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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第八章 領地を開拓してみた
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ep089 開拓地の事情

ep089 開拓地の事情





 僕はタルタドフ村より南に広がる荒野に来ていた。河原に作った燻製用の竈で川魚の燻製を作り付近を散策する。湿地を流れる河川は西から蛇行して南へ流れているのだが、川岸には大岩があり流れを受けて浸食されている様子だ。僕は大岩に登り周りの風景を眺めると東に特徴的な三角形の岩が見えた。荒野に突き出た先端は目印に丁度良いだろう。


「三角岩か…」


ひとり呟く僕の左手には燻製用の薪を切り出すのに適当な雑木林が広がっている。その手前には古い河川の跡だろうか泥が堆積した窪地があった。大岩から飛び降りて窪地に向かう。


「この辺りで…【放出】からの、どっこいしょ!」


僕は窪地に溜まった泥に魔力を放出して包み掘り起こした。泥に放出した魔力を回収しさらに前方へ移す。


「もったいない精神の…【回収】と【放出】からの、どっこいしょ!」


ふむ、穴掘りにも手慣れてきたが専用の穴掘り道具とどちらが良いか。


「名前を付けるなら…【命名】穴掘!…と、ギンナ頼む」

「はいですぅ~」


農機具を流用した穴掘り用のスコップを持って鬼人の少女ギンナは楽しそうだ。ギンナに指示して穴掘りを続ける。


「ざっくり♪いこうぜ…【穴掘】! どんどん♪いこうぜ……【穴掘】」


調子に乗って僕はそこから河原の大岩まで掘り進んだ。


「ふう、岩をも砕け…【粉砕】!

 切り通せ…【切断】!

 荒削りでも【細工】! 」


大岩は堅くて手強いのだが、連続技で掘り進む。


「連続技に…【命名】削岩」


単純な連続技も名前を付けると作業効率があがる。僕は一息に大岩を掘り進んだ。


「岩をも穿つ…【削岩】!【削岩】!【削岩】!」


-DOGO! ZUsuuU-


ついに大岩を貫いて穴を開けた。岩の隙間から河川の水が流れ込むと掘り返した泥を押し流して窪地に溜まった。窪地には採取して余った蓮根の苗を植えて栽培の実験場にした。



◆◇◇◆◇



僕はユミルフの町にいる領主の館を訪れた。残念ながら領主は不在との事で税務を担当する役人と会談する事になった。今年から割り増しとされた商業税とその口利き手数料としての献金についての相談だ。僕は役人と見える男に尋ねた。


「商業税が割り増しとされたのは、どういう訳ですか?」

「領主様のご意向でございます」


ユミルフの領主に面識は無いが、前の村長の消息も知れない。


「今までの二倍も税を取られては、商売が成立しません」

「付近の開拓村からも町に入る行商人には、すべて商業税を徴収いたします」


近隣の開拓村から持ち込む商品は余った農作物などで金額も少なく利益率も低い。商業税と町の出入りにも税をとられては苦しい。


「長年のよしみと付き合いもあるでしょう。そこは減免して頂きたい」

「こちらにも事情がありまして……」


情に訴えてみるが良い返事は引き出せない。これまでのやり取りを黙って聞いていたメルティナお嬢様が発言した。


「おほほ、領主様に面会をお願いしたいのです。けど…」

「申し訳ありません。領主様は領内を視察のため、不在でございます」


何日も前に従者のロベルトが会談の申込みと調整をしたハズだが、領主は不在との事だ。役人では交渉にもならない。そこへ乱暴に扉を開けて侵入する者があった。


「かーペッ! 待たせたな。ワシがユミルフの領主カペルスキーだッ」

「…」


髭面の壮年の男が現われた。上等な衣服を着ているが登場して早々に痰を吐き床を汚す下品な男だ。


「領主さま。こちらが、商業税の減免を求めている、タルタドフを代表する方です」

「マキト・クロホメロスと申します」


僕は名乗りを上げたが、カペルスキーは馬鹿にした態度だ。僕の容姿では侮られても止むを得ない。


「何だ、若造かッ……村長はどうした?」

「村長は行方不明でございます」


聞いてはみたが、村長には無関心な様子だ。山賊あがりの領主だろうか、


「ふーん。そこの女を寄こせ!」

「はぁ?」


突然の要求に僕は変な声が出たが、メルティナお嬢様は即座に拒否した。


「おほほ、私はマキト様の物。他の男には靡きませぬ」

「ッ!…ならば、お前に用はない。商業税の話は無しだ!」


交渉は決裂の様子だ。




◆◇◇◆◇




僕は乾燥の魔道具を設置していた。火の魔道具に風車を付けた様式でタルタドフ村の元村長宅の隣にある納屋に設置した。納屋には農機具も家畜もいなくてガラクタを片付ければ乾燥小屋として利用できる。僕は魔力を充填した魔石を入れて魔道具を起動した。


「これで良しと…」


乾燥の魔道具は温風を発生して洗濯物や布団干しにも利用できるが、小屋では村の付近で取れた山菜を干している。従者のロベルトが質問するのに答える。


「ここを無料で貸し出すというのは……どういう訳でしょうか?」

「無料とはいえ、魔道具に魔力を充填するのは使用者の負担とする事」


僕はいくつかの注意点とともに施設の利用方法を説明した。普通の村人は魔法を使えなくても体内に魔力があり、魔道具を動かすことが出来る。しばらく、ユミルフの町では村の特産とも言える新鮮な山菜を販売できないので、余った山菜は乾燥させる。乾燥した分は保存が効くので後日に販売することも可能だ。また、遠方のイルムドフに持ち込むのも良いだろう。


「小屋を利用する順番などはロベルトに頼むよ」

「はい。お任せ下さい」


最近はタルタドフ村の元村長宅を拠点として、留守番をする事の多いロベルトが村人たちの窓口となっている。屋敷の管理に加えて適任の仕事だろう。


「しばらく出掛けるけど、メルティナは残ってくれ」

「そんな、ご無体な!」


メルティナお嬢様は難色を示したが、従者のロベルトが傍にいれば問題ないと思う。


「それに、山登りは苦手だろ」

「ええ、まぁ……」


山オーガ族の集落から山岳を登山してタルタドフへ抜けるには苦労した。メルティナお嬢様にとっても辛い思い出か。


………


僕は鬼人の少女ギンナを連れて山に登る。タルタドフ村から北西に向かうと山オーガ族の住む谷へ至るが、今回は西の山岳を登り失われた山の民の城郭を目指していた。


「鍛練の成果を見せよう…【気合】【強化】」

「はいですぅ~」


僕は魔力を使って身体強化を行う。身体強化は魔法と言うより気功とかヨガなどの肉体制御の技術に近い。鍛えられた剣士や戦士は戦闘中でも意識的に身体強化ができるのだが、僕はひとつひとつの強化技法に名前を付けて分類した。


「足腰を強化して…【筋力】【体力】」

「やっほぅ~」


そんな僕の苦労を知らずに鬼人の少女ギンナは怪力を発揮して楽々と山を登る。どうやら、山オーガ族にとっての身体強化は息を吸う様に自然な事らしい。


「ギンナ。楽しそうだね……持ち上げてくれ」

「はい!」


軽々と僕はギンナに持ち上げられて急な崖を上がる。平坦な岩場から手を伸ばしてギンナを引き上げた。ユミルフの町で商業税の交渉をする為に、ギンナを留守番とした事には不満を見せたが……今はご機嫌の様子だ。


「ふう。まだ、先は長いかぁ」

「いやっふう~」


僕は山の遥か上を眺めてため息を付いたが、ギンナは異様にハイテンションだ。…そんなに登山が楽しいのか。


まだまだ、西の山岳地帯を登る。





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