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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第八章 領地を開拓してみた
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ep103 私立工芸学舎(第二期)

ep103 私立工芸学舎(第二期)





 僕は私立工芸学舎へ復学した。すでに二期目となるが受講登録は人気の科目を避けてより専門的な希少な科目を選択していた。本日は魔方陣概論の講義だ。老齢と見える講師が登壇して講義がはじまる。


「魔方陣は主に大規模な魔法の術式を行使するために使用されるのじゃが、日常で利用する魔道具にも使用されておる」


講師の老人は曲がった腰を伸ばす様にして絵図面を張り出すのだが、助手もいない様子で危なかしい。手書きの図表の様だが魔方陣の概要図となっている。


「この図形は魔方陣を分解して、入力部、変換部、概念部、発動部を示した物じゃ。職人の認定試験に出題されるから良く覚えるのが良かろうて…」


学生たちは絵図面の内容を書き写すのに集中しているが、僕はその絵を書き写しても役には立たない事を知っている。魔方陣の図形は線の太さから交点の角度まで正確な描画が求められる。…巻物工房では熟練の職人技を活用し製作していた。


僕も周りの雰囲気につられて特徴的な魔方陣の機能図をメモ書きしていたが用紙の無駄に思える。学生たちは石版や木札などに書き連ねてから後に羊皮紙の巻物などへ要点をまとめるらしい。僕としては本物の魔方陣を見たい所だ。


その日は魔方陣の基礎的な機能と図形の解説で講義は終わった。


河トロルのリドナスは僕の護衛として同行しているが、私立工芸学舎では別の講義に登録している。今日は薬草学2と医療実技の予定だろう。河トロルの集落では独自の薬草を利用していたが医療技術と言える物は少ない。ほとんどは水治療として魔力を使い本人の治癒力を高める施術だ。講義は少しでも一族の役に立つ内容と期待したい。以前は森の妖精ポポロも同じ受講生だったが今季も在籍しているのだろうか。


鬼人の少女ギンナは人族の中では、その特徴的な角が目立つのでタルタドフ村で留守番をしている。村の開拓地への食糧供給はひと段落して行商人のベンリンさん他に委託している。いちおう領主の権限で僕がトルメリアから食糧を輸入し開拓地の販売所に置いて、それを必要とする村人が買い求める仕組みで運営しているのだが、利益は薄く赤字にならない程度に抑えている。これらは店員の教育も含めてメルティナの担当だ。


僕は先に講義を終えて下宿先へ帰った。




◆◇◇◆◇




僕は私立工芸学舎へ通学するため、アルトレイ商会のキアヌ氏の厚意で店舗の裏に下宿していた。キアヌ氏は商会長であり僕の魔道具の師匠とも言える。そのため何度か新製品の魔道具について相談していたのだが、今回は設計図面も書き起こして本格的な提案をした。


「ほほう、面白い魔道具じゃないかね!」

「いかがでしょうか?」


キアヌ商会長は美中年の顔に興奮の色を見せて宣言した。


「是非、うちの商会から発売したい物だね」

「お願いします!」


その後は商談として魔道具の設計図をキアヌ商会長が買い取り。僕は販売された魔道具の一台ごとに販売権料を貰う契約とした。


「早速に作らせよう!」

「たくさん売れると良いですね」


今回の魔道具は氷の魔石を使い氷を生成する箱型をしている。さらに箱の上部では発熱を利用して湯を沸かす集熱部がある。その集熱部は小型化して一人用のお茶が湧かせるオマケ機能だ。


僕は商談を終えて店舗の裏手にある工房を覗いた。以前は工房に設置した乾燥小屋で魚の干物を作成していたが、その職人は趣味が高じたか工房を辞して独立し魚の干物を扱う商売を始めたらしい。港の市場の端に干物屋を発見した。


「こんにちは」

「おや、マキトさん。ご無沙汰しております」


「兄弟子!…商売は繁盛ですか?」

「あぁ、兄弟子はやめてくれ…職人の腕では君にはかなわないし…今は商人だから」


若い男は魔道具の職人をやめて今は干物屋の主人だ。クラントと名乗った干物屋の男は商売の難しさを打ち明けた。話を聞くと港の市場に並ぶ鮮魚に比べても魚の干物は人気が無い。その為この出店も閑散としているのだが商品の出来は良い。漁村の伝統的な保存食として魚の干物は作られているが、市場の鮮魚を差し置いて購入する物では無いそうだ。

しかし、彼の店では伝統的な手法に加えて乾燥の魔道具を利用した促成の製法も可能だろうと、僕はいくつかの提案をした。


「味付けを変えてみるとか、原材料も海の魚に拘らなければ…何でも有りかと思いますよ」

「ほうほう…」


「あとは、保存食として迷宮に挑む冒険者にも売れるでしょう」

「なるほど!」


僕はひとつ、味醂干しの作り方を教えてお礼に魚の干物を手に入れた。リドナスが喜ぶ素朴な味わいだ。




◆◇◇◆◇




次の日はリドナスの受講風景を見学した。そこは語学2の講義室で人族の言葉を学ぶ獣人や妖精族の子弟などが集まっている。講義室の最後尾には学生父兄が子弟の受講態度を参観するための見学席があった。見学席から講義を参観するすると、その中に森の妖精ポポロを見付けて僕は微笑んだ。今期もリドナスと仲良くしてくれると助かる。この風景に鬼人の少女ギンナも入れてやりたいが、時期尚早だろうか。…獣人排斥派という物騒な噂もある。


ひと通りに講義を見学して僕は早めの昼食を取った。ここは王立魔法学院の食堂だ。黒豚の肉と春野菜の炒め物は銀貨一枚!と高価な定食を食べていると僕に話しかける声があった。


「英雄マキト殿とお見受けします」

「なッ!」


声の方へ振り向くと腰に剣を佩いた剣呑な女が立っていた。どこの騎士家系だろうか…その容姿には見覚えがある。


「王国優戦士勲章を受けたマキト殿とは是非お手合わせ願いたい」

「僕は騎士の家系ではありませんので…」


王立魔法学院の学生だろうか…僕は私立工芸学舎の所属だ。両校は講義の交換制度があり、僕らが貴族の子弟の多い学院側へ通うことは少ない。僕には武力も無いのだが…新手のナンパ手法だろうか。王国優戦士勲章は前回の魔法競技会の騒動で王国から授与された物だが何の役にも立たない飾りだ。…むしろ悪目立ちして迷惑とも思える。


「まあ、良かろうて…次の魔法競技会に期待している!」

「…」


そう宣言して王国の騎士か見習いだろう剣呑な女は去った。美人には違いないが目付きの悪さで損をしているかも。しかし、魔法競技会に剣士や騎士職は参加できないと思うのだが。…


………


午後からは領地経営学の講義に参加した。トルメリア王国は各地を治める領主貴族の連合国家で将来は領主か血族の元で領地の経営に関わる者が多い。また王国の官僚や役人として働くとしても領地経営の知識は有益だろう。僕は貴族の子弟に混じって講義を受けた。


「ひとくちに領地経営と言っても多岐に亘ります。まずは領地の収入について…租税、商業税、通行税などの基本収入に加えて領地の特産である…鉱山税や迷宮税、狩猟税などがあります」


王国の官僚か役人と見える男が領地経営の財政面の税収について講義するらしい。僕は税収の概要から詳細と領地の産業育成について学ぶ。これは私立工芸学舎には無い講義内容だ。


僕は有意義な講義を終えて帰途に就いた。





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