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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第八章 領地を開拓してみた
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ep105 王国の若き英雄と大口商談

ep105 王国の若き英雄と大口商談





 僕はトルメリア王国の貴族の子弟に混じり軍師魔法学の講義に参加していた。軍関係の講義は王立魔法学院で行われる為、講堂には平民の学生も少なく地味な服装は派手な絵画の中で汚点のように目立つ。大抵の貴族の子弟は厳つい軍服か余計なひだの多い派手な衣装を身に付けている物だ。僕は平民とはいえ商人の子弟とも見える程度の衣装で部屋の空気と化して潜んでいた。…魔力を抑えて気配を消すのは師匠(クリストファ)から直伝の技だ。そんな潜伏中の僕に話しかける者があった。


「王国の英雄殿とお見受けするが…」

「!…」


振り向くと参謀服の美男子がいた。とても学生とは見えないが、軍服の徽章には聖騎士勲章と見える造形があった。


「それとも、グリフォンの英雄殿であったか?」

「いいえ、王国の戦士勲章は受けましたが、グリフォンの勲章は存じません」


すでに英雄の虚名で呼ばれるのは慣れた者で、僕はここトルメリア王国での身分を弁えて答えた。


「ほほう、これは失礼…私の記憶違いか…許されよ」

「滅相も御座いません」


参謀服の美男子はそう言い置くと学生たちの間を抜けて、気さくな様子で学生たちと挨拶を交わしながら演壇に向かった。どうやら本日の講師と見える。


「講義を始める。皆の者! 傾聴せよ」

「…」


式辞を読み上げる式典官の様に助手と見える男が号令すると、講堂の学生たちは沈黙した。


「王国軍の参謀官としては作戦の立案は勿論の事、作戦の遂行中には軍の陣構えから部隊を戦場へ投入する事も、戦列の損耗率を把握して部隊を交代させる事も考慮すべきである」


おや、意外と参謀官の仕事は多岐にわたり戦場でも多忙なことが想像される。てっきり参謀などは作戦の立案だけで後方の安全地帯にのほほんと居るだけと思われた。


「また、戦場では軍の陣形など状況に応じて変わる物であるから、敵陣の変化をただちに把握し、こちらの陣容に対応を指示する事も重要だ。」


なるほど、学問ばかりでなく実際の戦場を知る若手の武官らしい。


僕は王国の若き英雄の公演を拝聴した。


………


昼はいつも貴族用の学生食堂だ。下手に平民が学院内をうろつくのは騒動を招きかねない。僕は鳥の根菜煮込みを食すが…銀貨一枚は高い。それでも角が取れて丸くなった根菜煮込みは美味いのだけど、庶民が作る煮込みとは料理人の手間が異なる様に見える。家庭料理を越えて宮廷料理だろうか…僕は味の再現について考えていた。


-ZAPPAN!-


派手な水音がした。食堂から見える前庭の噴水池から大量の水が溢れ出し、灌木の間を波に乗る美丈夫と見える男が現われた。上半身は筋肉質の裸体でマントを付けているが変態か。変態男は水滴を飛ばして宣告した。


「我が生涯のライバルよ。水の女神フラッドナリスの御前で勝負せよ!」

「きゃー! ナリス様!!」

「…今日も…お美しい…」

「…」


意味が分からない。変態男は女生徒の歓声を浴びている。水も滴るイイ男という訳か…変態でも美丈夫ならば許されるらしい。


「どうした、臆したか英雄殿!」

「勝負を受ける謂れはない。帰ってくれ、僕は…」


仮称変態のナリスが筋肉を誇示して言う。


「アマリエ様はお前を追って北の大国に渡ったハズだ。今はどうしている?」

「…今頃は、工房都市ミナンの辺りだろうケド…」


あぁ、水の神官(めがみ)アマリエの信者(ファン)か。


「そうじゃない! お前は何をしているのか?」

「はぁ?…」


僕は変態ナリスの意図が掴めないのだが何かに怒っているらしい。そこへ救世主(じゅまもの)が現われた。


「アドナリス! 何をしておるかッ」

「やっべえぇて……撤収だ!」


怒声がした方を見ると参謀服の美男子が護衛の騎士を連れている。先程の講師で…聖騎士勲章の…何というか?


「きゃぁぁあ! ランツベルト卿」

「うおーぉぉぉお!」

「…」


ありがとう歓声。騒ぎに介入したランツベルト卿の方が上がる歓声も大きくて…野太い男子生徒の声援も混じる…人気者の様だ。


護衛の騎士たちが野次馬に集まった学生らに解散を命じている。僕は変態ナリスの代わりに謝罪するランツベルト卿を許して午後の講義に参加した。


………


午後からは精霊神学論の講義科目だ。トルメリア王国では広く精霊信仰があり特に水の精霊とその眷属を祭る水の神殿は広く民衆の信心を集めていた。精霊神学論では様々な精霊の神学論が学べるらしいが、演壇には水の神官と見える女性が講師として登壇した。


「水の神フラッドナリスは春の神とも呼ばれ、火の神ハラムナプトルは夏の神。風の神シュツェリアスは秋風を吹かせ。土の神ゲドゥルダリアが冬を支配します」


これは四大精霊の学説に基づく講話の様だ。講師の女神官は続ける。


「火の精霊神の眷属で火山の神ボルサルパリオは水の女神フラッドナリスを妻としますが、ある時…風の女神シュツェリアスと情事を交わしました」


むむっ、恋の話なのか…不倫なのか!


「そこで生まれたのは、雷鳴の神ライデインクト。彼は水の女神の息子で氷雪の神フロストパクトと友誼を結び……」


はっ!愛人の息子と、異母兄弟なのか…だんだんと人間関係…いや神々のドロドロとした愛憎劇で理解が及ばなくなるが、女子学生たちには好評な様子だ。


僕は早々に神々の関係性の理解をあきらめた。




◆◇◇◆◇




 学生生活は順調で受講と実技を通して学ぶことも多い。本日は休日で僕は水の神官アマリエの依頼の品物を神殿に届けた。


「アルトレイ商会から、ご依頼の品物をお届けに参りました」

「うむ。アルトレイの…マキト殿か」


神殿の門衛と見える僧侶に来訪を告げると、事前にアマリエから周知されていた様子で丁寧な対応だ。


「はい。これに品物が入っていまいす」

「こちらへどうぞ」


僕が品物の包みを見せると僧兵の案内で神殿の奥へ案内された。水の神殿はトルメリアの港町から王都の各所に分神殿があり水の精霊神と眷属の神々を祭っている。僕は水の神官アマリエがいつも世話している神官長に会いに来た。神殿の奥の礼拝室のさらに奥には神官たちの私室がありそこを抜けると庭園があった。春の野草が花開き薬草が植えられた実用的な庭園は清々しい空気がある。


アマリエは未だ帰還していない。北の大国アアルルノルドの領土である工房都市ミナンに水の神殿を作るために働いているらしい。僕はアマリエが本拠を留守にしている間に神官長へ大好物のプリンを届ける事を約束していた。アマリエの親とも言える神官長への気使いだろう。


「マキトさん。よく御いで下さいました」

「アマリエさんのご依頼の品物です」


僕は包を開けて保冷箱を取り出した。箱には僕の手作りプリンが入っている。


「早速、頂いてもよろしいかしら」

「ええ、もちろん」


神官長は老齢と見えて足腰が不自由な様子に水の魔法で作成した椅子に座っているのだが、車輪も無い水の椅子が蠢動して動き廻り移動に不自由は無い様子だ。お付きの神官が保冷箱を開けて手慣れた様子でプリンを小皿に並べる。神官長は自ら香り高い茶を入れて僕に勧めてくれる。


「最近は王都でも新作のプリンが手に入りますのよ」

「ほほう…」


僕は神官長の意外と若い声を聴き世間話に相槌をうつ。王都で流行しているプリンは牛乳から作られたクリームを乗せ果実の飾り切り等の甘味が添えられて華やかに進化している。僕が作るプリンは少し苦味のあるカラメルソースと檸檬風味の物だ。


「私はこの黒い甘味が好ましいかと…」

「お気に召されて、恐縮したします」


そんな世間話の中で神官長から商談の申し出があった。


「近いうちに水の神殿では、光の魔道具を仕入れたいと思います」

「それは?」


詳しく話を聞くと大量の光の魔道具を購入するらしい。…大口の商談ゲットだぜ!


僕は大口商談を抱えて帰還した。




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