表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第八章 領地を開拓してみた
116/365

ep099 不審人物と黄金剣

ep099 不審人物と黄金剣





 僕はトラフ広場で朝食を取った後に演劇を楽しんだ。午前の部は前日の「怪盗物語」の再演で僕らの出番は無い。事前に舞台道具や衣装を準備した他は広場に集まる観衆の誘導とテーブル席の整理などを手伝いながら上演の様子を見る。舞台は貴族のご令嬢と怪盗モレーメの恋愛話だ。


「あぁ、モレーメ様。あなたは今夜も私を奪ってゆくのですね」

「恐れ多い…姫の御心はご自分だけの物ですよ」


貴族の屋敷を思わせる場面の作りで、怪盗の麗人がマントを翻すと舞台の上からご令嬢の姿が消えた!どういう仕掛けか…気になる。


「曲者だ! であえ、であえ!」

「「おおぉ!」」


屋敷を警備する兵士たちの声が聞こえてきた。怪盗モレーメは屋敷の財宝を盗み出して退散するらしい。ほとんどは怪盗側の盗みが成功して話が終わるのだが、同時に貴族のご令嬢の心も奪われてゆく。


観客のご令嬢と老いも若きも女たちは怪盗の麗人に心酔しているが、護衛の者や男たちは敵意を見せる様子だ。そんな観衆から離れた広場の片隅に舞台を見詰める鋭い視線があった。風体はマントを着た旅人の様だが最近の陽気に反してフードを深く被り顔を見せない。密偵であれば姿を見せるだけでも失態だが、僕でも気付くほどの異様な気配に驚いた。…騒ぎを起こさなければ良いが。


河トロルのリドナスが気配を消してフードの人物に近づくと、接近に気付かれたか旅人らしい動きを見せて広場を離れた。


(ぬし)様、申し訳 アリマセン……」

「良いよ。警備の役には立っている」


リドナスも町の中では動きが制限される。今は不審人物を遠避けるのみで十分だろう。舞台では軽く警備の兵士を突破して怪盗モレーメが屋敷を脱出した。屋敷の上階では貴族のご令嬢が窓辺から怪盗の後ろ姿を覗いていた。


………


昼時は広場に面した飲食店と屋台は忙しい。しかし、市民の事情など知らぬ役人が兵士の部隊を連れて広場を占拠した。役人の男が広場に馬で乗り付けて宣告する。


「市民に告ぐ。最近に市井を騒がせる怪盗なる者を捕縛した者。また怪盗なる者の潜伏せし場所を密告した者。あるいは怪盗なる者の正体について情報を提供したる者に報奨金を与える!」


「「 おおぉぉっ 」」

「…ざわざわ…」


役人の男が口上を述べると伴に広場の掲示台に布告の内容と賞金額が張り出された。本物の怪盗は高額な賞金首との事で懸賞金に市民がどよめく。こんなご時世に「怪盗物語」など体制をあざ笑う演劇を上演して大丈夫だろうか。さいわい次の上演は「クロウバイン英雄譚」だが…


しばらく広場の掲示台を囲んでいた兵士たちは数人の警備を残して布告役人と伴に帰還した。


僕らは昼食を終えて舞台に上がる。


場面は雪に模した小道具と音響効果で吹雪を表現し風魔法を動員して猛吹雪を見せていた。僕は英雄クロウバインとしてメルティ姫の手を取る。


「メルティ姫様。この吹雪では進むも危険です!」

「ええ、このままでは…凍えてしまいますわ」


先程まで怪盗の麗人を演じたアーネストは見事に美人な姫様だ。僕は身長差を誤魔化すために厚底の靴を履き、アーネストはヒールの低い靴を履いて歩き方だけで身長差を克服した。ドレスの中身はどうなっているのか……いや、僕も少しは身長が伸びたので、数年もすれば追い付き追い越せる!…と思いたい。


「姫様、あの洞窟に避難いたしましょう」

「はい。英雄様のお導きのままに!」


僕らは舞台の洞窟に避難した。倒れ込む様にして二人の姿が舞台から消える…奈落だ。舞台の一角には地下へと降りる仕掛けがあった。僕らが地下の通路を通って舞台の裏へ移動すると舞台の上では妖精たちが情熱的に踊る歌舞音曲が披露されていた。


地の精霊として岩石鎧の衣装を着けた河トロルのリドナスは歌唱において実力を発揮し美声を響かせていた。雪の妖精として白いモフモフの毛皮を着た鬼人の少女ギンナは舞踊において抜群のリズム感で観衆を魅せている。僕にはどちらの才能も無かったので、剣舞をさらに特訓ようと思う。


「ラララ♪ 我ら精霊は♪ 英雄に従いて♪ 世界を廻り♪ 金色の光をかざす♪」


他にも地の精霊や雪の妖精の衣装を付けた役者たちが情熱的に踊る様子は、吹雪の激しさと二人の熱愛の激しさを思わせる。


「メルティ姫、……吹雪が晴れました」

「はい。クロウ……おかげで、暖かく過ごせましたわ」


心なしか二人の距離が近いと思うが、


「くっ…不覚にも、姫を危険にさらしてしまい…」

「何も悔いる事はありはせん」


英雄クロウバインが何かを言い掛けたのをメルティ姫は押し留めた。


僕らは冒険の旅を続けた。


………


舞台の後、僕は楽屋で氷の魔女メルティナの緊急詰問を受けた。


「あなた! しばらく帰って来ないと思ったら。これはどういう事かしら?」

「こ、これは…開拓村への移住を…希望者の募集と宣伝の一環であり……」


なぜか僕はしどろもどろに弁解するのだが、痴話喧嘩を見るような周囲の役者たちの視線が痛い。メルティナにはイルムドフの市井で開拓者の募集を行う事を言い置いた筈だが、


「むきー! こんな所で女を作って…私の献身は何だったのかしら…」

「メルティナ。落ち着いて話を聞いてくれ!」


おおっと、これが現実のメルティ姫かッという驚きの視線を浴びて僕は焦るも、氷の魔女メルティナの怒りは収まらない。


「許さないのだから! もぅ、目に物を見せてあげるわ…」

「何を、許さないのかしら?」


そこへメルティ姫の衣装を解いた男装の麗人アーネストが現われた。


「この女が…いや男?…」

「っ!」


僕は面倒な事になりそうなメルティナお嬢様を連れて楽屋を飛び出した。


………


夕飯前の街にこれから繁盛しそうな屋台で肴を買い発泡酒をメルティナに勧めた。


「しばらく留守にして悪かった…メルティナ。何があったのか話してくれ」

「ええ、そうねぇ…」


氷の魔女メルティナの話では戦禍を逃れていたタルタドフ村の住人が村へ戻り始めた事。ユミルフの領主カペルスキーの屋敷に奴隷として使われていた幾人かが開拓村への移住を希望している事。イルムドフの都市部では本物の怪盗が市井を騒がせている事が分かった。


「その怪盗というのは、何かやったのかい?」

「金持ちの商人と貴族の屋敷から金品を奪うとの話だけど、最近は王宮から秘宝とされる黄金の剣を盗み出したらしいわ」


本物の怪盗の実力にも驚くが、…


「王宮も狙われるのか!」

「凄腕の怪盗で、今まで盗み出した金額は相当な額よ」


メルティナは怪盗の被害状況について語る。


「しかし、今まで…よく捕まらない者だなぁ」

「被害者の貴族たちは体面を気にして被害を隠すのだけど、王宮の被害は看過出来ない様子だわ」


僕は昼間の広場での布告内容を思い出した。


「それで、懸賞金か…王族のメンツが掛かっているとの意図か?」

「ええ、そう思うわ。だから、怪しげな劇団には関わらないで頂戴ッ」


「はっ!? なぜ、そこで劇団がっ」

「もちろん単なる噂に過ぎないのだけど、体制批判は危険すぎるのよ……」


最後のメルティナのひと言は歯切れの悪い物だったが、僕の立場を心配する気持ちに嘘は無い。


僕はメルティナの心情を汲んで帰還した。





--


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ