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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第八章 領地を開拓してみた
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ep096 クロウヴァイン冒険譚

ep096 クロウヴァイン冒険譚





 僕は霧の国と呼ばれるイルムドフの街にいる。イルムドフは東を海に面した港町でこの辺りでは大都市だ。北側から町を見下ろす高台には王城があり威容を誇っている。


それでも港町を行き交う市民や商人たちの関心は日々の生活とわずかな賃金を稼ぐ事にあり、娯楽に金銭を投じる者は少ない。にもかかわらず、珍しく街路で賑わいを見せる興行があった。


そこは商店の一角が舞台として整えられて表は広場に面しており、広場の両側には飲食店と酒場のテーブルが引き出されて観劇と食事が出来る様子だ。また大小の屋台が立ち並び味わいを競っている。


舞台では仮面を付けた怪盗が追手の兵士たちと大立ち回りを演じている。以前に見た怪盗と悲恋物語の続きだろうか。僕は演劇を見ながらテーブル席で大麦酒(エール)を注文した。イルムドフの大麦酒(エール)は酒精が少ないく香り高い。河トロルのリドナスは魚の料理を注文している。


僕らが料理を注文していると演目が終わった様子で、舞台から降りた俳優たちは広場に集まった観客から御捻りを集めていた。僕は銅貨を投じた。


「おや、銀の君! お久しぶりです~」

「むっ誰だ?」


僕をギンノキミと言う優雅な名前で呼ぶのは怪盗姿の麗人だ。


「これは失礼しました。私は主役を務めますアーネスト・メイヤでございます」

「………」


怪盗姿の麗人は貴族風の礼をして名乗ると話を続けた。


「舞台の上から見ておりましたよッ今お着きでしたね。是非にも次の公演を見て頂きたい!」

「いいえ、食事を終えたら帰ります」


「ならば、私どもの飯店(レストラン)に招待いたしましょう。ささ舞台の裏へ」

「…」


強引な招待たが、飯店(レストラン)の食事にも興味がある。


僕らはご招待に乗った。


………


広場からひとつ裏手に入った路地には飲食店と宿屋を兼ねた形式の店があり隠れた名店の風情だ。その場所でひとりの人物を紹介された。


「サルサ・ビオバルトと申します。銀の君」

「その、ギンノキミというのは?」


サルサは壮年の渋い親爺だが、若い頃は浮名を流したと思われる華麗な話しぶりである。この人物も僕をギンノキミと言う優雅な名前で呼ぶのだが、


「これは失礼。あなた様からご祝儀に銀貨を頂いてから、公演は上り調子でございます」

「…」


以前に船旅でイルムドフの港町に立ち寄った時の事だろう。


「感謝を込めて、我々はあなた様を銀の君とお呼びしております」

「…」


サルサが言うには当時の劇団は路上に設置した天幕に人を集めて公演していたが、観劇の対価に銀貨を投げて寄こす人物は希少だったとの事だ。それで強く印象に残った僕を貴族のご子息か豪商の跡取りかと考えて銀の君と名付けたらしい。


僕らは旅の途中で立ち寄ったのみで普段は冒険者の仕事をしていると言うと、サルサは是非にでも旅の話を聞きたいと申し出た。僕は熱意に負けて少し前の話をした。




◆◇◇◆◇




 僕は山オーガ族の集落に辿り着いた。集落は霧深い谷間にあり土地勘がなければ道に迷う所だが、鬼人の少女ギンナの先導で難なく目的地に到着した。山オーガ族の集落はギンナの出身地であり一時帰宅だが、旅を続けるにはギンナのお弁当(鉱石)の補充が必要だった。


山オーガ族の集落は相変わらずに冷たい谷川に入った女衆が洗濯物や玉石を洗っていた。山オーガ族の男たちは狩猟の時間だろうか出迎えの戦士の姿は無かった。


「英雄様。よくぞ、おいで下さいました。ギンナ。英雄様の案内ご苦労じゃ」

「長老。お久しぶりでございます。彼らは僕の旅の伴です」

「…」


僕は氷の魔女メルティナと従者のロベルトを紹介した。山オーガ族は人族の来訪を好ましく思わないだろうが、ギンナにとっては里帰りだ。


「ギンナは遊んでおいで」

「はいですぅ~」


ギンナは旅の途中で教えた紙飛行機を大きな葉っぱで折り飛ばしている。山オーガ族の子供たちには大人気な様子だ。


「よく懐いておる様子じゃのぉ」

「ええ、ギンナには良く助けてもらいます」


出来ればギンナの両親にも合わせてやりたいのだが両親とも仕事中か。僕はここに立ち寄った用件を告げた。


「なんと!、山を越えて南へ渡ると申されるか……今は時期が悪い」

「方策はあります」


そこへ鬼人の戦士が現われた。


「ザクロペディマ。報告せよ」

「GUHAA 雪豹どもは 追い払いマシタ」


「それは、上々なり」

「GUFUU …」


鬼人の戦士ザクロペディマは疲労困憊の様子で噴き出る汗を拭うこともせず傍に控えたままだ。山オーガ族の長老が話を続ける。


「聞いての通り、山には雪豹がおります」

「雪豹とは?」


雪豹は山岳地帯でも高地に生息する魔物で大柄な山オーガ族の戦士の三倍も大きくて雪上では驚くほど俊敏に動き回るらしい。その雪豹が今年は例年になく人里まで山を降りて来て森の獲物を荒らすと言う話だ。僕も危険を押して冬山の登山などしたくは無いが皇帝の命令では来月までにタルタドフの領地へ赴任する必要がある。もちろんグリフォンを使えば飛行して簡単に着けるのだがファガンヌとの連絡手段が無い。しかし、皇帝の命令を無視すると帝国内を自由に旅出来る特権(ミスリルカード)を失うだろう。早急に山を越えて任地のタルタドフに着きたいと思う。


僕らは無理を押して冬山の登山を決行した。


………


鬼人の戦士ザクロペディマの先導で冬山を登る。道中の森林地帯では食糧とする得物を狩り背負子に担いでいる。ギンナのお弁当(鉱石)も十分だ。


「GUHAA 雪豹が現われても 無理はしないで クダサイ」

「うむ」


雪豹の爪と牙は鋭く雪上の機動力では敵わない。山オーガ族の戦士が雪豹と出会った場合にはその特性を生かし防御を固めて持久戦になるらしい。


「雪が深くなってきたわね…【除雪】」

「GUFUU …」


氷の魔女メルティナが魔法を放つと谷間に溜まった積雪が左右に退いて道が出来た。とても便利な生活魔法だ。


「そぉれ!【除雪】【除雪】」

「ありがとう、メルティナ」


「お嬢様。魔力の使い過ぎにはご注意ください」

「分かっているわ」


従者のロベルトが気遣い声をかけるが、メルティナお嬢様は平然と応えた。そうして雪山を進むと断崖を登る登山道があった。岩場の崖に出来た僅かな足場も氷の様で滑りやすい。断崖の底は霧が凍り吹雪いている様子だ。


「GUHAA この崖を 登ります」

「…」


僕らは黙ってこの山を知り尽くしたザクロペディマの先導に従うしかない。鬼人の少女ギンナは怪力を発揮して背負子を背負い断崖を登る。僕らも続いて登るが谷底から冷気も登ってきた。吹雪が僕らを襲う!


「ハンス大丈夫かぁ?」

「ロベルトと呼んで下さいぃ!」


あっいや、すまんすまん。雪山の登山では従者のロベルトが荷物を抱えて一番苦労をしていそうだ。それもメルティナお嬢様の為だから止むを得ない。お嬢様に貰った名前で呼んであげよう。軽口を言える間は大丈夫だろう。しかし吹雪の最中は辛いので早めに休息したい。


吹雪の合間を見て断崖を越え僕らは休息した。


………


「メルティナ。ここを掘ってくれ!」

「横穴で良いのかしら…【除雪】」


僕はメルティナが除雪した雪の山を指示して横穴を掘らせた。


「そうしたら壁面を…【加圧】【圧縮】」

「おほほ……」


その横穴を内部から押し広げて固めると小部屋を作り雪洞とした。雪洞は五人も入れる様に大き目にしたが、鬼人の戦士ザクロペディマは窮屈そうに入口の所で外を警戒する様子だ。僕は蒸気鍋を取り出して山賊鍋を料理した。あいやー、道中で山賊が現われた訳ではなくて…海の幸も山の幸もぶつ切りにして味噌味で煮た豪快な鍋だ。冬山で食べる鍋は美味い。



◆◇◇◆◇



次の日は天候が悪く吹雪が心配される。僕らは先を急いで雪道を登った。道中は積雪よりも凍結した部分の方が多くて氷の魔女メルティナの出番は少ない。それが不満なのかメルティナお嬢様の機嫌が悪い。改めてメルティナを見ると金髪の美少女で村長の娘ほどとは思えない気品があるのは、村長の教育の成果と本人の資質の賜物だろう。メルティナは雪山とは思えない軽装の普段着に黒い旅用のマントだけの防寒装備で、荷物の大半は従者のロベルトに預けており身軽だ。


「GUFUU 吹雪が 近づいている」

「ッ!」


後方の僕らより山の下から暗雲が登っているのが見える。まだ距離があるとはいえ、暗雲の色は吹雪が濃く冷気と凍結を思わせる。


「上に避難しよう!」

「…」


僕らは追い立てられる様にして冬山を登ったが、ついに吹雪の中に捕えられた。白い壁が視界を塞ぐ様だ。


「もう無理だ雪洞をッ」

「きゃ!」


そういった時、やつは現れた。雪豹だ!


鬼人の戦士ザクロペディマが武器を取って前に出た。雪豹は鋭い爪でザクロペディマを攻撃するが、岩オーガの体表に備わった金属質の装甲で耐えて完全防御の構えだ。鬼人の少女ギンナは背負子を背負ったまま防御姿勢で…その後ろにも荷物を抱えた従者のロベルトを庇う。


「メルティナ。援護を!」

「はい!」


僕は荷物を置いて雪豹に打ち掛かったが、千年霊樹の杖は空を切り当らない。長老の話の通りに雪豹は俊敏で僕らの手には負えないと見える。しかし、巨体の上から鋭い爪と打撃を受けて一歩も下がらないザクロペディマには感嘆するばかりだ。


ザクロペディマが雪豹の打撃の隙に手甲を打ち込んだが有効打ではない。常に対応技を狙う構えに見える。


「打ち付けよ…【氷礫】」


メルティナが魔法で大き目の氷の塊を当てるが、雪豹には目くらましにもならない。


「やつの足元を崩して!」

「押しのけて道を作れ…【除雪】」


僕が指示すると意図を理解したか、メルティナの魔法は雪豹の足元を除雪して道を作った。これには雪豹が嫌がって後方へ跳び退く。


「その調子で!」

「おほほ、いくわよ…【除雪】【除雪】」


魔法の効果が少なくても意表を突ける連続技で雪豹を追い払うが、


-GISYAAA-


雪豹が雪原を走り除雪の範囲を回避してメルティナに襲いかかった。


「危ない!」

「くっ…【氷壁】」


僕は咄嗟にメルティナに跳び付いた。氷壁に激突した雪豹の衝撃を受けて僕らは雪原を転がったが、……不意に接地面を失った。


あれーぇぇぇぇーぇぇぇぇー。


僕は谷間に落下した。





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