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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第八章 領地を開拓してみた
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ep104 研究室を訪問

ep104 研究室を訪問





 僕は魔方陣概論の担当であるオー・タイゲン教授の研究室を訪れた。オー教授の研究室は私立工芸学舎の北棟にあり比較的に暗くて地味な場所だ。学生の喧騒から離れて静寂な研究環境は快適だろう。オー教授は偏屈で研究以外には関心を向けないと評判のご老体だが、僕は魔方陣の知見を求めていた。


「オー・タイゲン教授は、おられますか?」

「………」


僕は研究室の戸口で来訪を告げたが返事は無い。本日は不在だろうか。研究室は不用心に鍵もせず開け放たれている。中を覗くとかび臭い資料が詰まった棚の隙間に通路が見える。細い通路の先に明りが見えて人の気配があった。僕は細い通路を進んだ。


「オー教授、お邪魔します」

「なんじゃ学生か…入室の許可は出しておらぬ」


資料の間に埋もれる様にして写本に噛り付くオー教授を発見した。


「そう言わずに、これをオー教授へ」

「ふむ…」


僕は木箱を差し出した。中身はイルムドフ産の茶葉と焼き菓子だ。


「教授にお尋ねしたい事が…」

「ちようど茶葉を切らしておった。良い!茶を入れるのじゃ」


オー教授は目顔で指す先には、しばらく利用されていないティーセットがあった。僕は鞄から携帯用の魔道具を取り出して水差しの水を注ぎ湯を沸かした。…これも冒険者の備えだ。


僕がイルムドフ産の茶を入れて研究室に戻るとオー教授はすでに焼き菓子を齧っていた。


「どうぞ」

「うむ。ちようど喉が乾いたところ。良い!香りじゃのぉ」


どうやらご満足を頂けた様子だ。僕は用件を切り出した。


「この魔方陣なのですが…」

「うーむ。ワシも初めて見る構成じゃが……風の魔方陣の一部かのぉ」


僕が提示したのは帝国領の飛竜山地で発見した魔方陣の写しだ。谷底に残る遺跡の洞窟には未知の魔方陣が眠っている。


「この様な文様もあります」

「おぉ、これは!…かなり古い様式の魔方陣ではないかッ」


次に開示した魔方陣の写しもオー教授の興味を惹きつけた。


「他にも資料を提供できますが、魔方陣の概要だけでもご教授願えませんか?」

「うむ。良かろう! 資料は早急に寄こすのじゃ」


交渉は成立した。


………


オー・タイゲン教授は昼の休憩も忘れて古い資料を取り出し僕が提示した魔方陣を調べている。何を尋ねても「あー」とか「うー」とか言うだけで会話にならず、僕は仕方なく学生食堂で昼食にした。


食堂で河トロルのリドナスと森の妖精のポポロを見付けた。リドナスは魚の定食でポポロは自炊の弁当だ。…二人とも揺るぎ無い日常だねぇ…ピヨ子は小鳥の姿でポポロから餌を貰っていた。僕も同席して話を聞いた。


「マキトさん。今年は豊作で良い豆が()れました」

「むふふっ、美味そうだねぇ」


森の妖精のポポロは実家で収穫した豆の料理を自慢した。おすそ分けに貰った豆の煮物が旨い。ポポロの手作り弁当は基本が味噌と醤油ベースの味付けで僕の舌に合う…嫁にしたい候補ナンバーワンだ。


(ぬし)様と 一緒ですね♪」

「今日の魚は?」


僕は自分の魚定食を味わう…トルメリアの近海で獲れた小魚の塩焼きだ。河トロルのリドナスは新鮮な生魚の刺身の旨味が分かる同好の士だが、トルメリア王国には危険な!生魚を食べる習慣は無い。魚市場でも生では食べないらしい。


食事の間にポポロとリドナスの話を聞くと本日の魔法系の講義科目も順調な様子だ。


「ピヨョー、ピヨョー♪(まいうー、まいうー)」


ピヨ子が軽快に鳴いた。


………


昼から研究室へ戻ってもオー教授は「あー」とか「うー」とか独りごちて魔方陣を調べている。僕は暇に任せて棚の資料を拝見した。古い資料は羊皮紙の巻物の他にも木札や竹の短冊に書き連ねた様式の物があり、古い魔方陣を写したと見える粘土板もあった。


「表面を削って…【削剥】」


木札は表面を薄く削り墨のインクで書き込む。


「木材加工として…【接合】」


僕は余った木札に資料の目録を作り棚に張り付けた。【接合】は木材に細工して組木の様に組み合わせているので、木札の取り外しが出来る。木材の建築には便利な手法だ。そうして資料を検分しているとオー教授が奇声を上げた。


「ひぎぃえぇぇぇえ!」

「ッ!」


驚いてオー教授の様子を見ると…


「魔方陣が…途切れておる…良しとは言えぬ…ぐぬぬぬぬ」

「オー教授。お食事を用意しました」


歯噛みする様子のオー教授へ僕は保温箱から取り出した魚の定食を差し出した。ほんのり温いが冷たいよりはマシだろう。


「魚は嫌いじゃ!」

「そう言わずに、ひとつ試して下さい」


僕は暖かいお茶を入れ直しつつ魚の定食を勧めた。密かに骨抜きしてあるので試食して欲しい。


「くぅー、魔方陣の続きはどうなっておるのか?」

「明日にでもお持ちします」


オー教授の腹が鳴ったので食欲はありそうだ、嫌々ながらも魚の定食をつつき始めた。


「うむ。続きの資料も早急に寄こすが、良かろう!」


僕は翌朝も研究室を訪問すると約束した。




◆◇◇◆◇




次の日は早朝からオー教授へ魔方陣の資料を届けてから魔物生態学の講義に参加した。背の低い子供…ちみっ子と見える教授が講堂に現われると黄色い歓声が上がる…さすがは人気の講師だ。


「きゃー、チリコ教授よ!」

「こちらを見たわ…」

「あぁ、麗しき…ルイーゼ様…」

「…」


僕は抽選となる人気科目は避けて受講登録したが、ちみっ子…通称チリコ教授の特待枠で席を確保されていた。どうやらチリコ教授の推薦らしいが、ちみっ子教授の魔物生態学の講義は内容も面白いので歓迎する所だ。演壇に踏み台を重ねて乗りちみっ子教授の講義が始まると、講堂はその声に聞き入るように静まり返った。


「本日は雪原の魔物の生態についての考察じゃ」


慣れた様子で、ちみっ子教授が合図をすると助手が壁面に魔物の絵図を張り出す。


「きゃー、可愛い…」

「ふふふっ…」

「…」


「特に寒さの厳しい北方の雪原に生息する魔物…雪兎は鳥類が魔物化したものと考えられる」


ああ、僕が見た所では真っ白なペンギンなのだが、頭部の鶏冠(トサカ)だか羽毛は兎の耳にも見えるかも。


「その証拠として嘴があり体毛は羽毛に似ているが、飛ぶことは無くて雪上の魔力を餌としている」


ふむ、雪兎は何度も解体したが肉も焼き鳥に似て旨かったなぁ。


「雪兎は取り込んだ魔力を体内の氷の魔石に蓄積するのじゃ!」


ちみっ子教授が絵図面を指して魔石の場所を示すと、僕の隣の席では探索者かギルド職員と見える男が熱心に講義内容を記録していた。


「それに対して、雪兎を捕食する肉食の白熊は雑食の影響か体内の魔石の純度が劣る…大きくても価格は安いのじゃ」


まあ、熊肉も調理が良ければ旨いのだけど…魔石の品質はいまいちだ。


僕は熊鍋を夢想しながら講義を聞いた。


………


僕は講義のあと昼休憩にちみっ子…通称チリコ教授の呼び出しを受けた。チリコ教授の研究室は東のモダン建築と見える新棟にあった。私立工芸学舎は全体多岐に増築を重ねて歴史のある造りだが、新棟は設備も良くて学生たちの活気に溢れていた。


チリコ教授の研究室を覗くと資料に混じって魔物の動物標本などがあり一見…獣臭そうだが…花の香りがして何かの薬品だろうか。僕が来訪を告げると学生か助手と見える女子が案内した。


「教授。お話とは?」

「まあ、掛けるが良かろう」


勧められて応接席に着くと学生か助手と見えるメイド!が香り高いお茶を注いでくれる。


「ほぅ、へぇ」

「早速じゃが、オーちゃん…ゴホン!……オー教授の様子がおかしいのだが、何があったのか?」


僕が呆けて整頓された研究室の様子を眺めているとチリコ教授が用件を切り出した。それよりも今!オーちゃん!て言うたか。


「僕は未知の魔方陣の研究を、お手伝いしています」

「ふむ。それで…」


応接席で優雅に茶を飲み、僕はオー教授が研究する様子を話すのだけど、いつもの事だろうと思う。


「なにしろ、古い魔方陣らしくて規模も大掛かりな上に全体像も正確には分からないと言う難物で帝国の……えっ!」

「なるほど、そういう事か!」


チリコ教授はひとり納得して立ち上がり、そのまま研究室を出て姿を消した。


「どうしたん?゛ですかねぇ…」

「ご心配には及びません」


お付きのメイドさんは落ち着いた様子で僕を客人として持て成した。トルメリアの王都で流行している新作のプリンは上質の出来だ。




◆◇◇◆◇




優雅なひと時を終えて午後からは戦闘訓練Aの広場に集まった。僕は少し遅刻したが本来の戦闘訓練はABCの三段階で実力別のクラスとなっている。僕の戦闘技能ではBクラス所か最低のCクラスだけど、王国優戦士勲章の虚名がそれを許さなかった。


広場では河トロルのリドナスが冒険者と見える男を投げ飛ばしていた。


「リドナスの勝ちだ!」

「「おおぉ…」」


教官と見える剥げた親爺がリドナスの勝利を宣言した。見学している学生たちから歓声が上がる。話を聞くと教官が皆の実力を見たいと言うので勝ち抜き戦が行われているそうだ。既にリドナスは三人抜きとの話で…Aクラスでそれは素晴らしい実力だ。


「あれは…無色の魔法を使うマキトだ」

「なにィ、王国優戦士勲章のマキトか!」

「…どれどれと…」

「…」


遅れて到着した僕は学生たちに押されてリドナスと対戦する事になってしまった。


「試合を…始め!」

「ッ!」


教官の号令で対戦が始まった。僕は木製の杖を構えてリドナスの動きを見た。リドナスは短刀に模した木切れを両手に持ち二刀の構えだ。河トロルのリドナスは流水の動きを得意として変幻自在に攻め寄せるが、本来は潜伏技能と速攻を生かして一撃必殺に相手の急所を切る。


僕は杖を短く使い迎撃した。リドナスの得物の短刀はリーチこそ短いが、緩急の動きで相手の懐に飛び込むと危険だ。牽制として近づいては離れるリドナスの動きに合わせて僕は杖を短く振るい連打で応じた。杖の打撃では致命傷とはならないが、相手が体制を崩して行動に隙が出来るのを待つ。予想に反して打ち合いとなった。


「水鬼リドナスと互角か!」

「杖術も使うとは…」

「うおぉぉぉ!」

「…」


学生らは興奮した歓声を上げるが、僕はリドナスの動きに集中している。瞬間の隙が命取りだ! 攻撃は防御なり…と杖を短く使い追撃するがリドナスは打撃を躱した。マズイ!


ここで避けられるとは思わず、僕の首筋にリドナスの短刀が当てられた。死んだ……試合中に三回は死んだ。


僕は緊張と疲労困憊して倒れた。





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