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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第八章 領地を開拓してみた
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ep090 鉱山主の課題

ep090 鉱山主の課題






 僕は失われた山の民の城郭を訪れた。城郭は山の尾根から北側の斜面に沿い建設された複数の工房と隣接している。山の南側と東側は急な斜面となっており登山道を登る者は少ない。僕らが東の斜面から姿を見せると城郭の門に騒ぎがあった。


「どこの者だ?」

「タルタドフから来ました。これを……」


城郭の門衛にミスリルの冒険者証を見せると金属質の違いに気付いた様子だ。流石に失われた山の民は金属加工を生業とする者が多い。


「ずいぶん汚れているが、金属磨きをかれけば良かろう」

「ありがとう。でも、後で結構です。それより、山長(やまおさ)か工房主に面会したいのですが…」


わざと汚しているとは言えないが、帝国の冒険者証が通用するのは驚きだ。僕は門衛に銀貨を握らせて僅かな伝手を頼りに交渉をした。


「しばらく待たれよ。面会依頼の確認をする」

「お願いします」


どうやら話を通してくれるらしい。東側のタルタドフから登って来る者は稀だろうが怪しむ様子は無い。しばらくして面会の許可が出た。


山長(やまおさ)が面談される」

「はい!」


山長(やまおさ)が出て来るとはッ、正直な所でも大変に驚いた。鍛冶工房か硝子工房の主に合えれば上出来のつもりだった。僕らは山長(やまおさ)の執務室だろう個室に通された。以前に火の一族のチルダが通された場所とは異なる。


失われた山の民の城郭の山長(やまおさ)は髯面で筋骨逞しい男だ。背は僕よりも少し大きくて横幅は三倍もありそうに見える。


「がはは、マキトよく来たガッ!」

「お久しぶりでございます」


「収穫祭の後に城門で会って以来か……チルダリアは一緒ではないのか?」

「いえ。今日は鍛冶工房に依頼がありまして……」


僕は訪問の用件を話した。いくつか鍛冶工房に製作を依頼したい。


「ふむ。チルダリアには贔屓にしてやれと言われているが、条件がある」

「条件とは?」


城郭の山長(やまおさ)は僕を値踏みして言う。


「其の方らが自ら鉱山で原料を採掘できるなら、鍛冶工房へ話を通してやろう……如何かな?」

「やります!」


これは、やるしかない条件だろう。失敗しても失う物は少ないと思える。


こうして僕は鉱山へ向かった。


………


失われた山の民の鉱山は城郭の地下を通って繋がっているらしい。複雑に入り組んだ通路を案内されて坑道に入った。古い坑道を進むと今も採掘をしているらしい新たな坑道があった。


「ここで、鉄鉱石を探して下さい。道具は自由に使っても構いません」

「はい」


そう言い残して案内人の鉱山夫は立ち去った…僕らを監視しなくても良いのだろうか。さすがに何処を掘れば良いのが見当もつかないので、運を天に任せるか。


「我らの行き先を差し示せ…【道捜】」


おまじない程度の生活魔法を唱えて、僕は岩砕き用のハンマーを放り投げた。ハンマーの頭が差す方角へ僕は坑道を闇雲に掘り始めた。


「岩をも砕け…【削岩】」


坑道の岩盤を削って見るが、どこに鉄鉱石があるのか分からない。鬼人の少女ギンナが不思議な事を言う。


「英雄さまっ!…生臭い匂いがします」


僕は鼻に意識を向けたが……魚臭いとか血生臭いとは感じられない。


「えっと……ここかなぁ?【削岩】」

「はい!ですぅ~」


試しにギンナが示す場所を掘ると何かの鉱石があった。魔力を通した感触でも僕には鉄鉱石か何か判断できない。


「ようし、本格的に掘ってみるか…【粗掘】【粗掘】【深掘】!」

「ふふふん、いい匂いですぅ~」


いくつか、ギンナが興味を示した場所を掘って鉱石を集めた。


僕らは坑道を戻って城郭に帰還した。


………


鉱山主として紹介された爺さんは、僕らが採掘した鉱石を検分している。そのうち検分に満足した爺さんが頷いて言う。


「ほほう、良かろう。これは鉄鉱石。次は銀鉱石で……こちらは微量に金が含まれておる」

「ん?…」


鉄鉱石の他にも様々な鉱物が採掘できるらしい。かなり利用価値の高い鉱山だ。


「鉱山の神ローデルマインのお導きがあったか……合格じゃ」

「ありがとうございます!」


ギンナの感覚で、鉄は生臭い。銀は美味しい。金は味がしないと言うが……特殊能力だろうか。僕らは再び坑道に入って鉄鉱石を採掘した。


これで鍛冶工房へ依頼ができる。




◆◇◇◆◇




僕は開拓地に来ていた。河原に燻製竈と上流には大岩を割るような水門がある。水門は木製で上下に開閉する堰を設置しているが、鍛冶工房で作成した金属板を取り付けて補強した。河川の水は水門の取水口から東へ流れて池を作り蓮根を植えている。今は蓮植物の様に葉を広げて日光を浴びているので、池に根付いたのだろう。池の水は泥が沈殿した様子で澄んでいた。


「ここから掘り返す…【穴掘】! 岩をも通す…【削岩】」


途中で土中の岩にぶつかるが、構わず掘り進む。


「面倒になってきたなぁ…【命名】!掘削」


僕は穴掘りの手順に名前を付けた。なんだか穴掘り技術だけが進歩している気がする。


「一気にいくぜ!…【掘削】【掘削】【掘削】」


重機も使わずに土木工事が出来るのは魔法のおかげだが、大規模な工事には向かない。僕は後で魔力不足に倒れるだろう。


「こんな所で良いだろう……ギンナ!土を運んでくれ」

「はい!ですぅ~」


僕は蓮根池の隣にも池を作り遊水地とした。掘り起こした土は適当な大きさに固める。


「レンガ作りの…【形成】【圧縮】【硬化】」


付近は堆積した粘土層で日干し煉瓦にはちょうど良い。


「手順に名前を付けるなら【煉瓦】か……ただ、数を用意するなら【複製】の方が早いだろう」


僕は独りごちて呪文を唱えた。


「…【複製】【複製】【複製】【複製】♪【複製】【複製】【複製】【複製】!」


大量に粘土で作った煉瓦を並べて日干しする。


「ふう~。ギンナ!休憩にしよう」

「はいですぅ~」


僕らは荒野の目印にした三角岩の隣に天幕を張って休息した。魔法の瓶から暖かい飲み物を飲んで魔力の回復に努める。魔力は休息すればじわじわと回復するのだけど、食事でも回復する様だ。山オーガ族の谷の湧水を飲んだ時には魔力の回復が早かった。あれは魔法成分が豊富な天然水だと思う。魔力回復の水があれば山岳を越えるのも容易だろう。


鬼人の少女ギンナは失われた山の民の鉱山で手に入れた鉱石を齧っている。美味しい銀鉱石だろうか。僕は先日に作成した川魚の燻製を試食したが良い風味に仕上がっている。…なにげに川魚の燻製は難しい。


未だ、開拓地は僕ら二人だけだ。


………


タルタドフ村に帰還すると従者のロベルトが慌てていた。


「ロベルト。何があった?」

「イルムドフへ行商に向かった村人が盗賊に襲われました!」


乾燥室で保存食にした山菜と川魚の燻製を販売する予定だったが、


「被害は?」

「二人が死亡して…もうひとりも重傷のようです」


重傷でも息があるのなら証言は可能だろう。


「うーむ。襲撃場所は?」

「ユミルフの町から東へ向かう街道ですが、帰りに襲われたらしく……」


ロベルトは言葉を濁したが町までの護衛は必要かも。しかし、護衛を雇うにも金がかかるので村人の行商程度では赤字になる。そんな高額の荷物を持たない農民が襲われた事に違和感を感じる。


僕は頭を抱えたが、いちど盗賊を殲滅する事も検討しよう。





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