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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第十章 学園生活に潤いを
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ep122 研究の成果

ep122 研究の成果





 僕は受講の後には研究室を訪れて菌類を研究していた。菌類の培養に毎日の温度管理は欠かせない。全て自動化できれば良いのだが、研究用に魔道具を製作するのも手間がかかる。


「うむ。これはダメだ…【分解】【殺菌】」


マルオの切り身に繁殖して旨味を増す麹菌は良いのだけど、猛毒のあるカビは頂けない。出来上がりの味見をするのも命懸けだから、毒見ようにラットでも準備するかな。


「これは良さそう…【発酵】【増殖】」


順調に麹菌が育成している容器に魔力を注ぐ。適度な魔力を与えると細菌が活性化して増えるらしい。…与えすぎると【殺菌】されてしまう。一定の魔力を保つ培養装置が欲しい所だ。


そんな手間のかかる菌類だけど、自然条件での量産には成功してクラントさんの干物倉庫では活躍している。数か月後には、旨味が改良されたマルオ節に期待できるだろう。


………


タルタドフの領地経営は氷の魔女メルティナと従者ロベルトの手腕に任せきりだ。主な任務は農地の開墾と開拓地への入植なのだけど、そろそろ領地の特産品などの産業を育成したい。

開拓地の発展と運営はメルティナの配下で販売所の従業員たちの頑張りが大きい。彼女らの貢献にも報いたいと思う。そういえば、開拓地の工房に発注していた品物が届いていた。僕は木箱を開けた。


「おぉ、これは試作品じゃないか!?」


木箱の中身は丁寧に緩衝材として干し草が詰められてガラス器が収められている。僕はガラス器を組み立てて水を注いだ。ガラス器はボトルの様な下部からガラス管が垂直に伸びている。最上部の蓋を閉じれば完成だ。僕はガラス器に記された目盛をに印を付けた。

仮にこの位置が水温だとすると、ガラス器をお湯に浸けると内部の水が膨張して垂直のガラス管を登るハズだ。早速に実験してみよう。茶器の竈で土鍋に湯を沸かしガラス器の底を湯に浸けるとガラス管の内部を水が登って行く。…予想通りの出来栄えだ。


僕はガラス管の目盛に印を付けて百度とした。


温度計の試作品だ。


………


僕は新たに懐かしい味覚の再現を試みた。トルメリアの近郊で栽培される米を石臼で引いて米粉とする。このままでも餅か団子に出来るが、僕の好みではもう少しモチモチ感が欲しい。河トロルが栽培していた赤い米を混ぜると赤茶の色合いになるが食感は良かった。


そこへ(よもぎ)に似た風味の薬草を粉砕して追加する。


「能々(よくよく)と細切れに…【切断】【粉砕】…【攪拌】♪」


ミキサーでもあれば簡単に粉砕できるが、原料加工の技術を応用するのも手慣れたものだ。米粉と混ぜてもちもちに仕上げる。


森の妖精ポポロに尋ねると赤い豆があると言うので、実家から取り寄せで貰った。その豆を茹でて潰し甘味を加えて餡にする。緑色の餅で包めば饅頭の様だ。


仕上げに饅頭を笹の葉で包み蒸して加熱する。


「ほおお、良い香り。チャ!」

「これは 薬草の匂い デスカね♪」


すでに材料収集に協力して集まった森の妖精ポポロと河トロルのリドナスは笹が蒸し上がる香りを堪能した。…僕も懐かしい気持ちだ。


「蒸し上がりました。完成です!」

「ほおお……」

「です、ですぅ~」


匂いを嗅ぎつけたか、ちみっ子教授と鬼人の少女ギンナが現われた。熱々の笹団子を皆に配る。こうして見るとギンナが一番の年長で二人の子供を連れている様に見えるが、実際はギンナが一番の年少である。


「あっ! ずるーい」

「…きゃー可愛い~!」

「…あたしも…」


彩色のオレイニアが砲撃部の女子を連れて乱入した。途端に戦場と化した調理場で僕は追加の笹団子を蒸し上げた。


「そーれ追加だ。召し上がれ~」

「わーい。いただきますぅ!」


始めは毒々しい緑色の笹団子に躊躇を見せた女子部員もギンナとポポロの無邪気に感化されて笹団子を食べ始めた。…甘味に蹂躙されて陥落した様子だ。


僕は懐かしい笹団子を味わった。


………


 港町トルメリアの市場の外れにあるクラントの干物屋は珍しく賑わっていた。店頭では干物の他に先行して量産したマルオ節を削り出汁を煮出して販売している。出汁は小さなカップで配り無料だ。鍋から立ち昇る湯気の乗ってマルオ出汁の香りが広がる。


「この団子入りのスープを貰おう」

「はい! 1カル半です」


僕はスープを椀に注いで販売した。椀には米粉を茹でた白い団子と刻んだ海藻が入っているが、海水を煮込んだ塩分の他にはマルオ出汁を生かした単純な味わいだ。…マルオ出汁の旨味を味わって欲しい。


団子入りスープはお得感を演出する為、2カルを値引きして値札に表記している。単純な味でマルオ出汁の良さを見せたい。


「おんやぁ、マキト。また妙な商売を始めたねぇ」

「ロマイシズさん!」


僕は無理のマルオ出汁を勧めた。ロマイシズは牛の牧場と焼き肉店を経営している。


「うむ。良い味わいさぁ……このスープの材料は何だい?」

「マルオ節と海水の塩だけです」


「ほほう、マルオかねぇ」


ロマイシズは店頭に積み上げられたマルオ節を眺めて、僕が調理する実演と解説を熱心に聞いた。いつの間にか人集(ひとだか)りが出来ている。


「よおしッ、マルオ節を50本。買った!」

「はっ! ありがとうございます」


僕はマルオ節の販売を始めた。削り節を作る(カンナ)も同時に販売だ!


こうして港町トルメリアに新たな味わいが加わった。


………


 トルメリア北部は王都の食糧を生産する農地が広がり、荒野へ進出する開拓事業も盛んだ。僕は荒野の先に広がる魔物の森を訪れた。狼顔の獣人が侵入者を嗅ぎつけて警戒に現われるのはお約束だろう。僕は狼顔の獣人に告げる。


「森の長老へ話がある」

「GUU 9t¥4…」


僕は狼顔に付いて森を進み頤鬚の老人に面会した。魔物の森の長老であり狐顔の幼女ニビの祖父と思われる。僕は手土産に大量の魚の干物を並べた。


「クロメよ。よく参られた」

「ご無沙汰してわります。……ところで、近々に人族の魔法競技があります」


挨拶もそこそこに用件を切り出した。


「ほほお、競技であるか…」


僕がなるべく簡潔に魔法競技会について語ると、魔物の森の長老は理解を示した。


「うむ。人族の争いに我々は手出しをせぬよ」

「ありがとう、ございます」


神鳥(かんとり)のピヨ子は久しぶりの森に浮かれたか、狐顔の幼女ニビと共に遊んでいる。…仲良しと見える。


僕は魔法競技会の事前交渉をした。事故防止には関係者への連絡が欠かせない。




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