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天使の刻印と少女の異世界物語  作者: 黒雪うさぎ
20/23

少女は希望を見る


「――シトラ...。好きだからもう泣かないでよ」


私の大粒の涙が口の中に入ってしょっぱい。

でも暖かい温もりはまだ続いている。


「ん...」

「もういいかな?そろそろ苦しいかも」

「駄目」

「はいはい。全く...」

「お兄さんも恥ずかしいんですね」


お兄さんの耳が微かに赤くなっている。


「そりゃあ...。僕もまだ子供だし」

「えっ!?」


お兄さんがまだ子供?

じゃあまさか....


「お兄さん今何歳ですか...」

「17」


まだ成人もしていない....。

身長は170cm後半で、そこそこ背も大きい。

ただあの魔力量から考えて21歳位だと...


「待って...。まじで呼吸キツイかも...」


先ほどよりも長くキスをしている。

3分ほどずっとこのまま同じ態勢だ。


「分かりましたよ」


そして唇を離すけれどまだ抱き締めたまま...。

お兄さんはちらっと私の顔を見て...


「それで...。さっきの話だけど...OKってこと?」

「さっきの?」

「好きって話」

「良いですよ」


お兄さんはびっくりしたように顔を上げる。


「――なんで驚いているんですか?」

「いや...。いいのかなーって」

「お母さんから、ファーストキスをしたら、逃がすなって」

「理由は聞かなくてもいいの?」

「良いですよ。無理に聞きませんよ」

「そう...。ありがとう」

「むしろあんな事をして逃げたら、許さないと思っていました」

「そうだね。たしか今みたいなことを...。『錆び付いた心に息を』って言うんだ」

「意味は?」

「空っぽで錆び付いた心には息を入れてあげなさいと言う意味だったかな」

「よく意味が分かりません」

「僕もだよ」


. . .


「――見られていたのか....」

「そんなに恥ずかしがらないでくださいよ。見てたのはユイナで狼ですよ」


あの後私達は立ち上がり、散らかしてしまった部屋を片付けようとしたら、寝室の戸からユイナがじっーっとこちらを覗いていた。

それはもう○○は見たと言わんばかりの覗きだった。


「ユイナもそんなにふて腐れないでよ」


狼にも人と同じように妬んだりするのだろうか?

さっきからお兄さんをじっーっと見つめているんだけれど...


「これじゃ...勘違いされてしまう...」

「勘違い?」

「いや...何でもない」


こたつに伏せていた顔を上げ、ユイナに近づいていく。

ユイナは警戒するように目を光らせる。

そんなユイナの体を撫でながら、小さな声で何かを呟いた。


「――・・―・・・―」


その後ユイナは何も言わずにその場で眠りについた。

魔法でもかけたのだろうか?

違う...?ユイナは寝たふりをしてはいるがまだお兄さんの事を見つめていた。


「何を話してたんですか?」

「怒らないでと言ったんだよ」

「ユイナと言葉が通じる...?」

「そうだね...。例えるならユグドに近い能力だよ。まあ他にもあるけど...」

「おじさんの...」


人の考える事を見れる能力で、いろんな事を知ってたんだろうな...。

でもいつも明るくバカみたいに振る舞っていた。

そんな私の様子を見て、お兄さんは焦ったように...


「ご...ごめん。だから落ち込まないでよ...」

「はい...?私は何も落ち込んでませんよ」


私の言葉にきょとんとして、少し間をおいて手を握ってきた。

唐突の事で私も...


「な...なにするんですか!」


手を払いのけた。


「シトラはもう悲しくないの?」

「何言ってるんですか。そんなに簡単に皆の事を忘れられませんよ。だけど...前を見ろって言ったのはお兄さんじゃないですか」

「そうだったね。だから僕も諦めちゃ駄目だね」

「何をですか?」

「ううん。何でもないよ」


たまにお兄さんは私にも分からない事を言うことがある。

それにその時の顔はどこか暗い。


「お兄さん隠し事してますよね」


隠し事をしているのは私にも容易に分かった。

しかしお兄さんは....


「僕は何も隠してないよ」

「....。私には話してくれないんですね...。残念です」

「待って!!そんなに落ち込まないで!!本当に今は話せない事なんだ」

「うん...。分かってますよ...」

「だから...。本当にごめんなさい」


お兄さんは頭を下げる。

なら...


「お兄さん、じゃあ一つだけお願い事を聞いてください」

「分かった。それでお願い事って?」

「私とギルドに行ってください」


お兄さんは急に真剣な顔になり...


「シトラ...。本当にちゃんと皆の姿見れるのか」

「はい。それに...ちゃんと供養しないとおじさんが怒りそうですしね」


そう言って笑顔を向ける。

精一杯の笑顔、だけれどとてもぎこちない笑顔。

お兄さんは悲しそうな顔に一瞬なるが、また普通に戻った。


「シトラがいいなら、僕も行くよ」

「ありがとうございます」


. . . . .


「――さてと...。準備はいい?」

「はい。一応三日分の食料も持ちました」


あの後お兄さんに言われて気づいたのだが、どうやらこの家から町に行くには最低でも一日は掛かるらしい。

ユイナが今まで寝ていたのも長い距離を私の荷物を運んでくれたからだろう。

だから精一杯撫でてあげた。


「じゃあ行こうか」


. . .


「――これが...私達が居た家ですか...」

「そうだよ」


荷物をまとめドアを開け、外にでるとなぜこの家が襲われないのかよく分かった。

巨大な大木にある小さな歪み。その中に家は存在していた。


「どういう仕組みですか...これ」

「僕の魔法で特殊なコーティングをしてるんだ」

「そんな魔法も有るんですね」


この世界の全般は魔力を糧として、動かす事ができる。しかも魔力の消費量はかなり少なく、子供でも簡単に扱えるらしい。この歪みも大体同じなのだろうか?


「この樹の中に家が埋まってるんですか?」


「僕もよく分からないんだよ。お祖父様が遺した地図に載っていた場所を子供の頃に探していてね。それで見つけたのがこの歪みだったんだよ。これでも大分分かりやすくしたんだよ?僕が見つけた時は目には見えないけどそこに何かある程度だったんだ。それで剣聖を継いだ後この場所に来て歪みを広げたんだ」


「じゃあこれが繋がっている先は...」

「全然分からない」

「よくそんな危険な賭けに出れましたね」


実際ここがもし危険な場所に繋がっていたとしたら、死ぬとまではいかないけれど危険であることに変わりはないと思う。


「僕も自暴自棄だったんだよ...」


ふと悲しそうな顔になる。


「お兄さん」

「ん?」

「でももう危険な事は駄目ですよ?」

「そうだね。でも今はもう大丈夫だよ」

「ならいいんです」

「シトラがいるからね」

「そんなにはっきり言わないでくださいよ」

「恥ずかしかった?」


いや...


「嬉しいですよ」


二人でそんな話をしてるとユイナがお兄さんの足に突進する。

お兄さんはその場で盛大に転ぶ。


「ユイナ?どうしたの?」

「いてて...。ごめんユイナ、調子に乗りすぎてた」


ユイナは分かればいいんだと言うように小さく首を振る。

いつの間にこんな上下関係が成り立っていたのだろう...


「お兄さん大丈夫ですか?」

「うん大丈夫」


お兄さんはその場で服についた土を払う。

その後荷物を持ち、こちらに振り向く。


「シトラ」

「何ですか?」

「もうお兄さんはいいんじゃないかな?」

「どうして?」

「僕だけ名前で呼ばれた事ないんだけど」

「別にいいじゃないですか?」

「キスもしたのに?」


顔が赤くなっていくのが感じる。

どうしてこうも恥ずかしがらないのか...


「分かりましたよ!」

「じゃあそうだね...。本名では長いし...」

「ルル」

「え?」

「お兄さんの名前ルとスが二つあるからです」

「良く分からないんだけれど?」

「じゃあススの方がいいですか?」

「嫌だ」

「じゃあルルで決まりですね」

「ああ...そういうことか。シトラは意外と単純だね」

「ユイナ」


ユイナは再びお兄さんの足に突進して、転ばせる。

お兄さんは立ち上がり...


「二人ともごめん!!」

「分かればいいんです」

「早く出発しよう」

「お兄さんが言いますか」

「お兄さん...」

「せっかくの名前が気に入らないようなので、やめました」

「怒らないでよ、シトラ」

「早く行きますよ『お兄さん』」


私が歩き出すとお兄さんはボソッと...


「シトラ...」

「はい?」

「いや...何でもない」


また顔が暗くなった...


「お兄さん早く行きましょう」


お兄さんの手を繋ぐ。

お兄さんは少し悲しそうな笑顔で...


「うん」


. . .


「――今日はここまでかな」

「え?まだ日は沈んでませんよ?」


まだ空には太陽が昇っており、移動できると思うのだけれど...


「天気が今から悪化しそうだからね」

「快晴じゃないですか?」

「風だよ」

「風?」


たしかに風は冷たいけれど、それでも移動に支障は出ない。


「元々この地域では風が吹かないんだよ。それなのに風が吹き木々を揺らしている」

「不思議な事ですか?」

「細かい事は中で説明するから、はやく準備しよう」

「分かりました。ユイナお出で」


ユイナに乗せている小さな荷物袋を開く。

大体の物はお兄さんが用意してくれた道具だ。


「どれですか?」

「ちょっと貸して」


中をごそごそと探し、小さなビー玉のような物を取り出す。


「それは?」

「これは簡易テントの召喚用の魔道具だよ」

「こんなに小さい物がですか?」

「見ててね」


お兄さんがビー玉に魔力を込めると小さく光り出す。

その後四つに分裂して地面に突き刺さる。

やがて、淡い光が辺りを包む。


「何ですかこれ?」

「セーフティーゾーンを作ったんだよ。この光が有る限りドラゴンなどの余程強い魔獣意外は寄せ付けない」

「便利ですね」

「後はテントを張るだけだ」


そう言って次は青いビー玉を取り出す。


「何でも小さいんですね」

「持ち運びをしやすいからね」


今度は三角の光が展開され本物のテントのようになった。

触ってみると、ちゃんと感触が存在していた。


「魔道具って便利ですね」

「まあその分作るのは難しいから、効率的ではないんだよ」

「まあそうでしょうね」


やっぱり世界というのは上手く出来ている。

完璧な物を求めれば、苦労をして、大量生産をすれば品質はがくっと落ちる。


「まあもう滅びちゃってますけどね」

「何の事?」

「独り言ですー」

「そう。早く中に入ろうよ」

「少しは構ってくださいよ」


せっかくからかったのに何の反応も見せない...。

当の本人は首を傾げてる。


「はやく入りますよ」

「シトラなんで怒ってるんだい?」

「構ってくれないからですー」

「うーん....?」


まだ悩んでいるお兄さんを置いてテントの中に入る...


「相変わらずこの世界は分かりません...」


それは普通の小さな家といった感じの設備が整った部屋だった。

台所もあり、大体の物は揃っている。

寝室は...


「どうかな?シトラ」

「設備としては問題ないですよ。だけど...」

「何かあったかな?」

「何でベッドが一つなんですか」


寝室には大きなベッドが一つとユイナの為であろう寝具もあった。


「え?」

「やましい気持ちはありませんよね」

「もちろん」

「じゃあ私はソファーで寝ます」

「何で?」

「いや...。女どうしならいいですけど異性とは寝るのはちょっと...」

「ええー。僕達付き合ってるんだよ?」


残念そうに肩を落とすお兄さん。


「でもそれとこれとは話が別ですよね」

「なら良いよ、僕がベッドで寝る」

「そうですよね。女の子をソファーなんかで...。え?今...?」


寝室を去ろうとして気がつく。

今確かにベッドで寝るって...


「いや僕がベッドで寝るからって」

「いやいや!女の子をソファーなんかで寝かせますか!」

「だってソファーで寝たいんじゃ...」


駄目だ...。時々会話が成り立たない時がある。

仕方ないか...


「じゃあ私もベッドで寝ますよ」

「別に無理にとは言ってないよ」

「寒いですから!!」


. . .


「――本当に天候が急変しましたね」


外は大雪だ。子供が見たら喜ぶとかそんなレベルじゃない。

光の外はもうすでに大分積もってきている。


「ね、言った通りでしょ」

「季節は冬ですよね」


多くの町で読んだ本でこの世界にも季節が存在する事は分かった。

じっさい何度か雪の中を歩き続けていたから、今が冬だというのは簡単に分かった。

しかし季節の名前は全く同じだった。これはこの世界で作られたかこたつのように別の世界の住人によるものかはよく分からないけれど...


「ここにもこたつが欲しいですね」

「そうだね。けど流石にそこまで完璧には作られてないからね」


外が雪の影響なのだろうか?

中はかなり寒く手も冷えてきた。


「待っててね」


お兄さんは暖炉に火を付ける。

瞬く間に部屋は温かくなっていく。


「はい。これでどうかな?」

「よくできました!」

「僕はシトラの従者か何かかな?」


困ったように首を傾げる。

本当にからかうと面白いな~


「いえいえ。冗談ですよ」

「そう。じゃあ夕御飯を作るから待ってて」

「反応薄いですね」

「え?」

「もう良いです...」


何か自分が馬鹿馬鹿しくなってきた。

お兄さんは台所に向かい料理を始めてる。大体の家事はお兄さんは一人で出来る...が。虫が苦手らしい。

だから料理に虫を入れる気が知れないと言っていた。まあ私も出来ればシチューに虫が丸ごと入っているのは勘弁したい。


「ユイナ~」


手を広げてユイナを呼ぶとユイナは暖炉の前で温まっていたが、とことこと歩いてくる。

今は見た目は普通の狼だが、大人になるに連れて銀色に輝く毛に変わる希少な狼らしい。お兄さんに聞いた話では白銀の毛は魔法抵抗力がかなり強い素材のため乱獲されもう数えるほどしか居ないという。


「不思議な目だねユイナ」


目は薄い紫の色をしている。

お兄さんも初めてこんな瞳を見たと言っていた。

だとしたらなぜユイナは町に居たのか。取引の為に一時的に町に置いているとしたら分かるけれど、だとしたらおかしい。ユイナを見つけた時には首輪が着いていなかった。

これほど希少な狼を放し飼いする人がいるだろうか?


「まあいっか」


ユイナの耳にふっと息をかけるとビックリしたようにブルッと震える。


「可愛いな」


. . .


「「ごちそうさまー」」


お兄さんの料理を全部平らげ、お腹も満たされ部屋の暖かさで眠くなってくる。


「先にお風呂に入ってきますね」

「うん分かった。何かあったら大声で叫んでね」

「そんな事は絶対にありませんよ!」

「そんなに大声で言わなくても聞こえてるから...」

「ユイナ行こ」


ユイナは身を起こしてくてくと私の後を着いてくる。

お兄さんは本を取りだし、読み始めた。


「ここは普通なんだ」


お風呂は普通の一人専用の大きさだった。


「てっきりもうちょっと大きいの期待してたけど贅沢は言えないかな」


服を脱ぎ、洗濯籠の中に入れ、ユイナと一緒に入る。

ユイナはお風呂はあまり嫌がらない、それどころか意外と清潔な場所を好んでいた。

てっきりどんな場所でも適応するかなと思ってたけど、汚い所よりも私のいる清潔なベッドに堂々と入り込んでくる。


「意外とお嬢様だったりする?」


ユイナを洗いながら質問すると、くしゅんとくしゃみをした。


. . .


「さっぱりしたー」


たしか最後に入ったのは...。一週間ほど前だった気がする。

ちょうど大きなお風呂がある町だったので、魔力を込めてみるとちゃんと使えた。

それからはずっと野宿だったから、お風呂に入る事はなかった。


「というか...かなり不潔じゃないですか...」


一人だったのであまり清潔感を気にしていなかった気がする...。

その点ユイナは近くの川などで水浴びをしていた。


「負けた....」


まさかユイナよりがさつだとは私も思ってはいなかった...

その場でガックリとしてると...


「何してるの?」


お兄さんが着替えを持って立っていた。


「残念でしたね。もう着替え終わった後ですよ」

「いや...。別に僕は不純じゃないし..」

「はっ!男なのに彼女に興味がないんですか!」

「そういう訳じゃなくて..」


焦ったように弁明をはじめようとしている。


「冗談です」

「本当に焦るからやめてよ...」

「それじゃ先に寝てますから」


そう言って寝室へ向かおうとするとお兄さんによって止められる。


「どうかしました?」

「先に行っててもいいから寝るのは僕が来るまで待ってて」

「わ...分かりました。」


真剣な顔で言うのでつい返事をしてしまった。

別に少し起きているぐらいは良いけれど、できれば明日に向けて早く休みたい。


「早くしてくださいね」

「うん」

「それまでユイナと遊んでよっかな」

「絶対に寝ちゃ駄目だよ」

「分かってますから!」


全く...。一回言えば分かる...時と分からないときがあるので文句は言わない。


「じゃあ先に」

「うん」


会話を終わらせ寝室へ向かう。


「何をして遊べば...?」


私でも30分はお風呂に入っていたからお兄さんも最低20分はかかるから...


「その間何もしてないと落ちてしまう確率が...」


98%で寝れる自信がある。

残りの2%は魔獣100匹から無傷で生還できるほどの可能性...。

というかそれじゃかぎりなく100%不可能な気がする...


「ということで...。寝ましょう」


もう諦めて寝てしまった方がいい気がしてきた。

しかしそんな私にユイナは構ってと言わんばかりに袖を引っ張ってくる。


「ユイナ...。分かった、もう少し頑張ろう!」


それから15分ほどユイナと遊んだ。

ボール遊びに鬼ごっこ、もちろん鬼ごっこでは完敗した。

そんなこんなでお兄さんが戻ってきた。


「何かかなりうるさかったよ?」

「ユイナと遊んでましたから」

「それはよーく分かるよ。けどね、部屋のこの散らかり具合とシトラのその汗の量から考えて、もう遊びの次元を越えている気がするんだ」

「遊びとはそういうものですよ、お兄さん」

「そういうのは却下。早くお風呂に入って来なさい」

「むう~」


本日二度目のお風呂でしたー


. . .


「――すっきりしました」

「全く...いくらテントでも暴れすぎだよ」


テント...?

私には最早家と言える代物なのだけれど...。

しかしこれ以上話を長引かせたくないから言うのは止めておく。


「お兄さん、何で寝ちゃ駄目なんですか?」

「何でって...決まってるよね?」


何を...と言うよりも早くお兄さんが肩を握ってくる。

そのまま口を近づけて...


「ちょっと!やめてください」


何とかお兄さんを制し、話を続ける。


「いきなり何ですか!」

「いや...。駄目かな?」


困ったように首を傾げる。


「別に...良いですけど...。私にも心の準備っていうものはあるんです」

「たしかにいきなりごめん。じゃあいいよね?」

「わ...分かりましたから」


今度はちゃんとお兄さんとキスをする...

ん...?


「んー!!んー!」

「....っは。どうかした?」


口を離して、聞いてくるお兄さん。


「何か薬みたいなのいれましたよね?」

「そうだよ。夢を見ない為の大事なお薬だよね?」

「私はもう夢何か見てませんよ」

「それは忘れてるだけだよ。元々夢なんて起きたら忘れてしまうものだからね」

「........?」

「シトラを運んでいた時にかなり苦しそうにしてたから、ちょっとユイナに聞いてみるとこれを渡してくれた」


そうやって取り出したのはナルルさんに貰ったお薬だった。

そういえば最初の方は気になって飲んでいたけれど、何も無くなったから飲むのをやめた。

それをユイナはちゃんと覚えていたんだ...


「なら直接私に渡せば良かったじゃないですか」

「.....?自分の彼女に興味を持つのは普通だろう?」

「....っ!!」


これがブーメランか...


「分かりました!今回は許します」

「え!僕が悪いの!?」

「当たり前です!」

「いやいや!だってシトラは!...っ!」


今度は不意を突いてお兄さんとキスをする...

途中びっくりしていたけれど、そのまま抵抗はしなかった。


「....。これでおあいこですね」

「う...うん」

「まさか不意を突かれるとは思ってもいなかったみたいですね。今回は私の勝ちです!」

「もうその事はいいから!早く寝よう」


顔を赤くしながら、少し照れ臭そうに言う。

ユイナがこちらに冷たい視線を送っている気が...

明日は一杯可愛がってあげて、機嫌を元に戻さないと駄目かな?


「じゃあ、おやすみなさい」

「おやすみ、シトラ、ユイナ」


電気を消して辺りは静かになる――


自分でも書いててヘドが出るリア充に乾杯!!

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