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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第八章 領地を開拓してみた
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ep100 契約の変更

ep100 契約の変更





 僕は帰還の途中でユミルフの町に立ち寄った。領主のカペルスキーが捕縛されて臨時の領主代行となった帝国の徴税官ティレル女史を訪ねて、タルタドフ村の開拓地への移民の募集状況を尋ねた。


「元奴隷のほか数名の兵士が開拓地への入植を希望しています」

「その、元奴隷というのは?」


「領主の屋敷で働いていた奴隷たちの契約状況を確認したところ、既に契約が終了して自由の身となった者たちです」

「ほう…」


ティレル女史の話では奴隷にも種類があり借金奴隷などは返済が完了すれば自由の身となるのだが、領主の屋敷では不当な低賃金で搾取されていたらしい。それをティレル女史が正当な賃金で再計算し解放した上に退職金まで支払うと言うのだから驚きだ。有能な帝国の徴税官エルスべリア・ティレルは知的に眼鏡を押さえて言う。


「領主代行として帝国への租税を納めた後に、屋敷の財産をいくらか処分しても問題は無いでしょう」

「なるほど!」


僕はティレル女史の手腕に関心していたが、


「それで、…ひとつ問題があります」

「何か?」


「カペルスキーが牢を抜け出しました」

「えっ!」


「領主交代のため警備の隙を突かれたらしく、カペルスキーの手下が逃亡を手引きしたのです」

「それじゃ今は…」


「逃亡者の足取りには、追手をかけていますが……」

「…まずいですねぇ」


めずらしくティレル女史の話にキレが無いのは、捜索が難航しているからと思う。早急にカペルスキーを捕えたい。


僕らは相談して逃亡者の捜索本部を設置した。




◆◇◇◆◇




 僕はユミルフの町に滞在する間に乗馬の訓練を受けていた。最初はティレル女史の指導に従いカイエン号の先導で馬に乗り常歩(なみあし)ほどの速度で歩くのだが、慣れないせいで尻が痛くなる。


上手く腰でバランスを取り馬と息を合わせて右・左・右・左とパカパカ進むのだ。前進するにも馬脚を自分の足の延長の様に取り廻わさねば、馬上一体の動きは実現しない。僕が数日の訓練で馬の操作を覚えたのは、主にカイエン号の先導おかげだ。


「訓練は順調ですね」

「はい。ティレルさん! カイエン号のおかげです」


僕は馬場に姿を見せたティレル女史に感謝した。汗を拭い馬の背を撫でて休憩しつつ捜索状況を訪ねる。


「マキトさんにお借りした密偵は優秀ですね! カペルスキーは東の山中へ潜伏した模様です」

「追手の方は?」


「未だ発見はしていませんが、時間の問題かと思います」

「そうですか…」


既にカペルスキーが潜伏した東の山中への捜索は開始したらしい。僕は密かに河トロルの戦士リドナスへ指示した。


………


僕らは馬に乗り速歩(はやあし)で森を駆けていた。常歩(なみあし)で歩くだけならば馬上の鞍に腰掛けていられるが、速歩(はやあし)で走るとなれば馬脚に合わせての上下運動が必要となる。僕が太ももの筋肉に疲労を覚えて手綱を引くと馬は徐々に速度を落とし…森の切れ目で休息した。


河トロルのリドナスは僕が乗馬の訓練をするのに付き合って見学していたが、馬の操作を覚えた。……才能の差に愕然とするが、頼もしい仲間として期待しよう。鬼人の少女ギンナは僕の背に付いて二人乗りだ。


(ぬし)様、あちらが 山賊の砦です♪」

「うーむ」


僕は自作の望遠鏡を取り出して、山向こうの遠方に見える砦を観察した。


「何か動物がいるですぅ~」

「黒毛の…大きな犬か?」


野生児の視力かギンナは裸眼で砦を目視していた。リドナスにも詳細は見えないらしい。僕が望遠鏡と魔力による身体強化も駆使して砦の様子を見ると、砦の住人は正規の兵士とは見えない……野盗か山賊の類だろう。黒毛の大型犬には人型の肉?を与えていた。


「あっ、食べた…」

「むむっ、魔物かッ」


嫌な物を見てしまった。


………


僕らは馬を駆けさせ駈歩(かけあし)で拠点まで戻った。駈歩(かけあし)では馬体の上下運動に加えて前後にも揺さ振られるが、パカラッ、パカラッと駆けるリズム感は軽快だ。


「山賊の砦を確認しました! 警戒は厳重な様子ですよ」

「包囲網を設置したいと思います…」


ティレル女史と相談して砦の殲滅作戦を立てた。策は殆んどがティレル女史の立案で僕らは正面から山賊どもを威圧する役目だ。ティレル女史は軽装鎧の装備で愛馬のカイエン号に乗り包囲網を指揮する為ここで別れた。


「ご武運を祈ります!」

「ありがとう。貴君も」


山賊砦の正面に粛々と布陣した。すでに砦の物見には発見されているだろうが、軍勢の威容を見せつける事が僕らの役目だ。


「やあやぁ! これなるは帝国軍の精鋭なるぞッ! 盗賊どもは神妙に縛に付けぇぇ!」

「「「 おおおぉぉぉう! 」」」


僕が口上を述べると軍勢の兵士が気勢を上げた。気分は火付盗賊改め方の大将のようだ。砦には正面に見える跳ね橋と裏手にある通用口もあるが、裏手には伏兵を敷き手下の逃亡を誘発させたい。こちらの兵士の前列は帝国の正規鎧を装備して姿を見せ二列目以降には長槍を並べて威迫する。


すると、砦の裏手の方に騒ぎがあり、どうやら砦からの逃亡者と伏兵が遭遇した様子だ。逃げる癖が付いた弱者は土壇場に弱い…本命のカペルスキーを捕らえたならば残りの雑魚はどうでも良いのだけど…今後の治安対策を考えると野盗や盗賊の類は数を減らしておきたい。


「強襲斥候ッ 突撃!」

「「チュー!」」


僕は先手として鼠族の部隊へ突撃を命じた。以前に商隊への襲撃で捕縛された鼠族の盗賊たちは領地の周辺を警戒する密偵として雇用していたが、本格的な実戦は初めてだ。鼠族は果敢にも砦の防壁をよじ登り内部を伺う。


「弓矢ッ 放て!」

「はっ!」


砦の物見台と数か所の高台から反撃を予想して、突撃と同時に牽制の弓矢を放つ号令をかけた。一斉に砦の防壁を越えて矢が降り注ぐ!こちらの兵士の練度はなかなかの物だが、主力とする為には忠誠心に問題があった。


ティレル女史は領主の屋敷の元奴隷やカペルスキーの下で不当な扱いを受けて反抗心のある者を選抜して率いている。残りの兵はカペルスキーの下で働いていたが、新領主に付くのも態度を保留にしている者が多い。…ここで負ければ寝返る事もあり得る。


そのため、僕らタルタドフの軍勢は傭兵として参戦していた。カペルスキーが領主として不正に蓄財していた財産から傭兵への報酬が支払われる契約内容は山賊たちへの皮肉だろうか。ティレル女史の姿勢はユミルフの財政部門をも粛清する勢いだ。


「ハボハボ 頼む」

「HUGAA!」


岩オーガのハボハボが巨体を揺らして数人の仲間と伴に砦の正面へ突撃した。巨体とは思えない大跳躍をして、岩オーガたちが跳ね橋に飛び付くと重さに耐えかねて橋が降りた。既に鼠族の部隊が砦の内部を攪乱していた様子で正面の門から内部の混乱が見える。


「正面の歩兵ッ 突入!」

「「「 おぅ! 」」」


既に大勢は決した。あとは多勢に任せて砦の内部を制圧するのみだ。山賊砦に蓄えられた金品と食料をめざしてユミルフの兵士たちが突撃した。軍の規律を締め付けても戦時の略奪は防ぎ難い…彼ら兵士たちの臨時収入でもあり少々は黙認される習慣だ…僕は戦場の現実を見た。


ここが街中であれば酷い有様になる事が予見される。そんな暗い想像をめぐらせていると砦の一角で悲鳴が上がった。伝令の兵士たちから慌てる様子が伝わる。


「まもっまの、魔物の ガルムです!」

「やはり、魔獣ガルム!かッ」


新たな脅威に兵士たちは戦慄した。魔獣ガルムの討伐は傭兵の雇用契約には無い。




◆◇◇◆◇




帝国の徴税官ティレル女史は領主代行として軽装鎧の装備で愛馬のカイエン号に乗り山賊砦の包囲網を指揮していた。


-PYIIII!-

-PIッ PIッ PYI!-


ほぼ同時に警告の合図として笛が鳴らされた。砦の後方へ配置された伏兵からの知らせだ。


「第七班から十班は三班の援護! 残りは私と同行せよ!」

「「はっ!」」


ティレル女史はカイエン号を駆り現地へ急行した。伏兵は班ごとに分かれ敵影の発見と同時に合図を送り、増援が来るまで敵兵の足止めと防御に専念する様に命令していた。


増援の部隊を現場に急行させて確実に賊を捕えたい。特に元領主カペルスキーの身柄は重要で、帝国の裁判にかけて法の下に処罰することが優秀な徴税官の仕事のひとつと言える。他にもいる不心得な領主に対する見せしめと厳罰の意味が大きい。


「カペルスキーです!」

「釣れましたわ♪」


元領主の顔をよく知る元奴隷の兵士から報告があった。どうやらこちらが当りの様子だ。ティレル女史は喜んで愛馬カイエン号を走らせた。砦の後方は山がちの森林地帯で軍馬の行軍には適さない為、敵方も徒歩で逃亡する筈だ。…山道を行ける所までカイエン号に頼ろう。


「くっ…奴隷の如きがっ…我に従え!」

「ふん!」


元領主カペルスキーが奴隷紋を制御する指輪に命じるが、元奴隷の兵士は従わない。既に彼らの隷属契約の魔法は変更されて自由を取り戻している。


「カペルスキー! 捕縛しますわ」

「っ!…」


争う現場に駆け付けたティレル女史はカイエン号に乗って突進した。カペルスキーの傍には護衛に大盾の兵士と長槍の兵士がいて軍馬の突進に気付いた。果敢にも盾を構えて長槍を地に着け踏ん張って軍馬の突進に対抗している。…逃げるなら山中の藪を進むべきでしたね。


「はぃぁぁぁあ!」

「ぐっ、わぁぁぁぁあ!」


カイエン号は騎手の指示を受けて長槍の兵士の脇を駆け抜けた。ティレル女史が気合を発してすれ違いに細剣を振るうと長槍の半ばから断ち切られた!衝突に備えていた護衛たちも驚く剣術だろう。…私の勝ちですね。


「観念しなさい! 獲りましたわ♪」

「…」


-FUNFUN!-


カイエン号がどや顔で鼻息を吐く。馬蹄を轟かせる増援の騎馬兵が到着して、ついに護衛の兵士も観念したらしい。


無事にカペルスキーの身柄を確保した。





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※おおっと、気が付いたら100話を越えていた。

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