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天使の刻印と少女の異世界物語  作者: 黒雪うさぎ
21/23

怒りと絶対零度の竜

中途半端なので終わりまで書きます


「――シトラ朝だよ」


お兄さんの一言でばっと目を覚ます。

部屋に窓はついていないので朝かは分からないけれどユイナも起きている。


「おはようございます」

「おはよう、ご飯も準備してるから、それを直してから食べよう」

「それ?」

「髪、爆発してるよ」


. . .


「ふああー」


気の抜けた欠伸をして寝室に備え付けの鏡を見る。

たしかに物凄い寝癖だ...


「あれ?」


そこに映っていた私の姿に違和感を抱く。


「お兄さんー!!」


お兄さんが朝食を並べている所に走っていく。


「シトラ、服。肩見えてるよ直さないのかい?」

「そんなことより!」

「女の子なんだから、それくらい気をつかった方がいいと思う」

「もう!分かりましたー!!」


ちゃんと服を直してから話を再開する。


「急に背が伸びることってありますか?」

「ちょっと僕にはシトラの言っていることが...」


実際私も自分の姿を世界の終末以降見たことがなかったので気づかなかった。

私はこっちに来たばかりの時は153cmとかなり小さかったはずだがなぜか今では160は越えている。

たった2ヶ月でここまで身長が伸びるはずがない。


「シトラは急に背が伸びたのか...」

「はい...」

「多分魔力異常循環かな。シトラは洞窟でたしか何度も大爆発を起こして脱出したんだよね?」

「はい。方法がそれしかなかったので...」

「魔力の量が発育に関係しているのは昔から分かっている。何度も大量の魔法を酷使したことで体は何とか魔力を戻そうと通常では考えられないスピードで魔力の供給を始める。それを何度も繰り返すことで異常なほどに成長したんだろう」

「要するに何度も大爆発を繰り返す内に魔力が異常増大したんですか?」

「多分ね。だけど使徒だから出来た事だね。普通の人間だったら、耐えられなくなって死んじゃうし、そもそもそんな無茶をできない」

「普通の人間だったら...ですか」


もしも私がただの少女だったら到底あり得ない出来事。

私が使徒だったから...か。


「....あ。その...普通の人間だったらとかは...」

「いいんですよ。別にもう気にするのはやめましたから」


そう言って笑顔を向ける。

お兄さんはすまなさそうにしている。


「じゃあ悪いと思ってるなら私の髪を解かしてください」

「...?別に良いけれどなんで?」

「...やってほしいんです。また...あの時みたいに」

「....分かった」


何かを察したようにお兄さん後ろに回り髪を解かす。

ローナさんにも大事しなさいと言われた黒髪。

当時は適度な長さだった髪も今ではロングヘアーだ。魔力の異常増大によって成長した身長に合っているのでこのままでもいいかなとも思ってきている。


「私の髪型を兄さんはどう思いますか?」

「会ったときは汚くてええーとか思ったけどちゃんと手入れすれば綺麗だよ」

「正直ですね」

「その方がシトラも良いと思ってね」

「はい。とても助かります」

「甘えたい時は甘えてもいいんだよ?」

「何でいきなりそうなるんですか」


そんな光景をユイナはまた遠くから呆れたように眺めている。

しかし二人はその視線に気づかない。

ユイナは人間臭くため息をする。


「だってほら...ね?」

「付き合ってるからは万能ではないですよ。親しき仲にも礼儀あり、です」

「どこかの言葉?」

「そうですよ。私のもう戻れない遠い故郷の言葉です」


多分今の私は少し悲しそうな顔をしているのだろう。

何せ覚えている事は何もないのだから。契約によって教えてもらったのは私の前の悲劇の女の人の名前と誕生日など。きっと前もそうやって絶望させて楽しんでいたのだろう...


「はい。おしまい」

「ありがとうございました」

「さっ。ご飯早く食べようか」

「そうですね」


. . .


「――うーん...。どうなんだろうね」


ご飯を食べながら会話を続ける。


「背が伸びたのはとても嬉しいんですけど、少しもおかしいとは思わなかったんですよね」

「10cmも伸びて違和感がないのか...。僕も使徒の仕組みなどは全く分からないから...」

「今の所の可能性としては、レアト・フォーリエンとの接触があった、または死ぬたびに感覚はリセットされるの二つだと思いますね」

「僕は後者の方がかなり信憑性があると思う」

「私もできればそうであって欲しいですけど、レアトとの戦いで忘却の恐ろしさは味わいましたから...」

「まあ、とりあえずは違和感なく普通に動けるなら良いと思うよ」

「ですけど...」

「それにあの洞窟の事はちゃんと覚えてるんだろう?ならレアトの魔法ではないと思う」


たしかにちゃんと動けるし違和感はないけれど、使徒の復活の際に感覚がリセットされるとしたら私意外の13人の使徒も同じだということになる..。

だとしたら、痛みすらもリセットされるのだから、情報を聞き出すのはほとんど無理に近い。

耐え難い苦痛も息を止めるなり、舌を噛みきるんどすればリセットされるのだから...


「今考えても分かる事ではないから、一旦その事は隅にでも閉まっておきなよ」

「そうですね」

「じゃあ準備が整ったらテントを消すよ」

「もう荷物ならまとめてるので大丈夫です」

「じゃあ外に出ようか」


荷物をユイナと分けて持ち、外に出る。

外は昨日の豪雪の為辺り一面雪に覆われていた。


「これは歩きづらそうですね」

「進む道だけを溶かして進めば、魔力の消費も抑えられるから少しずつ進もうか」

「ですね」

「じゃあテントを消そうか」


お兄さんは淡く光っている壁にあった小さな赤い花の紋様の所に触れる。

少しずつ光は赤くなっていく...

テントを守っていた外壁は空に粒子となって飛んでいき最後に赤い花を咲かせて、砕け散る。


「わあー」

「どうかな?」

「凄いですね魔法の力って」

「結界は一度使ったらもう使えないけれど、テントは何度か使えるんだ」

「それで一度だけしか使用できないなら、壊す際に演出を入れたんですね」

「多分ね。僕も製作者にはまだ会ったことないからよく分からないんだ」


お兄さんは空を見上げて、やがて光の花が消えるとテントに向かい、今度は小さな丸いボタンを押す。

するとテントを固定していた光の柱が地中から出現して、一ヶ所に集まり最初と同じような球形になる。

それと同時にテントはノイズがかかったように消えていく。


「結局テントの中って何であんなに広いんですか?」

「時空間魔法っていう特集な魔法を用いて作ったから、見た目はちっちゃいテントだけれどあの中は別空間に繋がっているらしいんだよね」

「らしいなんですね」

「製作者はもう既に亡くなっていて、あのテントがどこに繋がっているのかは製作用紙にも詳しく書かれていないから、誰も知らないんだってさ」

「テントの中は全部別々なんですよね?」

「そうだよ。仲が広くて豪華であればあるほど値は増え、使用回数も多くなるんだ」

「でも少しだけど生産されてたんですよね?」

「そうだったらしいね」

「だとしたら魔法の解読も進めているんじゃないですか?」


もし生産の時にどのように繋げるか分からなかったら商品として成り立たないから、時空間魔法を解読しないと生産することは不可能だと思う...


「製作用紙に記されているには繋げ方だけで、行き来できたりすることはできなかった」

「じゃああの家から調べる事は...」

「あの空間は何かの権限によってあらゆる分析魔法などが通じないんだよね。だからどういう場所に存在してて、どのような作りなのかも分からないって」

「不思議ですね~」

「不思議だね」


ということは一方的に繋げる事だけができて、知ることはできないのか...。

もしこの仕組みを解読できたら、様々な面で役立てる事が出来るかもしれないけれど、どのみちこんな世界ではもうほとんど役に立たない。


「魔法はとても複雑ですね」

「まあ、人間なんかが元々は使えるはずのない代物だったからね。全てを知るとなると...。そうだね、神様にでもならないと無理かな」

「神様...か」


今私がここにいて世界がこんな事になったのも神様は何気なく見てるんだろうな...

でも元々神様なんて居ても居なくても、人間は変わらないと思う。

そんな事を考えていると、ユイナがその場で立ち止まり、威嚇をし始める。


「ユイナ?」

「多分魔獣だ。しかも...かなり強い」


辺りがみるみる内に凍っていく。草花も凍りつき大きな振動によって砕け散る。

空から聞こえる恐ろしい雄叫び。

大気を震わせ、全てを例外なく凍りついていく。


「ドラゴン...!!」


空は少しずつ雲に覆われ、雪が降り始める。


「シトラ!ユイナ!!こっちだ!」


お兄さんに手をとられ、近くの小屋に入る。

しかし地面も物凄いスピードで凍りついていく。


「焔の精霊、ニヒシタル我が呼び声に応えよ」


小屋を包み込もうとしていた氷は一瞬で溶ける。

お兄さんの精霊は姿を現す。


「ニヒシタル、突然ですまないけれど焔の結界の維持を頼む」

「どうしたのじゃお主らしくもなく慌てておるな」


ニヒシタルと呼ばれる精霊はトカゲの形を取っている。

精霊によって権現する際の姿は変わる。中にはアルクレアのように小さな赤い鳥や、人間の姿などの二つの姿を持つ精霊も存在しているらしい。しかし人間の姿をとるのはかなり魔力を消費するため、多くの精霊は動物の姿で活動する。

メリットとしては長く活動出来る事、人間の姿をとる際のメリットは力をその気になれば100%近くまで引き出せる。


「外に零竜アシュフラムが降り立ったんだ。僕は出来る限りこの小屋に視覚妨害の魔法で隠してるから、ニヒシタルにはこの小屋が凍るのを防いでほしい」

「アシュフラムか。これは面倒なものが出てきたのう」


一瞬全てを覆い尽くすような魔力を感じる。それと同時に大きな地響きが起こる。


「な...!!地上に降りてきたのか」

「これはこれは。ちとまずい事になったのう」


ニヒシタルもトカゲの姿で小さくため息をついた。

お兄さんは魔法によってその場を動けない。


「零竜が地上に降りたら何かあるんですか?」

「娘よ。どんな生物にもテリトリーというのは存在するのじゃよ」

「テリトリー...ですか?」

「今すぐ外に出るのは得策ではないから、ちと竜について教えておいてやろう」

「ニヒシタル、それもいいけれど魔力維持もちゃんと頼むよ」

「この程度の氷なら、まだ溶かし続けられるわ。お主も決して見つからないように維持をするんじゃ」

「分かってる」


トカゲは辺りをふわふわと漂いながら話し始める。


「まずは零竜の生息場所について教えようかの。零竜は何千年も辺りを転々としており、一度降りたったらその地域は1000年の氷によって凍りつき、命を奪い続ける土地となる。しかし零竜のみしか竜が居ない訳ではない。他にも多くの竜が存在している、そしてもう3000年以上もこの地を治めている竜がおる。」


「3000年って...終末の天使が滅ぼしてたはずじゃ...」


「いくら終末の天使とて、竜を敵に回すほど愚かではないわ。人間が家族を作るように竜にも里や家族がある。もし一匹でも殺めれば、天使でさえも竜は殺せるぞ」


「でも天使を殺せるのはその天使の使徒のみですよ」


「竜は長く生きれば生きるほどその身に宿す力も変異していく。中には天使に近い能力をもつものまで現れたという記録も残っておる。ということは竜の中にも天使を殺す種ができておっても不思議ではない。しかも竜の恐ろしさはそれだけに留まらず、不死などに近い能力をもつ事もある。その内の一匹がこの地を治めている怒竜 ムヒュルトス」


「怒りの竜ですか?」

「なーにどうせすぐ現れる。娘もいつでも逃げれるようにしておいた方いいじゃろう」

「ニヒシタル、氷の勢いはどう?」

「少しずつ弱まってきておるな。こちらに気がつかず離れて行っておると考えていいじゃろう」

「じゃあ僕が合図をしたら、一斉にここから逃げようか」

「それよりも早くムヒュルトス現れるじゃろうて、あやつもプライドが高いからのう」

「そうなったら...。ヤバいかな」


大地を揺らしていた大きな地響きも少しずつ遠退いていく。

しかしまた別の地響きが起こる。


「ほら、だから言ったじゃろ」


地響きの発生地点は...


「地下から...!?」

「ニヒシタル僕達の周りだけに加護を!!」

「位置かばちか逃げ出す気か」


ユイナも状況を察してか吠えたりはしない...が明らかに警戒をしている。

紫の瞳に一層強い光が見える。


「ユイナ大丈夫大丈夫」


そう言って何とかリラックスさせる。

しかし音はどんどん近づいてきており、遠退いていたはずの零竜の足音も近づいて来ている。

どうやら、零竜も怒竜に気づいたようだ。


「シトラ、もし零竜たちがこっちに気づいた戦うしかない。出来れば避けたいところだけれど、いざとなったらシトラも戦える準備をしておくんだ」


いつになく真面目な顔で、そう言うお兄さんの様子からして相当やばい状況らしい。

ニヒシタルの結界は小屋から収縮し私達の周りに赤いオーラが薄く輝いている。


「出来れば離れずに行動するんじゃ。離れれば離れる程わしの結界の効力は薄くなるぞ」

「怒竜が出てくると同時に出るよ」

「分かりました」


地中から聞こえる地鳴りは次第に近づいてくる...

それに応じて私達のいる場所意外が凍りついていく。

そして怒竜は氷を突き破り出現する――!!


「バアアアアアアアアアアア」


大きな雄叫びが大地を震わせ鼓膜に大打撃を与える。

大きな声によって一時期に音を失うがお兄さんの口の動きで、脱出する。


「――・・・―――・―・」


ぷつぷつと途切れ途切れに聞こえる声と同時にお兄さんは小屋に剣で穴を開け、走る。

手を引かれて走っていく。ユイナもちゃんと後ろに着いてきている...。

後ろを振り向くとそこには全てを飲み込むような赤黒い鱗を纏った巨大な竜に全身氷に包まれた竜が睨み合っていた。


「―――・・――・・―――――」


お兄さんは必死に何か叫んでいるが何を言っているのか分からない。

....!!


「ユイ...ナ?」


さっきまで後ろに着いてきていたユイナが地中から出てきていた小さな竜に捕まっていた。

ユイナは必死に抵抗を続けるが、3匹の竜によって傷を負わされていく...


「ユイナ――!!」


即座に剣を抜き耳を切り裂く。

一時期に聞こえなかった耳が再生をして音が戻ってくる...


「シトラ!!戻っちゃ――」

「お兄さん!!大丈夫です。氷は私でも溶かせます。無茶をするつもりはありません!!」

「さっさと視覚妨害をせんか!!娘が死ぬぞ!!」


全力で走っていく私に、後ろで叫ぶニヒシタルに気づいたのか振り返ろうと...

しかしそれよりも早く体に一瞬黒い霧が発生し身を包んだ。


「これは....」

「シトラ!!一分だけなら姿は竜達に確認されないその間にユイナを助けだすんだ!」


頭に直接流れ込んでくる音声。


「一分...」


あの三体の竜を倒すとなると戻る分も合わせて...

一体10秒で殺す――!!


「あの娘...」

「どうしたんだいニヒシタル」

「いや...。似てると思ったんじゃよ」

「?」

「お主が知るにはまだ早すぎる事じゃ」

「そうか。なら聞かないよ」


ニヒシタルは焔の結界の範囲を広げる。

焔の結界は辺りの氷を溶かし、一時期に氷の侵食を防ぐ。


「さすがに娘だけでは捌ききれまい、我らも援護するとしようか」

「いや、多分すぐに終わる、それよりも怒竜の方を警戒した方がいい」

「あれはただの娘じゃなかったのか?」

「『前』はね」

「前は?ということは...。―――か?」


二人はよく分からない会話を続ける。

そんな話し合いが聞こえた。


「バルル」


しかしそんな事よりも目の前の竜をどうにかしないと...。


「アルクレア」


私の呼び掛けに呼応するように手の紋様は輝き、魔力が溢れてくる。


「やっぱり...。まだ生きてるんだね」


最初は全く呼び掛けに反応がなかったけれど、時間が経つに連れてアルクレアの気配を感じるようになってきた。まだもやもやとしてて場所を感知する事は無理だけど...


「それでもまだ生きてるんだよね、アルクレア」


やがて剣に炎を纏う。

制御は自分ではできないから火傷を覚悟で炎を纏わなくてはならない。魔力は送られてくるが制御は全くできない。

あの頃は剣なら普通にできたのに今は違和感があり、制御ができない状態だ。


「ごめんなさい子竜たち...」


炎の剣によって竜たちの首は吹き飛ぶ。

ユイナは身体中傷ついているけれど、まだ息はしている。


「早く戻らないと――」



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