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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第八章 領地を開拓してみた
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ep087 食糧調達

ep087 食糧調達





 僕はタルタドフ村から南に広がる荒野を渡り沼地にいた。沼地に生息する魔物を狩り食糧とするため獲物をさがす。少しでも目が良い鬼人の少女ギンナを先頭にしているが、僕の後ろには氷の魔女メルティナが付いている。従者のロベルトはお嬢様が狩りに出かける事に反対したが、メルティナお嬢様が命令すると引き下がった。今は屋敷の廃屋で待機だろう。


所々に残雪があり足場の悪い湖沼地帯を得物を求めて歩くのだが、ギンナには命綱を付けて警戒している。海底にある魚人族の宮城を訪問した際に判明した事だがギンナは水に浮かばない。手足と背中を覆う金属質が重いのだろうが、沼地の深みに落ちると危険だ。僕はギンナの命綱を握り締めた。


その時、沼の水面から大口を開けた魔物が襲い掛かって来た!カエルを平たく潰して長い魚の尻尾を付けた様な不格好な姿だ。


「ギンナ!」

「はいですぅ~」


鬼人の少女ギンナは重石のハンマーを振って迎撃した。カエル魚は下顎に打撃を受けて横転する。僕は薬液を塗った鋳物の剣Bでカエル魚の腹を突き傷を負わせた。薬液は先日に沢で採取した山葵に薬草で麻痺作用があり舌にさわると辛みを感じるのだが、体内の傷から入り込むと麻痺毒となる。ちなみに加熱調理したものは無毒で美味しい。


カエル魚はしばらく苦悶していたが力尽きた様子なので…ぷすっと止めを刺す。


「これ、食えるかな?」

「おほほ、どうかしら……」


僕は解体用のナイフを取り出してカエル魚の前足を切り取り湖面に投げ込んだ。すると肉食と見える魚が群がり食い尽くした。毒の影響は見えない。


「持って帰ろう」

「宜しいかしら…【凍結】」


カエル魚の表面に霜が降りて凍結した。すばらしい! 一家に一台の氷の魔女である。カエル魚に縄をかけてギンナが背負う。大口を空けてギンナを捕食しようとした魔物だが軽々と背負われて僕らの食糧となった。こうして見ると獣人奴隷の幼女に大荷物を持たせる鬼畜なご主人様だろうか。不意にメルティナが呟く。


「囲まれた?」

「ッ!」

「…」


沼地から数人の人影が立ち上がり僕の全面に整列した。泥に汚れた人影の一体が進み出て跪く。


(ぬし)様。ご帰還を お悦び イタシマス」

「うむ。久しぶりだね。…そろそろ見付かる頃だと思ったよ」


河トロルの戦士の口上に僕は応えた。氷の魔女メルティナは攻撃魔法を放つ体勢だったが、河トロルたちの様子をみて硬直した。


「これは、(ぬし)様への 貢物に ゴザイマス」

「ありがとう。頂くよ」


後方に整列した河トロルたちが、数匹の川魚を捧げて持っている。僕は河トロルたちに銅貨を配った。


「コレハ?…」

「持っておくと良い事があるよ」


こんなに沢山の川魚を貰ってタダで返す訳ではない、僕は先頭の河トロルの戦士を見るが顔は見分けられない。


「有難く頂戴 イタシマス」

「うむ」


そう言って河トロルたちは湖面に飛び込む。水音も立てない統率された動きだ。水面に残る波紋を見詰めてメルティナが言う。


「な、何なのよッ! あれは……」

「この辺りの知り合いさ」


珍しく動揺したメルティナは余裕も無いが、鬼人の少女ギンナは、さも当然と言う。


「英雄さまっ!ですから~」

「…」


そういう事で良いだろう。


………


僕は大量の川魚を抱えて思案する。


「草刈の鎌を持って…【切断】」


湿原に生えた葦よしを刈り取り束ねて筏を作った。これで荷物を運ぶため、筏の底は凹凸にして(そり)の形状にすれば良いだろう。川沿いに進むと沼地に蓮に似た水草を発見した。この沼は周囲に比べて水が澄んでいる様子で水底が見えた。蓮の水草は沼底の泥に根を張り複雑に節くれ立って繋がっている。


僕は一本の蓮の水草を引き上げて茎を切って見た。やはり断面には気泡の様な空洞がいくつかあり…蓮根と見える食材ゲットだぜ!…僕はいくつかの蓮根を刈り取り葦よしの筏に積み込んだ。


川岸にひらけた場所があった。早速に僕は河原に竈を作り火を入れる。


「おほほ、今度は何を始めるのかしら?」

「まぁ、見ててくれよ…【形成】」


竈を作るのも慣れた調子だが、今度の竈は縦長で煙突の様な形状だ。すでにギンナは物知りで川魚を開き煙突に吊るした。僕は川辺で香木を切っていた。


「チップ作成の…【切断】【粉砕】」


川魚を燻製にするための燃料だ。香木の匂いで川魚の臭みを混ぜ返すと旨みが出る。しばらく、河原で川魚の燻製を作り煙を上げていると大型の魔物が飛来した。


「マキト様! 危ないッ【氷礫】」

「ッ!」


氷の魔女メルティナが魔法を振るい氷の粒を大型の魔物に叩き付けた。しかし、その魔物は空中で身を翻し翼の一振りで氷の粒を霧散させると地上に降り立った。氷の破片が溶け消える。


「グリフォン! まさかッ」

「あぁ、ファガンヌ……遅かったね」


魔獣グリフォンの姿を見て凍り付いた笑みを見せたメルティナは逃げ出す事も出来ずにいた。僕はグリフォン姿のファガンヌに話しかけたが、構わずにファガンヌは獣人の姿に変身した。身に付けた貫頭衣は破れて前掛け部分しか残っていない。裸エプロンのファガンヌが言う。


「GUUQ お(ぬし)よ 少し縮んだカァ?」

「そうかなぁ」


僕は魔力の拘束を緩めた…これは師匠の教えだが、おそらくファガンヌは僕の体から湧き出る魔力の残滓の光を見ているのだろう…普通には見えない。金赤毛の獣人ファガンヌが言う。


「GUUQ 元気そうじゃ」

「大お姉さまっ!」


鬼人の少女ギンナはファガンヌとも顔見知りの慣れた様子で飛びつく。そろそろ川魚の燻製が出来た頃うと思うと丁度良いタイミングだ。僕はファガンヌに川魚の燻製を振る舞った。


「な、何なのよ!もー」

「もちろん、僕の……グリフォンさ」


メルティナはご立腹の様子に僕が答えると、


「見れば分かるわよ!もー」

「…」


何をそんなに怒るのか。


………


紹介も済み金赤毛の獣人ファガンヌはグリフォン姿に変化して飛び去った。川魚の燻製の大半はファガンヌの腹の中だが、これは接待への必要経費だろうか。


僕らはタルタドフ村に帰還した。


現在の拠点は元村長の屋敷のうち焼け残りの廃屋を改修していたが、焼け跡には見慣れない天幕が立てられていた。


「ロベルト、これは?」

「村人が食糧のお礼にと建ててくれました」


「ほう……」


それならば食糧支援の借金と相殺しなくてはなるまい。僕は食堂と居間とする天幕を検分した。どうやら帝国軍が野営で利用する天幕と思えるのは撤退時の忘れ物だろうか。


「ロベルト、僕の部屋は?」

「全ては、お嬢様が優先されます」


なるほど、従者ロベルトの基本姿勢は崩れないらしい。僕は自室の片付けを後にして厨房に向かった。


沼地で獲れたカエル魚は凍らせたまま吊るしてなで斬りにすると、解凍して革を剥がすより簡単だ。蓮根は適当な大きさに切り下茹でしておく灰汁抜きが必要だろう。灰汁抜きした蓮根をすり潰し団子にするとカエル魚の削ぎ肉と合わせスープにする。蒸気鍋に蓮根と醤油を入れて煮物にしたが、もう醤油の残りは少ない…山菜を付けて完成だ。


「いただきます!」

「「「 イタダキマス 」」」


僕らは呪文を唱えて食事を始める。スープにしたカエル魚は白身で鶏肉の様な食感で魚の味だ。蓮根の団子はもちもちの食感だが塩が足りないかも。蓮根の煮込みは期待通りの味だった。


「おほほ、珍しい味わいねぇ」

「妖精の森の隠し味ですから」

「ほう…」

「うまうま!ですぅ~」


僕らは野生の蓮根を味わった。





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