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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第九章 霧の国は動乱の中
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ep107 オグル塚の大迷宮

ep107 オグル塚の大迷宮





 僕らはイルムドフの都市で別かれて港にある市場へ向かった。海上では魚人の襲撃を恐れて港に足止めされた船もあるが多くはここイルムドフの港に積荷を降ろして帝国北部の港へ引き返した。春に氷雪が溶け出す時期を見越しての進路変更だろう。


港の市場は普段の賑わいの半分ほどと見えるが、それでも活気を失わないのは庶民の強かさと思える。僕は目的の屋台を見付けると、オヤジのお勧め料理…鮮魚の刺身を注文した。河トロルのリドナスは鮮魚には目が無い。


「くうぅっ~ 美味しゅう ゴザイマス♪」


おや、リドナスにも苦手な物があるのか…鮮魚の味付けに添えられたソースは独特の辛みがある山菜だ。涙目で鮮魚の刺身を頬張るリドナスの横顔は潮紅している。


「そうだろ。少し辛みを抑えるか…【分解】」

「ほう!兄ちゃん。(まじな)い師かぁ」


辛みの成分は麻痺毒の原料となるが、空気に晒すと毒の成分が分解されて無毒となる。それを知ってか知らずかこの屋台のオヤジが作る鼻に抜ける辛みは刺激が強い。


「くふふっ まろやかな 味わいデス♪」

「…」


僕らは港に水揚げされた海の幸を味わった。




◆◇◇◆◇




あたしはチルダリア・ユーブラル……チルダと呼んでくれ。御大層な家名が付いているが、今回は帝国の徴税官エルスべリア・ティレルを護衛する任務で炎の傭兵団としてイルムドフの城へ同行している。イルムドフの城は元はこの地域を支配した王城でそれらしい謁見の間があった。


ティレル女史は眼鏡の似合う知的なお姉さんで有能な帝国の官吏との評価だ。雇い主は無能よりも有能な方が良いが、帝国の貴族どもを恐れさせるのは、その美貌の(よし)か徴税官としての権謀の(ゆえ)か。謁見の間で対面する貴族の男が言う。


「道中のお疲れもありましょうから、しばしお寛ぎを…」

「ええ、盗賊の討伐は領主代行の務めですわ。それに、徴税官の仕事もすぐに始めさせて頂きます」


広間の壇上には上から目線の肥え太った帝国貴族がいる。侯爵家で将軍閣下だと言うが武人には見えない。それよりも、補佐する帝国の役人と見える貴族の男は魔術師だろう。危険な魔力をビンビン感じるが、…領内の盗賊も駆除できない無能め!…と、ティレル女史の皮肉が効いたらしい。


「…それは勿論の事。すぐに手配いたします」

「帝国の臣下として…滞りなく…よろしく頼みましたよ」


ティレル女史が遅延戦術に釘を刺すと、表面上は恭順を示した。将軍閣下はひと言も発せず不満顔だ。…お飾りの領主か。


「ははっ!」

「…」


謁見の間を出て客室へ案内される。護衛には炎の傭兵団の兵士も同行しているが、あたしが選ばれたのは同性である為だ。ティレル女史の私室までも護衛対象とする。


「将軍閣下は仕掛けてくると思われますか?」

「恐らくは……」


客室には諜報の魔石が装飾に偽装されているだろう。この会話も敵の密偵に聞かせて、こちらが警戒している事を知らせる牽制の為だ。…しかし、本物の無能であれば……無謀にも仕掛けて来る恐れがある。


炎の傭兵団は護衛任務として不安な夜を過ごすだろう。




◆◇◇◆◇




僕らはイルムドフの都市を出て北にあるオグル塚の大迷宮へ向かった。北へ向かう街道は整備されて馬車は軽快に進む。途中にある宿場町を通過して無人の街道を進むと夕暮れ時に何者かが争う様子があった。すでに夕闇も近くて視界が悪い。


(ぬし)様、魔物の気配です♪」

「むむっ」


街道に停められた2台の馬車と人が争う様子に、近い方は庶民か荷役夫の様で他方は武装した盗賊団と見える。幌馬車の後方に身を寄せる荷役夫の中心には見知った顔!商人のドラルヌオがいた。荷役夫のひとりが盗賊に切られて倒れる。…武器の差か。


商人のドラルヌオが何かの呪文を唱えると、連れていた蜥蜴とも両生類とも見える奇妙な動物が倒れた荷役夫にのしかかり…巨大化した!…仮称オオトカゲは体液を飛ばして盗賊たちを威嚇する。


「加勢する!」


僕は馬車をとばして駆け付けた。すでに河トロルのリドナスは乱戦の中だ。リドナスが急襲して二人ほど盗賊に手傷を負わせると、不利を悟ったか盗賊団は逃げ出した。しかし、僕らに追撃する余力は無い。…こんな事なら護衛に冒険者でも雇うべきと思う。


「たっ、はぁ、助かった…」

「グケッ」


荷役夫たちは怪我人も多くて酷い有様だ。商人のドラルヌオに怪我は無い。…この仮称オオトカゲはペットではなく護衛だったのか。


「君は軽傷だッ【殺菌】【消毒】【止血】」

「ほっ…」


僕は手早く対応する。迷宮の探索に怪我は付きものだ。


「これは酷いな!【探査】…むむっ、やはり骨まで達するか」

「ぐあっ…」


本来の探査は土木建築で魔力を通して地盤の調査を行うのだが、肉体の穴の開き具合…刃物が到達した傷跡の深さも分かる。


「痛み止めと…【切開】リドナス! 水で洗ってくれ」

「はい。【洗浄】【脱水】」


痛みどめに麻痺毒を塗り傷を開く。傷口を洗浄した後に塞ぐ。


「まだ間に合う…【治療】【縫合】」

「うぅ…」


僕らは怪我人を馬車に乗せて街道を進むと、北西の海沿いに砦が見えた。かつての砦は北の大国との国境門として威容を誇るものだったが、今は打ち壊されて役目を終えている。その砦を越えると海沿いの高台に都市があった。


ようやくオグル塚の迷宮都市に辿り着いた。




◆◇◇◆◇




 迷宮都市で宿泊した僕らは翌朝に都市の中心部へ出かけた。商人のドラルヌオからは救助した謝礼として金銭を受け取ったが大した金額ではない。冒険者ギルドに盗賊団の被害を届けたが、帰路は護衛として冒険者たちを雇うように勧められた。


迷宮都市の中心部は迷宮の地下第一層にあり、天井となる岩盤は改造されて大穴が開き日の光が差し込む様子だ。そんな天井の大穴がいくつも開いて暗い所は無く、むしろ網目の様にして岩の橋がかかる様にも見える。迷宮の岩盤は元の形状に戻ろうとする不思議な力が働く物だが…ここでは異なるらしい。


そんな地形で迷宮都市は地下とその周りを取り囲む地上部に区別されるが、迷宮の地下へと通じる入口に近い中心部と地下第一層の方が賑わう様子だ。僕は早速に光の魔石ほ求めて魔石商店を訪ねた。


「いんや、今は時期が悪いから…」


「どこも光の魔石は品薄さぁ…」


「とんと困った事だけど、次期に回復するだろう…」


全く光の魔石が揃わない。驚くほどの高価であれば手に入るのだけど…既存の光の魔道具を分解する方がマシだ。


オグル塚の迷宮都市には兎の獣人が経営する魔道具店があった。


光の魔石を産出する鉱山の事故か、光の魔石を内臓とする魔物の枯渇か、街の話を聞くと光の魔石はスライムが生成するらしい。もしや…迷宮のスライムを乱獲した影響か…


それでも、光の魔石を得る為には迷宮の地下第二層で光苔を主食とするスライムを養殖していると言うのは周知の事実だった。スライムの養殖業は大規模に地下第二層の全面で行われるが、資格を持った調教師のみが出入りを許される。そのため、迷宮を探索する冒険者は地下第10層への近道を使うらしい。


「あぁ、これなら迷宮で、はぐれスライムを探すかなぁ~」

「それは、良い考え デスネ♪」


河トロルのリドナスは既に光の魔石を探すのに飽きていたか、河川の畔も無い地下都市では息も詰まるか。僕らは昼間から酒場に入り噂を聞く。…魔力による身体強化は聴覚にも有効だ。


本来の迷宮都市は昼も夜も無い場所であり年中無休だ。日の差さない暗らがりに潜り腹が減れば飯を食い、疲れて眠れば魔の気配に起き出して魔物と戦いお宝を探す。そんな生活を続けていると自慢の腹時計も狂い出して昼も夜も区別は無くなる。そんな冒険者や探索者を相手とする宿屋と酒場と商店は昼も夜も区別せず営業をつづける。


仕事上がりだろうか、冒険者がたむろし酒を飲み今回のお宝と戦果を語っている。


「今回の得物は上等な魔物の毛皮と…」


「……光の魔道具は修理が必要だわ…」


「調教師のハンスは……三日も姿を見せない…」


「…都市の汚水が……」


取り留めの無い話を拾うが、盗聴の魔道具も技能も無くては効率が悪い。僕らは冒険者ギルドへ場所を移した。


………


冒険者ギルドでは魔獣の討伐や原材料の採取の他にも要人の警護や商隊の護衛から町の人足や商家の手伝いに雑用に人手の派遣まで広く仕事を斡旋していた。


僕はスライム養殖業の手伝いか見習いの仕事でもあればと依頼を探して見たが良い仕事は無くて、地下第二層の清掃員として人手を派遣するものがあった。一応にスライム養殖業組合からの依頼だ。


おおっと危ない。僕はミスリルの冒険者証ではなくて…城塞都市キドの商業者証を提示した。清掃業務に冒険者の資格は必要も無いだろう。


「清掃の技能はお持ちですか?」

「生活魔法の洗浄と消臭と微風が使えます」


僕は四大精霊神に分類される火・水・風・土の魔法は使えないが、似たような効果の無色魔法があった。効果の弱い生活魔法とはいえ四大精霊に分類されるのだが…河トロルのリドナスは水の生活魔法である洗浄も得意だし…嘘ではない。派遣先で技能が無くて仕事に困るのは僕らの責任だろう。


詳しく話を聞くと、地下都市に何年も貯めた生活排水の汚水槽が破損して、迷宮の地下第二層のスライム養殖場へ流れ込んだらしい。その復旧と清掃のために人手を集めているとの話だ。


僕らは清掃員としてスライム養殖場に派遣された。




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