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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第八章 領地を開拓してみた
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ep088 湿原を渡る

ep088 湿原を渡る





 僕は天幕が張られた居間で報告を受けた。近年のタルタドフ村は周辺の開拓村の中心で町と言っても良いほどの規模があったが、戦乱のあとは村人の減少が続いていた。立地としては霧の国イルムドフの山岳地帯と荒野に近く辺境と認識される。田舎暮らしも悪くは無いが近隣の町はユミルフしかない。そのユミルフの町に問題があった。


「タルタドフの村人が追い返されたとは、どういう事だ?」

「正確には商業税の献金を求められたそうです」


「献金できなければ、町に入れないと言うのか?」

「はい。村の作物を販売するだけの……農民には無理な話です」


従者ロベルトは村人の困窮を伝えた。この時期は雪解けには早いが、野山の山菜を採取してユミルフの町で販売しいてた。氷の魔女メルティナが魔法で除雪した一帯はひと足先に日差しを受けて山菜が芽吹いているのだ。


「おほほ、ユミルフの町を避けてイルムドフの王都まで行けば、どうかしら?」

「山菜の新鮮さを考えると難しいでしょう」


メルティナお嬢様が提案するが、ロベルトは難色を示した。


「うーむ。乾燥させるか。冷凍するか。あるいは空輸するか……」

「空輸とは?」


僕は村の付近の地図を示して話した。


「こう、空を飛んで行けば、イルムドフの王都も近いと思うのさッ」

「それは、グリフォンの英雄様なら可能ですけど……」

「村人では無理ですね」

「…」


村人なら荷車を曳いて歩きの行程となるだろう。この際は新鮮な山菜の販売は難しいが、現金収入が無ければ食糧の調達もままならない。僕は食品の加工場を用意した。燻製の作成は煙と匂いが付くので荒野に近い河原で行うが、山菜の乾物は山に近い場所で行いたい。それと並行してユミルフの町の税収官吏との交渉も必要だろう。


「ロベルトはユミルフの役人に連絡を取ってくれ。商業税と献金の相談だ……僕はトルメリアまで行って来る」

「はい。ですぅ~」


すぐに鬼人の少女ギンナは出かける準備を始めた。メルティナお嬢様は留守番に残したいが、


「私も参ります。ロベルトは留守を頼みます」

「はい。お嬢様」


差配を決めて氷の魔女メルティナも同行する様子だ。僕はあきらめて荷車を準備した。荷車には簡易な御者台を付け馬に引かせて幌を架けたが…ボロ馬車という風情だ。今回のトルメリア行きは荒野の湿原を渡るための試験と考えている。そのため馬車が通れる道を探す予定だ。


………


ボロ馬車に乗り南へ向かった。タルタドフ村の南には荒野と湿原が広がる湖沼地帯を避けて進むが、ボロ馬車の乗り心地は最悪である。


「凍てつく冷気よ…【凍結】」

「おぉっ!」


氷の魔女メルティナが魔法を振るい沼地を凍らせた。馬が立ち往生する事も無く沼地の難所を通り過ぎる。僕は手書きの地図を記入しているが、雨で増水すれば地形も変わるので…あまり期待はできない。それでも目印になりそうな岩や灌木の特徴を記入していく。残雪が残る湿原にも少しずつ春の気配があった。その時ガタリとボロ馬車が傾いて止まった。


「またか……ギンナ!」

「はいっ、ですう~」


僕はボロ馬車を降りて荷台を押す。ギンナが窪地に嵌った車輪を持ち上げると馬車は平地に復帰した。御者を務めるメルティナとの連携も迅速になった様子に、僕らは何度目かの脱出を果たしてボロ馬車に乗り込む。


本格的に荷馬車を走らせるには道の整備も必要だろうか。夕刻に大きな河川の流れに着いたが渡るのは難儀だ。いちにち働いて僕もギンナも泥だらけなので河原で水浴びをするが、マジで死ぬほど冷たい!


「ガクガク、ブルブル…【熱気】」

「へっくちっ!」


焚火の火にあたっていても寒いので僕は体内の熱を上げた。鬼人の少女ギンナは金属質の皮膚をして暑さ寒さにも耐性がありそうだが……震えていた。


「ギンナ! ここへ。暖気を集めよ…【集熱】」

「うぅ……」


僕は呪文を唱えて焚火の熱を集めてギンナを温めると、ひと心地ついてから食事にした。



◆◇◇◆◇



夜が明けて僕は河川の流れを見詰めた。流れは緩やかで濁り底は見えない。対岸までも距離があり、深瀬がなければ渡り切れるか…どうか。僕は川岸の葦よしを狩って束にして浮体を作成した。馬とボロ馬車に浮体を装備し筏の様にして渡る算段だ。


(ぬし)様、お久しぶりで ゴザイマス♪」

「リドナス!」


河トロルのリドナスが音も無く現われた。その流線型の身体は美しく身綺麗にしている様子は好ましい。そういえば、河トロルの集落はこの川沿いにあったと思う。


「ご案内 イタシマス♪」

「ありがとう、頼むよ」


僕らはリドナスの案内で河川を渡った。この川の流れも河トロルにとっては中庭の様な物だ。無事に馬とボロ馬車は対岸へ上陸した。河トロルの協力があれば渡河も安心できる。


「帰りも、ここを通るけど良いかな?」

「お任せ クダサイ♪」


最大の難所と予想していた河川を越えて僕らは南へ向かった。あい変わらずの湿地の窪地に嵌りながら途中の開拓村で宿泊しても、次の日にはトルメリア王国の北辺の町ムスカに到着した。


ムスカの町は漁港と農園の中間にあり付近の開拓村の中心地とされている。そのため農作物や魚介類が集まる様子はトルメリアの市場を思わせる。僕らはムスカの町で食糧と必要な物資を買い付けて帰路に向かった。


………


帰路も泥に濡れながらボロ馬車を押すのだが、荷車の方にも改善が必要だろう。道中で遭遇した魔物も獲物として荷車に乗せる。メルティナが魔法で冷凍保存するのは言うまでもない。帰りも難所の河川に近づくと葦よしで編んだ草庵があった。


(ぬし)様、お帰りなさい マセ♪」

「リドナスか…」


予想外の出迎え…いや、あったら良いなと思う…僕は草庵の中を覗きこんだ。すると期待通りに土で作った風呂があった。すぐに湯の準備をするとリドナスは僕の体を洗い泥を落として薬湯に沈めた。ひさしぶりに若葉の香りの薬湯で心も体も温まる。若葉の香りは僕の好みに合わせたらしい。


「湯加減は イカガデスカ♪」

「ふう。生き返る気分だ~」


僕は河トロルの薬湯を満喫した。銀貨を与えるとリドナスは微笑んだ。


「これで 美味しい物が 買えマスネ♪」

「そういう事さ」


しかし、リドナスの話では集落の河トロルが単独で人族の村に買い物に行くのは危険があると言う。人族の商人も河トロルの集落には立ち寄らないので僕は思案した。


………


次の日に積み荷が増えたボロ馬車を河トロルたちが用意した筏に乗せて対岸へ渡った。まさに至れり尽くせりである。僕はムスカの市場で仕入れた魚介をリドナスに持たせ、お礼とした。


帰りは手書きの地図もあり、無難にタルタドフ村へ帰還した。


「ロベルト。ユミルフの役人の方は如何ですか?」

「はい、お嬢様。三日後に会談の予定です」


僕はユミルフの町の役人との商業税と献金の相談に備えた。





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