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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十章 学園生活に潤いを
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ep128 貴族の邸宅

ep128 貴族の邸宅





 砲術部の部員たちは海岸線にある遺棄された砦に登り砲術の訓練をしていた。過去にはキシェテジの町を防衛していた砦だろうか、東には海岸線を望み西には生い茂った密林が見える。


砲身は訓練用に製作した木製で持ち運びも容易に見える。特に新人の女子コリンダはお気に入りの様子で砲身を愛おしく撫でている。


「ぐへへへ…固くて太くて逞しい…この手触りも…感じちゃうわぁ」

「コリンダ。準備なさい!」


彩色のオレイニアがコリンダの緩んだ顔を見咎めて命じる。…まったく、砲撃の腕は良いのだけど気の緩みは注意したい。


「はっ、はい!」


砲撃には水魔法と火魔法を同時に使うが、理想を言えば風魔法も併用したい。砲弾を粘土細工にするなら土魔法も必要とする。その全てを体得している彩色のオレイニアにしても【砲撃】の魔法は複雑だ。…気の緩みは事故に繋がる。


「砲手、狙え! 密林の中央…」


オレイニアは西側の密林にピヨ子の姿を目撃した。…あんなに急いで急旋回するなんて…魔法競技会では見慣れたサインだ!


「目標、神鳥(かんとり)の直下へ」


部員の女子たちは砲身の狙いを調整した。


「一斉射撃、放てッ」


「は、はいっ…【砲撃】」

「いくわよ!…【砲撃】」

「行っけぇ!…【砲撃】」


-BOMF!!!-


見事な同時斉射は実弾ではなく水の砲弾だった。無人に見える密林でも水撒き程度の威力はあるだろう。砲撃を受けた木々が大きく揺れて傾く。


………


それは、横殴りの雨!……いや、暴風雨だった。


「ぎゃ!」

「ずぺらっ!」

「うっぷ…」


猛烈に大量の水と砲撃音が立て続いた。河トロルのリドナスは水を得た魚の様に暴風雨の中を駆け抜けて盗賊を狩った。


「カルロス。大義である」

「はっ」


アントニオが大盾でスタルン少年を守った様子だ。


僕らは無事に密林から脱出した。


………


 窮地を助けられた貴族の御曹司スタルン少年はとても砲術部の活躍に感激して僕らを貴族の邸宅へ招待した。今は晩餐会というか祝勝会というか学生の乗りで盛り上がっている。


遺跡で遭遇した盗賊はスタルン少年を狙ったらしく、銀級冒険者のカルロスたちは遺跡の案内人と護衛として雇われていた。僕らの同行はそのついでの様だ。


「巻き込んでしまって、すまん……」

「いえ。無事で良かった」


黒髪のさわやかイケメンが申し訳なさそうに謝るが、僕らはスタルン少年から謝礼を受けて許した。もはやスタルン様と呼ぶべきか。そのスタルン様は砲撃部の女子に囲まれて楽しそうだ。


「…無事を祝して、乾杯!」

「スタルン様に、乾杯ぃぃ」

「…この出会いに、乾杯…」


既に何度目かの祝杯に僕らはグラスを掲げる。果汁だと思ったら果実を醗酵させた果実酒だったので注意が必要かも。その透明感のあるグラスは開拓村のガラス工房で試験的に作成した物だ。南国の暑さでも清涼感が楽しめると言うのでスタルン様がお買い上げとなり本日の披露となった。


僕の商売も順調だ。


宴会場を後にしてスタルン様は屋敷へ帰った。この邸宅は別荘のひとつらしく僕らは滞在を許されて宿泊した。実家はかなりの資産家のようだ。そんな別荘で数日を過ごし砲術部の訓練も遊びも順調である。


僕は市場で南国の果実や香辛料を仕入れて帰途に付いた。


帰りの航海も無事にトルメリアへ到着した。



◆◇◇◆◇



短い休みを経て私立工芸学舎の講義が再開された。改変される科目もあるが、ほとんどは前期の続きである。僕らは学生の日々を過ごしたが、タリタドフの領主の務めと商売の仕事もあり多忙となった。


南国の貴族スタルン様からガラス器の大量注文を頂いた。なんでも貴族の晩餐に利用するには来賓用と予備も含めてテーブルに飾るガラス器もあり相当な数の注文だった。すでに開拓地のガラス工房へ依頼をしたが製作は大急ぎに進んでいる。


その注文の(ついで)だろうか、砲術部にも南国の果実など土産が届くのは義理堅い事だ。スタルン様とは上得意先として長くお付き合いしたいと思う。


「マキトさん。あたしにも…太くて逞しいの…下さいぃ」

「きゃ! サリィずるいわ! あたしが先よ~」

「先輩の、ご要望には全てお答えしますぅ…」


砲撃部の女子たちに捕まった。人が聞いたら乱交かと思われまいか…僕が練習用に木製の砲身を用意したのを知ってか、部員たちのおねだりに合う。


「くっ、サリィ嬢に手を出すとは、許さんぞ! マキト決闘しろッ!」

「あー、誤解ですから…砲術の勝負なら放課後に…」


いろいろと面倒になり決闘の希望者は砲術部へ丸投げしよう。僕は逃げるようにして研究室へ向かった。森の妖精ポポロには留守の間に研究室の管理を任せていた。


「ポポロ、ご褒美だ。味見してくれ」

「うみゅ! 美味しい。チャ!」


僕が試作したのは海藻から作る寒天に近い甘味で、ナッツの風味は杏仁豆腐に似た食感を演出する。…南国の果実と合わせると絶品である。


「試験栽培は、どうなったか?」

「ふぐっ、もぐもぐ……」


森の妖精ポポロが杏仁豆腐もどきを味わいつつ指す方の栽培棚を見ると、キノコが繁殖していた。


「おっ、成功したのか!」

「むふふふっ」


自慢げに微笑むポポロを置いて、僕は栽培容器を覗いた。そこには食用と見えるキノコの傘が並んでいる。量産化できれば、これも商売になるだろう。


その時、悪い知らせがあった。この手紙は、


「オー教授が行方不明につき、至急。救援を請う……」


僕らは救援隊を組織した。





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