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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第八章 領地を開拓してみた
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ep093 自宅警備から周辺の警戒

ep093 自宅警備から周辺の警戒





 僕は既に自宅となったタルタドフ村の元村長の屋敷のうち焼け残った寝室へ潜入した。奥まった寝室は従者のロベルトが整えており氷の魔女と呼ばれるメルティナお嬢様が私室としている。


メルティナお嬢様と従者のロベルトは村人へ食糧の配給をするため外出している。僕はメルティナの寝室を見渡した。既に寝台は整えられて部屋の掃除も行き届いているが、僕は床を這いまわり目的の物を探した。


「綺麗に掃除されている…」


僕は独りごちて女性の衣装棚を開けて見た。両開きの扉を開けると普段着から夜会のドレスまでの衣装が取り揃えられて用意の良さに驚くが、僕は女物の衣装を漁る変態ではない。音を立てずに扉を閉めて化粧台と道具箱を開けると目的の物を発見した。


髪を梳るブラシにはメルティナの物と見える髪が残っており、僕はそっと氷の魔女メルティナの頭髪を手に入れた。


………


元村長の屋敷の裏庭に建てた工房で僕は試作品を完成した。試作品は粘土に氷魔法を発動する紋様を彫刻して魔木であるトレントの樹液を流し込み触媒として氷の魔女の頭髪を使用している。工房都市ミナンの巻物工房では氷の魔石を原料にして魔法の巻物を作成していたが、羊皮紙で作った魔法の巻物はいちど発動させると燃え尽きてしまう。しかし、粘土板に魔方陣の様に刻むとどうなるか。


また、聖魔法の巻物では羊皮紙の他にトレントの樹液と僕の魔力制御の師匠であるクリストファ司祭の頭髪を原料としていた。クリストファは光神教会の元司祭様で聖魔法の使い手だという。それならば氷の魔女メルティナの頭髪でも同じく氷魔法の巻物が作成できると予想される。僕は粘土板に刻んだ魔方陣へ魔力を注いだ。


ゴトリと音をさせて氷の塊が作成されて粘土板が浮いた。僕は慌てて粘土板を抑えたが。


「熱ちっ!」


発熱した粘土板に手を焼いて取り落とした。粘土板が床で砕ける。


確かに粘土板ならば魔法の発動に伴う発熱には耐えられるが、攻撃魔法として敵に投げつけるには不向きだ。


僕は粘土板の改良を検討した。




◆◇◇◆◇




僕は開拓地で溜池の造成を指示していた。前に造成した遊水地の東に水路を掘り土を固めて焼いた土管を埋める。穴掘りには鬼人の少女ギンナの他に岩オーガの力を借りた。ギンナに求婚していた岩オーガはハボハボと名乗り農具を改造して鉄の刃を付けたショベルを与えると良く働いた。溜池は雑な造りでも深く水を満たす方が良いだろう。


「ハボハボ。ここを掘ってくれ」

「HU-GU!」


岩オーガのハボハボは鉄のショベルを使って荒野の地面を掘り進む。まるでパワーショベルの様に役に立つ様子だ。


「ギンナはこっち!」

「はいですぅ~」


水路の細かい所はギンナに任せて僕は先に地盤を調査した。投網の様に広げて魔力を放つと地面に浸透した魔力に引っ掛かりを覚える。


「この辺りに岩が埋まっているから気を付けて!」

「はいはーい」


水路には鉄扉の水門を取り付けて遊水地から溜池の水量を調節だきる。さらに岩オーガのハボハボには南北に流れる水路を掘らせて生活用水とする。


工事は順調だったが、行商人の男ベンリンが工事現場に駆け付けた。今日は露店に商人仲間を呼んで商い始めのはずだが……


「マキト殿。大変です! 我々の商隊が盗賊に襲われました」

「それで、怪我人は!?」


既に盗賊に襲われた後ならば救援に行っても間に合わないので、事後処理として最善を尽くしたい。


「かなり積荷を奪われて…命からがらに逃げ出した様です」

「詳しい話を聞こう」


そう言って僕は開拓地の露店に向かった。行商人の男ベンリンが南のトルメリアから運ぶ品物は生活雑貨や食糧品が主体だが、特に海岸部で取れる海塩が良く売れた。山際のこの辺りでは塩は貴重だろう。商隊の生き残りの男に話を聞くと荒野の平原部から湿地に入る手前で盗賊に襲われたらしい。


盗賊たちは小柄で俊敏な上にボロ布で顔を隠しており正体は分からないが、統率された様子があり手強い者と思える。襲撃場所も荒野の魔境に近い所であり人族の開拓村には遠いのだが、そんな場所で盗賊稼業をしている者には心当たりが無い。新しく盗賊団が入り込んだのだろうか。苦労して南からの商隊を呼んだので、緊急に盗賊対策が必要だろう。


開拓地で対策会議を開いた。




◆◇◇◆◇




僕らはボロ馬車でトルメリアへ向かった。ちみっ子教授と森の妖精ポポロが町へ帰還するので護衛も兼ねている。湿地帯を流れる河川には河トロルの戦士が常駐する渡し場が出来ていた。最近は行商人の荷馬車が渡し場を利用しており草庵に作った風呂が好評だ。河トロルたちは河川の渡し賃と風呂の利用料で現金を稼いでいる。


そんな渡し場も草庵の風呂場も僕は顔パスで無料なのだが、利用料金を明示するため手書きの看板を作成した。河の渡し賃…馬1銀、荷馬車2銀、商人1銀…風呂場1人1銀。なり。


河川を渡り湿地を抜けると荒野に広がる乾燥大地となる。この辺りで盗賊団に襲撃されたという証言だったが、何事も無く途中の開拓村へ到着した。


開拓村は集落に柵を巡らして警戒態勢だったが、僕らのボロ馬車は難なく受け入れられた。


「あんたら、無事かね!?」

「ええ、問題はありませんが……」


村の年寄と見える者が言うには、商隊が盗賊団に襲撃されてから警備を強化しているらしい。さすが辺境に生きる者の知恵か。


「この村を拠点にするのが良かろう」

「お手伝いする。チャ」

「はいですぅ~」


なぜか護衛対象のちみっ子教授と森の妖精ポポロもやる気を見せている。リドナスは河トロルの戦士を引き連れて後で合流する予定だ。僕らは日暮れまで戦闘の準備を行った。


………


日暮れに開拓村を出て湿地を流れる河川へ向かう。夕闇を通しても視界は悪いので盗賊団が襲撃するなら絶好の機会と見せる。以前に見かけた小型の魔獣っぽい盗賊たちであれば捕えるのは困難と思える。その時、馬車の後方を見ていたポポロが警告した。


「来た!チャ」

「ッ!」


僕は御者台で緊張しつつも機を待つ、ボロ馬車の後方に現れた盗賊団は小柄な背格好にぼろ布を顔に巻いている。装備も粗末な弓とナイフの様な刃物を持っており動きは俊敏だ。ポロ馬車の後方から矢を射かけられるが、鬼人の少女ギンナとちみっ子教授は戸板を立てて矢を防いだ。僕はボロ馬車の速度を上げる。


-Hyuu PON!-


筒状の魔道具に魔力を通すと花火が上がった。決して派手な光ではないが合図としては十分だろう。既に湿地帯へ逃げ込んで速度が落ちたボロ馬車に盗賊団が追いついた。僕は湿地に生えた葦よしの間へボロ馬車を走らせた。泥沼に見えた湿地から立ち上がる影は…河トロルだ!


あっと言う間に盗賊の数人が沼地に現れた河トロルの戦士に切り伏せられた。盗賊団の統率に動揺が走る。


「GUUQ!」

「「!」」


突然、夜空に黒い影が現われて盗賊のひとりが消えた。大型で飛行する魔物に攫われたらしい。僕はボロ馬車を停めて戦闘の様子を眺めたが、既に盗賊団の大半は逃げ出していた。


「ファガンヌ!」

「GUUQ…」


星明りに照らされてグリフォン姿のファガンヌが湿地に降り立った。爪には盗賊のひとりを捕えていた。


(ぬし)様、鼠族です」

「キッ、殺しヤガレ…」


河トロルの戦士たちを指揮していたリドナスが来て盗賊の顔をあらためると、グリフォンの爪に踏みつけられた盗賊は小柄な獣人で灰色の毛並みに前歯を剥いて精一杯の威嚇を見せた。僕は鍔広の帽子を被り鼠族を尋問した。


捕えた鼠族の話では付近を通る商隊を襲い積荷の食糧や海塩を奪っていたらしい。


僕は鼠族の処分を決めた。





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