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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第九章 霧の国は動乱の中
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ep109 清掃の魔道具と光の魔石

ep109 清掃の魔道具と光の魔石






 オグル塚の大迷宮から東の海岸線は切り立った崖であり、海に出で漁をするにも港の建設が困難と見える。僕らは崖を降りて岩棚に場所を決めた。手製の釣竿を振って仕掛けを崖の下に投じる。釣りの仕掛けは迷宮から採取した大蜘蛛の糸に鉤針を取り付け、魔物のスジ肉を付けている。肉食の魚でも掛かれば良いのだが。


大蜘蛛の糸は迷宮に残された巣の跡から採取するらしく強靭な縦糸と粘り気のある横糸で構成される。わざわざ専門の職人が迷宮に出向いて大蜘蛛の巣を分解するのは、上質な蜘蛛の糸が貴重な為だろう。そんな貴重な蜘蛛糸も釣りに使う長さでは大した金額ではない。眼下に見える海面から少し潜った海底まで届けば良いのだから…そんな益体も無い事を考えていると釣竿に反応があった。


「来た! 当たりだッ」

「…!」


僕は釣竿を上げて獲物を引き付けた。かなりの大物らしく魔木の釣竿がしなる。


「ぐっ…引きに負ける…」

(ぬし)様!」


足元を踏ん張っても僕は海へ引き摺られた。それを見て河トロルのリドナスが海へ飛び込んだ!


「リドナス…」


海面の波が打ち寄せる音に混じって水音がするが、僕には海面を覗く余裕が無い。普段のリドナスであれば水音もさせずに水面に飛び込むのだけど…泳ぎが得意な河トロルでも海は勝手が異なるか…心配だ。


しばらく釣竿と格闘していたが急に手応えが衰えた。獲物を取り逃がしたか…僕が崖下を覗くと獲物を仕留めたリドナスが手を振っていた。僕は魔力で身体強化して獲物を引き上げる。


「どっこいしょ!」


岩棚に引き上げた獲物は、大口に牙がある怪魚だった。リドナスのナイフで腹を裂かれて虫の息と見える。僕は注意して怪魚に止めを刺す。怪魚の頭に突き刺した剣を軸にして持ち上げると結構な重さだ。


自力で崖を登って帰還したリドナスが手慣れた様子に怪魚を捌くと、体内に魔石を持つ魔物の魚だった。この魔石は魔道具の材料になる。


僕らは食材を手にして都市に帰還した。


………


迷宮都市はオグル塚の大迷宮から採取される魔物由来の素材が豊富にあり、ここで取引された素材は各地へ運ばれる。北は帝国の国内へ南はイルムドフの都市へと商人の荷馬車が交易していた。イルムドフの港から船荷でトルメリア王国…または北回り航路では帝国の玄関口のハイハルブへと通じる。


そんな迷宮都市で僕は工房を借りて魔道具を作成した。僕がスライム養殖場で使用していた清掃の魔道具が職員の目に留まり早速に注文を受けたのだ。公式には魔道具店のアルトレイ商会の使いとして魔石の仕入れに迷宮都市を訪れたのだが、ここでお得意様を開拓するのも良いだろう。


僕は魔芋の樹液と怪魚の魔石を使い流水の魔方陣を刻み筒状にして組み立てた。筒の内側に埋め込まれた魔方陣は簡単には分解できないが、魔芋の樹液の性能はいまいちと思える。


「あとは、材料がある限り…【複製】【複製】【複製】【複製】♪」


複製は僕が独自に命名した便利魔法であり、加工品の形状や魔法回路と魔方陣の図形などを複写できる。しかし無から生じる魔法ではなくて材料が必要だ。その複製も対象となる数が多くなると莫大に魔力を消費して疲労する。…疲労を和らげるにはテンポ良く魔法を行使するのがコツだ。


「余った材料で…【縮小】【複製】」


僕は流水の魔方陣を小型化した筒を作成した。


「さらに…【複製】【複製】【複製】♪…と」


何やら趣味の工作の方に手間が掛かっているが、注文された清掃の魔道具には既製品の集水の魔道具を取り付けて動作する為の水量を確保する。予めに手桶に水を汲んで利用するのも良いだろうと思う。


………


完成した清掃の魔道具を納品するため、僕はスライム養殖業の組合事務所を訪れた。集水の魔道具は組合が準備する手筈で、対価として光の魔石を手に入れる契約としていた。


「ご注文の品物です」

「おお、これが清掃の魔道具か…助かる」


組合職員は魔力を通して清掃の魔道具の動作を確認している。これがあれば魔法技能の無い者でも魔力を使い清掃作業が出来る。


「いかがですか?」

「良かろう。解体所に来てくれ」


僕は組合職員に付いてスライムの解体所に入った。解体所では今まさにスライムの解体が行われていた。


職員が養殖池に棒を突っ込んで掻き混ぜると一匹のスライムが這い出して樋を進む。樋の先には丁度スライム一匹分の窪地があり、そこへスライムが到着すると作業員が金属製の筒を斜めに切った様な先端の銛をスライムへ突き立てた。


ぶすり。と銛を入られたスライムは溶け崩れて後には魔石の欠片が残った。スライムの体液は排水口へ流れ去る…あの体液も薬の原料になるそうだ。作業員が銛の先端を空の養殖池に浸けるとスライムの核石が落ちて…ちいさなスライムが再生した。…見事なものだ。


僕らはスライム解体の手際とその再生能力に関心していた。あの解体用の銛は対スライム用の武器だろうか。


その時、地揺れがあった。


「な、なんだッ、何だ!」

「地震かッ…」


迷宮都市でも珍しい大揺れだった。




◆◇◇◆◇




そこはイルムドフ城の東南に面して日当たりの良いバルコニーを望む場所だった。バルコニーは小規模ながらも庭園となり季節の花が植えられて鑑賞できる。炎の傭兵団の女チルダは帝国の徴税官ティレル女史に従い徴税業務の合間に休息としてお茶会を楽しんでいた。


春の日差しを避けてお茶会の席に着いたティレル女史が春らしい甘い香りの茶と、それほど甘くない焼き菓子を食してチルダにも勧める。


「チルダさんも、どうぞ。フジェツドの新作ですのよ」

「いえ。護衛中ですから…」


護衛としての任務は忘れていないが、菓子作りで有名なフジェツドの新作も気になる。それは非常に薄い焼き菓子で歯触りも軽く焼きたての小麦のパンにも似た香ばしい風味だ。


ごくり…チルダはその薄く可憐な焼き菓子を取りひとくち齧る。表面は固いものの口の中で柔らかく溶ける。この薄さと軽さが全ての焼き菓子を凌駕して儚い。


「おほほ、お気に召しましたか?」

「あぁ、ごめんなさい。つい夢中で…」


気が付くとチルダはその薄く可憐な焼き菓子を完食していた。すでに口の中の水分を取られて菓子まみれだ。甘い香りの茶で水分を補給すると菓子の甘さが引き立つ様子だ。


その時、地鳴りがあった。


「ッ!……」

「地震……横揺れに気を付けて!」


すでに初期微動が感じられるが、チルダは落ち着いて警告した。ティレル女史はテーブルにしがみ付く様だが…それはマズイ対処だ。


「きゃっ!」

「失礼する」


チルダは強引にティレル女史をテーブルから引き剥がし、椅子から離れて身を伏せた。部屋隅の太い柱の傍では落下や倒壊する物は無い。テーブルから茶器が落ち椅子が蹴倒される。…本震だ。


その日、イルムドフの都市ではいくつかの火災があった。




◆◇◇◆◇




◇ (あたし神鳥(かんとり)のピヨ子は目的地に魔王を発見した。…魔王様っ!)


オグル塚の大迷宮へ裏口から侵入し無数に存在する通気口を辿って迷宮(ダンジョン)の最深部へ到達した。ゆわゆる迷宮(ダンジョン)(ぬし)の部屋だろうか。


◇ (御労(おいたわ)しや…)


その姿は繭に包まれて赤子の様な姿である。


◇ (さあ眠りなさい、傷付いた体も心も投げ出して…【神鳥(ゴッド)眠歌(ララバイ)】…♪♪♪)


貯め込まれた魔力の影響か、魔王が寝返りするだけでこの地揺れである。


復活の時は未だ先だわ。





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