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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第九章 霧の国は動乱の中
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ep116 襲撃者たち

ep116 襲撃者たち





 僕は寝苦しい夜を過ごしていた。深夜を廻り温暖な季節だがイルムドフの夜は深い霧が立ち湿気が肌に纏わり付く。僕は羽根布団を蹴り飛ばして寝返りを打つ。


イルムドフの合同会議に出席する為、僕らは屋敷に到着してからタルタドフの領主として待遇されている。隣で寝ているメルティナは領主夫人の扱いを受けて上機嫌だったが夜這いの誘惑がうるさい。それでも僕は理性を総動員して臥所を共にしていないが、理性が負けるのは時間の問題だろうか。


蒸し初めた夜にはメルティナの特技が役に立つ。


「メルティナ起きているかい……さっきは悪かった、続きは今度にしよう」

「おほほ、ご主人様。宜しくてよ」


「こう蒸し暑いと……氷を用意してくれないか?」

「お安い御用ね!【氷柱】」


さすが、氷の魔女メルティナである。部屋の湿気を集めて氷の柱を生成すると、湿度が下がり冷気も得て心地よい。この寝室は上階にあり貴重なガラス窓が多く設けられて庭園の景色を眺める事ができる。窓から外を覗くと宵闇に霧が充満して視界が悪い。


「むっ、何かいる?!【気配】」


その霧の中で動く気配があった。僕は霧の中へ魔力を放って気配を探る。


「少し窓をあけるよ…【探知】」


僕は長柄の魔道具を取り出し狙撃の体勢で窓から狙いを定めた。無暗に魔力を放つと敵にも気取られる恐れはあるが、屋敷への侵入者であれば止むを得ない。


………


霧に紛れるためか灰色の上着を来た密偵が二人、屋敷の様子を伺っている。僕が放った魔力の気配を感じたか、


「ふっ、何だ?……」

「しッ!」


-PAShu!-


何かが弾ける音か?……そこへ(やじり)が突き刺さった。


「ぎゃッ!」

「ッ…」


短い悲鳴を上げて倒れたのはどちらのニンゲンか。匂いを嗅ぎつけて霧の中から魔獣が現われた。


「コロちーぃ! 捕えるですぅ~」


-BAU!-


端的な命令に応じて、魔獣ガルムの仔コロが赤い腹を見せて灰色の密偵に飛び付いた。そのまま巨体で男を踏みつける。


「ガルムだとッ……話がちがう!」


-FUN! HAFHAFHAF-


コロは尻尾を振りふり息を吐いている。男にかかる唾液が熱い。事前の情報では大型犬と獣人の子供という話だった。こんな化け物がいるとは聞いていない。


密偵を二人も捕えたが、尋問した後はコロの餌だろうか。



◆◇◇◆◇



オルグ塚の大迷宮から出現した苔の巨人(仮称)は魔芋の密林を北上していた。時折にその苔の肉体をドロドロと溶け崩れながら侵攻している。これには大型の魔物……魔猪(マーボア)や巨大蜥蜴も対抗する気配は無かった。


得意の俊足を飛ばして追い付いた密偵のミラは背後から巨人の姿を観察した。おそらく本体にはあのドロドロが詰まっているのだが、特に弱点などは見付けられない。このまま巨人を追い越してギルド本部へ報告するべきか、あるいは帝国軍の拠点に駆け込むか。


ミラが思案しつつ巨人を追跡すると、避難民の野営地かと思える焚火の明かりが見えた。…マズイ…巨人が焚火の方へ進路を向ける。


「何か近づいている……」

「あれは! 巨人か!?」

「きゃぁぁー」


野営地に混乱があった。それでも護衛に腕の立つ冒険者が混じっていたらしく、


「何でもいいから、ぶっ(ぱな)せ!」

「おぉぉ!」


果敢にも弓矢と魔法が巨人へ放たれる。破壊の威力は無さそうだが、それでも巨人の注意を引く効果はあった。


「あなたたちッ、早く逃げて!」

「ひっ…」


密偵のミラは快速を飛ばして避難民の前に現われた。警告を発すると自分も逃走に移る。すでに避難民が仮の拠点としていた粗末なテントは苔の巨人(仮称)に押し潰されている。…ここは逃げるが勝ちだ。


そのまま全速力でミラは逃げ出した。



◆◇◇◆◇



いち夜が開けて、昨晩の騒ぎは炎の傭兵団も気付いた様子で、灰色の密偵はチルダと炎の傭兵団の男たちに捕縛された。


-GUU!-


魔獣ガルムの仔コロが唸り声を上げるが、…餌を食べ損ねたか。


「あたしは合同会議の前に、こいつらを調べておくわ」

「おほほ、協力したしましょうか?」


氷の魔女メルティナが冷気を増した視線で、灰色の密偵を見下ろす。


「いいえ結構よ。人間がよく燃える事を教えてア・ゲ・ル・!」

「ひぃぃぃい!」


火の一族のチルダの方が物騒な顔をしている。…拷問は程々にしたまえよ。灰色の密偵たちの顔色は魔獣ガルムへの恐怖よりも悪い。


イルムドフの合同会議への出席者たちが、僕らタルタドフ勢と敵対する思惑なのか見極める必要があるだろう。


僕らは合同会議の会場へ出かけた。





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