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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第九章 霧の国は動乱の中
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ep117 合同会議

ep117 合同会議





 イルムドフの合同会議は王都周辺の有力者を集めた会議だった。会議場となった広間の一方には新政権の面々が陣取り対面には地方領主が整列するらしい。


地方領主とその補佐らしい人物がテーブル席に着きその背後には護衛の騎士が控えている。残りの護衛たちは別室で待機するとの事だ。僕はメルティナを補佐として隣に着席した。背後には護衛としてリドナスがいる。


僕らの隣にはユミルフの領主代行としてティレル女史とその副官がおり、対面する新政権の面々の地位などを確認していた。元イルムドフの貴族だという副官は役に立つ男だ。


その隣には神経質らしく椅子を揺すっている痩せた男が見える。事前情報によると帝国軍からソルノドフへ派遣されたの軍監だという。帝国軍では将軍と参謀がおり軍監は軍の教練や補給を担当する文官に近い役職だ。彼は慎重かあるいは臆病な性格でこの会議には参加しないだろうと予想されていた。


さらに隣は、見覚えの無い中年の貴族がおり……ティレル女史と副官の話ではイマノフの元領主との事だ。イマノフの宿場町は魔物の群れに破壊されて跡形も無い様子だったハズ。…よく生き残った者だ。


独り高段に座るのは議長と見える貫録のある親爺だ。腹の出張りがテーブルを圧迫している。そこへ一人の美丈夫が登壇した。


「我が革命政権の首班であらせられる、アンネローゼ候孫女殿下である」

「ッ!」


新政権の面々が一斉に立ち上がり恭順を示す。


「皆の者、楽にされよ!……私には王位継承権もなく爵位も捨てた。身分の貴賤は無いものだ」

「ははっ!…ざわざわ…」


彼らの様子よりもアンネローゼ候孫女殿下の姿に僕は驚いた。それは男装の麗人アーネストの女優姿……舞台での役はメルティ姫だった。


「アーネスト?…」

「…?」


僕の呟きは広間の喧騒に紛れた。


「静粛に! これより合同会議をはじめる。……まずはお集まり頂いた近隣領主の方々にお礼を申し上げる」

「議長。報告があります」


議長の親爺が貫録の出腹を見せて会議の始まりを告げた。早速に新政権の貴族の男が発言を求めた。


「昨夜、庭園を騒がせた賊について反動分子の手先と判明いたしました」

「ほう、それはお手柄である……」


貴族の男の話を聞くと新政権の内部でも武闘派と融和派の対立がある様子だ。このやり取りも茶番かも知れない。


「貴殿の襟袖をお騒がせして申し訳ありません。我が方の警備の不手際でございます。なにとぞ寛恕を賜ります事を伏してお願い申し上げます」


議長が上から目線の態度に比べても、やけに下手に出た態度である。


「良い。それよりも会議の趣旨をご説明願おう」


領主を代表してティレル女史が応えた。帝国側では軍監よりも徴税官の方が上か?あるいは爵位の差か。実務的な質問には役人らしき男が応えた。


その話ではイルムドフの新政権と近隣領主との間で友誼を結びたいという。相互の領土の不可侵条約といくつかの協力案件の相談あたりが本題だろう。


革命軍は王都イルムドフとその周辺を抑えたとはいえ国内の治安も悪く、近隣領主は帝国の代官のままである。革命軍を地方へ派兵するとしてもソルノドフ、ユミルフ、タルタドフの各地を制圧する必要がある。


ソルノドフは海岸部の漁村をいくつか抱えて帝国軍の駐屯地があり軍勢も健在だが、イルムドフ北部と東部が魔物の領域となりて帝国本土との補給が断たれている。海路を頼るにも大型船は保持していない事情だ。


ユミルフ、タルタドフには帝国軍は少ないが地方独自の兵を擁している。むしろ王都イルムドフからの距離が遠征を躊躇わせる要因だろう。こちらからも帝国本土への連絡は困難だ。間に聳える山脈は急峻で雪深い難所と見える。


つまり帝国勢は本土の支援が見込めない孤立状況であった。


この時期は帝国の統治を続けるためにも、本土との連携が取れるまではイルムドフの新政権と不可侵条約を結ぶ事には双方の利益がある。たとえ簡単に破棄できる紙の条約であっても。


「よかろう。友誼を結ぼう。……条約の詳細については追って検討する」

「双方の繁栄が訪れます事をお祈りいたします」


とりあえず帝国側は前向きな回答となる。そこへ口を挟む者があった。


「当方としてはイマノフの治安回復をして頂けないならば、新政権の存続は認められません!」

「ゴエツロス卿……」


イマノフは魔物の領域に飲まれたハズだが、治安回復とは…物は言いようか。議長が無礼を窘める前にゴエツロス卿が捲し立てる。


「未だイマノフの民は寄る辺も無く避難生活を続けております。今すぐに魔物を駆逐すれば春の作付に間に合います!」

「それは、勿論の事だが……」


すでにイマノフの奪還作戦は計画されているのか?……新政権側の反応は鈍い。春の作付は絶望的と思える。イルムドフ東部の穀倉地帯が壊滅したため王都の食糧事情は悪化しており、新政権としても悩ましい案件と見える。


「我々に提案があります!」


僕はひとつの道を示した。



◆◇◇◆◇



王都イルムドフの北門を出て東北部に浸透した魔物の領域に到着した。その場所はひと月ばかりの内に植生が変化して太い魔芋の蔦に覆われている。細い魔芋の蔦はニョロニョロと蠢いて僕らを捕えようとする。


「このあたり、細い蔓を辿って根元を掘り返して下さい。兵士の方は周辺の警護をお願いします!」

「「 応おぅ! 」」


僕らは魔芋を町の食糧とするため採取に来ていた。魔芋の蔓は農民でも多人数でかかれば対処は可能だ。手にした斧と鎌で切り裂く。手強い蔦には冒険者の支援もあった。


「せいゃ!」

「カルロス。張り切り過ぎでっしょ~」

「…ふん」


黒髪に褐色肌のさわやかイケメンが魔芋の蔦を切り飛ばす。銀級の冒険者カルロスだ。


「助かります」

「いや、こちらこそ。帰りの船便が無くて困っていた所さ」


以前に避難民の護衛として協力した冒険者たちだ。他の仲間も魔芋の採取に参加している。革命軍とイルムドフの防衛隊の一部を農民の集団と合わせて隊をつくり魔芋の採取を行う。兵士たちは周辺の魔物を狩り農民たちを護衛する。魔芋の採取の補助に冒険者にも護衛依頼をしている。


多くの農民たちは農地を失った者やイマノフの宿場町の生き残りである。領主のゴエツロス卿は運良く町を離れて王都に滞在していたため、実際の町の惨状は見ていないらしい。風景と植生が変化しても山や丘と河川の流れは以前と同じで、この土地で生まれ育った農民たちは地理に詳しく採取の作業効率は良い。上手くすれば早期に農地が回復できるかも知れない。


採取のあとは魔芋の料理方法を教えてイルムドフの食糧事情を改善する予定だ。


帝国の軍事顧問トゥーリマン少佐は合同会議では一言も発しなかったが、神経質な面持ちでソルノドフの駐屯地へ帰った。


ティレル女史は成り行きで帝国側の代表として残り条約の詳細を詰めるらしい。





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