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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十一章 北の三国に伝説あり
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ep131 帝都の宸襟を騒がすもの

ep131 帝都の宸襟を騒がすもの





 皇帝陛下との謁見は実に事務的なものだった。意外と早くに皇帝陛下へのお目見えが叶うのは喜ばしいが、帝国の徴税官ティレル女史は先に帝都の仕事を片付ける為この場には居ない。


帝都の穀倉地域であるカンパルネの地に脅威となった苔の巨人を討伐して氷漬けにしたものの、ひと月後には再度の暴走を許したが阻止すると言う一連の騒動は表彰とも譴責ともとれる報告内容で宮廷の評価を二分した。


また、帝国の植民地であったイルムドフの独立騒動では直接の関与は無くとも、僕は近隣のタルタドフ領主としての手腕を問われた。幸いにもイルムドフの革命軍には帝国本土へ反抗するだけの戦力も無くて、今は荒廃した国土の再開拓に力を注いでいる。いずれは帝国の傀儡政権として取り込む算段だろう。


そうした微妙な評価を感じて僕が恩賞を辞退すると、皇帝陛下は問うた。


「マキト・クロホメロス・タルタドフよ。そなたの領地は安寧であるか?」

「はい。宸襟を騒がせる事はございません」


「ほほう、良き哉」

「有難き幸せ、にございます……」


宮廷儀礼のやり取りを経て僕が皇帝の御前を退去するかと思えたが、最後に皇帝陛下からの勅書があった。極秘とはいえ勅命である。


………



 僕は帝国の憲兵総本部を訪れた。密命は現在の帝都を騒がせる問題を憲兵総監と協力して解決せよと言うものだった。


憲兵総監はラングン伯爵という男で現場からの叩き上げらしく厳つい風貌に禿げ頭を晒している。とても伯爵さまとは見えない。しかし、憲兵総監ラングン伯爵はこの任務にご不満な様子だった。


「若造が、皇帝陛下の密命だとッ!」

「ッ!…」


ドカンと重厚なテーブルを拳で打つ音が室内に轟くが、職員はいつもの事かと平然としている。僕は気圧されつつも尋ねた。


「帝都の鼠狩りなど、清掃局の仕事でしょう。なぜ、閣下がそのような……」

「ふんっ【威圧】」


職業柄か常に威圧の気を発しているらしい。僕は背筋を糺して問う。


「憲兵隊を動員するような事態になるかと?」

「それには、私がご説明いたします」


総監の部下と見える官僚風の男が代わりに事情を話した。帝都では害獣として鼠から猫も野犬も駆除していたが、冬場から春にかけて帝都の内部にまで腐肉喰(グール)が出没する事態となった。事態を重大とみた帝都の行政官は清掃局と冒険者ギルドを総動員して地下水道の探索を行い戦果を上げた。それでも、腐肉喰(グール)による市民の被害が現在も続くと言う深刻な事態だ。


何者かが企む帝都への破壊工作との可能性をも考慮して、市内の警護と陰謀の捜索に憲兵隊が動員されたそうだ。情報局は何をやっているのか…職務怠慢である。


僕は憲兵隊の事務方と今後の作戦を相談した。


………



 雑踏に紛れた裏路地で、黒猫が立ち話を始めた。猫顔の獣人ミーナは警戒もあらわに身構える。


「にゃあ、人に呑まれし者よ」

「お前は、何者だ!?…にゃあ」


「君のご主人には、いささか面識がある。モーリシャスという者ニャ」

「モーリ・シャス?……」


しゃべる黒猫は猫人(ねこひと)と呼ばれるが獣人ではなく妖精に近い種族と考えられている。猫顔の獣人ミーナは警戒を解いた。


「君のご主人……マキト殿は約束を果たしてくれたようで、帝都の暮らしは楽になったよ。女王陛下に代って感謝を申し上げるニャ」

「…」


黒猫がしなやかな動作で礼を取った。猫顔の獣人ミーナも釣られてメイドの礼法を見せる。


「友好の証しに、ひとつ教えよう。この帝都の地下に腐肉喰(グール)の巣がある事を」

「ニャにぃ、巣だって!?」


黒猫モーリシャスの話では、腐肉喰(グール)の巣とは定期的に腐肉喰(グール)が発生する魔方陣のようだ。…これは村長(マキト)様にご報告せねばなるまい。


にゃあ、ニャ、にゃあと情報を交換して二体は道を分かち互いの主君の元へ走った。


………



 冒険者ギルドでは新手の稼ぎに活気付いていた。


帝都の近郊で腐肉喰(グール)が発生する事を契機として冒険者ギルドには討伐依頼が多く寄せられた。しかし、腐肉喰(グール)から取れる黒い魔石は品質も悪くて金にはならず、討伐の仕事としても敬遠されていた。


ところが、帝国のモーリス・シュペルタン卿の発案で黒い魔石を高額な魔石に加工して売却する方法が考案された。その方法はまず、護符と呼ばれるお守りを冒険者ギルドで購入する。護符には特別に加工された黒い魔石が内臓されており腐肉喰(グール)を討伐するとその黒い魔石を吸収して大きく育つと言うのだ。


詐欺の様なその方法を半信半疑に試した冒険者のグループが大きく育った黒い魔石を冒険者ギルドへ売却して大金を手に入れたという話だ。護符には腐肉喰(グール)を弱体化する効果もあるという。


「護符を売ってくれ!」

「オレもッ!」

「俺も!」


護符は銀貨三枚とそれなりに高価だが飛ぶように売れた。投資のためか、護身用か……それでも腐肉喰(グール)を数多く討伐し黒い魔石を育てれば儲かる仕組みと見える。…悪魔的な商魂と思う。


その商魂を持つ冒険者がここにも居た。


「うははは、護符を手に入れた。ゾッ……」

「あんた。何を無駄買いしてるの?」


剣士マーロイは護符を手に入れてご機嫌だったが、背後に悪寒を感じた。奥様のナデアはご立腹な様子だ。


「こ、こりはぁ…ア痛ァタタタタ…」

腐肉喰(グール)の討伐に、何日かかると思うのよ!」


耳を抓られて剣士マーロイは涙顔のまま連行された。


この後にナデアの説教が怖い。


………



 ちみっ子教授のチリコは魔法学会の建物を訪れた。ここは広く学問を志す者が所属する帝国でも権威のある学会だ。オー教授が遺跡調査の事前情報を得る為に学会本部を訪れたとすれば、痕跡があるだろう。


学会本部の助手と見えるお姉さんが対応した。すでに昨日からいくつもの部局を廻り、かれこれ七件目の訪問である。…お役所仕事もままならない物だ。


「オー・タイゲン様ですか……帳簿ではシュノーダ博士との面会記録があります」

「おぉ、シュノーダ博士は今どちらに、おられるか?」


シュノーダ博士もオー教授と同じく魔方陣の研究者だろう。


「残念ながら、帝都を不在にしております」

「では、行き先は……」


行方不明のオー教授を探す手ががりを掴みたい。


「古都アルノルドへ向かわれた様です」

「やはり、そうか。忝い」


古都アルノルドは王都の西方にあり、アアルルノルド帝国の発祥の地である。


「いえ、お気を付けて」

「うむ」


助手のお姉さんに見送られて学会本部を後にした。


………



 僕は腐肉喰(グール)掃討作戦に協力していた。


帝都の南にから北部へ流れるナダル河の取水口では土の魔法使いを動員して、突貫工事で作業が進められていた。腐肉喰(グール)は王都の地下水道に潜伏している事は間違いないが、地下水道は広大で人の入れぬ隙間や人知れず存在する隙や空間も多い。過去に三度の腐肉喰(グール)掃討作戦では壊滅には至らない様子だ。


腐肉喰(グール)掃討作戦の遅々とした進捗に業を煮やしたラングン伯爵の発破もあり、


「今やれ。直ぐやれ。もっとやれ!」


と、帝都の兵員をも徴用して作戦は準備された。僕は帝都の護岸で図面を睨み工兵隊の士官へ指示をした。…勅命の威力は絶大である。


「臨時の取水口を造ります。水門は仮設の物を設置して下さい」

「はっ!」


担当の士官が工兵を連れて現場へ出向く。僕は順に作業班を編成して配置するだけの楽な立場だ。開拓村の治水工事の経験が役に立つ。


そうして工事は驚くほどの速さで完成した。


一度きりの水門が取水を始めた。





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