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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十章 学園生活に潤いを
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ep126 開拓地の産業育成

ep126 開拓地の産業育成





 僕はタルタドフの南にある開拓村に滞在していた。


魔法競技会では予選から三連勝して僕らのチームは優秀表彰された。最後の勲章戦では危うい所を奇襲して勝利したのだ。おかげでトルメリア王国の魔術師勲章と報奨金を得た。最後まで勝ち残った上位チームは四天王と呼ばれるのは、恥ずかしい気分だ。


私立工芸学舎の祝勝会でも優勝チームの扱いだったが、残りの三つは王立魔法学院のチームである。それでも近年では稀な快挙との話で大いに盛り上がった。そんな狂騒にうんざりして僕は自分の領地タルタドフへ帰還した。


タルタドフの開拓地への入植は順調で主に農業従事者はタルタドフ村の近郊の東西の開拓地へ割り振られる。ここ南の開拓地は特殊な事情もあり獣人の割合が多い。住民が増えるにつれ露店から商店へ格上げされた店構えは競争もあり多様化してきた。


しかし、住民の増加はその中にもトラブルがあり自警組織として兵士の詰所が置かれた。同時に自由民の出入りを管理するため住民登録を行う役所を建設した。将来的には村の税収の基礎となるが、今のところは無税として免除している。帝国の徴税官ティレル氏との相談が必要だろう。


僕が領主としてメルティナに運営を任せた販売所は初期の役割をはたして次第に取扱い商品を民間へ委託している。武器と防具は西方の山岳から、失われた山の民の若手の職人が来て販売を行い工房では簡単な修理ができる。また農業以外にも狩猟や魔物の討伐を行う者の為に薬の販売を始めた。


僕は薬師の少女ビビに話かけた。


「やあ、ビビ。薬の販売は順調かい?」

「はい。今日も狩猟者のハンスさんが、買って行きましたよ」


「ほほう…」…ハンスとは不吉な名前だ。

「?…」


薬師の少女ビビは魔物の森の婆様の小屋で見習い修行をしていたが、薬草の調合と薬の販売のために僕が呼び寄せた。


「僕の研究工房を使って良いから、薬の在庫を補充してくれ」

「はい。あたいに任せてください!」


冒険者や狩猟者が増えるなら、本格的に薬の販売が必要だろう。


僕は開拓村の視察に出掛けた。


………


開拓村の南北を貫く大通りには商店と露店が立ち並び取扱い商品も増えている。僕は行商人のベンリンの店舗を訪れた。


「へいらっしゃい!」


威勢の良い若い店員が出迎えた。店舗は以前の露天から格上げされた小屋とも見える店舗だ。店員を雇うだけ上等とも言える。店の奥から顔見知りのベンリンが現われた。


「領主様、いらっしゃいませ」

「!…」


落ち着いた態度は好感が持てるが、領主様はやめて欲しい。ほら、若い店員が驚きに固まっている。


「ベンリンさん。店が新しくなりましたね」

「ええ、おかげさまで繁盛しています」


「裏のお店は順調ですか?」

「はい。近々に開業したします」


この店は雑貨を中心に何でも扱う商店の様子だが、裏手には別の店を構えている。僕はベンリンが何でも扱う商売人の姿勢を見て、とある福祉施設の運営をお願いした。いわゆる娼館の類だ。


開拓地の治安を守る兵士は領主の直属だが、自警組織や冒険者と狩猟者などの荒事向きの住民も多い。男たちの要望で兵士の宿舎に隣接し酒場を開業したが、溜まる物は溜まる。これも必要な施設なのだろう。


「開業したら、知らせてくれ……視察に行く」

「はい。毎度ありがとうございます」


これでは、僕が娼館を待ち望んでいる様子ではないか……足早に次の視察へ向かう。


大通りから東へ入ると河トロルの草庵が立ち並び。その中に河トロルが経営する公衆浴場として湯屋があった。河の畔で運営していた形式と同じだ。


「おぉ、これは(ぬし)様。ヨクゾ 御出で下さい マシタ♪」

「若葉の香りを入れてくれ」


「かしこまり マシタ」


河トロルの主人は接客も中々の者だが、他にも働く河トロルたちは人族の言葉を理解しない者が多い。僕は若葉の香りの薬湯に浸かり思考した。この開拓村の湿地の周りには河トロルの草庵が多く立ち並ぶのだが、中の住人は都度に入れ替わり定住する者は無いそうだ。人族の言葉を教える為にも学校の建設が必要だろうと思う。



◆◇◇◆◇



 開拓村の栽培試験場の水田には青々とした葉を茂らせた稲が植えられている。水田の作り方は詳しくもないが沼地に川の水を引き入れて実験栽培している。雨季の影響で近隣の河川は増水したが開拓地には問題は無かった。河川に設置した水門は機能している様子だ。僕は水門の点検を終えた。


河川は土色の水が流れて対岸の湿原は水没してどこまでが河川なのか判然としない。そんな環境でも河トロルたちは活き活きとして泥沼の河川でも魚を取り生活している。しかし他の住民たちは降り続く長雨に辟易している様子だ。とくに開拓事業に関わる者は工事の遅れにイライラも積もるらしい。今日も酒場は昼間から賑わうだろう。


僕は岩場に設置した工房を訪れた。付近は河川が運んだ土砂に比較して岩と砂利が多くて小山となり良質の砂礫があった。その砂礫を選別して石英を篩にかけると硝子の原料となる。僕は失われた山の民の硝子工房の主に依頼して硝子職人を借りた。折角の原材料を生かすため技術指導をお願いしている。教官の男が集まった弟子たちを見回して言う。


「硝子を溶かすには高炉の温度も重要だが、触媒の品質も重要だギィ!」


ひどい訛りが聞こえるが教官に文句は言えない。貴重な技術を教えて頂くのだ。…あれが触媒の炭酸だろうか白い粉末と見える。おそらく炭酸カルシウムか炭酸ナトリウムだと思うが判別は出来ない。しばらくは西方の失われた山の民から輸入する手筈となる、これも領主との取引の成果だ。


「そうそう、高炉の使い方も実技で学ぶが良いだギィ!」


職人を希望する若手は真剣に技術を習得している。僕が口を挟む必要は無さそうだ。硝子加工の技術提供を受ける対価に爆破の魔方陣の情報提供をした。苔の巨人の足元を爆破して罠に落とした魔力感知型の魔方陣である。魔方陣を大型化しても爆発力は期待できないから、それ程に危険な物ではなかろう。


………


硝子工房の近隣には僕の研究工房もあり、最近は薬草の加工と薬の成分抽出に利用されている。最近に試作した温度計は薬学系の研究者に好評で薬品を加熱する温度を測り、薬草園の温室の室温を管理したりと大活躍している。これと併せてアルトレイ商会の加熱と冷却の魔道具も売れ筋となった。


温度計はガラス管に水を封入していたが、中身を油に代えたり塩水に代えたりと改良が行われている。この世界にも水銀は存在するのだろうか。


そんな温度計を見詰める薬師の少女ビビに僕は声をかける。


「やあ、ビビ。新しい薬かい?」

「はい。薬効の抽出と温度の調節が、とっても簡単です~」


僕がトルメリアの町で仕入れた魔道具が役に立った。いくつかは僕の手作りだから不格好な物だ。デザインに関してはメルティナお嬢様に学ぶのも良いだろう。…以前は氷の芸術家を名乗った事もある。


「次は、この薬草を研究してくれ」

「はい。あたいに任せてください!」


薬品の研究も順調な様子だ。





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