ep123 魔法競技会(二回戦)
ep123 魔法競技会(二回戦)
週末は魔法競技会の対戦が予定されている。二回戦は予選を勝ち上がった8チームが学院を代表して戦う学院対抗戦だ。そのため、恒例でも王立魔法学院と私立工芸学舎の学生は一番の盛り上がりとなる。この季節は晴れ間よりも曇天や雨天が多く、その日は小雨交じりで肌寒い悪天候だった。僕らは荒野で王立魔法学院のチームの到着を待っている。
「遅い…」
「ええ。何か問題があったのかしら」
泥に濡れたデッグノが呟くのに彩色のオレイニアが応じた。既に完成した防衛陣地で僕らは迎撃態勢だ。
「わははは、待たせたなッ、諸君!」
「出た~、変態王子」
指揮官と見える高級ローブに身を包む貴族の男は前面を露出して筋肉肌を見せている。この季節でもその恰好は寒かろう。そして魔術師に筋肉質の体形は似合わない。
「ロジャー。行けぇ」
「はっ!」
変態王子が命じると全身を鎧で包んだ男が進み出た。後方には獣球とそれを運ぶ術者を二人従えている。重装歩兵による突撃戦術と見える。競技では相手選手への直接攻撃が禁止されているので、重装歩兵を止める方法は限られる。
重装歩兵の男は矢が柄の槍を振るって前面の防御壁を破壊している。続く二人は左右から風魔法で援護の構えだ。…見るからに隙がない。これでは、新入生の女子コリンダの砲撃も出来ない。僕は防御壁の補修をしつつ救援を呼んだ。
「フレイジアさん頼みます!」
「おう、任せろッ」
男勝りに騎士の軽鎧を装備したフレイジアが木剣を構えて敵の前面に立ちはだかる。勿論に防衛側の選手への直接攻撃も禁止事項なので、敵の侵入はここまでだ。
「…【突風】ぅ!」
「…【風圧】っ!」
息の合った風魔法で獣球が跳ねあげられた。…良く見ると双子か。僕らが獣球を目で追うと大量の水が叩き付けられた。
「わははは、このまま行くッ」
「ずべらッ……」
大量の水の波は重装歩兵の男をも巻き込んで獣球を高波で運ぶ。波に乗った変態王子が魔法を行使する。
「突破せよ…【大波】!」
「「きゃ!」」
そのまま防御壁を次々と乗り越えた高波は獣球を防衛陣地へ落とした。
-PIYYYPIYYY-
どうやら得点を奪われたらしい。あんな大量の水を何処で準備したのか…反則技じゃないか?
「「ナリス様! 酷いですぅ~」」
「…」
双子の女子が抗議しているが、僕らは反抗作戦を相談した。
◆◇◇◆◇
攻守が交代して僕らは獣球を運ぶが、途中の妨害工作は無くて敵の守備陣地が見えた。
「カントルフ。反撃よ」
「応おう!」
修行僧のカントルフが大量の水を循環して連続に打ち出し防御壁を砕く。まるで水のハンマーを連打する様だ。
その水の猛攻を貫いて重装歩兵の男が現われた。自らの槍で突破をするのは中々の腕前だ。いちど水の猛攻を中断する。…相手選手への直接攻撃は出来ない。
「隙ありぃぃぃ!」
「なッ」
重装歩兵の男は木製と見える長柄の槍を突き出した。みるみる槍が伸びて来る!…魔法の道具か!?そのまま、獣球を突かれて弾かれる。
「リドナス!」
「はい。主様♪」
遊撃として潜んでいた河トロルのリドナスが獣球を抑えた。
「まだまだぁぁぁ!」
「こなくそッ」
再び重装歩兵の男は木製の槍の魔道具を突き出した。伸縮自在の様子で規定違反だろう。僕は千年霊樹の杖で槍の魔道具を押さえた。
「重石を乗せよ…【形成】【硬化】!」
「うぐっ…」
立て続けに魔法を使い槍の魔道具へ粘土の重石を取り付けた。長柄の武器は伸びきった時が弱点だ。引き戻しの隙に乗じて接近する。武器への攻撃は禁止事項ではない。
「くらえ…【形成】【硬化】!」
「ぐぬぬっ」
さらに追撃して重石を乗せると槍の魔道具は動きを止めた。リドナスが獣球を運ぶ。
「いくわよ!【砲撃】」
「みてなさい!【連続砲撃】」
砲術部の新人コリンダと彩色のオレイニアが粘土の砲弾を打ち出した。オレイニアの砲弾は二倍だ!
「わははは、どこを狙っているかッ」
「打ち払え…【水球】」
防衛陣地から迎撃に水球が放たれて、粘土の砲弾がバラバラに砕ける。
「ライシプトの茨よ。一斉に…【発芽】【成長】」
「!?…」
森の妖精ポポロの魔法で発芽したライシプトの茨は棘のある蔦枝を一斉に成長させる。種は砲弾に仕込まれて防衛陣地へばら撒かれた!
「伸びるチャ【繁茂】! 咲き誇れ【開花】!」
「あわわっ」
続けざまに唱えた呪文は大量の茨を発芽させ、同時に茨の藪を出現させた。即席とは思えない白い薔薇の花が咲き誇る。
大量の茨に囲まれて防衛側の選手は移動を阻害された。密かに獣球を運んでいたリドナスは容易に接近し得点した。
-PIYYYPIYYY-
僕らは同点に追いついた。
◆◇◇◆◇
槍の魔道具の見た目は木製であり規約違反ではなかった。魔力を注ぐと伸縮するらしいが、どうやって長さを調節するのか謎だ。変態王子が操作する大量の水も脅威だ。僕らは延長戦に突入した。
王立魔法学院の側から攻撃を始めるが、この攻撃で得点を許せば僕らの負けだ。最低でも獣球を奪い反撃しないと勝ち目は無い。…攻撃が開始された。
「ふはははは、焼き尽くせ!【火球】」
「…【突風】ぅ!」
「…【風圧】っ!」
先頭を行く赤毛の男が火球を放つと左右から援護の風が吹き付けた。水の攻勢を予想して防御壁には防水加工を施したが、意外にも火力が高くて防御壁が砕かれる。…敵の布陣を読み違えたか。
「私が防衛します」
「いや、待て!」
騎士の軽鎧を装備したフレイジアが火勢の前面に立つと言うが、危険は大きい。僕はフレイジアに待機を命じてリドナスを呼んだ。
「リドナス。水の魔法で耐えてくれ」
「はい」
防衛陣地は先の攻勢で水浸しの状態だ。リドナスならば地に溜まった泥水も有効活用できるだろう。それに、相手の重装歩兵の男が姿を見せていないし槍の魔道具の行方も気になる。
「ふはははは、恐れをなしたかッ【火球】!」
「…【突風】うッ!」
「…【風刃】んッ!」
さらに攻勢が強くなる。リドナスの消火活動も手一杯な様子だ。その時、火の勢いに紛れて獣球を乗せた籠が空中に現われた。籠を支える棒がぐんぐんと伸び出す!
「あれは、獣球!?」
「防衛してッ!…【火球】」
陣地の補強をしていたディグノが呟くのにオレイニアが火球だ応えた。意外にも獣球は籠に吸い付いて離れない。あの下部を支える支柱は……
「槍の魔道具を攻撃して!」
「おぉう!…【風刃】【風刃】【風刃】」
偽子爵エルハルドが狂った様に風魔法を連打した。火勢に煽られて上空は乱気流の様だ。ぐらぐらと籠が揺れるが獣球は落ちない。
「あっ!」
「!…」
防衛陣地の真上から獣球が落ちて来た!…得点は避けられない。
「いっけぇ!【砲撃】」
-BOMF-
くぐもった砲撃音とともに重量物が打ち出された。
「…【跳躍】【必中】【強打】!」
人間砲弾として発射されたフレイジアがその勢いも加味して跳躍した。木刀の斬撃は武技の威力も増して美しく煌めいた。
「おぉぉぉぉお!」
弾け飛ぶ獣球。僕らは辛くも防衛戦を守り切った。
………
この対戦は僕らの勝利となった。
得点としては20対20(※1ゴールずつ)であったが、王立魔法学院の側の「籠」の使用が規定違反(減点-5)となった。籠を装備して出場する選手が登録されていなかったと言う事だ。
魔法競技会で使用する武器と防具に関する規定は見直した方が良いだろう。
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