当に疲れが取れるのかな…」

「もちろんでございます。ひとつお試しを!」


僕は恐る恐る杯から水を飲む。キピーンと僕の中で何かが立ち上がる。


「何だか、疲れが取れて元気が出てきた気がする」

「売れ筋ですよ~」


いちおう検討してからまた来る、と言い訳して店を後にする。アマリエに感想を聞いてみる。


「胡散臭い…」

「そうなのか?」


アマリエは嫌な臭いをかいだ様な顔で答えた。


「水はタダの水ですけど、器の方が怪しいですわ」

「うーむ」


水の神官が言う胡散臭さとは、どういうものか分からないが…その後は市場をまわり、新鮮な魚介類と念願の魚醤を手に入れた。


アマリエと別れ倉庫街にあるアルトレイ商会に戻ると商会長のキアヌがいた。職人の男と水の魔道具を分解している。


「これは?」

「最近グラントナ商会から発売された水の魔道具だ」


水の魔道具の上部は透明のガラスの様で上品な造りとなっている。


「…」

「しかも、この水を飲むと気分が高揚しスッキリするとの事だがね」


商会長のキアヌはバラバラに分解された魔石を指して言う。


「どう分解しても、仕掛けが分からない…おそらくは、この黒い魔石が原因じゃないかね」


最新の水の魔道具には水の魔石の他に黒い魔石が使われていた。

この魔石が気分スッキリの効果をもたらすのかも…魔力走査してみたが複雑な術式で読み取れないそうだ。


「魔力走査で分からないのでは、複製も無理だろう…」


商会長のキアヌは気落ちしたのか、ぶつぶつ考え事をするかの様子で解散となった。


僕は買い込んだ魚介類を捌き久しぶりの魚料理を満喫した。残った魚は、作りかけの乾燥の魔道具を8連結に魔改造して乾燥室をつくり干物にした。


魚料理に付けた魚醤の味は魚臭さが気になりイマイチだった。


煮物に使うのが良いだろう。





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