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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第九章 霧の国は動乱の中
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ep115 開拓地から合同会議へ

ep115 開拓地から合同会議へ





 僕はタルタドフの南の開拓地にある工房で新商品を開発していた。工房も少しは拡張している。


新商品は使い捨ての魔道具で素焼きの粘土板をベースにして魔方陣を描き、さらにその上へ偽装の文様を彫刻する。


「手順どおりに…【形成】【焼成】【彫刻】♪」


すでに加工は慣れたものである。その魔方陣には魔芋から採取した樹液をさらに魔力成分のみ抽出した「魔の液体」を流し込む。…魔液(まえき)と名付けよう。


この魔液(まえき)は魔木の樹液に比べると魔力の伝達性能に遜色は無いが、耐久性能は劣る。そのため、使い捨てを前提にした魔道具となった。僕は魔方陣に覆いの粘土を被せて乾燥させた。


「さて、ここから…【複製】【複製】【複製】♪【複製】【複製】【複製】♪」


合計して六十個余りの商品を作成した。僕は疲れを感じて魔液(まえき)を飲む。


「ぐびっ、ぷはぁ!……味は改善の余地があるなぁ」


魔芋の樹液は甘くて苦いが、魔力成分が豊富な為に回復効果もある。魔力成分を抽出すると甘味と苦味も増したが、魔物を原料とする回復薬よりは飲みやすい味わいだ。例えば、魔物の血液を原料とする回復薬は塩辛くて獣臭い。


………


この開拓地も入植者と避難民を受け入れて住人が増えた。ところが入植の際に獣人を蔑視しない事を条件としてる影響か新たな入植者は獣人とその末裔が多い。この開拓地には河トロルの草庵もあり、岩オーガも労働しているので獣人差別主義者は入植をお断わりしたい。


住民が増えて開拓村を南北に貫く中央通りには民家や商店が立ち並び始めた。行商人の露店も通りに目立つ。僕がメルティナたちに運営を任せた販売所は取り扱い品目を拡大して買取所と倉庫を増設した。さらに屋敷の南側には従業員の宿舎もある。


宿舎の裏手は風呂と研究用の農場で試験栽培された水稲が緑の葉を揺らしている。


河トロルたちの草庵は用水路を挟んで東側の沼地に面しており、沼地には古来からの農法で赤い米や黒い米の種籾を撒いて芽吹き始めた。…秋の収穫が楽しみである。


開拓村は活気に満ちていた。



◆◇◇◆◇



本日はイルムドフの近隣領主を集めた合同会議がある。会議の席は王城ではなく近隣の貴族の邸宅が使用された。邸宅には園遊会が催される用に広大な庭園があり、会食を行う広間と客人を持てなす別邸としての東屋が点在している。


各領地からの護衛は会議を補佐する文官を含めても十名までと制限されていた。そのため領主たちは選りすぐりの精鋭と副官を連れて会議に臨むだろう。


僕らタルタドフ勢としては、氷の魔女メルティナと従者ロベルト、河トロルのリドナスに鬼人の少女ギンナを含めても四人の随行員でしかない。そのため火の一族のチルダの頼みもあり、炎の傭兵団から六人を連れていた。


「マキト! 依頼の品じゃん」

「おぉっと、ありがとう」


チルダが馬上から皮袋を投げて寄こした。僕が買い付けを依頼した火の魔石が入っているハズだ。チルダはユミルフの領主代行としてのティレル女史に再び雇われて護衛を務めている。


そのティレル女史は愛馬カイエン号に乗り軽装の騎士鎧を着け、いつもの縁眼鏡を押し留めて、号令を発する。


「それでは、出発!」

「「 おぉ! 」」


護衛の気合も十分な騎兵を八騎も連れて、ティレル女史は愛馬カイエン号の歩を進めた。実際にチルダが馬に乗るのを見たのは初めてだ。


その後に従者ロベルトの操る馬車が続く。荷台には炎の傭兵団の六人と水や食糧などの補給物資が積まれている。僕とメルティナはそれぞれ騎乗して後方を警戒した。河トロルの戦士リドナスも乗馬は出来るのだが馬車に同乗して護衛を務める。


そして、最後尾には魔獣ガルムに騎乗した鬼人の少女ギンナが悠然と歩を進めた。実際には街道筋の両側の森林地帯から荒野にかけては、周辺に展開した鼠族の斥候が潜伏し警戒をしている。…頼もしいヤツらだ。


特に、道中は敵襲も無かった。


………


合同会議の会場である貴族の邸宅はイルムドフの郊外にあり、各領地から十人づつとはいえ王城に兵を入れる事を警戒したのだろう。各領地から集まった領主たちには別々の東屋が提供された。しかし、東屋といえど居間や食堂に寝室までも備えた貴族用の貴賓室だった。


東屋には屋敷を管理する老執事と数人の女中が務めていた。特に衛兵を置かないのは僕らへの配慮だろうか。ここの従業員は監視の役目もあるだろう。屋敷では従者のロベルトが嬉々として働き、火の傭兵団の男たちも独自に警備を始めた。幸いにもユミルフ勢の宿舎は近隣で監視の目を気にしないならば往来は自由だ。…まぁ、僕らとユミルフ勢が懇意な事は周知の事実だろう。


鬼人の少女ギンナは魔獣ガルムに乗り屋敷の周囲を警護している。おそらく鼠族の斥候から周辺地理と情報を得ている事だろう。…僕の知らぬうちに逞しく育ったものだ。おや、リドナスの姿が見えない。


………


ユミルフ勢の宿泊する屋敷には炎の傭兵団から二名の男とリドナスが合流していた。


「向こうには四人残して来ました」

「よし。屋敷の警護を続けろ」


「はっ!」


ティレル女史の護衛に選抜された騎士たち、元は貴族の子弟らしく屋敷の警護では役に立たない。命令すれば馬の世話や歩哨の程度はこなせるが、敵襲を想定した護衛任務には不向きだろう。


チルダと補佐する年配の傭兵団の男は分担して護衛の配置を決めた。あとは騎士たちの歩哨で警護の穴を埋めよう。


「チルダさん 敵は 来マスカ?」

「ここは敵地だし、警戒はするべきよ」


「はい」


リドナスは戦士の顔で頷いた。





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