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天使の刻印と少女の異世界物語  作者: 黒雪うさぎ
18/23

罪と真実

 まって....てて...。

 必ず....助け...出して...みせる。

 また聞こえた誰かの声、それは久しぶりに闇の中に響く。

 辺りはただの闇なのにその声は様々な方向から言っているように聞こえた。


「必ず...見つける、助け..る」


 途切れ途切れの小さな声。

 段々と小さくなるが、最後の声は鮮明に聞こえた。


『選択をしなよ。シトラ』


 映像が切れたような音がして、闇は晴れていく。


 . . .


「ん...?起きたんだねシトラ」


 そこには見覚えのない半分黒髪、半分白髪の青年が立っていた。

 その近くではユイナが眠っていた。


「あなたは...誰ですか?」

「君は覚えてないのかい?」


 そう言って綺麗な黄色の瞳をした顔を近づける。

 その青年から若干後ろに下がってから話す。


「覚えているって...何をですか?」

「そうだね...。まあ仕方ないか」


 そう言って、小さな椅子を持ってきて私のいるベッドの近くに座り出す。

 そしてユイナをちょんちょんと触って、ユイナの事を起こす。

 ユイナは目を覚まし、私を見つけると寄ってきて甘えるようにする。


「ユイナ...どうしたの?」


 ユイナを撫でて落ち着かせる。


「ユイナは荷物をここまで一人で運んだんだ。そりゃ疲れるだろうね」

「どういうことですか?私はたしか...」


 考えようとすると頭が痛み出す。

 そんな私を見て青年は優しく頬に触れる。


「回復の加護あれ」


 そうすると痛みは引いていく。

 これも魔法の一種なのだろうか?


「まだ療養中なんだから、無理に答えようとはしなくていいよ」

「でも...。なぜここに居るのか知りたくて」


 青年は小さくため息をして...


「君が覚えているのはどこまでかな?」


 私は....たしか、アルクレアが近くにいるかもしれないって...

 あ....!!


「違い....違う!!」

「?...どうかした?」


 私は殺してなくて、殺していて....。

 違う!!違うから!!


「目は奪って...何か与えて!!」

「シトラ!!」


 何で...私は殺したの!!

 そんなはずない!!だって守るって!!!


「お願い...殺してぇ」


 少しずつ記憶が戻ってくる。

 見たくない、知りたくない記憶

 視界は暗くなり、闇が訪れる。


 . . .


「ニアを見つけないと...」


 この場所は....。

 滅びてしまった優しい町。

 そこで私によく似た少女が走っていた。


「なんだ?てめえも死にてえのか?」

「おじさんこそ誰?」

「うっせえな!!」


 いきなり銃を構えた男性に少女はなんの躊躇もなく腕を切り落とす。

 男性は一瞬何をされたか分からず、首を傾げる。

 .....しかし痛みに気付きその場で叫ぶ。


「が....があああああああああ!!う...うで..俺の腕どこ...」

「うるさいなー」


 しかしそんな男性を見て微笑している少女は今度は右足を切る。

 また苦しみだす男性の顔の前でしゃがみ顔を覗いている。


「痛いの?」

「ひ....いい...。すみま...すみません。許してください」

「は?」


 剣を握り、大声で叫びだす。

 男性は怯えながら這いずって逃げようとしている。


「あなた達が!!殺したんでしょ!!」

「ひい...」


 這いずっている男性の胸ぐらを掴み剣を向け、脅すように言葉を続ける。


「何で殺したの!!どうして!!教えろよ!!」

「なな...なにを...っ!!があああああああああ」


 今度は左足を切り落とす。

 男性はもう気を失いかけているが少女はまだ叫ぶ。


「答えてよ!!どうしてこんな事をしたの!!?」

「く...う。...お...へ..は」

「何を言ってるのか...分かんないよ...」


 遂に首を切り落とし、男性は動きを止める。

 少女はその姿を見て、ため息をして歩きだす。


「そうやって...また無視をするんだ」


 . . .


 一人目を殺した後も次々と虐殺を繰り返す。


「お嬢さん...?なぜここに...」


 この町の長であるおじいさんが疲れはてた顔で少女を凝視する。

 少女はそんなおじいさんに笑顔で近寄る。

 やっぱりおじいさんはちゃんと助けられ...


「え...?」


 しかし少女はおじいさんに近寄ると剣で脇腹を貫く。

 おじいさんは脇腹を押さえながら地面に倒れるが、少女はそんなおじいさんを見てまた微笑していた。


「あはは...。たっのし..」


 あれ?私?いや違う...。だって殺してなんか...あ...。

 コロシタンダヨ


 あの時聞いた声がすぐ耳元でする。

 しかし私はただ見ているだけだった。

 何も出来ずに、謎の声に精神を蝕まれながら....


「おじいさんー?どうして苦しんでるのかな?」

「お...?な..ぜ?」

「質問してんのはこっちだよ」


 次は腹に剣を突き立てる。

 しかしおじいさんは剣を払い、走り出す。


「この町を守るんじゃなかったのかなー」

「ひい...ひい...」


 全力で逃げるおじいさんの右足目掛けて剣を投げつける。

 見事剣は命中し、おじいさんはバランスを崩して倒れる。


 ドウダ?コレガオマエノシタ『ツミ』だ


「守るのに逃げちゃ駄目ですよー」

「な...なぜあなたが...?」

「そんなの決まってる。私は守らないといけないんだ!!」

「なら...なぜこのような事をしているのです...」

「おじいさんが交渉を失敗したからたくさんの人が死んでる!!」

「くぅ....」


 おじいさんは地面に倒れたまま、少女を見上げる。

 少女は老人を上から見下ろす。


「私...だって...守りたかったのだ!!」


 地面を手に血が滲むほど強く何度も叩く。

 しかし少女はそんな老人に恨みの籠った視線を向ける。


「交渉だってした!!出来る限りの事はした!!しかし...守れなかった...。また...私は...」

「けれど失敗した。何でだろうね」

「そんなの私にだって...分からない」

「そう...。なら教えてあげますよ」


 そう言っておじいさんに近づき、剣を足から引き抜く。

 おじいさんはその痛みにまた足を押さえる。


「くうう...。い...痛い...」

「そうだろうね。けれどお姉さんは...。あのお母さんは...死んだ」

「な....!!そんな事が...」

「何で死んじゃったんだろうね」

「あの男は親類さえも...殺したというのかっ!!」

「痛いのはお姉さんも同じだった。自分の息子がどう育っていくのかも見届けられずに...」

「あなたは...これからどうするのです...」

「そうだね...。どうしようか?」


 少女は少し考えるように地面にしゃがむ。

 そして何かと話してから...


「うん!!それがいい!!」


 その場で立ち上がり、剣を掲げる。

 おじいさんはもう抵抗を止め、地面で泣いていた...


「すまない...。私はまた....」

「この町の皆はもうほとんど死んでしまう。ならおじいさんも死なないとね」


 無邪気な顔で恐ろしい事を口走る少女。


 だ...め。おじいさんを殺しちゃ....駄目だよ...。

 だって...おじいさんはせっかく助けてくれたのに...


「旅人さん...お元気に...」


 少女を見上げ笑顔で最後を迎える。

 なんの抵抗もしないで、それが自分の運命だろうと受け止めて。


 . .  .


 その後も町民、賊も関係なく殺して回る恐ろしい悪魔がいた...

 その人がどんなに傷ついていても、老人でも関係なく殺す。

 守るはずだった子供の目もくり貫いて...


「もう...やめて...見たくない」

「ドウダッタ?」

「地獄だった」

「ソウダロウ、コレガオマエダ」

「何で...」

「オマエガテンシノシトダカラダ」

「そんなの関係ないでしょ」

「アルサ」

「関係ない!!」

「オマエハシュウマツノシトダカラダ」

「じゃあ!!お前はなんだ!!そうやって私を苦しめて!!」

「ナンダトオモウ?」

「消えろ!!」


 しかしいくら消そうとしてもずーっと見ていなければならない、私がたくさんの人を殺していくところ。

 私の大きな『罪』を。

 声はどこから響いているのか分からない、いくら消そうとしても消えない声。

 少しずつ視界は闇に侵されていく。

 最後に見た光景はニアの目を貫いている...


「私だったんだ...」


 闇の中では何も見えず、ただ声だけが響いていた。


「コレガシンジツダ」

「うん....」

「マモルモノモコロシタ。ナゼオマエハコロシタノダ」

「知らないよ...」

「ツミノナイチョウミンヲコロシテドンナフウニオモッタ?」

「やめて...」

「ニアモナイテイタ」

「やめてよ...」

「アアドウカオタスケクダサイ。シカシオマエハコロシタンダ」

「うぅ...」


「誰か助けて....」


 . . .


 もう何度も繰り返される質問と絶望を与えられる映像。


「うん...。うん。分かったから...もう...やめてぇ」

「ニアモナイテイタ」

「やめてよ!!」

「ヤメナイヨ」


 しかし永遠と続くような悪夢の中に異変が訪れた。

 突然光が辺りを照らし、映像にひびが入っていく。


「ナンダコレハ」


 光は形を取りこちらに手を伸ばす。


「た...す...けて」


「遅くなってごめんね。シトラ辛かったよね」


 光はあの青年に姿を変え、私を抱き抱える。

 そして青年は何もない場所に手をかざすと、そこの空間に光の扉が開く。


「ニンゲンガソンナコトヲデキルノカ」

「君には理解出来ないだろうね。人間に絶望してしまった君にはね」

「ソレモシッテイルノカニンゲン」

「僕がここに来るためには必要な条件だったからね」


 闇と会話をしている青年の服をぎゅっと掴んで...


「怖かった...」


 青年は私の事を見て、すまなさそうに...


「うん。ごめん」

「もう見たくない」


 自然と涙が流れていく。

 嗚咽まじりの言葉を続ける。


「怖かった..のぉ」

「こんなになるまで辛い事だったんだね」

「辛くて...苦しかったの...」

「ソレガオマエノツ...」

「黙りなよ」


 青年の手から光が溢れだし、世界を飲み込んでいく。

 光に満ちた世界で一ヶ所だけとても暗い闇があった。

 ゆらゆらと漂っている。


「そこに居たんだね」

「イマイマシイヒカリダ」

「まだシトラの中にいるつもりなら、僕が今消してあげるよ」

「アラ...それは厄介ね」


 あの機械的な声に感情が入る。


「じゃあ出ていきなよ」

「そうね。今回はもうやることやったし、もういいかしらね」

「じゃあ出ていけ」


 青年は闇に向かって手を向ける。

 少しずつ手から光が溢れていく...


「分かったわよ...。でも殺さなくていいのかしら?」

「どうせ君達の事だ、今はどこか遠くの安全な所に居るんだろう?」

「本当にうざいガキね」

「出ていけ」


 光に一瞬闇が混ざった気がした。

 闇は少しずつ消えていく...


「終末はもう見つけたんでしょう?」

「お前にはもう関係ないはずだ」

「そうねー。『もう』関係ないわね」


 闇が世界から消えて、ただ二人だけそこに居た。


「帰ろうか」

「うん....」


 世界は私を抱き抱えたまま扉に入っていく。

 扉の中に入ると私が寝ているベッドが見えてくる。ユイナが私に寄り添いながら寝ていた。


「本当に良い狼を見つけたね」

「はい...私の大事な友達です..」


 . . .


「ん...」


 目を開けるとそこには青年が私を見つめていた。

 青年は私が目を覚ましたのを見ると、満足そうに頷く。


「うん。ちゃんと戻ってこれたみたいでよかった」

「は...い。ありが...とう」

「そんなに泣かなくていいんだよ」

「でも...怖くて、辛かったんです」


 ベッドに涙を溢す私に青年は隣に座って...


「遅れてごめんね」

「はい...。でも私は...たくさん...」

「いいんだよ。あれは君がやったんじゃないんだから」

「殺したんです!!わ...私がぁ..」


 そのまま泣き出す私に青年は私を抱きしめた。


「あ....」

「シトラ、君は悪くないんだよ」

「でも...」

「怖いなら僕が守ってあげるから、シトラは僕を頼ってくれていいよ」


 そのまま私も青年の服をぎゅっと握る。

 久しぶりの人の温もり、それがとても懐かしくて悲しかった。


「怖かった...痛かったぁ」

「うん。もう大丈夫だよ。ここは安全だから」


 青年はそう言ってベッドに私を寝かしつける。


「シトラ」

「はい...?」

「いや...何でもないよ」


 青年はその後も泣いていた私の手をぎゅっと握ってくれた。

 私の前から皆が居なくなってからもう1ヶ月以上も月日は流れていて世界はまだ滅びを続けている。

 もう二度と人の温もりに触れる事は無いと思っていた。


「おやすみ、シトラ」


 人は1人では生きていけない。

 そんな事をどこかで聞いた気がする。

 その時はきっと馬鹿らしいと思っていたのだろう。

 でも今は...よーく分かった。


「お兄ちゃん...」

「うん?」

「居なくならないでね」

「うん。大丈夫、僕は君が辛い時には一緒にいてあげるからね」

「んふふ...。ありがと」


 安心して眠りにつけるな...

 ありがとう。

 ――お兄ちゃん

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